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大学・研究所にある論文を検索できる 「マイネルト基底核の抑制性体性感覚調節機構」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マイネルト基底核の抑制性体性感覚調節機構

出澤, 真乃介 筑波大学

2021.11.17

概要

【本研究の背景と目的】
 マイネルト基底核(NBM)は大脳皮質へ軸索投射しており、皮質へ放出されるアセチルコリン(ACh)の主たる放出元として知られる神経核である。NBMの機能的役割に関する研究は、その多くが認知機能との関連に着目して実施されてきた。多くの研究の蓄積により、NBMの機能不全は皮質におけるAChを減少させ、認知機能低下を生じさせることが明らかとなっている。パーキンソン病(PD)やアルツハイマー病(AD)は、認知機能障害を呈する疾患として知られており、これらの疾患においてはNBMの細胞数が顕著に減少していることが知られている。PDおよびADにおける認知機能低下は、共通してNBMの機能不全が原因であると考えられている。他方では、NBMの機能不全を引き起こすPDやAD患者では感覚過敏や痛みのような感覚異常を生じることが明らかとなっており、この症状も皮質AChの減少が原因である可能性が示唆されている。しかし、NBMの損傷そのものが、真に感覚異常を引き起こすかは明らかとなっていない問題である。
 大脳皮質におけるAChは神経活動を調節している。神経細胞レベルでは、AChが大脳皮質の神経活動を促進するか抑制するかは、細胞腫によって異なっており、非常に複雑に神経活動を調節している。したがって、AChの減少が集団としての大脳皮質の活動をどのように変化させるのかということを、皮質へ満遍なくAChを放出しているNBMと関連づけて考える必要がある。しかし、NBMと体性感覚機能の関連についての研究は少なく、また、いずれの研究においても、NBMの機能不全と体性感覚機能そのものとの関連については調査されていない。
 そこで、本研究では、NBMの機能不全と体性感覚機能との関連に着目し、「NBMの損傷が感覚異常を引き起こし、体性感覚皮質における異常な神経活動を引き起こす」という仮説を設定した。したがって本研究の目的は、この仮説を検証するために、1)NBM損傷が感覚異常行動を引き起こすか、2)体性感覚皮質の集団としての神経活動がどのように変化するのか、3)感覚過敏行動と神経活動またはNBM損傷との間には関連があるのか、の主に3点について調査し明らかにすることとした。

【方法】
 実験対象としてオスのWistar系ラットを用いた。本研究ではNBM損傷ラットを用いて、1)感覚過敏行動の評価、2)免疫組織化学によるNBM損傷の評価、3)一次体性感覚皮質(S1)における、体性感覚に誘発される局所細胞外電位記録(SEP)および膜電位イメージング(VSD)の主に3つの実験を実施し、それらの関連を分析した。NBM損傷は、ラットNBMに対して、ACh作動性神経を特異的に損傷させる免疫毒である、192IgGサポリンを、0.5μg/μLの濃度で、合計0.3μL注入することによって作成した。対照群にはNBMへ生理食塩水を、サポリン注入と同条件で注入した。
 感覚過敏行動は、対照群および損傷群の動物に対して、機械刺激に対する逃避行動閾値(機械閾値)を、生理食塩水またはサポリンの注入前および注入後2、4、6週時点で計測することによって評価した。機械閾値は電子フォンフレイ試験により、触覚刺激に対して逃避するまでに刺激装置に加わった最大重量(g)で評価した。また、全般的な運動機能の評価として、オープンフィールドテスト(OFT)を実施し、総移動距離と平均移動速度を求めた。
 NBM損傷の程度はコリンアセチル転移酵素(ChAT)染色を用いたChAT陽性細胞数の計測によって評価した。生理食塩水またはサポリンを注入した動物に対して、注入後2W、4W、6W後で細胞数計測を実施した。各個体で、非注入側に対する注入側の細胞数の割合を計算し、NBMの前方部、中央部、後方部の3切片の平均をNBM細胞残存率とした。NBM損傷程度と行動課題の成績との関連について相関分析を実施した。
 NBM損傷動物における神経活動の変化は、S1におけるSEPおよびVSDにより計測した。生理食塩水またはサポリンを注入した半球のS1にて、注入と反対側の前肢を刺激した際の神経応答を計測した。前肢刺激は、アイソレーターを用いて、前肢手部を生理食塩水に浸したガーゼで包んだ上で単パルスの電気刺激を加えることで与えた。SEP計測においては、前肢刺激強度を0.1–0.6mAとし、記録電極はS1の表面に接触させて計測した。計測したデータから最大応答振幅と応答潜時を算出し、対照群と損傷群で比較した。VSDイメージングにおいては、脳表を膜電位感受性色素RH-795で30分染色し、前肢刺激(0.4mA)に対する神経応答を蛍光変化で捉えた。計測したデータから最大活性領域と応答振幅を算出し、対照群と損傷群で比較した。さらに、皮質におけるAChの働きを確認するために、ナイーブラットを対象としてACh受容体拮抗薬を適用した際と、前肢刺激に先行してNBMをバーストパルス刺激した際のSEPを計測した。またVSDではNBM損傷動物に対して、ACh作動薬を適用した際の神経応答を計測した。行動課題の成績とS1の神経応答、およびS1神経応答とNBM損傷程度との関連を相関分析した。

【結果】
 対照群と損傷群の動物において機械閾値の経時変化を評価した(それぞれn=6)。損傷群の動物においては、注入半球と対側の前肢にて、サポリン注入前と比較して注入後2-6Wで機械閾値が有意に低下していた(p<0.05)。さらに対照群と比較して損傷群では、注入後2-6W時点で有意に低値を示した(p<0.001)。OFTによる総移動距離と平均移動速度には群間差を認めなかった。
 ChAT染色により、NBM損傷程度の経時変化を確認した(対照群n=9;損傷群n=9)。サポリン注入後2-6Wの時点で、対照群と比べて損傷群では有意にNBM細胞残存率が低下していた(p<0.001)。注入後2-6Wで時間経過による残存率の変化は認めなかった。機械閾値とNBM損傷程度との相関分析を実施した。その結果、機械閾値とNBM損傷程度との間には有意な負の相関を認めた(r=0.83; p<0.001)。
 NBM損傷動物に対して、体性感覚に誘発される神経応答の変化を計測するために、SEPおよびVSD計測を行った。SEP計測では、損傷群(n=6)において、対照群(n=5)と比較して、0.3–0.6mAの刺激強度に対する応答のピーク振幅が、有意に高値を示した(p<0.05)。両群とも、刺激強度の増加に伴ってピーク振幅が増大していたが、0.6mA刺激時のピーク振幅で各刺激強度のピーク振幅を標準化すると、その増大割合には群間差を認めなかった。ナイーブラットを対象に(n=6)、皮質へACh受容体拮抗薬を適用すると、NBM損傷と類似した、ピーク応答の増大を認めた(p<0.05)。さらに、前肢刺激に先行してNBMをバーストパルス刺激した際には、NBMへの刺激周波数が増加するほど、SEPは減弱した(n=4)。VSD計測では、損傷群の動物(n=6)において、対照群(n=5)と比較して、最大活性化領域と平均応答振幅が有意に高値を示した(それぞれp<0.05)。また、NBM損傷動物(n=2)に対して、皮質へACh作動薬を適用したところ、応答の最大活性化領域と平均応答振幅は低下した。機械閾値とS1におけるSEPのピーク振幅、またはVSDによる最大活性化領域との間にはそれぞれ有意な相関を認めた(SEP, r=-0.72; VSD, r=-0.73)。また、NBM損傷とSEPのピーク振幅との間に有意な相関を認めた(r=-0.72)。

【考察および結論】
 本研究は、NBM損傷ラットに対して、感覚過敏行動の評価およびS1における体性感覚誘発神経応答の計測を実施した。その結果、NBM損傷動物においては、機械閾値の低下を認め、機械閾値とNBM損傷との間に相関関係を認めた。これはNBM損傷が機械刺激に対する感覚過敏性を引き起こすことを示唆している。先行研究においては、強い疼痛を示す脳卒中後疼痛モデルラットにおいて、OFTによる総移動距離が低下することが知られている。本研究においては、OFTによる総移動距離が低下することなく感覚過敏性を生じた。したがって本研究における過敏性は、CPSPのような強い疼痛を示す状態とは異なる特性を有すると考えられる。また、S1における感覚神経応答はSEPとVSDのどちらにおいても、NBM損傷により過剰に増大しており、機械閾値とS1の神経応答との間には負の相関関係が認められた。さらに、感覚応答の異常な増大はACh受容体の阻害により再現され、NBMの活性化またはACh受容体の活性化は感覚応答を抑制することが確認された。したがって、NBMは皮質へのACh放出を介して感覚応答を、全体的には抑制的に調節することが示唆された。
 以上の結果より、NBMの損傷はS1における体性感覚応答を過剰に増大させ、結果として感覚過敏行動を引き起こす可能性を示した。本研究はNBMの損傷が感覚過敏性を引き起こすことを初めて直接的に明らかにしたものである。さらに感覚過敏の程度はNBM損傷の程度や感覚応答との相関を認めた。したがって将来的にはヒト患者を対象に、MRIによるNBMの体積評価や脳波計測による体性感覚誘発電位と、感覚機能との関連を調査することで、より詳細かつ客観的な感覚機能評価を可能とする応用性が期待できる。本研究結果は、NBMが障害されるPDやAD患者の、感覚異常の治療を目標とした前臨床試験および臨床試験の発展に貢献できる可能性を有する。

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