BRCA1はAurora Aの中心体局在を制御して中心体のDNA損傷応答に寄与する
概要
Breast Cancer gene 1(BRCA1)の生殖細胞系列変異は遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の原因になる。BRCA1はDNA修復や中心体制御に関与する。中心体には、L字型に配置した母中心小体と娘中心小体が存在し、1回の細胞周期に1度だけ複製される。分裂後期からG1期に母中心小体と娘中心小体が分離し(中心小体解離)、S期の始めに2つの母中心小体の根本に、それぞれ新しい娘中心小体が形成されて、S期に伸長して中心体が複製され、G2期に分離し、M期に2つの紡錘体極として機能する。
DNA損傷後に中心体数が増加する現象(DNA damage-induced centrosome amplification;DDICA)が知られ、中心小体解離に関与するpolo-like kinase 1(PLK1)が重要な働きをすることが報告されている。また、BRCA1の中心体局在はG2期に減少するが、DNA損傷後には亢進し、PLK1の中心体局在を亢進してDDICAに関与することが報告された。しかし、DNA損傷後のBRCA1のG2期以外の細胞周期毎の中心体局在の変化や、PLK1をリン酸化して活性化させるAurora AのDNA損傷応答はまだ明らかになっていない。そこで、本研究では、DNA損傷後のBRCA1、Aurora A、PLK1の中心体局在を細胞周期毎に解析し、DDICAの分子メカニズムを解明することを目的とした。
DNA損傷を誘導するため、DNA架橋剤であるシスプラチン(CDDP)で細胞を処理し、免疫蛍光染色で中心体のBRCA1、Aurora A、リン酸化PLK1の蛍光強度を細胞周期毎に計測した。その結果、CDDP処理により、early S期、late S期、G2期にBRCA1、early S期、late S期にAurora A、late S期にリン酸化PLK1の中心体での蛍光強度が上昇した。また、DNA損傷後のBRCA1の中心体局在の上昇には、BRCA1の核外移行が重要で、それぞれDNA損傷のセンサー、エフェクターとされるATM、CHK2が関与することが明らかになった。さらに、DNA損傷後のAurora A、リン酸化PLK1の中心体局在の上昇、早期中心小体解離にBRCA1が関与することも明らかになった。また、当研究室で同定した、BRCA1結合分子であるreceptor for activatedC kinase 1(RACK1)が、BRCA1とAurora Aとの相互作用を促進して、DDICAに関与することも明らかになった。以上より、DNA損傷後BRCA1がRACK1と協調して、Aurora Aの中心体局在を促進し、PLK1を活性化し、早期中心小体解離が生じ、中心体数の増加が起きることが示唆され、BRCA1はDNA損傷シグナルを中心体に伝達する働きをすると考えられた。今後さらに中心体のDNA損傷応答のメカニズムを解明することで、その生物学的意義の解明とともに、発がん機構の解明やがん治療法の開発への貢献が期待される。