ヒトiPS細胞を用いた筋萎縮性側索硬化症の病態研究 (第137回成医会総会一般演題)
概要
【目的】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンが障害され,四肢筋力低下,嚥下障害,呼吸障害などが進行する予後不良な疾患である.原因不明で根本的な治療法は解明されていない.原因不明の変性疾患を解明する突破口として,孤発例と同じ病理変化を呈する家族例からの原因遺伝子の同定,中枢神経に蓄積するタンパク質の同定が重要である.近年,ALS の神経細胞内封入体構成タンパク質としてTDP-43が同定され,TDP-43の機能異常が運動ニューロン死を引き起こすと考えられている.また,運動ニューロンだけではなく感覚ニューロンにも変性をきたしている可能性が報告されている.本研究では,TDP-43変異iPS細胞を作成し,運動,感覚ニューロンを分化誘導し,薬剤スクリーニングを可能とする疾患モデルニューロンの作成を行う.
【方法】
CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを利用し,遺伝子変異を含まないヒトiPS 細胞株(健常群),既知のALS 遺伝子変異を導入したヒトiPS 細胞株(A382T 群)を樹立した.樹立したiPS 細胞を運動,感覚ニューロンへ分化させ,2 ヵ月間培養を行った.免疫染色でニューロン陽性率,TDP-43,リン酸化TDP-43の分布を評価した.また,培養細胞から抽出したRNA を用いてRT-PCR を行いTDP-43のスプライシング機能を評価した.
【結果】
健常群とA382T 群でTDP-43は核内に局在していた.両群でリン酸化TDP-43は核内に顆粒状に観察され,感覚ニューロンに比べ運動ニューロンでより多くみられる傾向にあった.両群で運動ニューロン,感覚ニューロン陽性率に有意差はみられなかった.TDP-43のスプライシング機能に関しては,iPS 細胞,運動ニューロンの神経幹細胞であるニューロスフェアで評価したところ,両群に異常はみられなかった.(今後ニューロンで評価予定.)
【結論】
現時点での評価としては,2 ヵ月間の培養では両群で明らかな有意差はみられなかった.これは,ALS が発症までに長い年月を要することを反映している可能性があり,培養ニューロンにストレス負荷を行い,進行を促進したモデル作成が必要であると考えた.