Necrosis rather than apoptosis is the dominant form of alveolar epithelial cell death in lipopolysaccharide-induced experimental acute respiratory distress syndrome model
概要
1. 序論
急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)における肺胞バリア破綻には肺胞上皮細胞死が大きな役割を果たしていると考えられており(Manicone, 2009), ARDS の最も重要な治療標的の一つである.細胞死はアポトーシス(制御可能な細胞死)とネクローシス(制御不能な細胞死)に大別されるが,ARDS の肺胞上皮細胞死におけるそれぞれの寄与度は不明である.近年,特定の分子機構により「制御されたネクローシス(regulated necrosis)」の存在が明らかとなり,アポトーシスに加え,ネクローシスも ARDSを含む様々な疾患の治療標的となる可能性が示されている(Vanden Berghe et al., 2014).したがって ARDS の肺胞上皮細胞死におけるアポトーシス,ネクローシスそれぞれの寄与度を解明することは,より有効な治療標的の同定につながる可能性がある.
本研究では,ARDS 実験モデルを用いてアポトーシスとネクローシスどちらが肺胞上皮細胞死の主形態であるかを明らかにするとともに,制御されたネクローシス経路の活性化について検討した.
2. 方法
動物実験では,C57BL/6 マウスに 25μg のリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)を経気管投与し,ARDS 実験モデルを作成し,対照群である健常マウスと比較した.ネクローシス,アポトーシスそれぞれの寄与度を明らかにするために,気管支肺胞洗浄液を採取し,上皮細胞の全細胞死マーカーとしてサイトケラチン 18(cytokeratin-18;CK18)-M65,アポトーシスマーカーとしてCK18-M30(Kramer et al., 2004)濃度を測定した.また,肺組織のヨウ化プロピジウム(propidium iodide;PI)投与による細胞膜破綻細胞染色,terminal deoxynucleotidyl transferase dUTP nick end labeling(TUNEL)染色によるアポトーシス細胞染色を行い,陽性細胞率を検討した.さらに,制御されたネクローシスの関連遺伝子発現をリアルタイム PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)アレイで解析した.
細胞実験では,マウス肺胞上皮細胞株である MLE12 細胞に,C57BL/6 マウスから回収した好中球と LPS を加え肺胞上皮細胞傷害モデル(Tojo et al., 2018)を作成し,好中球・LPS非投与細胞を対照群とした.フローサイトメトリーによりAnnexin V 陽性/7-AAD 陰性肺胞上皮細胞(早期アポトーシス細胞)と 7-AAD 陽性肺胞上皮細胞(ネクローシス細胞,晩期アポトーシス細胞)の検出を行い,肺胞上皮細胞死に対するネクローシスとアポトーシスの寄与度を検討した.さらに,アポトーシスの阻害剤(MMPSI),および代表的な制御されたネクローシスの 1 つであるネクロプトーシスの阻害剤(Nec-1s,Compound-1)で細胞死が抑制されるか検討した.
3. 結果
動物実験では,ARDS マウスにおいて CK18-M65,M30 双方が増加しており,アポトーシス,ネクローシスどちらも生じていると考えられた.しかしながら,M30/M65 比が対照群と比べて有意に低下しており,さらに TUNEL 陽性細胞と比べて PI 陽性細胞が著明に増加していた.以上より,LPS 誘導性 ARDS 実験モデルではネクローシスが肺胞上皮細胞死の主要因であると考えられた.PCR アレイでは ARDS マウスにおいて,ネクロプトーシス関連遺伝子の有意な増加が見られた.
細胞実験では,LPS による活性化好中球が肺胞上皮細胞死を誘導し,フローサイトメトリーでは,傷害群において 7-AAD 陽性細胞が早期より有意に増加しており,ネクローシスが細胞死の主形態であると考えられた.さらに,細胞死は,MMPSI では抑制されず,Nec-1s, Compound-1 で有意に抑制されたことから,活性化好中球による肺胞上皮細胞死にネクロプトーシスが関与していることが示唆された.
4. 考察
LPS 誘導性 ARDS モデルにおいて,肺胞上皮細胞死の主な形態はネクローシスであり,また,ネクロプトーシス経路の活性化が見られた.肺胞上皮細胞死におけるネクロプトーシスを含むネクローシスを治療標的とすることは,ARDS における肺胞バリアを保護するための有効なアプローチになりうる.