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大学・研究所にある論文を検索できる 「統合失調症におけるY染色体モザイク欠損の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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統合失調症におけるY染色体モザイク欠損の検討

Hirata, Takashi 神戸大学

2020.09.25

概要

【背景】
統合失調症は意欲低下、発語の減少といった慢性的な陰性症状や認知機能障害を認め、個人や社会に深刻な影響を及ぼす重度の精神疾患である。統合失調症は死亡率が高く、一般人と比べて 10 年から 20 年寿命が短いと言われている。統合失調症の病態は不明な点が多いが、ゲノムワイド関連研究(GWAS)などの遺伝学的研究により統合失調症の病態に遺伝要因が寄与していることが示唆されている。一方これまで統合失調症において性差は見られないと言われてきたが、最近、統合失調症においては性差を認めるという報告もでてきた。男性の統合失調症患者は女性と比べて、発症年齢が早く、欠陥状態になりやすく、抗精神病薬の反応不良性がみられるという報告もあるが、その病態機序はよくわかっていない。

近年、男性特有の Y 染色体モザイク欠損(Loss of chromosome Y : LOY)が注目されている。LOY とは通常の細胞と、Y 染色体を欠損した細胞がモザイク状に存在している状態である。これまでに LOY は加齢や喫煙により増加することが報告されている。また造血器腫瘍など様々な疾患における死亡率の増加と関連することや、神経変性疾患であるアルツハイマー型認知症と関連するという報告がされている。我々もこれまでに自殺既遂者において LOY が増加することを発見した。しかし統合失調症における LOY を検討した研究は未だ報告されておらず、今回、統合失調症における LOY を検討することとした。

【対象および方法】
標準集団はすべて日本人男性で構成され、146 人の男性統合失調症患者(年齢中央値:60.0 歳、四分位範囲(IQR ) 49.0–68.0 歳)と 214 人の男性健常者(年齢中央値:58.5 歳、IQR 43.0–68.0 歳)の末梢血液由来 DNA を用いた。すべての統合失調症患者は精神障害の診断および統計マニュアル、第 4 版(DSM-IV)または第 5 版(DSM-5)の診断基準にしたがって少なくとも 2 名の精神科医によって診断を行った。健常者は精神科医の診察によって、精神疾患や薬物の乱用、精神疾患の家族歴のある者を除外した。喫煙情報については、統合失調症患者からは情報が得られたが、健常者についての喫煙情報は得られなかった。

LOY の評価については、X 染色体と Y 染色体にある amelogenin(AMEL)遺伝子を Quantitative Fluorescent PCR にて増幅し、ABI PRISM 3130xl genetic analyzer にてコピー数を解析し、Y/X 比(AMELY/AMELX)を測定して LOY の有無を決定した。その際、1番染色体と Y 染色体に存在する MYPT2 遺伝子、3 番染色体と X 染色体に存在する TAF9B 遺伝子についてもコピー数を解析し、AMELY の欠損や複製による影響を除外した。

統計解析には R version 3.4.1 を用いた。集団間の比較には Mann–Whitney U 検定、Fisher の正確検定、Cochran–Armitage 傾向検定、およびロジスティック回帰分析を必要に応じて行った。連続変数の相関解析にはスピアマンの順位相関係数を使用した。統計学的な有意差は p 値<0.05 とした。

【結果】
統合失調症群と健常群において両者とも加齢とともに LOY は増加し、有意な相関を認めた。しかしながら統合失調症群と健常群における LOY の頻度に有意差は認めなかった。そこで統合失調症群において罹病期間、喫煙、抗精神病薬の内服量におけるサブグループ解析を行った。解析に際し、統合失調症群の罹病期間と年齢に正の相関を認めた。年齢による影響を調整するために 53 歳より上の年齢の統合失調症患者においてサブグループ解析を行った。その結果、統合失調症の罹病期間が長いと有意に LOY が増加するという結果が得られた。潜在的な交絡因子を除外するために LOY を応答変数とし、罹病期間、喫煙、抗精神病薬の内服量を説明変数としてロジスティック回帰分析を行ったが、この解析でも同様に罹病期間と LOY との関連を認めた。一方で LOY と年齢の有意な関連は認めなかった。

【考察】
我々の知る限り、本研究は統合失調症と LOY との関連を調べた最初の報告である。統合失調症群と健常群において加齢とともにLOYは増加し、先行研究と一致する結果であった。統合失調症群と健常群の比較では LOY の頻度に有意差は認めなかった。しかし統合失調症群において、罹病期間、喫煙、抗精神病薬の内服量による LOY への影響を解析したところ、罹病期間がより長いと LOY が増加していた。これまで加齢と LOY については広く知られており、骨髄異形成症候群やアルツハイマー型認知症といった加齢性疾患において LOY との関連が報告されている。統合失調症においては発病初期には LOY の出現に差はないが、病状の長期経過により LOY が出現しやすくなる可能性が考えられた。

一方、先行研究において、喫煙が LOY の危険因子であることも知られており、用量依存的で可逆的であることが知られている。我々の統合失調症群における喫煙率は平均 47.1%であり、日本での疫学データによる一般人口の喫煙率の平均 34.1%と比較すると高かった。統合失調症において喫煙率が高いことはこれまでの研究でも報告されている。しかし我々の研究において、統合失調症群と健常群の比較で LOY の頻度に有意差は認めなかったことから、喫煙の影響は LOY に対してそこまで大きくないという結果が示唆された。

最近のヨーロッパにおける GWAS 研究で LOY が細胞周期やゲノム不安定性に関連していることが報告されている。このことから我々は細胞周期の異常やゲノム不安定性が統合失調症の病態に重要な役割を示しているのではないかと考えた。実際、これまでいくつもの研究で、統合失調症と細胞周期関連遺伝子の異常との関連が報告されている。さらに日本人の統合失調症において、コピー数多型解析(Copy Number Variation : CNV)を行ったところ、統合失調症の病態と染色体 DNA の複製過程のエラーが関連していたという報告がされている。しかしこれまで統合失調症とゲノム不安定性の機序を明らかにした報告はなく、さらなる研究が必要であると考える。

本研究の限界としては、健常群において喫煙の情報が欠けていること、統合失調症群で罹病期間を比較するときに年齢調整を行ったこと、抗精神病薬の内服量が血液を採取した時点の量であり、経時的な影響は正確に検討できていないこと、またサンプルサイズが不足していることなどが挙げられる。

結論として、統合失調症の病初期には血液中の LOY に有意な変化はみられないが、疾患の長期経過に伴い LOY が出現しやすくなる可能性が示唆された。今回の結果は統合失調症の性差を理解するのに十分に貢献できるものと考える。

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