Effect of VKORC1, CYP2C9, CYP4F2, and GGCX Gene Polymorphisms on Warfarin Dose in Japanese Pediatric Patients
概要
序論
ワルファリンは血栓症の治療や予防における重要な抗凝固薬剤である. その薬効発現は主に血液検査の prothrombin time-International Normalized Ratio(PT—INR)の値を指標にしている.その値をみながら投与量を調整するが,投与量には個人差が存在する.成人領域ではワルファリンの投与量には cytochrome P450—2C9 (CYP2C9) や vitamin K–epoxide reductase complex 1(VKORC1) といった,ワルファリン感受性関連遺伝子多型が影響すると報告されている.(Klein et al.,2009) (Johnson et al.,2017) しかしながら,小児領域においては成人と比べてワルファリン投与量と遺伝子多型の検討に関する報告は少ない. (Nguyen et al.,2013) (Nowak et al.,2010)
本研究の目的は日本人小児におけるワルファリン投与量に遺伝子多型がどの程度.寄与しているかについて調べることとした.
方法
横浜市立大学附属病院で血栓治療及び血栓予防の目的でワルファリンを内服している患者45名を対象とした.ワルファリンの代謝酵素の遺伝子として,cytochrome P450—2C9 (CYP2C9) ,vitamin K–epoxide reductase complex (VKORC1),Cytochrome P450 Family 4 Subfamily F Member 2 (CYP4F2)と,γ- glutamyl carboxylase (GGCX) の遺伝子多型をTaqman probeを用いて解析した。臨床情報は、診療録より後方視的に収集した.
ワルファリン投与量と遺伝子多型は関連のあるt検定を用いて,比較検討した.回帰分析を用いて,ワルファリン投与量と各臨床データが関連するかを解析した.最終的にワルファリン投与量と有意に関連のあった遺伝子多型と,臨床データを用いて,ワルファリン投与量の予測式を作成した.
出血とPT—INRの過延長のリスクを評価するために,遺伝子多型及び,臨床データを共変数とし,出血及びPT—INRの過延長の有無をそれぞれアウトカムとしてロジスティック回帰分析にて多変量解析を行った.統計学的解析は,SPSS software version 19 (SPSS Inc,Chicago,IL,USA) を使用し解析を行った.
本研究は横浜市立大学病院の倫理審査委員会の承認を得た.(承認番号 A140724007 2014年8月4日).
結果
VKORC1 rs9923231 TT 遺伝子型が有 TC 遺伝子多型に比べて有意にワルファリンの投与量が少なかった (p = 0.01).また,それぞれの遺伝子多型と,性別,年齢,体重,身 長,目標PT—INR値.適応疾患等の臨床データを説明変数として,ワルファリン投与量との関連を,多変量解析を行ったところVKORC1 遺伝子多型と身長でワルファリン投与量の 78.2%が説明可能という結果であった.遺伝子多型のみでは,VKORC1 遺伝子多型は27%が説明可能という結果であった.一方,CYP4F2 rs2108622,GGCX rs699664は投与量には関与しないという結果であった.また,CYP2C9の遺伝子の変異がなく今回の研究では評価出来なかった.
作成した予測式と各患者の実際のワルファリンの投与量との差が±1mg /dayであった患者は全体の89%の結果だった.
出血の副作用に関しては45人の患者のうち14人の患者で認めた.多変量解析の結果,遺伝子多型と出血の関連は認めず,目標のPT—INRが2.0 - 2.5の群は1.5 - 2.0の群に比較し有意に出血のリスクを認めた.PT—INR過延長に関してはどの説明変数でも有意差は認めなかった.
考察
多数の検討ではないものの,日本人の小児において,VKORC1の遺伝子多型がワルファリン投与量に最も重要な遺伝子であることが分かった.成人での研究や,海外で報告されている小児の予測式では重要な遺伝子はVKORC1の他にCYP2C9や,CYP4F2であることより,年齢層や人種によって重要となる遺伝子は異なるため,日本人小児に適した予測式が必要であることが分かった.