慢性腎臓病における単球由来凝固組織因子の役割
概要
慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)患者は増加の一途にある.進行したCKDでは血液透析をはじめとした腎代替療法が必要になることや,心血管疾患リスクが上昇して死亡率が悪化することから,CKD患者の生命予後やQOLを改善するための新たな治療法が求められている.
組織因子(tissue factor:TF)は外因系凝固経路を制御する膜タンパク質であり,癌・敗血症・炎症性疾患などの病的状態では単球やマクロファージでの発現が増加する.近年,CKDで蓄積する尿毒素がTF発現を誘導し,血液凝固を活性化させることが明らかにされているが,単球/マクロファージ由来TFのCKD進行への関与については不明な部分が多い.そこで本研究では,腎生検患者コホート,細胞培養実験,さらにCKDモデルマウスの解析から,単球由来TFのCKDにおける役割を検討した.
東北大学病院腎・高血圧・内分泌科の腎生検患者コホートを用いて,腎機能・尿毒素・凝固マーカーの関連を評価した.患者を血漿D-dimer値により3群(<0.5,0.5-1.0,1.0≤µg/mL)に分類し比較したところ,D-dimer高値群(≥1.0µg/mL)では有意に推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate: eGFR)が低値で,インドキシル硫酸(Indoxyl sulfate: IS)・インドール3酢酸(Indole-3-aceticacid:IAA)・パラクレジル硫酸(p-cresyl sulfate: PCS)などの血清尿毒素レベルが上昇していた.
次に,ヒト単球細胞THP-1を用いて,尿毒素曝露によるTF発現の変化を評価した.THP-1をIS500µM・IAA50µM・PCS500µM・メチルグリオキサール(methyl glyoxal: MG)100µMに24時間曝露させ,ELISA法でTFタンパク質を測定した.IS・IAA・MG刺激によりTFタンパク質の発現が増加した.
最後に,骨髄細胞特異的TF欠損マウスを用いて,骨髄細胞由来TFがCKDに与える影響を評価した.同遺伝子欠損マウスと野生型マウスにそれぞれ0.2%アデニン含有食を4週間投与し,組織学的な尿細管領域・尿細管管腔領域・線維化領域と,腎での炎症性遺伝子発現を評価した.骨髄細胞特異的TF欠損により,尿細管障害が改善し,腎における炎症性遺伝子の発現が低下した.
これらの所見から,CKDで単球由来TFが増加し,これが腎における炎症・尿細管障害を惹起してCKD進行に寄与することが明らかになった.凝固亢進を介した腎障害の新たなメカニズムが示唆され,TFはCKDに対する新しい治療標的になりうると考えられた