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大学・研究所にある論文を検索できる 「多発性筋炎および皮膚筋炎の潜在的なバイオマーカーとしての循環する細胞外小胞上のplexin D1の同定」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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多発性筋炎および皮膚筋炎の潜在的なバイオマーカーとしての循環する細胞外小胞上のplexin D1の同定

生戸, 健一 神戸大学

2022.02.16

概要

【背景】
多発性筋炎と皮膚筋炎(PM/DM)は、筋肉、肺、皮膚など様々な臓器の慢性炎症を特徴とする全身性の自己免疫疾患である。近年、筋炎特異的自己抗体が PM/DM を含む炎症性筋疾患の診断マーカーに有用であるという報告が相次いでいるが、難治性の PM/DM の疾患活動性、予後予測や治療反応性を反映する特異的なバイオマーカーに乏しいことが問題となっている。エクソソームやマイクロベシクルを含む細胞外小胞(EV)は、ほとんどすべての細胞から放出される小さな膜小胞で、血液や尿などの体液中に存在する。血中を循環する EV の内包物(miRNA、mRNA やタンパク質)や EV 表面上の膜タンパク質は細胞の由来や機能を反映するため、特異的な分子は様々な疾患の新たなバイオマーカーとして注目されている。近年、エクソソームなどの EV 表面上の膜タンパク質は病態に応じて変化し、悪性腫瘍の診断や予後のための非侵襲的なバイオマーカーとして有用であることが示唆されている。しかしながら、EV 表面上の疾患特異的な膜タンパク質を自己免疫疾患領域のバイオマーカーへ応用した報告は多くはない。

【目的】
本研究では、PM/DM の新たな血清バイオマーカーとして EV 表面上の疾患特異的な膜タンパク質を同定することを目的とした。

【方法】
神戸大学医学部附属病院膠原病リウマチ内科に通院加療中で診断が確定した自己免疫疾患患者 144 例、神戸大学医学部附属病院小児科に通院加療中で診断が確定したデュシャンヌ型およびベッカー型筋ジストロフィー(DMD/BMD)患者 25 例および健常人 46 例を対象とし、インフォームドコンセントあるいはオプトアウトにより同意を得た上で血清を収集した。PM/DM 患者の臨床症状(皮疹、間質性肺炎、筋痛、筋力低下、嚥下障害、悪性腫瘍)や臨床検査値などの診療情報は電子カルテより収集した。本研究は、神戸大学医学部附属病院の倫理委員会の承認を得た上で実施した(承認番号 B200020 および B200021)。
最初に、PM/DM の血清バイオマーカー候補のスクリーニングとして、PM/DM 患者 10 例、他の自己免疫疾患患者 23 例(関節リウマチ(RA) 18 例、全身性エリテマトーデス(SLE)5 例)、健常人 10 例の血清からサイズ排除クロマトグラフィーにより EV を単離し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析計(LC/MS)により血清 EV 中の全タンパク質の網羅的解析を行った。バイオインフォマティクス解析と統計解析により、PM/DM 患者の血清 EV 中で発現量が高い膜タンパク質を可視化し、WB およびサンドイッチ ELISA により血清 EV 中の発現を確認できた膜タンパク質を PM/DM の血清バイオマーカー候補として同定した。
次に、PM/DM の血清バイオマーカー候補の検証試験として、エクソソーム表面マーカー(CD9、CD63、CD81)に対する固相化抗体、候補分子に対する検出抗体を用いたサンドイッチ ELISA を用いて、血清 10 L 量から EV 表面上の疾患特異的な膜タンパク質を定量的に検出可能な測定系を構築した。構築した測定系により、PM/DM 患者 54 例、対照疾患患者 82例(RA 24 例、SLE 20 例、全身性強皮症 13 例、DMD/BMD 25 例)、健常人 36 例における発現量を定量的に検出し、各種疾患、PM/DM のサブタイプや臨床症状の有無による発現量の差異、各種臨床検査値との相関性、PM/DM の治療前後における発現量の推移を評価することで、臨床的有用性を検討した。

【結果】
LC/MS 解析によって PM/DM 患者、他の自己免疫疾患患者および健常人の血清 EV から合計 1,220 種類のタンパク質が検出された。この 1,220 個のタンパク質について、DAVID による遺伝子オントロジー解析とタンパク質データベース(UniProtKB/Swiss-prot)を組み合わせたボルケーノプロットを用いて、PM/DM 患者の血清 EV で発現量が高い膜タンパク質を可視化した。その結果、PM/DM 患者の血清 EV で発現量が高い膜タンパク質として、Cytochrome b-245 heavy chain、ICAM5、Neogenin、plexin D1、SLC1A2 の 5 個の膜タンパク質が抽出された。これらのうち、種々の免疫細胞での発現だけでなく若年性皮膚筋炎患者の筋組織での発現が報告されている plexin D1 を PM/DM 患者の血清バイオマーカー候補としてさらに検討した。実際の LC/MS 解析データから、健常人や他の自己免疫疾患患者と比べて、PM/DM 患者の血清 EV 中には plexin D1 が豊富に含まれていることを確認した。さらに、サイズ排除クロマトグラフィーによって単離した PM/DM 患者の血清 EV 分画における plexin D1 の発現を WB およびサンドイッチ ELISA でも確認することができたため、plexin D1 を膜表面上に発現する EV(plexin D1 陽性 EV)を PM/DM の新たな血清バイオマーカー候補として同定した。
血清中の plexin D1 陽性 EV を検出可能な測定系を検討したところ、固相化抗体に抗 CD9抗体、検出抗体に抗 plexin D1 抗体を用いたサンドイッチ ELISA が条件として最適であり、EV の単離が不要で血清中の plexin D1 陽性 EV を Index 値として定量的に直接検出できる測定系を構築した。
構築した測定系を用いて、健常人および各種疾患患者の血清中の plexin D1 陽性 EV を定量的に検出したところ、健常人や RA、SLE などの他の自己免疫疾患患者だけでなく、非炎症性の筋疾患である DMD/BMD 患者と比べても、PM/DM 患者ではその発現量が有意に高かった。PM/DM の病型別あるいは筋炎特異的自己抗体別のサブタイプにおける発現量に差はなかったものの、臨床症状のうち筋痛あるいは筋力低下を有する PM/DM 患者では plexin D1陽性 EV の発現量が有意に高かった。また、PM/DM 患者における plexin D1 陽性 EV の発現量は各種臨床検査値のうち、アルドラーゼ、白血球数、好中球数や血小板数と有意な相関関係を認めたが、他の自己免疫疾患患者や DMD/BMD 患者ではその傾向はみられなかった。さらに、未治療の PM/DM 患者 24 例を対象に plexin D1 陽性 EV の治療前後における発現量の推移を評価したところ、治療により臨床的に寛解した PM/DM 患者 21 例では plexin D1 陽性EV の発現量が治療後に有意に減少していたが、寛解に至らなかった PM/DM 患者 3 例のうち 2 例では増加する傾向にあった。

【考察】
本研究で我々は、PM/DM 患者の血清 EV の網羅的なプロテオミクス解析を行い、血清 EVに含まれる疾患特異的な膜タンパク質を同定したことを初めて報告した。今回、網羅的なプロテオミクス解析により血清 EV 中の plexin D1 を PM/DM の新たな血清バイオマーカー候補として同定した。plexin D1 は複数のセマフォリンリガンドに対する膜貫通型受容体である。最近の研究から plexin D1 が様々な免疫反応を制御していることが明らかになっているが、PM/DM を含む自己免疫疾患の病態に plexin D1 陽性 EV が関与しているという報告はなされていない。
我々が構築した測定系を用いた検証試験から、血清中の plexin D1 陽性 EV の発現量は筋炎の最も一般的な症状である筋痛や筋力低下を有する PM/DM 患者で有意に高いことが明らかとなった。さらに、臨床的に寛解を得られた患者では治療後にその発現量が有意に低下していることから、plexin D1 陽性 EV は PM/DM の病態の変化を反映している可能性が示唆された。一方、DMD/BMD 患者の発現量は健常人と同等であったことから、血清中の plexin D1陽性 EV は単なる筋肉の破壊を反映したものではなく、筋組織に由来するものではないことが示唆された。plexin D1 陽性 EV の由来や機能は現時点では不明な点が多く、今後の更なる研究が必要である。
PM/DM 患者における血清中の plexin D1 陽性 EV の発現量と筋酵素のアルドラーゼに有意な相関関係が認められた一方で、同じく筋酵素のクレアチンキナーゼ(CK)には相関関係がみられなかった理由は明らかではない。CK とアルドラーゼはともに損傷した骨格筋に由来する酵素であるが、一部の筋炎や好酸球性筋膜炎の患者の中には、CK は正常だがアルドラーゼの値が高い患者も存在する。我々の結果は、MRI 検査を受けた PM/DM 患者において、血清中の plexin D1 陽性 EV の発現量が筋膜炎と関連していないことも示しており、これらの変化とは異なるメカニズムであることを示唆している。一方、筋損傷・修復モデルマウスや筋炎患者の筋組織中の初期再生筋細胞にアルドラーゼが高発現しており、血清中のアルドラーゼは筋炎患者の損傷した初期再生筋細胞の潜在的なバイオマーカーと報告されている。さらに、他の研究では、筋炎患者の筋組織中の再生筋細胞がいくつかの自己抗原を高発現していることが報告されており、炎症性筋疾患の病態には病原性免疫細胞や自己抗体を介した自己免疫機序の関与が示されている。本研究結果と先行研究の結果を合わせると、血清 plexin D1 陽性 EV は、PM/DM を含む炎症性筋疾患の潜在的なバイオマーカーとなりうる可能性が示唆された。

【結語】
PM/DM の新しいタイプの血清バイオマーカーとして循環する plexin D1 陽性 EV を同定した。plexin D1 陽性 EV の由来や機能を解明するためにはさらなる研究が必要であるが、我々の結果は plexin D1 陽性 EV が筋肉の障害など PM/DM の病態形成に関与している可能性を示唆している。

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