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線形ゼロモード導波路を用いたアクチン重合の1分子蛍光イメージング解析

藤井, 聡一郎 東京大学 DOI:10.15083/0002005182

2022.06.22

概要

【背景および目的】
アクチンは、全ての真核生物に遍く大量に存在する細胞骨格タンパク質であり、G-actin(globularactin)とF-actin(filamentousactin)の2種類の状態をとる。F-actinは、G-actinが重合して、時計回りの二本鎖フィラメントを形成したものであり、その両端は、重合速度が大きく異なっており、速い端をbarbedend(B端)、遅い端をpointedend(P端)と呼ぶ。

アクチンの重合は、G-actinの濃度が臨界濃度である100nM以上の場合にのみ起こることが知られており、その過程は、核形成過程、伸長過程、定常状態の3段階に分けられる。核形成過程では、重合の種となる安定な核が作られる。伸長過程では、形成された安定な核からフィラメントが伸び始め、G-actinの濃度が臨界濃度に達するまで伸長し続ける。臨界濃度に達すると、定常状態となり、重合と脱重合の速度が等しくなるため、フィラメントの長さは見かけ上、定常となる。

従来、アクチンの重合は、monomerを単位として起こると考えられていた。しかし、先行研究におけるF-actinの長さゆらぎの測定から、定常状態における重合速度定数が伸長過程におけるそれの30–40倍であることが示された1。その理由として、伸長過程ではmonomerが重合するのに対し、定常状態ではoligomerが重合するか、あるいは、monomerが重合すると次の重合が促進される協同性があるなどの可能性が考えられるが、その詳細は明らかになっていない。そこで、本研究では、1分子蛍光イメージング法を用いて、伸長過程と定常状態におけるアクチンの重合単位を決定することにより、アクチンの重合メカニズムを明らかにすることを目的とした。

【方法および結果】
実験系および解析手法
本研究の目的を達成するためには、100nM(臨界濃度)以上の蛍光標識アクチン存在下で、その重合過程を1分子蛍光イメージングする必要がある。しかし、一般的な1分子蛍光イメージング法であるTIRFM(全反射照明蛍光顕微鏡法)では、S/N比の問題から、上記のような高濃度下で観察することは困難である。そこで、LZMWs(線形ゼロモード導波路)を用いた1分子蛍光イメージング法を適用した。LZMWsは、石英ガラスに蒸着したアルミニウム薄膜上に、可視光の波長よりも細い幅のスリットを多数配列した基板である。スリットの下側から光を照射すると、開口底面近傍のみに非常に局在化したエバネッセント場が発生する。これを励起光とすることで、100nM以上の蛍光標識分子が存在していても、1分子蛍光イメージングを行うことができる。

Biotin化BSAおよびstreptavidinを介して、Cy3およびbiotinで修飾したF-actin(Cy3F-actin)をLZMWs内に固定し、観察溶液中に存在するBODIPY-FLactinが重合する様子を観察した(Fig.1)。溶液中をブラウン運動するBODIPY-FLactinは、輝点として検出できないのに対し、固定されたCy3F-actinに重合したBODIPY-FLactinは、輝点として観察される。そこで、LZMWs内に固定されたCy3F-actinの両端にROI(region of interest)を設定し、重合に由来するBODIPY-FLactinのシグナルを検出した。また、このCy3F-actinの付近に参照ROIを設け、バックグラウンドノイズ、および、非特異的に基板に吸着したBODIPY-FLactinのシグナルも測定した。

定常状態における重合反応の協同性の検討
・自己相関を用いた解析
Cy3F-actinの端でのBODIPY-FLactinの蛍光強度変化のグラフ(Fig.2)に対して、自己相関を用いて解析を行った。1分子のシグナルの検出限界である(平均値+3x標準偏差)を閾値として、値がそれ以上の場合を1、それ未満の場合を0として、自己相関を求めた(Fig.3)。また、Cy3F-actinの端に重合したBODIPY-FLactinの退色時間をFig.4に示した。これらより、相関時間が短い場合にのみ相関が見られ、その相関が見られた時間が、重合したBODIPY-FLactinの退色時間とおおよそ一致していることが分かった。この結果から、定常状態における重合は、ランダムに起こっていると考えられる。以上から、定常状態においてmonomerがフィラメントに結合することで更に重合が促進される協同性によるメカニズムは否定された。

・重合に由来するシグナルの時間間隔分布を用いた解析
Cy3F-actinの端でのBODIPY-FLactinの蛍光強度変化(Fig.2)から、重合に由来するBODIPY-FLactinシグナルの時間間隔(溶液中のアクチンがF-actinに重合するまでの待ち時間)の分布を調べた。その結果、その分布は、一次の指数関数で近似することができた(Fig.5)。これより、定常状態における重合は、協同的ではなく、ランダムに起こっていると考えられる。よって、この解析からも、定常状態においてmonomerがフィラメントに結合することで更に重合が促進される協同性によるメカニズムは否定された。

伸長過程と定常状態における重合単位の比較
Cy3F-actinの端に重合したBODIPY-FLactinの蛍光強度分布をFig.6に示した。これより、伸長過程では、蛍光強度350a.u.付近をシングルピークとする分布となった。LZMWs基板に吸着したBODIPY-FLactin monomerの平均蛍光強度が、362±101a.u. (mean±SD)(n=129)であったことから、monomerのみが重合に関与していると考えられる。一方、定常状態では、蛍光強度350a.u.付近だけではなく、700,1050a.u.付近にもピークが現れた。この結果から、定常状態では、monomerだけではなく、dimerやtrimerも重合していることが示唆された。

さらに、Fig.6の定常状態における蛍光強度分布について、複数個のガウス分布でフィッティングすることにより、重合に関与した会合体の割合を概算すると、B端では、monomer: dimer=1:7.6、P端では、monomer: dimer: trimer=1:1.9:0.70と求められた。この結果から、monomer、trimerと比較して、dimerの割合が多いことが分かった。先行研究において、Photon Counting Histogram法により、溶液中におけるBODIPY-FLactinの明るさ分布が調べられている2。この先行研究では、本研究の定常状態に相当するbufferF(高塩濃度溶液)中において、monomer: dimer: trimer=1:0.35:0.14の割合で、これらが平衡状態として存在していることが明らかにされている。このことから、本研究の結果は、溶液中における割合から予想されるよりも、はるかにdimerが結合しやすいことを示唆している。

【総括および今後の展望】
本研究では、LZMWsを用いることにより、アクチン重合過程の1分子蛍光イメージングに成功した。その結果、伸長過程ではmonomerのみが、定常状態ではmonomerだけではなく、dimerやtrimerなどのoligomerも重合していることが明らかとなった。さらに、先行研究2との比較から、定常状態において、溶液中でmonomer、dimer、trimerが平衡状態として存在している中で、dimerが結合しやすいことが示唆された。

今後は、フィラメントの端に結合するタンパク質を用いるなどの手法により、B端とP端での重合単位の違いなどのより詳細な重合メカニズムの解析に取り組んでいきたい。

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参考文献

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