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大学・研究所にある論文を検索できる 「デアミノノイラミン酸の細菌由来新奇代謝酵素および哺乳類における輸送経路の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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デアミノノイラミン酸の細菌由来新奇代謝酵素および哺乳類における輸送経路の解析

岩木, 佑弥 名古屋大学

2020.04.02

概要

シアル酸は糖鎖の非還元末端に存在する酸性 9 炭糖であり、受精、発生、免疫、神 経 形 成 な ど 多 様 な 生 物 学 的 機 能 に 重 要 な 役 割 を 果 た す 。 シ ア ル 酸 に は N-acetylneuraminic acid (Neu5Ac) 、 N-glycolylneuraminic acid (Neu5Gc) 、deaminoneuraminic acid( KDN) の三大分子種が存在し、細菌から哺乳動物まで広く分布している。細菌の中には、シアル酸遊離酵素シアリダーゼによって宿主のシアル酸を利用する種が多数報告されている。この細菌シアリダーゼは糖鎖の非還元末端に存在するシアル酸を遊離させる酵素としてシアル酸研究に広く用いられている。細菌シアリダーゼのほとんどは、Neu5Ac および Neu5Gc の 2 種を遊離する。しかし、その一方で KDN を遊離することができない。そのため、KDN 含有糖鎖の機能解析は困難である。KDN 含有糖鎖は Neu5Ac、Neu5Gc と比較して存在量は少ないが、細菌から哺乳類まで幅広く分布しており、その機能のほとんどは不明なままである。そこで、本研究では KDN だけを遊離する酵素 KDNase が唯一報告されているグラム陰性菌 Sphingobacterium 属のシアリダーゼの探索を行った。その結果、Sphingobacterium sp. strain HMA12 から Neu5Ac、Neu5Gc、KDN全てを基質にする KDN-sialidase を発見した。さらに、この Sphingobacterium KDN-sialidase は α2,3-、α2,6-、α2,8-、α2,9 結合したシアル酸を基質にできる幅広い基質特異性を持ち、至適 pH を中性領域である pH 7.0 に持つ興味深い性質をもつことが明らかになった。この性質から、Sphingobacterium KDN-sialidase は生理的条件下でも効率的に作用することができ、in vivo でも用いることができる。また 、シアリダーゼ阻害剤 2,3-didehydro-2-deoxy-N-acetylneuraminic acid( DANA)は Neu5Ac および KDN の両方の遊離反応を阻害した。さらに、酵素の立体構造の中でシアル酸炭素 2 位近傍の加水分解に重要だと予測されるチロシンを変異させた Y354H 変異体が Neu5Ac および KDN 両者に対し不活性化した。このことから、 Sphingobacterium KDN-sialidase は同一の活性ポケットにより Neu5Ac および KDN を認識していることが示唆される。これに加え、活性ポケットのシアル酸炭素 5 位の置換基付近の空間を縮小させた変異体 T177W は、KDNよりも Neu5Ac への活性が高い野生型の基質特異性が変化し、Neu5Ac よりも KDNへの活性が高くなった。これにより、シアル酸分子種特異性は、活性ポケットのシアル酸炭素 5 位の置換基付近の空間の大きさによって制御されることが示唆される。

また、 遺伝子が同定されていない KDNase を探索するため、 KDNase 発現 Sphingobacterium 属菌株の全ゲノム解析を行った。細菌シアリダーゼの保存配列の一つである Asp box( S-X-D-X-G-X-T-W ; X は任意のアミノ酸) を持つ 6 つのシアリダーゼ候補遺伝子を大腸菌によりタンパク質発現を行い、シアリダーゼ活性を測定した。その結果、そのうちの 1 つの遺伝子が KDNase 活性を示したため、本研究により世界で初めて KDNase の配列が同定された。 Sphingobacterium KDNase の配列はデータベースに登録されていない新奇のものだった。さらに、 Sphingobacterium KDNase の性質を調べた結果、興味深いことに、 Sphingobacterium KDNase は至適 pH を 6.0 と 8.0 の 2 点で持つ性質があることを見出した。

これら KDN を基質にすることができる 2 つの新奇シアリダーゼを発見したことで、KDN 含有糖鎖の機能解析を容易にすることができる。また、Sphingobacterium KDN-sialidase は in vivo 条件下で用いることができる基質特異性の広いシアリダーゼとして、糖鎖上のシアル酸の研究に役立てることができる。

また、本博士論文では、哺乳類細胞の KDN 単糖の取込経路から代謝運命までについて解析を行った。シアル酸は親水性が高いため細胞膜を自由に通過できないが、哺乳類細胞によって細胞内へと取り込まれることが知られている。Neu5Ac、 Neu5Gc 単糖の取込機構の報告はあり、マクロピノサイトーシスで主要に取り込まれ、カベオラ依存性エンドサイトーシスによっても取り込まれることが示唆されている( Bardor et al., 2005)。しかし、KDN 単糖の取込機構について報告がされていない。そこで本研究では、各種取込阻害剤等を用いて KDN 取込機構の解析を行った。また、同時に Neu5Gc 単糖の取込機構を解析することで、KDN と Neu5Gcの取込機構の違いを検証した。その結果、マウスメラノーマ B16 細胞において、 KDN はトランスポーター、クラスリン依存性エンドサイトーシス、カベオラ依存性エンドサイトーシスによる選択的取込、マクロピノサイトーシスによる非選択的な取込がなされることが示唆された。また、Neu5Gc 単糖は、報告されているマクロピノサイトーシス、カベオラ依存性エンドサイトーシスに加え、トランスポーターによる取込が起こることが示唆された。これらの結果の比較から、KDN 単糖はクラスリン依存性エンドサイトーシスで取り込まれる独自の性質があることが示唆される。

また、取り込まれた KDN の代謝機構について解析を行った。KDN を代謝する酵素としてシアル酸ピルビン酸リアーゼ( SPL)が知られている。本研究室の小林隆史氏により、SPL は in vitro において KDN を Man とピルビン酸へ分解する活性、また、その逆反応である合成活性を持つことが示された( 小林隆史、2012)。しかし、細胞内における SPL の KDN に対する作用は明らかになっていない。また、哺乳類細胞は Man 含有培地で培養することで細胞内 KDN 量が増加することが知られている( Angata et al., 1999)。しかし、増加した KDN がどのように代謝されていくかは不明である。そこで、SPL 発現が脆弱である B16 細胞に SPL 遺伝子を導入し、KDN 含有培地、または Man 含有培地によって増加した細胞内 KDNの代謝機構を解析した。その結果、B16 細胞は Man 添加により増加した細胞内 KDN は経時的に減少していく一方、KDN 添加により増加した細胞内 KDN は一定量細胞内に残存した。この理由として、培地の KDN は多様なエンドサイトーシスによって取り込まれることから、細胞内 KDN の多くはエンドソーム、リソソームに存在していることが考えられる。しかし、SPL 導入細胞においては KDN 添加により増加した細胞内 KDN 量を経時的に減少させた。このことから、細胞内でも SPL による KDN の分解が行われることが示唆される。そのため、SPL はサイトゾルの KDN を分解することで、リソソーム内の KDN をサイトゾルへ輸送するのを促進していると考えられる。リソソーム内にシアル酸が蓄積することで、個体レベルで精神発達遅延、運動失調といった重篤な症状を示すことから、SPL がリソソーム内のシアル酸量を制御することで毒性を回避していることが示唆された。また、B16 細胞を Man 添加培地で培養後、培地中から KDN が検出されたことから、増加した細胞内 KDN の一部は培地へ排出される新しい機構が存在することが示唆される。

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