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大学・研究所にある論文を検索できる 「レタス栽培農家における職業性呼吸器アレルギー」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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レタス栽培農家における職業性呼吸器アレルギー

Sekiya, Reina 神戸大学

2020.09.25

概要

【背景】
アレルゲンへの曝露は職業性喘息などの職業性呼吸器疾患のリスクを高める。農業従事者における職業性呼吸器アレルギーの感作経路は明らかではないが、穀物(小麦、ライ麦、大麦など)では職業性喘息を引き起こす抗原が同定されている。
レタスは世界中で栽培・生産されている。しかしレタス栽培農家における職業性呼吸器アレルギーは現在までほとんど報告されておらず、レタス栽培農家の呼吸器症状に関する邦文の症例報告を認めるのみである。一方でレタスの接触アレルギーと食物アレルギーに関しては複数報告があり、レタスによるアナフィラキシーやOAS に関しては主要アレルゲンとして 9 kDa の Lac s1、16 kDa/26 kDa のタウマチン類似タンパク、35 kDa と 45 kDaのアスパラチルプロテアーゼといった原因抗原が報告されている。

【目的】
今回の研究の目的は、レタスによる職業性呼吸器アレルギーの病態を解析し、その原因抗原を新規に同定することである。

【方法】
2013 年に兵庫県淡路島の 1168 人のレタス栽培農家に対しアンケートを行った。さらに2017 年に同内容のアンケートを香川県で行った。次に、淡路島におけるアンケート回答者のうち職業性のレタス曝露に関連して呼吸器症状をきたした 13 名の患者に対して診察を行った。呼吸器症状が出る状況について詳細な問診を行い、血液検査(レタス特異的 IgE、レタス芯液を用いた好塩基球遊走試験を含む)、レタス葉液・レタス芯液・レタス芯の断 面から滲出するレタス白色液を用いたプリックテスト、同意の取れた患者への抗原吸入誘発試験を行い、その結果を検討した。また 13 名の患者血清とレタス白色液を使用して SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングを施行し、患者血清に共通する IgE 特異的レタスタンパク質バンドを検討した。患者血清に共通する IgE 特異的レタスタンパク質バンドを単離するため、レタス白色液をイオン交換クロマトグラフィ、次に HPLC(high-performance liquid chromatography)を使用して分離した。患者血清に共通する IgE 特異的レタスタンパク質バンドを質量分析装置で解析した。

【結果】
兵庫県のレタス農家 932 名、香川県のレタス農家 368 名より回答を得、両群で回答者のうち 7%にレタス収穫・梱包作業に伴う呼吸器症状(咳・痰・息切れ)を認めた。多変量解析では、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症の既往歴がレタスによる呼吸器症状に関連する因子として重要であった。レタス葉の経口摂取後に症状を呈するとした回答者は 2名であった。

13 名の患者の年齢の中央値は 67 歳で、男女比は 5:8 であった。全員がレタスの収穫または小屋での包装中に呼吸器症状を示した。詳細な問診では、患者がレタスの芯を切離した際と、換気の不十分な小屋でレタスの切離断端から出る白色液を拭い、ビニールで包装する際に呼吸器症状が出現することが判明した。レタス葉の経口摂取後に症状を示す患者はいなかった。レタス収穫・梱包時に鼻症状がみられる患者が 3 名、レタス白色液により皮膚症状がみられる患者が 3 名認められた。好塩基球遊走試験は患者群で陰性対照群に対して有意に高値であった(P <0.05)。プリックテストおよびレタス特異的 IgE は、それぞれ 8 人の患者(62%)、6 人の患者(46%)で陽性であった。また、抗原吸入誘発試験は同意の取れた 4 名の患者に行い、1 名のみで陽性であった。

一部の患者でレタス白色液により皮膚症状が認められたことから、レタス白色液にアレルゲンが含まれている可能性があると考え、まずレタス葉液とレタス白色液の違いについて検討した。各液の SDS-PAGE はいずれも複数のタンパクバンドを示し、その分布は異なっていた。また各液と患者混合血清を反応させたウエスタンブロット分析では、レタス白色液で複数の患者血清IgE 結合バンドを認め、レタス葉液では患者血清 IgE 結合バンドを認めなかった。ELISA でも患者混合血清はレタス葉液に比較しレタス白色液で高い反応性を示し、陰性対照群の血清はどちらの液にも反応を示さなかった。これらの結果から、レタス葉液でなくレタス白色液にアレルゲンが存在する可能性が高いと考えられた。13 名の患者全員の血清と白色液のウエスタンブロット分析では複数の IgE 結合バンドが検出され、 51 kDa のバンドが最も高頻度に認められた(11/13 名)。この 51 kDa の患者血清 IgE 結合バンドを単離するため、レタス白色液をイオン交換クロマトグラフィと HPLC を使用して 8 分画、さらに 40 分画に分離した。ELISA およびウエスタンブロット分析で患者血清 IgE が特異的に結合する 51 kDa バンドの存在を証明した。さらに実験に使用する患者血清を事前にレタス白色液と 4℃1 時間で反応させて阻害実験を行い、バンドが消失することを確認した。51 kDa バンドをゲルから切り出し、トリプシン分解後に質量分析(nanoLC-MS/MS)を行い、レタス白色液アレルゲンのペプチド配列を分析した。さらに Mascot Program を用いてレタスゲノムデータベースの検索を行い、Epidermis-specific secreted glycoprotein EP1-like(51 kDa)をレタス白色液由来のアレルゲンとして同定した。

【考察】
本研究は、レタスによる呼吸器アレルギー症状の病態を明らかにし、レタス白色液からレタスアレルゲンを分離した最初の研究である。兵庫県・香川県で行った大規模なアンケート結果と患者への詳細な問診から、レタス茎の切断、換気の不良な小屋でのレタス包装、レタス茎から分泌されるレタス白色液拭き取り時に呼吸器症状が出現することが明らか になった。レタス葉の経口摂取ではほとんど症状が出現しないことから、レタスの葉ではなくレタス茎にアレルゲンが存在することが示唆された。

今回の研究では Epidermis-specific secreted glycoprotein EP1-like(51 kDa)がアレルゲンとして同定されたが、このタンパクは細胞伸長に関与し、苗の表面や根に位置する細胞で検出され、植物の成長に関与すると考えられている。このタンパクは現在までに報告されたレタスによる OAS またはアナフィラキシーの原因アレルゲンとは異なる。既報のレタスアレルゲンと今回同定したアレルゲンが異なる原因として、現在までに報告されたレタスアレルゲンは葉が大部分を占めるレタス全体から抽出されていたが、本研究ではレタスの茎から分泌されるレタス白色液から抽出を行っていること、2017 年にレタスゲノムのシークエンスがすべて解析され報告されたためより正確にタンパク配列からアレルゲン同定が可能であったことが挙げられる。

レタスによる呼吸器アレルギーを引き起こすには、気道感作と経皮感作の 2 つの感作経路が重要と考えられる。治療開始後にも呼吸器症状が残存した 13 名中 2 名の患者は、いずれもアトピー性皮膚炎とレタス関連皮膚症状を呈していた。レタス白色液には感作物質であるセスキテルペンラクトンが含まれ、接触性皮膚炎を引き起こすことが知られる。このことから、経皮感作はレタス呼吸器症状の発症に重要な経路である可能性があることが推測される。実際にアトピー性皮膚炎は喘息に移行する可能性があり、アトピー性皮膚炎患者の皮膚バリアは吸入アレルゲンの感作に関連しているとされる。経口感作は一般的な感作経路ではあるが、本研究ではレタスを経口摂取した後OAS やアナフィラキシーを呈した患者はおらず、レタス呼吸器アレルギーの感作経路が経口感作である可能性は低いと考えている。

【結語】
レタスによる呼吸器アレルギーの臨床的特徴を明らかにし、原因物質と考えられる新規レタス抗原を同定した。

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