Elevated Serum Gasdermin D N-terminal Implicates Monocyte and Macrophage Pyroptosis in Adult-Onset Still's Disease
概要
1. 序論
成人発症Still病(AOSD)および全身性若年性特発性関節炎(sJIA)における血清IL-18の上昇は, これらの疾患におけるインフラマソームの役割を示唆している.またAOSDやsJIAでは高フェリチン血症を呈することが特徴的であると言われてきた.IL-18やフェリチンの血清中における著増などから, AOSD/sJIAの主病態には単球やマクロファージが中心的な役割を担っていると考えられてきたが, それらの産生機序や疾患病態については未だ多くが解明されていない.Gasdermin Dは全脊椎動物において保存される細胞質蛋白質であり, インフラマソームが活性化されることで成熟化を受けたCaspase-1ないしCaspase-4/-5によってGasderminD N-terminalは切離される.その重合体が細胞膜上に細孔を形成することで炎症性サイトカインなど細胞内物質を細胞外へ放出し(Evavold CL et al., 2018), さらには細胞死であるpyroptosisを誘導することで炎症を生じる(Kayagaki et al., 2015).炎症病態を考える上で重要な機序であるが, リウマチ性疾患におけるその役割は不明のままである.
本研究では, AOSDとsJIAの自己炎症メカニズムについて, GasderminDとの関連を通じて解明することを目的とした.
2. 実験材料と方法
横浜市立大学(YCU)または米国国立衛生研究所(NIH)で追跡された活動期ならびに寛解期のAOSDやsJIA患者, マクロファージ活性化症候群患者(MAS)(Ravelli A et al., 2016), およびベーチェット病患者を研究対象とした.AOSDないしsJIA患者における疾患活動性は, modified-Pouchotスコア(PouchotJ et al., 1991)を用いて評価した.ヒト末梢血からフィコール密度勾配遠心法により採取した末梢血単核球より, MACS法(磁気刺激細胞分離法)を用いて単球(Mo)をnagative selectionにて分取した.得られた単球にGM-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)またはM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)による分化刺激を加え, それぞれM1マクロファージ(Mφ)またはM2Mφに分化させた.Mφ数の計数は200倍拡大1視野中の細胞数を計数した.生細胞経時評価では単球/マクロファージ生細胞数依存的にホルマザンを生成する試薬(CCK-8)を介し, その450nmでの吸光度測定を培養期間において定期的に行い評価した.死細胞経時評価では細胞死による放出される細胞内DNAと結合し490nm付近に蛍光を呈する試薬(CellTox Green)を用い, その蛍光強度を経時的に測定した.血清中および培養上清中の炎症性/抗炎症性サイトカイン濃度の測定にはCBA(Cytometric Beadarray)法によりFACSにて測定を行った.血清および培養上清中のフェリチンおよびGasderminD N-terminalレベルについては, ELISA法によって測定した.PyroptosisとGasderminD阻害薬によるその阻害の検討においては, まずインフラマソーム活性化のために大腸菌由来のLPS(lipopolysaccharide)とNigericinによる刺激を加えてpyroptosisを誘導させ, ここにGasdermin D阻害薬を用いて(Necrosulfonamide(Rathkey JK et al., 2018)またはDisulfiram(Hu JJ et al., 2020)), Pyroptosis誘導と阻害による細胞死の多寡, フェリチン放出量の評価を行った.
3. 結果
活動期AOSDおよびsJIAの患者は, 血清フェリチンおよびIL-18レベルと相関する血清GasderminD N-terminal濃度が有意に上昇していた(図1A).活動期AOSD患者からのMo由来Mφは, 細胞生存率の低下と細胞死の増加(図1B)を示した.9日目の培養Mφ細胞の数は, 血清フェリチンおよびGasdermin Dレベルと負の相関を認めた.有意に高いフェリチンおよびGasdermin Dレベルが、活動性AOSD患者のM1Mφ培養上清で観察された(図1C, D).Gasdermin D阻害剤は, Moにおけるpyroptosisを介したフェリチン放出を減少させた.
4. 考察
AOSD/sJIA活動期患者においては, 血清GasderminD N-terminal濃度の有意な上昇を認めた.これまでAOSD/sJIAでの炎症病態の主座は単球ないしマクロファージであると考えられてきたこと, またGasdermin D高値の結果からpyroptosis亢進が示唆されたことから, 患者の単球由来マクロファージでの細胞生存について生細胞数, 死細胞数の両者での評価を行った.ここで, 同一患者での活動期, 寛解達成後のそれぞれでの培養後残存マクロファージ数の変化を検証すると, 寛解後では細胞数減少は有意に抑制され, 健常者レベルと同等数残存することから, 治療介入によりマクロファージ数は改善方向に変化することも確認された.従って, 生細胞数, 死細胞数の検証には(寛解群においても)治療介入のない患者由来マクロファージを用い, 有意な生細胞の減少と死細胞の増加を認めた.つまりAOSD/sJIAでは細胞死亢進を認め, その細胞死はpyroptosisであることを示唆していた.
高フェリチン血症を特徴的とするAOSD/sJIAの病態がpyroptosis亢進である可能性は, 培養上清中でのフェリチン高値の結果(図1C)からも支持されるものと考えられる.この時, 同様に培養上清中でのGasderminD N-terminal濃度も高く, これらはM1マクロファージにて生じていることから, AOSD/sJIAの炎症性病態にM1マクロファージが深く寄与している可能性を見出したと考えられる.
Pyroptosisはインフラマソーム活性化の結果生じるが, この活性化経路に関わる因子のそれぞれの発現量や活動期/寛解期での変化などの検証は本研究では行っておらず, より詳細な病態解明のため, 今後の研究課題である.しかしながら, 本研究ではGasdermin D阻害薬を用いた実験によって単球の細胞死抑制と, 培養上清中へのフェリチン産生量低下を検証しており, AOSD/sJIAの病態の説明や活動性マーカー, 新規治療ターゲットとしてのGasdermin Dの可能性の一端について解明できたものと考える.