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大学・研究所にある論文を検索できる 「SIRT1活性化薬剤SRT2104投与によるマウスの変形性膝関節症抑制効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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SIRT1活性化薬剤SRT2104投与によるマウスの変形性膝関節症抑制効果

Miyaji, Nobuaki 神戸大学

2020.03.25

概要

【目的】
変形性関節症 (osteoarthritis; OA) は関節軟骨の糜爛、軟骨下骨の硬化、滑膜炎を伴う関節内の限局的な炎症によって特徴付けられ、最も一般的なヒトの関節疾患で、不可逆的な関節変形や痛み・機能不全へと進行していく。OA の病態には遺伝的要因や物理的負荷、軟骨基質分解酵素やアポトーシスの増加や炎症性変化などの組成的な変化など様々な要因が複雑に関与していると考えられている。OAの進行と構造変化を抑制する根本的な治療薬はなく、対症療法を主体としているのが現状であり、新たな治療法の確立が望まれる分野である。

ヒストン脱アセチル化酵素である SIRT1 は、遺伝子の発現やタンパク質の機能を調節している。これまで我々は、in vitro で、SIRT1 が軟骨細胞においてアポトーシスを抑制すること、SIRT1 は軟骨細胞内の OA 関連遺伝子発現を抑制していること、in vivo では軟骨細胞特異的 SIRT1 コンディショナルノックアウトマウスは OA 進行が加速すること、SIRT1 活性化薬剤の SRT1720 をマウスに腹腔内投与することで OA 進行を抑制することを報告してきた。すなわち、SIRT1 は軟骨細胞に保護的な作用をすることで OA進行に抑制的に働き、SIRT1 の過剰発現や SIRT1 投与が OA の新たな治療法になり得ることが示唆される。しかしながら、in vivo においてヒトにも使用可能な SIRT1 活性化薬剤や膝関節腔内投与による OA 進行の抑制効果については十分に調べられていない。そこで本研究の目的は、SIRT1 活性化薬剤でヒトにも投与可能な SRT2104 をマウスに腹腔内投与および膝関節腔内投与し、OA 進行抑制効果を調査することである。

【方法】
SIRT2104(分子量 516.64)を Shanghai Haoyuan Chemexpress 社(Shanghai, China)より購入。まず、生後 7 日のマウスの大腿骨遠位部・脛骨近位部の骨端軟骨を採取し、24 時間培養後に SRT2104 (0, 0.1, 0.5, 1.0, 5.0, 10, or 100 μM, n = 4)を投与し、さらに 24 時間および 48 時間培養することでSRT2104 の細胞毒性を調査した。また、IL-1β (0.1 ng/ml)投与有無、SRT2104 (2.0 µM)投与有無の 4 群に分け、48 時間培養後にreal-time PCR を行い Sirt1, Col2a1, Col10a1, Mmp-3, Mmp-13, Aggrecan, Adamts-5 の発現を評価した。

次に、12 週齢の野生型マウス(C57/BL6J)の膝関節の内側半月板不安定化にて OA モデルを作製した。術後、週 2 回 SRT2104 腹腔内投与群(i.p.群;25 mg/kg, 0.2 ml, i.p.)、週 1 回 SRT2104 膝関節腔内投与群(i.a.群;17 ng/kg,10 μl, i.a.)、コントロール群(10% DMSO in isotonic saline, i.p.)の 3 群に分けた。術後 4、8、12、16 週で膝関節を採取し、4%パラホルムアルデヒドで固定した後にパラフィン切片を作成した(n = 5, for each time point/group)。各時点での Osteoarthritis Research Society International (OARSI)スコアを用いて OA の進行を評価した。また、免疫染色で Sirt1, type II collagen, MMP-13, ADAMTS-5, cleaved caspase 3, PARP p85, acetylated NF-κB p65, IL-1β, IL-6, iNOS (M1-like マクロファージマーカー), CD206 (M2-like マクロファージマーカー)の発現を調べた。

【結果】
SRT2104 の軟骨細胞に対する細胞毒性検査において、10 µM 以下の濃度では軟骨細胞は増殖していた。In vitro の予備実験では SIRT2104 2.0 µM が遺伝子発現変化の効果が強かったことりより in vitro の実験系においては SRT2104 の投与濃度は 2.0 µM とした。また、in vivo での実験系では投与による副作用も考慮し、関節腔内投与は 1.0 µM で行うこととした。Real-time PCR による解析では IL-1β 投与により Mmp-3, Mmp-13 は増加したが、SRT2014 投与により発現増加は抑制された。反対に Col2a1, Aggrecan は IL-1β 投与で減少したが SRT2104 投与で発現減少は緩和された。

In vivo における SRT2104 の OA に対する治療効果を検討した実験系では、マウスの体重は各時点において SRT2104 i.p.群とSRT2104 i.a.群間に有意差は認めなかったが、コントロール群は術後 12 週では SRT2104 i.a.群よりも、術後 16 週では SRT2104 i.p.群よりも有意に重かった。OARSI スコアは術後 4, 16 週では 3 群間に有意差を認めなかったが、術後 8, 12週では SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群は有意に低値で OA 進行抑制を認めた。Sirt1 陽性細胞の割合は、3 群とも OA の進行に伴い経時的に減少したが、術後 8, 12, 16 週では SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群がコントロール群に比べて有意に高値であった。術後 8 週における type II collagen 陽性細胞の割合は SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群が有意に高値であったが、MMP- 13, ADAMTS-5, cleaved caspase 3, PARP p85, acetylated NF-κB p65, IL-1β, IL-6, iNOS 陽性細胞の割合はコントロール群に比べ SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群が有意に低値であった。滑膜における炎症性サイトカインとマクロファージの表現型についても調べたが、IL-1β とiNOS陽性細胞はコントロール群で多く、CD206 陽性細胞は SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群で多く発現していた。いずれも SRT2104 i.p.群・SRT2104 i.a.群間には有意差を認めなかった。

【考察】
本研究では、マウス OA モデルにおいて、ヒトにも使用可能な SIRT1 活性化薬剤 SRT2104 の腹腔内投与および膝関節腔内投与により OA 進行が抑制されることを認めた。また、この OA 進行抑制は、関節軟骨での Sirt1, type II collagen の発現増加、軟骨基質分解酵素であるMMP-13, ADAMTS-5 の発現低下、アポトーシスマーカーであるcleaved caspase 3, PARP p85 の発現低下、NF-κB 経路の調節、炎症性サイトカインの抑制、M1- like マクロファージから M2-like マクロファージへの分極化を伴っていた。

SIRT1 は長寿因子として知られ、その活性化薬剤でヒトにも使用可能な SRT2104 は分子レベルにおいて抗炎症効果・抗凝固効果・破骨細胞形成抑制効果の報告があり、マウスでは寿命の延長、ヒトでは動脈硬化抑制・運動機能改善等が報告されている。我々の先行研究ではSIRT1 活性化薬剤のSRT1720 腹腔内投与でOA 進行抑制を報告したが、 SRT2104 は 20 倍以上細胞毒性が低い薬剤である。

SRT2104 は SIRT1 を活性化すると報告されているが、本研究では SRT2104 の投与により、術後 8, 12 週では SIRT1 の発現増加も認めた。SIRT1 の発現増加により type II collagen や aggrecan など軟骨基質の発現増加、軟骨細胞内でのアポトーシスの抑制、NF- κB p65 の脱アセチル化を介して軟骨細胞内で MMPs や ADAMTSs の発現を調整している NF-κB 経路の抑制などの報告がある。本研究では SRT2104 投与により、SIRT1 活性化および SIRT1 発現増加が OA 進行抑制に関与していることが示唆された。

炎症性サイトカインである IL-6 は OA 進行と関連することが報告されているが、本研究では SRT2104 投与群において関節軟骨中の IL-1β, IL-6 の発現が低下しており、OA進行抑制に関与した可能性が示唆された。

さらに SRT2104 の OA 抑制効果の機序を調べるために、本研究では滑膜中でのマクロファージの表現型を調べた。M1 マクロファージは炎症性サイトカインを分泌する一方、 M2 マクロファージは抗炎症効果を有するとされているが、過去の報告では M2 マクロファージ増加が OA の進行と関連することが報告されている。本研究では SRT2104 投与で M1 マクロファージへの分極化を抑制しており、OA 進行抑制に関与した可能性が示唆された。

本研究では、SRT2104 の投与量を先行研究でヒトへの安全性が確認された投与量と同等の体重当たりの投与量を腹腔内投与で使用した。一方、腹腔内投与と比べ、関節腔内投与では、1/1000 の投与量でかつ半分の投与回数で局所投与したが、腹腔内投与と同等の OA 進行抑制効果を得ることができた。このため、全身投与における副作用の可能性を考慮すると、臨床応用の観点からは、関節腔内投与が望ましいと考えられた。

【結論】
本研究では、マウス OA モデルにおいて SIRT1 活性化剤である SRT2104 の腹腔内投与および膝関節腔内投与により、OA 進行が抑制されることを報告した。腹腔内投与と関節腔内投与では同等の OA 進行抑制効果を得ることができた。本研究の結果からは、SRT2104 が OA に対する新たな治療法となり得ることが示唆された。

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