抗がん剤投与による酸化ストレス由来細胞死誘導能の調査
概要
生体内には活性酸素極を消去する抗酸化システムが備わっている。抗酸化システムは,Superoxide dismutase (SOD)やCatalaseなどの杭酸化酵ぶおよびGlutathione (GSH)や尿酸などの抗酸化物質に大別される。酸素消費に伴って生成される活性酸素種は、これらの杭酸化システムにより消去される。活性酸素種の消去により,生体内の酸化と杭酸化のバランスは保たれている。しかし,酸化と抗酸化のバランスは主に2つの要因により崩壊する。1つ目に,喫煙や薬物摂取などに伴う抗酸化システムによる消去量を超過した活性酸素種の発生量の増加が挙げられる。2つ目に,統合失調症や貧血などの疾患や老化に伴う杭酸化システムの活性の低下に起因した活性酸素種の消去量の減少が挙げられる。2つの要因に伴った酸化抗酸化バランスの崩壊により,酸化ストレスが誘導される。
一般的に抗がん剤は酸化ストレスを誘導するとされている。酸化ストレス下では,活性酸素種がタンパク質,脂質,糖質および核酸などの生体分子を酸化し,正常細胞の細胞死を誘導する。したがって,酸化ストレスが抗がん剤投与による副作用の原因の1つとして考えられている。しかし, 当研究室での 20 種類の抗がん剤の検討において,酸化ストレスを誘導する杭がん剤は一部であると判明している。我々は杭がん剤のCamptothecin, Paclitaxel, VinorelbineおよびVinblastineの培養細胞への投与による強い酸化ストレスの発生を,蛍光性プローブCeliROXの蛍光として確認している。また,それら4種類の抗がん剤のうちVinorelbineおよびVinblastineの投与による細胞死誘導を, アポトーシス検出試薬 AnnexinVの蛍光として確認している。しかし,抗がん剤投与による細胞死誘導の中で,酸化ストレスによる細胞死誘導の割合は明らかではない。そこで,本研究では抗酸化物質であるN-acetyl-L-cysteine(NAC)の投与により,VinorelbineおよびVinblastinebh由来の酸化ストレスの軽減を試みた。また,酸化ストレスの軽減された条件下における,VinorelbineおよびVinblastine投与による細胞死誘導を調査した。これにより,杭がん剤由来の酸化ストレスが細胞死を誘導し副作用の原因であるか調査した。