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大学・研究所にある論文を検索できる 「月経周期のフェーズに伴う腋臭の官能特性と構成成分の変化に関する解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

月経周期のフェーズに伴う腋臭の官能特性と構成成分の変化に関する解析

大木, 望 東京大学 DOI:10.15083/0002006382

2023.03.24

概要





















大木



多くの動物の生殖行動において、体臭は重要な情報伝達手段であるが、嗅覚が退化した
と考えられているヒトにおいても、匂いを介したコミュニケーションが知られている。例
えば、体臭が性行動や配偶者選択に影響すること、具体的には、男性が排卵日に近い女性
の腋臭に対して魅力を感じること、排卵期の腋臭を嗅いだ男性の唾液中テストステロン値
が上昇することが報告されている。しかし、このような心理的・生理的効果を持つ腋臭成
分は同定されていない。一方で、耳垢の表現型を決定する ABCC11(ATP-binding cassette
protein C11)遺伝子の腋臭への関与が知られている。本論文では、腋臭のサンプル提供者
の ABCC11 遺伝子型にも注目し、月経周期内における腋臭の匂いの変化を、官能特性と腋
臭成分の分析で評価することによって、ヒト社会における嗅覚コミュニケーションの意義
を解明することを目的としている。
第一章では、動物やヒトにおける匂いコミュニケーション、腋臭についての知見、月経
周期に伴う身体の変化、嗅覚メカニズムについての背景が詳細に紹介されている。第二章
では、腋臭捕集方法、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)法、官能評価法に関して、
実験手法が記載されている。第三章の結果では、まず、月経周期の査定方法と腋臭捕集方
法を確立したことが述べられている。尿中黄体形成ホルモン値定量と体温計測の指標を組
み合わせることによって、月経周期を構成する月経期、卵胞期、排卵期、黄体期の 4 つの
時期を正確に推定することができ、腋臭捕集は、滅菌ガーゼとポリジメチルシロキサン
(PDMS)膜を使っておこなうことが最適と判断している。次に、月経周期内の腋臭の官
能評価をおこなっている。腋臭の快不快度、親しみやすさといった、匂いによって想起さ
れる心理状態を測る情感評価項目に加え、腋の匂いを過不足なく表現できると判断した言
葉を計 20 語選抜して、腋の匂いに関する官能特性の評価項目に採用している。匂い強度に
関して、ABCC11 が GA 型の腋臭は、AA 型の腋臭よりも総じて強く感じられ、GA 型にお
いては黄体期が他の時期の腋臭に比べて匂い強度が高いことを見出している。また、快不
快度の評点結果に関して、
GA 型は AA 型よりも不快度が高い一方で、どちらの遺伝子型も、
排卵期の腋臭は不快度が最も低くなる傾向にあり、特に月経期に比べて有意に不快度が低
いことを示している。以上より、腋臭には個人差や遺伝子型が大きく影響している一方で、
排卵期の腋臭は月経期よりも不快度が低いと結論している。次に、月経周期内の腋臭成分
の定性・定量分析を、腋臭の構成成分を包括的に解析できる二つの異なる捕集・分析手法、

すなわち PDMS 膜腋臭捕集/加熱脱着装置付き GC-MS 法と、滅菌ガーゼ腋臭捕集/匂い
嗅ぎ GC-MS(GC-MS/O)法でおこなっている。前者の方法では、総計 182 種の化合物が
得られ、そのうち、26 種の化合物において、月経周期内の時期間で存在量の差がみられた。
排卵期に比べて月経期に少なかった化合物が 3 種存在し、このうち 2 種は長鎖脂肪酸や不
飽和脂肪酸といった比較的低揮発性の化合物であった。後者の方法では、総計 67 種の化合
物が得られ、同様に月経期と排卵期の存在量の違いを調べている。この2つの手法で、月
経周期内で増減する化合物の存在が初めて示され、時期間で変動する化合物の存在量は月
経期とそれ以外の時期で異なることを見出している。特に、官能評価の結果から不快度に
差があった月経期と排卵期間においては、長鎖脂肪酸といった低揮発性の化合物の存在量
が異なることが示されている。第四章では、結果に対する考察が丁寧に記載されている。
本論文は、体臭に関連する遺伝型を考慮した上で、月経周期内における腋臭の官能特性
と腋臭成分を詳細に調べた初めての報告である。官能評価および成分分析の結果から、月
経周期の時期間で匂い強度、不快度が異なることと、一部の腋臭成分に存在量の増減が見
られることを明らかにした。特に、遺伝子型の違いによらず、排卵期は月経期に比べ不快
度が低く、長鎖脂肪酸や不飽和脂肪酸などが多かったことは興味深い。不飽和脂肪酸等の
脂肪酸の多くは皮脂腺の分泌物由来であることが知られている。そのため、これらの腋臭
の周期内変動には、ABCC11 遺伝子型が影響するアポクリン腺分泌の影響と別に(または
協働する)
、皮脂腺等の他の汗腺による分泌様式の関与が示唆された。本研究で、月経周期
に伴う腋臭の変化をヒトの嗅覚で感じる官能特性から物質レベルまで解明したことは、女
性腋臭の生物学的意義の解明において重要な基盤となる。
以上、これらの研究成果は、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査委
員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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