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大学・研究所にある論文を検索できる 「マウスモデルにおけるエイコサペンタエン酸含有ゼラチンハイドロゲルの変形性関節症進行に対する効果の検証」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

マウスモデルにおけるエイコサペンタエン酸含有ゼラチンハイドロゲルの変形性関節症進行に対する効果の検証

Tsubosaka, Masanori 神戸大学

2020.09.25

概要

【目的】
エイコサペンタエン酸(EPA)は、オメガ 3 多価不飽和脂肪酸の一種であり、魚油食品、ニシン、サバ、イワシなどから得られる広義の必須脂肪酸である。整形外科分野においても EPA の効果についての研究がされており、EPA は軟骨細胞において IL-1α 由来の炎症性サイトカイン、MMP 等の発現を抑制するといった報告や、オメガ 3 多価不飽和脂肪酸を多く含む食品を摂取することで、変形性膝関節症の進行を予防したという報告がされている。また、我々は過去の研究でマウスの変形性関節症モデルにおいて、EPA が酸化ストレスにより生じる軟骨細胞のアポトーシス、変形性関節症を抑制することを報告しているが、そのためには毎週の EPA の関節内注射が必要であった。一方、ゼラチンハイドロゲルは、生体内において生物活性をもつ細胞増殖性タンパク質、および遺伝子などの徐放を可能とするドラッグデリバリーシステムであり、整形外科分野においてもゼラチンハイドロゲルの優れた効果が報告されている。

そこで本研究の目的は、EPA 含有ゼラチンハイドロゲルの変形性関節症進行に対する効果を検証することとした。

【方法】
EPA 含有ゼラチンハイドロゲルの作製方法
乳酸オリゴマーグラフト化ゼラチンによる EPA の水可溶化を行い、EPA ミセルを作製し、グルタルアルデヒドによりゼラチン分子を化学架橋させ、水可溶化した EPA ミセルを含有したゼラチンハイドロゲルを作製した。

In Vivo
8 週齢の C57BL/6J マウスを用いた。右膝関節に Sham 手術、もしくはマウスの変形性膝関節症モデルを作成する際の destabilization of medial meniscus(DMM)手術を行い、Sham 群、DMM 群、DMM 手術後に EPA の単回関節内注射を行った EPA-I 群、DMM 手術後に EPA 含有ゼラチンハイドロゲルを関節内に留置した EPA-G 群を作成した。

評価項目として、まず EPA 含有ゼラチンハイドロゲルの徐放化試験を行った。ゼラチンハイドロゲルを関節内に留置後 1, 3, 7, 14, 21, 28 日で回収し、高速液体クロマトグラフィーを用いて徐放量を計算した。次に組織学的評価として Safranin-O 染色、HE 染色を行い osteoarthritis research society international (OARSI) score を用いて評価を行った。また免疫組織学的評価として MMP-3, MMP-13, IL-1β, p-IKKα/β, F4/80, CD86, CD163 の免疫染色を行い、Positive cell ratio, F4/80 score を用いて評価を行った。組織学的評価、免疫組織学的評価には Sham 手術、もしくは DMM 手術後 1 週、8 週で回収した組織を用いた。

In Vitro
6 well プレートに正常ヒト膝軟骨細胞(NHAC-kn)を 3.0×105 個ずつ播種し、24 時間培養させた。まず異なる時間(刺激なし、5 分、10 分、15 分、30 分、60 分)の IL-1β 刺激を行い、タンパクの回収を行い、Western blotting で p-IKKα/β の発現を比較した。次に培養した NHACkn に、先の実験で p-IKKα/β の発現が最も強かった時間の IL-1β 刺激を加え、EPA の共培養の有無でタンパクの回収を行い、Western blotting で p-IKKα/β の発現を比較した。また、培養した NHAC-kn に 24 時間の IL-1β 刺激を加え、EPA の共培養の有無、さらには濃度の異なる EPA の共培養によって得られたタンパクの回収を行い、Western blotting で MMP-13 の発現を比較した。

【結果】
EPA 含有ゼラチンハイドロゲルの徐放化試験
EPA 含有ゼラチンハイドロゲルを関節内に留置後 1, 3, 7, 14, 21, 28 日における平均の徐放率は、それぞれ 20.2%, 44.3%, 51.2%, 60.2%, 73.7%, 92.5%であり、約 4 週間程度でマウスの生体内において EPA が完全に徐放されていることが確認できた。

組織学的評価
Safranin-O 染色
術後 1 週における Sham 群、DMM 群、EPA-I 群、EPA-G 群の平均 OARSI score は各々0.42, 1.3, 0.67, 0.75 であり EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかった。術後 8 週における Sham 群、DMM 群、EPA-I 群、EPA-G 群の平均 OARSI score は各々0.96, 3.2, 2.4, 1.2 であり EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、有意な変形性関節症の進行の抑制が確認できた。

HE 染色
術後 1 週における Sham 群、DMM 群、EPA-I 群、EPA-G 群の平均 Synovitis score は各々0.83, 5.7, 2.3, 2.2 であり EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかった。術後 8 週における Sham 群、DMM 群、EPA-I 群、EPA-G 群の平均 Synovitis score は各々1.5, 4.0, 3.8, 1.8 であり EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、有意に滑膜での炎症抑制が確認できた。

免疫組織学的評価
MMP-3 については、術後 1 週においては EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかったが、術後 8 週においては EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、MMP-3 の発現が有意に抑制された。また MMP-13 においても、術後 1 週においては EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかったが、術後 8 週においては EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、MMP-13 の発現が有意に抑制された。IL1-β に関しては、術後 1 週においては EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかったが、術後 8 週においては EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、IL-1β の発現が有意に抑制された。p-IKKα/β に関しても、術後 1 週においては EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかったが、術後 8 週においては EPAG 群で EPA-I 群に比べ、IL-1β の発現が有意に抑制された。F4/80 に関しては、術後 1 週においては EPA-I 群と EPA-G 群で有意差を認めなかったが、術後 8 週においては EPA-G 群で EPA-I 群に比べ、F4/80 の発現が有意に抑制された。M1 マーカーである CD86 に関しては、術後 1 週、8 週ともにEPA-I 群とEPA-G 群で発現に有意差を認めなかった。また、M2 マーカーであるCD163に関しても、術後 1 週、8 週ともに EPA-I 群と EPA-G 群で発現に有意差を認めなかった。

Western blotting
時間の異なる IL-1β 刺激に対する、p-IKKα/β の発現については、IL-1β 刺激を 15 分行った際に、最も p-IKKα/β の発現を認めた。そこで最も p-IKKα/β の発現が増強した、IL-1β を 15 分刺激した NHAC-kn に EPA の共培養の有無で p-IKKα/β の発現を確認したところ、EPA の共培養を行った群で p-IKKα/β の発現が有意に抑制された。また、IL-1β を 24 時間刺激した NHAC-kn に EPA の共培養の有無、さらには濃度の異なる EPA での共培養を行った際の MMP-13 の発現を確認したところ、EPA の濃度依存性に MMP-13 の発現が抑制された。

【考察】
ゼラチンハイドロゲルに含有されたドラッグの徐放期間は、ハイドロゲルの分解吸収期間のみに制御される。過去の報告によるとシンバスタチン含有ゼラチンハイドロゲルの徐放期間は約 2 日間であり、G-CSF 含有ゼラチンハイドロゲルの徐放期間は約 4 週間と報告されている。本研究における、EPA 含有ハイドロゼラチンゲルにおいては約 4 週間という徐放期間を得られた。変形性関節症に対するゼラチンハイドロゲルの応用について、ラパマイシン含有ゼラチンハイドロゲルは、関節内へのラパマイシン単回注射群に比べて有意に変形性膝関節症の進行を抑制したと報告されている。しかし、この研究におけるラパマイシン含有ゼラチンハイドロゲルの徐放期間は約 2 日間であった。我々の研究では、EPA 含有ゼラチンハイドロゲルは約 4 週間にわたり EPA の徐放を認め、関節内単回注射群と比較し、より効果的に変形性関節症の進行を予防したと考えられた。

EPA の変形性関節症進行抑制の機序については、炎症のメカニズムとして IL-1β の発現が NF-κB 経路を活性化させ、MMP-3、MMP-13 といったサイトカインを放出し、その結果として関節破壊が起こると考えられているが、EPA は IL-1β の発現を抑制することで、NF-κB 経路の活性化を抑制し、結果として関節破壊を抑制していると考えられた。

【結語】
EPA 含有ゼラチンハイドロゲルの変形性関節症進行に対する効果を検証した。変形性関節症の予防・治療に有効であるとされる EPA について、ゼラチンハイドロゲルを作成・使用することで、変形性関節症進行のより高い抑制効果を得られる可能性が示唆された。

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