リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「グルクロン酸抱合を介した医薬品の代謝的活性化及びその毒性リスク評価に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

グルクロン酸抱合を介した医薬品の代謝的活性化及びその毒性リスク評価に関する研究

原田 浩史 東京薬科大学

2022.03.18

概要

はらだ

ひろし

氏名(本籍)
学位の種類

原田 浩史(山梨県)
博士(薬学)

学位記番号

論 博 第 375 号

学位授与の日付

令 和 4 年 3 月 18 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 2 項該当

学位論文題目

グルクロン酸 抱 合 を介 した医 薬 品 の代 謝 的 活 性 化 及 びその
毒性リスク評価に関する研究

論文審査委員

(主査)教授

山折



教授

井上

勝央

教授

袴田

秀樹

教授

降幡

知巳

論文内容の要旨

【緒言】
一 般 に ,脂 溶 性 の 高 い 薬 物 や 毒 物 な ど の 生 体 外 物 質( 異 物 )は ,体 内 に 存 在 す る 代 謝
酵 素 に よ り 代 謝・分 解 を 受 け て 解 毒 さ れ る .代 表 的 な 薬 物 代 謝 反 応 の 一 つ と し て ,第 2
相 代 謝 反 応 であるグルクロン酸 抱 合 が挙 げられる.典 型 的 なグルクロン酸 抱 合 反 応 では,
グ ル ク ロ ン 酸 転 移 酵 素( UDP-glucuronosyltransferase,UGT)に よ り 対 象 物 質 の ヒ ド ロ キ
シ 基 に グ ル ク ロ ン 酸 が 導 入 さ れ ,エ ー テ ル 型 の グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 が 生 成 す る .カ ル ボ
キ シ 基 も グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 を 受 け る が ,そ の 結 果 ,エ ス テ ル 型 の グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 で
あ る acyl glucuronide( AG) が 生 成 す る . 通 常 の グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 体 が 有 す る エ ー テ ル
結 合 は 化 学 的 に 安 定 で あ る が ,AG の エ ス テ ル 結 合 は 化 学 的 に 不 安 定 で あ り 高 い 反 応 性
を 有 す る .生 理 的 条 件 下 の 水 溶 液 中 に お い て は ,AG の 加 水 分 解 ,異 性 化 あ る い は 分 子
内 ア シ ル 転 移 反 応 が 容 易 に 進 行 す る .さ ら に は ,生 体 成 分 の 一 つ で あ る タ ン パ ク 質 の ア
ミ ノ 基 の よ う な 求 核 的 な 性 質 を 有 す る 官 能 基 と も 共 有 結 合 し う る .共 有 結 合 的 に 修 飾 さ
れ た 生 体 成 分 は ,直 接 的 に 機 能 的 な 阻 害 を 受 け る だ け で な く ,免 疫 を 介 し た 炎 症 反 応 が
引 き 起 こ さ れ 毒 性 発 現 に つ な が る と 考 え ら れ て い る( ハ プ テ ン 仮 説 ).グ ル ク ロ ン 酸 抱 合
に よ り AG に 代 謝 さ れ る 薬 物 と し て は , 非 ス テ ロ イ ド 性 抗 炎 症 薬 ( non-steroidal
anti-inflammatory drugs,NSAIDs)の よ う な カ ル ボ キ シ 基 を 有 す る 薬 物 が 知 ら れ て い る .
い く つ か の NSAIDs( zomepirac, ibufenac 及 び bromfenac 等 ) が 肝 障 害 や ア ナ フ ィ ラ キ
シ ー 等 の 重 篤 な 副 作 用 発 現 に よ り 市 場 か ら 撤 退 し て い る が ,そ の 原 因 と し て グ ル ク ロ ン
酸 抱 合 を 介 し た 代 謝 的 活 性 化 ,す な わ ち 反 応 性 代 謝 物 AG の 関 与 が 示 唆 さ れ て い る .2008
年 にアメリカ食 品 医 薬 品 局 から発 出 された薬 物 代 謝 物 の安 全 性 評 価 に関 するガイダンス

( "Metabolites in Safety Testing" (MIST) guidance ) に お い て ,「 AG の よ う な
“ a toxic compound( 毒 性 物 質 )”で は 追 加 の 安 全 性 評 価 が 必 要 で あ る 」と い う 趣 旨 の 内
容 が 記 載 さ れ て い る こ と か ら も 分 か る よ う に ,医 薬 品 開 発 に お け る 反 応 性 代 謝 物 AG の
安 全 性 評 価 の 重 要 性 は 極 め て 高 い .薬 物( 又 は 候 補 化 合 物 )の 代 謝 的 活 性 化 を 介 し た 毒
性 発 現 の 予 測 を 行 う た め に は ,代 謝 的 活 性 化 に 関 わ っ て い る 反 応 性 代 謝 物 を 検 出 す る こ
と が 重 要 と 考 え ら れ る .し か し な が ら ,反 応 性 代 謝 物 そ れ 自 身 は 不 安 定 な た め 安 定 的 に
測 定 す る こ と は 難 し い . そ こ で , 一 般 的 に , glutathione( GSH) の よ う な ト ラ ッ ピ ン グ
試 薬 を用 い て薬 物 の反 応 性 代 謝 物 をトラ ップ するこ とに より安 定 な 付 加 体 とし て検 出 す
る in vitro ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ セ イ が 行 わ れ て い る .し か し な が ら ,GSH ト ラ ッ ピ ン グ ア
ッ セ イ は cytochrome P450 を 介 し た 代 謝 的 活 性 化 の 研 究 に お い て よ く 行 わ れ て い る が ,
UGT に よ る グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 で は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い .そ こ で ,本 研 究 で は ,医 薬

品候補化合物のグルクロン酸抱合を介した代謝的活性化を評価することを目的とし
て , in vitro ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ セ イ の 適 用 可 能 性 及 び 有 用 性 に つ い て 検 証 を 行 っ た .

【第 1 章】グルクロン酸抱合を介した薬物の代謝的活性化を検出するためのトラッ
ピング試薬の探索
グルクロン酸抱合を介した代謝
的活性化を評価するためのトラッ
ピング試薬を探索することを目的
と し て , 各 種 L -cysteine( Cys) 誘
導 体 〔 Cys , L -cysteinyl-glycine
( CG), GSH, N-acetyl- L -cysteine
( NAC),N- L -γ-glutamyl- L -cysteine
( γ-GC) 及 び S-methyl- L -cysteine
( S-Me-Cys)〕を 用 い た ト ラ ッ ピ ン
グ ア ッ セ イ を 実 施 し , HPLC-PDA
( UV)法 に よ り 測 定 し た .評 価 化
合 物 として添 付 文 書 にて肝 障 害 の

発 症 が 警 告 さ れ て い る NSAID で
あ る diclofenac を 選 択 し た .UV 検
出( 225 nm)に お い て ,Cys と CG
を 用 い た 時 の み diclofenac の 付 加
体 ピ ー ク が 検 出 さ れ ,GSH な ど そ
の 他 Cys 誘 導 体 で は 付 加 体 ピ ー ク
は 検 出 さ れ な か っ た( Fig. 1).グ
ルクロン酸 抱 合 を介 した代 謝 的 活

Fig. 1 UHPLC-PDA-UV chromatograms (at
225 nm) of human liver microsomal incubations of
diclofenac with UDP-glucuronic acid and Cys
derivatives.

性 化 の 評 価 に お い て GSH ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ セ イ が 用 い ら れ な い 原 因 は こ の た め で あ る
こ と が 推 察 さ れ た .Cys や CG 付 加 体 は よ り 低 感 度 で 汎 用 性 の 高 い UV 検 出 に お い て ピ
ー ク 検 出 が 可 能 で あ っ た こ と か ら ,ト ラ ッ ピ ン グ 試 薬 と し て ,Cys や CG が 極 め て 有 用
で あ る こ と を 見 出 し た .さ ら に , Cys を 用 い た 場 合 に 最 も ピ ー ク 強 度 の 高 い 付 加 体 が

得 ら れ た こ と か ら , Cys を ト ラ ッ ピ ン グ 試 薬 と し て 用 い る こ と に よ り , UGT を 介 し
た代謝的活性化によるヒト肝毒性リスクを評価できる可能性が示された.

【 第 2 章 】 Cys 付 加 体 の 化 学 構 造 並 び に 生 成 経 路 の 推 定
ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ セ イ に お い て 生 成 し た Cys 付 加 体 の 構 造 推 定 を 行 っ た .精 密 質 量 分
析 を 用 い た MS フ ラ グ メ ン ト 解 析 や 還 元 剤 を 用 い た 化 学 的 ア プ ロ ー チ の 結 果 ,Cys 付 加
体 は ,薬 物 の カ ル ボ キ シ 基 と Cys の ア ミ ノ 基 が ア ミ ド 結 合 を 介 し て 結 合 し た 構 造 を 有 し
て い る こ と が 明 ら か と な っ た .こ れ ら 付 加 体 は 下 記 の 3 段 階 の 反 応 メ カ ニ ズ ム に よ り 生
成 さ れ る と 推 定 さ れ た( Fig. 2).ま ず ,UGT に よ り カ ル ボ キ シ 基 を 有 す る 薬 物 か ら エ ス
テ ル 結 合 を 有 す る AG が 生 成 す る . 次 に , AG の エ ス テ ル 結 合 と Cys の チ オ ー ル 基 の 間
で O- to S-ア シ ル 転 移 が 生 じ ,チ オ エ ス テ ル 結 合 を 有 す る S-ア シ ル Cys 付 加 体 が 生 成 す
る .続 い て ,S-ア シ ル Cys 付 加 体 の チ オ エ ス テ ル 結 合 と Cys の ア ミ ノ 基 と の 間 で 分 子 内
S- to N-ア シ ル 転 移 が 生 じ ,安 定 な ア ミ ド 結 合 を 有 す る N-ア シ ル Cys 付 加 体 が 生 成 す る .
カ ル ボ キ シ 基 を 有 す る 薬 物 は ,こ の 一 連 の ア シ ル 転 移 反 応 に よ っ て 高 い 反 応 性 を 獲 得 す
ることによりアミノ基と共有結合すると考えられた.

Fig. 2 Proposed reaction
pathways for the formation of
an N-acyl-Cys amide adduct
from AG (R = xenobiotic
moiety).

【 第 3 章 】 Cys 付 加 体 の 生 成 経 路 と ヒ ト 毒 性 リ ス ク と の 関 係 性
AG の タ ン パ ク 質 へ の 共 有 結 合 メ カ ニ ズ ム と し て は acylation 経 路 及 び glycation 経 路
の 2 種 類 の 反 応 経 路 が 提 唱 さ れ て い る が ,Cys ト ラ ッ ピ ン グ 法 に お い て 生 成 す る Cys 付
加 体 は acylation 付 加 体 に 相 当 す る 付 加 体 で あ っ た .そ こ で ,Cys 添 加 の タ イ ミ ン グ 等 を
変 更 す る こ と に よ り glycation 付 加 体 を 生 成 す る 反 応 条 件 を 検 討 し , 生 成 す る 付 加 体 の
種 類 や 生 成 量 と 毒 性 リ ス ク と の 関 係 性 に つ い て 検 証 し た . 化 学 構 造 分 類 と idiosyncratic

toxicity( IDT)リ ス ク 分 類 の 観 点
か ら , 13 薬 物 を 評 価 化 合 物 と し
て 選 択 し ,Cys ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ
セイを行 った.精 密 質 量 分 析 の結
果 ,い ず れ の 化 合 物 に お い て も ,
代 謝 反 応 前 Cys 添 加 法 で は
acylation 付 加 体 の み が 検 出 さ れ
た が , 代 謝 反 応 後 Cys 添 加 法 に
お い て は acylation 付 加 体 及 び
glycation 付 加 体 の 両 方 が 検 出 さ
れた.代謝反応前又は代謝反応
後 Cys 添 加 法 に お け る 両 付 加 体
の MS ピ ー ク 面 積( AG の MS ピ
ー ク面 積 による補 正 あり)を比 較
し た と こ ろ , 代 謝 反 応 前 Cys 添
加 法 に お け る acylation Cys 付 加

Fig. 3 Acylation/glycation Cys adduct production
of test drugs in the Cys pre-/post-addition
procedure.

体 が IDT リ ス ク を 最 も よ く 反 映
することが明らかとなった
( Fig. 3).

【 第 4 章 】 [ 3 5 S]Cys を 用 い た in vitro ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ セ イ に よ る 付 加 体 生 成 量 の 定
量化とヒト毒性リスク評価
放 射 性 同 位 体 で 標 識 し た [ 35 S]Cys を ト ラ ッ ピ ン グ 試 薬 と し て 用 い て ト ラ ッ ピ ン グ ア ッ
セ イ を 行 い ,[ 35 S]Cys に 基 づ く 放 射 能 を radio-HPLC に て 測 定 す る こ と に よ り ,付 加 体 生
成 量 を 定 量 的 に 評 価 す る 系 を 構 築 し た .[ 35 S]Cys 付 加 体 の 生 成 量 を 評 価 薬 物 の 毒 性 リ ス
ク 分 類 の 観 点 で 比 較 し た 結 果 ,撤 退 / 警 告 薬 に 分 類 さ れ る 薬 物 は い ず れ も 高 い 付 加 体 生
成 量 を 示 し た ( Fig. 4). 一 方 , SAFE に 分 類 さ れ る 薬 物 は い ず れ も , 付 加 体 を ほ と ん ど
生 成 し な か っ た .さ ら に ,キ ッ セ イ 薬 品 工 業 株 式 会 社 が 国 内 で 開 発・上 市 し た カ ル ボ キ
シ 基 を 有 す る 医 薬 品 で ,添 付 文 書 等 に 禁 忌 や 慎 重 投 与 と な る よ う な 肝 障 害 の 記 載 が な い
3 薬 剤 ( mitiglinide, ozagrel 及 び bezafibrate) に つ い て , 本 ア ッ セ イ 法 に よ り 肝 毒 性 発
現 リ ス ク 評 価 を 行 っ た .そ の 結 果 ,い ず れ も SAFE 薬 で あ る と 判 定 さ れ ,本 評 価 系 に お
け る 判 定 と 臨 床 に お け る 副 作 用 発 現 状 況 と の 間 に 矛 盾 の 無 い 結 果 が 得 ら れ た ( Fig. 4).
以 上 の こ と か ら ,本 評 価 法 に よ り SAFE 薬 と non-SAFE 薬 を 切 り 分 け て 評 価 で き る 可 能
性が示された.

Fig. 4 Relationship between
toxicity risk category and [ 35 S]Cys
adduct production of various
drugs. WDN: withdrawn, WNG:
warning, Kissei: Kissei's drugs
(mitiglinide, ozagrel, and
bezafibrate) .

【総括】
本 研 究 で は , ト ラ ッ ピ ン グ 試 薬 と し て [ 35 S]Cys を 用 い た in vitro ト ラ ッ ピ ン グ 法 を 構
築 し ,カ ル ボ キ シ 基 を 有 す る 医 薬 品 候 補 化 合 物 の グ ル ク ロ ン 酸 抱 合 を 介 し た 代 謝 的 活 性
化 及 び そ の ヒ ト 毒 性 リ ス ク を 定 量 的 に 評 価 す る こ と が 可 能 と な っ た .ま た ,本 法 は 反 応
性 代 謝 物 AG の 合 成 標 品 を 必 要 とす るこ となく in vitro に て 簡 便 に実 施 で きるこ とか ら ,
医 薬 品 開 発 の初 期 段 階 である創 薬 スクリー ニ ング試 験 における有 用 性 は高 いと考 えられ
た.本法が安全性と有用性の高い医薬品開発の一助となることを祈念する.

【研究結果の掲載誌】
1)

Harada H.,

Endo T.,

Momose Y.,

Kusama H.,

Rapid Commun. Mass Spectrom.,

23,

564-570 (2009).
2)

Harada H., Toyoda Y., Endo T., Kobayashi M., Pharmazie, 70, 678-683 (2015).

3)

Harada H., Toyoda Y., Abe Y., Endo T., Takeda H., Chem. Res. Toxicol., 32, 1955-1964
(2019).

論文審査の結果の要旨
原田浩史氏の博士学位申請論文は、グルクロン酸抱合を介して生成する薬物の反応性代謝物ア
シルグルクロナイド(AG)のヒトにおける毒性予測を簡便かつ精度よく行うための in vitro トラ
ッピングアッセイ法の開発を目的に行われた研究である。
第1章では、カルボキシ基を有する薬物のグルクロン酸抱合を介した代謝的活性化を検出するた
めのトラッピング試薬を探索するため、酵素源としてヒト肝ミクロソーム、評価化合物として肝毒
性リスクのあるジクロフェナクを用いて、6種類のL-システイン(Cys)誘導体がジクロフェナクの
AGと付加体を生成するか否か検討した。その結果、シトクロムP450などによる代謝的活性化を検
出するためのトラッピング試薬として最も汎用されているグルタチオンではジクロフェナクAGと
の付加体生成は検出されず、CysとL-システイニル-グリシンのみが付加体を生成することが明らか
となった。これらの付加体の生成は、LC-MS/MSに比べて検出感度の低いUHPLC-PDA(UV)法に
おいても検出可能であった。特に、Cysはピーク面積が最も大きかったことから、AGのトラッピン
グ試薬として有用である可能性が見出された。
第2章では、前章のトラッピングアッセイで生成したCys付加体について、精密質量測定を用い
たMSフラグメント解析および還元剤ジチオスレイトールを用いた化学的アプローチに基づいて、
その構造推定を行った。その結果、Cys付加体は評価化合物のカルボキシ基とCysのアミノ基がア
ミド結合を形成した構造を有していることが示された。この付加体の生成メカニズムとして、グル
クロン酸抱合によって生成したAGのエステル結合にCysのチオール基がアタックしてS-アシルCys
付加体が生成し、その後、Cysの分子内アシル転移が生じ、安定なアミド結合を有するN-アシルCys
付加体が生成するものと推定された。
第3章では、AGのタンパク質への共有結合メカニズムとして提唱されているacylation経路および
glycation経路によって生成する付加体の種類や生成量と毒性リスクとの関係性について検証した。
その結果、化学構造分類とidiosyncratic toxicity(IDT)リスク分類の観点から選択された13種類の
薬物を用いたとき、acylation経路によって生成するCys付加体の生成量(MSピーク面積)がIDTリ
スクを最もよく反映することが示された。
第4章では、Cys付加体の生成量をより定量的に評価するため、[35S]Cysをトラッピング試薬とし
て用いてin vitroトラッピングアッセイを行い、[35S]Cysに基づく放射能をradio-HPLCにて測定する
系を構築した。前章で用いた13種類の薬物の[35S]Cys付加体生成量を比較した結果、IDTリスクの
高い薬物はいずれも高い付加体生成量を示したが、IDTリスクの低い薬物では付加体はほとんど生
成しなかった。このことから、本評価法により、AGを生成する薬物の中でIDTリスクの高い薬物
と低い薬物を判別評価できる可能性が示された。
以上、本申請論文では、カルボキシ基を有する薬物のグルクロン酸抱合を介した代謝的活性化
を定量的に評価するための[35S]Cys トラッピングアッセイ法を構築することに成功した。本評価
法は化学的に不安定な AG の合成標品を必要とすることなく in vitro にて簡便に実施できること
から、ヒトにおける AG の毒性予測を簡便かつ精度よく行うための方法として高い有用性を示す
ものと期待される。したがって、本論文は、博士(薬学)の学位論文として相応しいものと判断

する。 ...

この論文で使われている画像

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る