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大学・研究所にある論文を検索できる 「メトホルミンは消化管内腔へのFluorodeoxyglucose (FDG) 排泄を促進させる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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メトホルミンは消化管内腔へのFluorodeoxyglucose (FDG) 排泄を促進させる

Morita, Yasuko 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景と目的】
メトホルミンは、2 型糖尿病患者に古くから用いられてきた薬剤で、本邦でも第 1 選択薬として使用されることの多い経口血糖降下薬である。メトホルミンは、これまで肝糖新生抑制により血糖降下作用を発揮すると考えられてきたが、近年消化管での多様な作用が報告され、注目が集まっている。メトホルミンの消化管への作用として、腸管でのグルコース吸収抑制、腸-脳-肝回路を介した糖新生抑制作用、腸内細菌叢を介した作用などが報告されているが、消化管作用の本態には未だ不明な点が多い。

その一方で、メトホルミン服用者では 18F-FDG-PET/CT 検査時に、非代謝性グルコース誘導体であるFDG が腸管へ集積することが報告され、これはメトホルミンが腸管のグルコース代謝に影響を及ぼすヒトでの証拠の一つと考えられた。しかし、PET/CT では PET と CT を逐次的に撮像するため、蠕動によって動く臓器である腸管では両者の融合画像精度が低く、FDG が腸管壁、腸管内腔(腸管内容物)のいずれに集積するかを区別できないという欠点があった。PET/MRI は、本邦での実施可能施設は 9 施設に過ぎない新規の画像検査装置である。この装置は、PET とMRI を同時に撮像することが可能であるため、融合画像精度が高く、MRI による物質分解能も高いため、FDG の集積部位が腸管壁か腸管内腔かの区別が可能と考えられた。

そこで我々は、18F-FDG-PET/MRI を用いて、メトホルミンによる FDG の集積増強が腸管のいずれの部位に生じるかについて検討を行った。

【方法】
2016 年 4 月~2018 年 8 月に神戸大学医学部附属病院で腫瘍局在診断等の目的で 18F-FDG- PET/MRI を施行した 1,246 人に対して後方視的に検討を行った。1,246 人の中で、2 型糖尿病患者は244 人が含まれ、このうち50 人がメトホルミンを内服していた。この50 人のうち、5 人はPET/MRIを複数回撮像しており、1 人は内服情報の記載が不十分であり、17 人は PET/MRI 検査の直近 48 時間以上前にメトホルミンを休薬していたため、これらの計 23 名は除外した。残った 27 名をメトホルミン内服群(メトホルミン群)とし、メトホルミン非内服の 2 型糖尿病患者 194 人をメトホルミン非内服群(コントロール群)とした。

この 2 群に対して、年齢、BMI、HbA1c で傾向スコアマッチングを行い、各群 24 人ずつの計 48人の解析対象者を抽出した。
主要評価項目は、腸管各部位(空腸、回腸、右半結腸、左半結腸)における FDG の集積部位(腸管壁あるいは腸管内腔)の 2 群間の比較評価とした。

【結果】
メトホルミン群、コントロール群において、年齢(メトホルミン群 vs コントロール群:69.6±10.2 vs 70.8±9.3(歳); p=0.77)、BMI(メトホルミン群 vs コントロール群:24.5±4.0 vs 24.4±5.4(kg/m2); p=0.52)、HbA1c(メトホルミン群 vs コントロール群:7.5±1.3 vs 7.6±1.2(%); p=0.99)、性別(メ トホルミン群 vs コントロール群:男性 14/女性 10 vs 男性 13/女性 11(人); p=0.77)、PET/MRI 検 査時の空腹時血糖値(メトホルミン群 vs コントロール群:149.2±33.0 vs 151.3±35.3(mg/dL); p=0.82)
について、両群で有意な差は認めなかった。メトホルミン群における平均 1 日メトホルミン服用量は 750 mg であった。また、それぞれの群における併存疾患、糖尿病治療内容の割合については DPP-4阻害薬を除いては両群で有意な差を認めなかった。

メトホルミン群およびコントロール群では、2 名の放射線科医が独立して行った 5 段階の視覚的放射強度スコアを用いた腸管全体へのFDG 集積の視覚評価では、2 名の評価ともにメトホルミン群とコントロール群で、空腸では差がなかったが、回腸、右半結腸、左半結腸ではメトホルミン群で有意に放射強度スコアが高いという結果であった。

FDG 集積の半定量的評価(SUVmax)による腸管全体の評価では、空腸、回腸、右半結腸、左半結腸においてメトホルミン群では有意に SUVmax が高かった(メトホルミン群 vs コントロール群:空腸 2.85±0.69 vs 2.51±0.39 ; p<0.05、回腸 6.50±3.32 vs 4.41±3.50 ; p<0.01、右半結腸 6.03±3.26 vs 3.00±1.33 ; p<0.01、左半結腸 7.35±4.65 vs 3.88±3.01 ; p<0.01)。

次に、MRI による詳細な空間位置の同定に加え、MRI の信号パターン特性から腸管を 2 つの部位(腸管壁、腸管内腔)に分けて解析を行った。腸管の T1WI-low かつ T2WI-low 部位を筋層の信号パターン(一部のガスを含む便も検出)として腸管壁とし、T1WI-low かつ T2WI-high または T1WI- high かつ T2WI-low 部位を水成分(腸液)または高たんぱく含有物(糞便および濃縮された腸液の信号パターン)として腸管内腔と判断し、それぞれの部位の SUVmax を評価した結果、腸管内腔の SUVmax は空腸で差はなかったが(メトホルミン群 vs コントロール群:2.92±0.67 vs 2.68±0.85 ; p=0.08)、回腸、右半結腸、左半結腸ではメトホルミン群で有意に高値であった(回腸 5.70±2.57 vs 4.06±1.84 ; p<0.01、右半結腸 5.10±2.60 vs 3.08±1.37 ; p<0.01、左半結腸 5.61±4.30 vs 3.55±2.42 ;
p< 0.01)。その一方で、腸管壁の SUVmax は腸管のいずれの部位でもメトホルミン群、コントロール群間で差はなかった(メトホルミン群 vs コントロール群:空腸 2.27±0.58 vs 2.29±0.59 ; p=0.98、回腸 4.20±2.89 vs 3.17±1.11 ; p=0.43、右半結腸 4.33±2.70 vs 2.89±1.27 ; p=0.05、左半結腸 4.70±3.34 vs 3.49±2.58 ; p=0.09)。

【考察】
本研究により、メトホルミンは腸管壁ではなく、腸管内腔の FDG 集積を増強させることが初めて明らかとなった。また、この現象は回腸より遠位の腸管で主に認められたことから、胆管を通じてではなく、回腸以遠の消化管粘膜を通じて、FDG が腸管に排泄される可能性が示唆された。

メトホルミンが腸管への FDG 集積を増強させることが明らかになって以来 10 年以上が経過するが、メトホルミンが腸管壁へグルコースやグルコース誘導体の集積を増強させるという動物実験の成績などから、人においても半ば盲目的に、メトホルミンは腸管壁への FDG 集積を促進すると主張する報告が多くみられた。しかし、本研究でメトホルミンは腸管壁ではなく、腸管内腔の FDG 集積を増強させることを明らかとし、このことからメトホルミンは消化管にグルコースを排泄させるという、従来全く想定されていなかった薬理作用を持つ可能性を、人を対象とした研究で明らかとした。メトホルミンが消化管にグルコースを排泄させるメカニズムについては、未だ十分に明らかではないが、動物実験からは消化管のグルコーストランスポーターである GLUT2 の管腔側での発現を増強することが報告されている。GLUT2 は双方向性のグルコース輸送能を持つことから、GLUT2 を介したグルコースの腸への排泄の可能性が考えられる。詳細なメカニズムについては、今後もさらなる解明が必要と考えられる。

本研究の限界としては、解析集団の人数が小さいこと、臨床指標を用いた傾向スコアマッチングを行い背景因子のある程度の調整を行っているものの後方視的解析であるため交絡因子の介入の可能性が完全には否定できないこと、また、本検討では主にがん患者に対して施行された 18F-FDG- PET/MRI 画像から、腸管壁や腸管内腔の SUVmax を用いた半定量評価を行ったため、その他の組織や臓器におけるグルコースの取り込みの影響を受けている可能性を除外できていないこと、が挙げられる。

【結語】
本研究の結果より、18F-FDG-PET/MRI を用いることで、メトホルミンが腸管内腔へのFDG 集積を増強させることが明らかとなり、腸管内腔へのグルコース排出というメトホルミンの新規薬理作用を明らかとした。

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