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低出力超音波パルス照射は大腿骨髄内掘削物から得た細胞の骨分化を促進する

澤内, 健一 神戸大学

2022.03.25

概要

【目的】
偽関節および広範囲骨欠損は、医療技術が進歩した現代においても治療が困難な病態である。これらの治療において、骨形成に寄与する細胞、骨伝導能を有する骨基質、骨誘導に関する成長因子のすべてが含まれる自家骨の移植が必要となることが多い。自家骨は腸骨から採取されることが一般的ではあるものの、さまざまな合併症が報告されている。大腿骨髄内掘削装置 (RIA: Reamer irrigator aspirator) は、もともと大腿骨髄腔内を掘削する際に発生する熱を抑制し、塞栓症や肺合併症を予防する目的で開発された機器であるが、合併症の発生率を抑えつつ大量の骨組織を採取できることから、新たな自家骨の採骨方法として注目を集めている。RIA を用いて採取した骨組織には骨分化能を持つ間葉系幹細胞が含まれると報告されており、腸骨由来のものと比べて同等またはそれ以上の骨形成能を示すことが報告されている。

一方、低出力超音波パルス (LIPUS: low-intensity pulsed ultrasound)は骨折および偽関節部位への物理的刺激によって、治癒を促進する非侵襲的治療法として知られている。LIPUSによる骨折治癒の機序として、骨髄由来間葉系幹細胞の分化を促進することや、COX-2 の産生を刺激することで骨のリモデリングや骨折治癒を促進することが先行研究で報告されている。 LIPUS が RIA を用いた骨移植症例の骨癒合を促進するのであれば患者にとって有益であるが、渉猟する限りでは RIA 採取骨に対するLIPUS の影響を検討した報告は認めない。

今回、我々は、LIPUS がRIA による採取骨に含まれる細胞の骨形成活性と分化を促進すると仮定した。本研究では患者から RIA で採取した骨組織から得た細胞に LIPUS を照射し、その骨形成活性、骨分化能について検討を行った。

【対象と方法】
対象患者
偽関節、変形癒合、骨髄炎を治療するために 2018 年 7 月から 2020 年 1 月の間に RIAを用いて自家骨移植術を施行した患者、7 名を対象とした。患者はすべて男性で、平均年齢は 49.4歳であった。RIA を用いて大腿骨から得た骨組織の一部を使用した。神戸大学医学部附属病院の医学倫理委員会の承認を得て研究を実施した。

RIA による掘削物から得た細胞の分離と培養
RIA によって採取された骨組織を細かく刻み、増殖培地で培養を開始した。2 回または 3回の継代を行った後に採取した細胞をRIA 由来細胞として 6 ウェルプレートに播種して 4 日間培養を行ったのち、培地を骨形成培地に変更した。これらの細胞を LIPUS 照射群と対照群の 2 つの群に分けた。

LIPUS 装置
LIPUS の設定は周波数:1.5MHz、バースト幅:200μs、繰り返し周波数:1kHz、照射出力:30mW / cm2 とした。LIPUS を照射する 6 つのトランスデューサーの 5mm 上方に 6 ウェルプレートの各ウェルが配置されるように設置した。実際に照射されている超音波はハイドロフォンとパワーメーターを用いて計測し、適切な強度の超音波が水層を介して各ウェルに正しく伝達されていることを確認した。LIPUS 群のみに毎日 20 分間 LIPUS を照射した。

細胞増殖能
1 ウェルあたり合計 3.3×104 の RIA 由来細胞を 6 ウェルプレートに 4 日間播種した後、 LIPUS 群にのみLIPUS を 2、4、および 7 日間施行し、細胞数を両群間で比較した。結果は、それぞれのタイムポイントでの対照群に対する割合で表示した。。

アルカリフォスファターゼ活性
介入 7 日目と 14 日目に、細胞のアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を測定した。ALP 活性の値は、7 日目の対照群を基準とする割合で表示した。

骨形成遺伝子発現
介入開始前と開始後 3、7、10、および 14 日目に各培養細胞から RNA を抽出し、real- time reverse transcriptase–polymerase chain reaction (RT–PCR) 法を用いてALP、Runx2、 OSX、OC、ATF4 の発現を LIPUS 照射群と対照群とで比較した。遺伝子発現はΔΔCT 法を用いて定量化した。

石灰化評価
アリザリンレッド S 染色を用い、介入から 21 日目に両群の石灰化評価を行った。染色結果を分光光度計によって定量化し両群間で比較した。

統計解析
各測定項目の群間比較について、Mann-Whitney U 検定を用い統計学的に解析した。すべてのデータは、平均±標準誤差として記載した。

【結果】
細胞増殖能
得られた細胞は紡錘形、線維芽細胞様であり、プレート接着性を認めた。各タイムポイントでの対照群と比較したLIPUS 群の細胞数は、2、4、および 7 日目でそれぞれ 106.2%±6.4%、 107.6%±10.1%、および 103.7%±11.4%であり、各タイムポイントで両群間に有意差は認めなかった。

アルカリフォスファターゼ活性
介入 7 日目および 14 日目での対照群のALP 活性はそれぞれ 100%、120.1±7.8%、7 日目および 14 日目の LIPUS 群では、113.4%±5.8%、156.2%±9.9%であった。 いずれのタイムポイントにおいても LIPUS 群の ALP 活性は対照群と比較して有意に高値であった。

骨形成遺伝子発現
ALP の遺伝子発現量は、介入 3、7、10、および 14 日目に LIPUS 群が有意に高値であった。また Runx2 の遺伝子発現量は 10 日目と 14 日目で LIPUS 群が有意に高値だった。OSX、 OC、および ATF4 の遺伝子発現量はすべてのタイムポイントで両群間に有意差を認めなかった。

石灰化評価
介入 21 日目のアリザリンレッド S 染色を用いた評価では、LIPUS 群は対照群と比較して 135.2%±5.9%と有意に石灰化が進行していた。

【考察】
今回の研究で、in vitro において LIPUS が RIA 由来細胞の骨形成活性と骨分化を促進することが示唆された。RIA システムでの大腿骨掘削によって採取された組織には、腸骨から採取された骨組織よりも多くの間葉系幹細胞と骨形成タンパク質が含まれ、血管内皮成長因子の発現亢進を認めたと報告されている。また、LIPUS が間葉系幹細胞を含むさまざまな細胞の分化を促進することが示されている。

本研究では、RIA 由来細胞へ LIPUS を照射することで、対照群と比較して 7 日目と 14日目に高いALP 活性を認めた。また 3、7、10、および 14 日目の ALP の遺伝子発現量と 10、14日目の Runx2 の遺伝子発現量は有意に増加し、21 日目の RIA 由来細胞の細胞外マトリックスの石灰化を有意に促進させた。しかしながら、LIPUS 群と対照群の間でRIA 由来細胞の増殖能に有意差は認めておらず、LIPUS が細胞増殖能には影響を与えないことを示唆する結果であった。過去の報告において、LIPUS 照射がヒト間葉系幹細胞、ヒト骨折血腫由来細胞、ラット大腿骨骨折細胞の増殖能には影響を与えず骨分化能に影響を与えることが明らかとなっており、我々の今回の結果はそれと大きく矛盾しないものであった。生体内での RIA を用いた自家骨移植に対する LIPUS の効果を調査するには、in vivo でのさらなる実験が必要と考える。

本研究の結果は、重要な臨床的意義を持つと考える。偽関節または広範囲骨欠損を治療するために RIA による骨移植術を施行した患者では、癒合率は平均 82.1%、骨癒合までの期間は平均 25.8 週間であり、それらの結果は腸骨骨移植術と同等であったとする報告がある。今回の研究結果から、RIA によって採取した骨を移植した部位に LIPUS を照射することで、癒合率と癒合までの時間が改善する可能性があると考える。

【結語】
本研究は、RIA により得られた細胞へLIPUS 照射を行うことにより、骨形成能、骨分化能が有意に増強することを示した初めての研究である。ただし、細胞増殖能には変化を認めなかったことから、LIPUS 照射は細胞増殖には影響を与えず分化のみに影響を及ぼしたと考えられる。今回の結果から RIA を使用した骨移植術において、LIPUS 照射の併用が骨再生を促進する重要なツールとなる可能性が示唆された。

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