シャペロン介在性オートファジーによるCOPD病態の制御 (第137回成医会総会一般演題)
概要
【背景】
喫煙(cigarette smoke:CS)は,酸化ストレスにより小胞体ストレス応答(unfold proteinresponse:UPR)を亢進させる.CS 刺激によるUPR は,気道上皮細胞にアポトーシスを誘導しCOPD 病態に関与する可能性が報告されている.抗酸化タンパク発現を誘導する転写因子Nrf2は,COPD 肺におけるUPR 及びアポトーシスの制御で重要と考えられている.またNrf2は,シャペロン介在性オートファジー(chaperone-mediatedautophagy:CMA)の調節因子である.CMA は,KFERQ ペプチドモチーフを持つタンパク質を基質とする選択的オートファジーの1種であり,細胞内エネルギーの恒常性維持や,ストレス環境下における細胞の生存に関与する.近年,UPR とCMA の機能的なクロストークの存在が報告されている.しかしながらCOPD 病態の,CS 刺激によるUPR とアポトーシスにおけるCMA の役割は明らかではない.
【方法】
肺癌手術検体より得られた肺組織,及び気道より分離・培養したヒト気道上皮細胞(HBEC),Beas-2B 細胞を用いた.CMA の活性はライソソーム関連膜タンパク2A(lysosome-associated membrane protein type 2A:LAMP2A)の発現量で評価した.細胞死はLDHアッセイ,TUNEL 染色,及びフローサイトメトリーで検討した.培養細胞及び肺組織でのLAMP2A 発現とUPR はウェスタンブロッティング法と免疫組織化学染色で評価した.
【結果】
タバコ抽出液(cigarette smoke extract:CSE)刺激は,Nrf2の発現を介してLAMP2A の発現量でみるCMA 活性を亢進させた.LAMP2A ノックダウンによるCMA 活性の抑制は,CSE 刺激によるUPRとアポトーシスを亢進させ,一方LAMP2A の過剰発現は,UPR とアポトーシスを抑制した.CHOP ノックダウンによる検討から,UPR のCHOP が,CMA 活性によるCSE 誘導性アポトーシスの制御に関与することが示された.免疫組織化学染色による肺組織の評価では,非COPD 肺と比較してCOPD 肺の末梢気道上皮細胞におけるNrf2とLAMP2A の発現低下を認めた.COPD 由来HBEC でもNrf2とLAMP2A の発現低下を認め,HBEC でのLAMP2A の発現量と,呼吸機能検査の1秒量との間に正の相関関係を認めた.
【結論】
COPD 肺の気道上皮細胞では,Nrf2発現低下によりCMA 活性化が不十分となり,喫煙刺激によるUPR の亢進を介したアポトーシスが増加し,COPD の病態の進展に関与している可能性が示唆された.