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大学・研究所にある論文を検索できる 「大建中湯におけるGC-MS/MSを用いた残留農薬分析法の開発およびバリデーション」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大建中湯におけるGC-MS/MSを用いた残留農薬分析法の開発およびバリデーション

Saegusa, Hirokazu 神戸大学

2021.03.25

概要

大建中湯エキス顆粒(DKT)は、人参(Ginseng)、乾姜(Ginger)、山椒(Japanese pepper)の3つの薬用植物を原料とした植物薬であり、腹部膨満感、腹痛および便秘などの下腹部の諸症状の改善に使用されてきており、日本において最も多く用いられている漢方製剤の一つである。近年、DKTのヒトでの消化器症状$関する臨床研究結果が数多く報告され、また、消化管機能亢進といった作用機序も明らかとされており1、今後医療の現場で幅広く用いられることが期待されている。このように植物薬の有用性が明らかとなり、利用が拡大する一方で、薬用植物および薬用植物を原料とした薬剤の安全性担保がより強く求められてきている。

 薬用植物は天産物であるため、生産の過程で重金属、有害元素、マイコトキシン、農薬などの、自然由来あるいは人為的な様々な物質によって汚染され、安全を脅かす可能性を否定できない。しかし、殺菌剤や殺虫剤などの農薬は、薬用植物に限らず農作物の栽培に広く用いられており、安定した量と質の薬用植物を供給するためには必要不可欠である。その一方で、栽培に使用した農薬が収穫後にも消失せずに残ってしまう、いわゆる残留農薬による汚染が問題となる。

 WHOは植物薬の安全性についてのガイダンスにおいて、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)を参照し、比較的長期に残留してしまう有機リン系および有機塩素系農薬を主とした残留農薬分析を推奨している。

 USPおよびEPにおいては、70項目の残留農薬基準値が設定されており、栽培時において農薬使用に関する完璧な履歴がない限りは、これら70項目の残留農薬管理を必要としている。したがって、薬用植物を原料とした植物薬の残留農薬管理においては、USPおよびEPに準拠し残留農薬分析を実施し、安全性を保証することが極めて重要だと考えられる。

 USPおよびEPが設定する70項目は、一部は農薬本体だけでなく代謝物や異性体を含んでおり、分析すべき対象は107化合物である。また、USPには分析法バリデーションの方法が示されており、分析方法をUSPに示された方法および基準に従って評価することが求められている。これら107化合物を全て定量分析するためには、ガスクロマトグラフ・三連四重極型質量分析計(GC-MS/MS)および液体クロマトグラフ-三連四重極型質量分析計(LC-MS/MS)による一斉分析、または個別に分析法を構築する必要がある。特に、107化合物の多くは極性が低く気化し易いため、GC-MS/MSを用いた残留農薬分析法開発が望まれている。

 これまで、多種多様な植物由来成分を含む植物薬について、比較的長期に残留してしまう有機リン系農薬と有機塩素系農薬の残留農薬管理は安全保障の観点から重要であるにもかかわらず、USPに適合するバリデーションを行い、正確な定量可能な残留農薬分析方法を開発した報告は少ない。本研究は、植物薬の代表として日本において最も多く用いられているDKTを題材として用い、USPおよびEPに設定された107化合物の中から、GC-MS/MSによる定量分析が可能と判断した91化合物に着目し、前処理力ラムの選定、およびUSPに従ったGC-MS/MS残留農薬分析方法の開発およびバリデーションを実施した。

 残留農薬分析法の開発においては、試料に応じた前処理を行い、試料由来の妨害成分を除去し、分析することが肝要である。特にGC-MS/MSを用いた分析においては、試料由来の妨害成分が影響し、正確な分析値が得られない事象が報告されている。本研究では、髙極性物質の除去を目的として順相カラム処理を行うため、DSC-NH2. Mega Bond Elut PSA、DSC-Siを精製カラムの候補として挙げた。まずは、それぞれの順相カラム精製工程における農薬の溶出パターンを確認するため、農薬標準溶液を順相カラムに添加し、酢酸エチルによる各農薬の回収率を求めた。DSC-NH2カラムにおいては、回収率が80%を下回った農薬は無かった。Mega Bond Elut PSAカラムにおいては2農薬、DSC-Siカラムにおいては4農薬が80%を下回った。次に、候補としたカラムによる試料由来の妨害成分の除去性能を評価した。精製カラムを用いない場合、DSC-NH2カラムを用いる場合、Mega Bond Elut PSAカラムを用いる場合およびDSC-Siカラムを用いる場合で、分析機器に影響を与えることなく正確な分析値が得られるかどうか、添加回収試験にて評価した。DSC-NH2カラムが、最も多くの農薬種を精製することができ、且つ添加回収試験結果が良好であったことから、精製カラムとして適していると結論した。

 ここまでの検討により、DSC-NH2カラムを用いた前処理方法を採用し、USPの評価基準に基づき分析法バリデーションを実施した。直線性、真度、精度、保持時間、定量限界について実施し、91化合物中、88化合物がUSPのバリデーション要件をクリアした。なお、バリデーション要件を満たさなかった3化合物は真度が基準を下回っており、正確な分析値が得られない可能性が示唆された。

 本研究では、多くの植物由来成分を含むDKTにおいて、USPに収載された107化合物のうち91化合物の分析法開発に取り組み、88化合物についてUSPに基づく定量性能を有した一斉分析方法であることを証明した。本研究にて開発したGC-MS/MS分析方法は、分析に悪影響を及ぼす植物由来の妨害成分を効率的に除去できるため実用性が高く、DKT以外の他の植物薬にも応用できることが期待される。今後、本研究にて導き出したGC-MS/MSによる分析方法に加え、別途LC-MS/MSを用いた残留農薬分析方法を開発することで、より高度なレベルで安全が保証できる検査が可能となる。植物薬における残留農薬管理レベルの向上が促進され、今後より一層の植物薬の発展に貢献できる。

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