高品質多孔性填料の開発
概要
現状適用されている軽量化技術,つまり嵩高化技術としては,主に,リグニンを多く含有した機械パルプ,有機系薬品である嵩高剤(界面活性剤),無機系填料である多孔性填料(沈降性シリカ)の使用による繊維間結合を抑制する方法が挙げられる。
本研究では,多孔性填料に焦点をあて,はじめに,多孔性填料の粒子物性が嵩高性,不透明性および紙力に与える影響について検討した。つぎに、多孔性填料の製造方法である珪酸ナトリウムと鉱酸を直接反応させる直接酸分解法を基本原理として、反応時に耐アルカリ性微小粒子を用いること,また鉱酸の一部を酸性金属塩に代替することで,紙力の低下が小さく,嵩高性,不透明性に優れた新規な高品質多孔性填料の開発を試みた。さらに実験室スケールからパイロットスケール,工場スケールとスケールアップを試み,工業レベルでの有用性を検討した。また多孔性填料の紙中含有率が紙質に与える影響を検討し,最後に紙中への歩留り率向上について検討した。
1.粒子物性が嵩高性,不透明性および紙力に与える影響
珪酸ナトリウムと鉱酸を直接反応させる直接酸分解法(式1)を基本原理として,珪酸ナトリウム濃度,硫酸ナトリウム濃度,温度,中和比率,攪拌速度の反応条件を制御し,様々な粒子物性の多孔性填料(沈降性シリカ)を製造し,粒子物性が,嵩高性,不透明性および紙力に及ぼす影響について検討した。
【直接分解法】
Na2O・nSiO2+H2SO4→nSiO2+Na2SO4+H2O 式(1)
(珪酸ナトリウム)(硫酸)(シリカ)(硫酸ナトリウム)
多孔性填料は,非晶質シリカの一次粒子が凝集し,構造性のある二次凝集粒子を形成しているため,二次凝集粒子は大量の細孔(空隙)を包含し,細孔表面積および細孔体積の大きい填料となっている。
一次粒子径が大きくなるに従い密度が低く嵩高性は増加するが,40nm付近を頂点として密度が高く嵩高性が低下することが認められた(Fig1)。また一次粒子径が大きくなるに従い二次凝集粒子の光散乱度は強くなり,紙に含有した際の不透明性も高くなることが認められた。紙力剤を添加した手抄き紙では,一次粒子径が大きくなるに従い紙力は大きく増加した。
二次凝集粒子径が大きくなるに従い密度が低く嵩高性は増加した(Fig2)。二次凝集粒子径が小さくなるに従い多孔性填料の光散乱度は強くなり,紙に含有した際の不透明度も高くなることが認められた。
以上の検討より,一次粒子径および二次凝集粒子径を調整することで,求められる紙質に適合した高品質多孔性填料を製造できることが示された。
2.耐アルカリ性微小粒子が粒子物性および紙質に与える影響
合成反応開始時に耐アルカリ性の微小粒子として炭酸カルシウムを存在させることにより(式2),粒子物性の制御方法を検討し,得られた多孔性填料が嵩高性,不透明性および紙力に与える影響について検討した。
【耐アルカリ性微小粒子存在化での直接分解法】
Na2O・nSiO2+CaCO3+H2SO4→nSiO2・CaCO3・+Na2SO4+H2O 式(2)
(珪酸ナトリウム)(微小粒子)(硫酸)(シリカ・微小粒子)(硫酸ナトリウム)
炭酸カルシウムの添加量が多くなるに従い一次粒子径は小さくなり,二次凝集粒子径は大きくなることが認められた。炭酸カルシウムの添加量が多くなるに従い粒度分布はシャープとなるが,添加量5質量部を頂点として次第にブロードとなることが認められた(Fig3)。また炭酸カルシウムの添加量が多くなるに従い多孔性填料の紙に含有した際の嵩高性は向上するが,添加量5~10質量部を頂点として次第に低下することが認められた(Fig4)。また炭酸カルシウム添加量が多くなるに従い多孔性填料の光散乱度は低くなり,紙に含有させた際の不透明性も低下することが認められた。紙力発現効果に最適な炭酸カルシウム添加量があることも認められた。
以上の検討より,耐アルカリ微小粒子を多孔性填料合成反応時に存在させることで,粒度分布を大きく改善でき,一次粒子,二次凝集粒子の最適化にて,嵩高性,不透明性に優れ,紙力低下の少ない多孔性填料を製造できることが示された。
3.耐アルカリ性微小粒子存在下で合成した多孔性填料のスケールアップ
反応時に耐アルカリ性微小粒子を用いて製造した多孔性填料について,実験室スケール(反応槽:2L)からパイロットスケール(200L),工場スケール(17m3)とスケールアップを試み,工場スケールにおいても,実験室スケールで製造した多孔性填料と同様の粒子物性を得ることができ,紙に含有した際の嵩高性,不透明性に優れ,紙力低下の小さい多孔性填料を製造できることが示された。
4.酸性金属塩が粒子物性および紙質に与える影響
合成反応時に珪酸ナトリウムを中和する鉱酸(硫酸)の一部を酸性金属塩(硫酸アルミニウム)に代替することにより(式3),粒子物性の制御方法を検討し,得られた多孔性填料が嵩高性,不透明性および紙力に与える影響について検討した。
【酸性金属塩を用いた直接分解法】
Na2O・nSiO2+H2SO4+Al2(SO4)3→Na2O・Al2O3・nSiO2+Na2SO4+H2O 式(3)
(珪酸ナトリウム)(硫酸)(硫酸アルミニウム)(アルミノシリケート)(硫酸ナトリウム)
中和反応の1段目に硫酸を用い,2段目あるいは3段目のどちらかに硫酸アルミニウムを適用した。3段目に硫酸アルミニウムを適用すると多孔性填料スラリーの粘度は中和比率が高くなるに従い低下することが認められた。紙に含有させた際の嵩高性においても硫酸アルミニウムの中和比率20%で最も密度が低く嵩高性が高くなることが認められた(Fig5)。多孔性填料の光散乱度および紙に含有させた際の不透明性も低下しないことが認められた。
以上の検討より,鉱酸の一部を酸性金属塩に置き換えることで,置き換える位置および置換量でスラリー粘度を低下させたハンドリングの良い,嵩高性および不透明性に優れた多孔性填料を製造できることが示された。
5.酸性金属塩で合成した多孔性填料のスケールアップ
反応時に鉱酸の一部を酸性金属塩に置き換え製造した多孔性填料について,実験室スケール(反応槽:2L)からパイロットスケール(200L),工場スケール(15m3)とスケールアップを試み,工場スケールにおいても,実験室スケールで製造した多孔性填料と同様の粒子物性を得ることができ,スラリー粘度が低く,紙に含有した際の嵩高性,不透明性に優れた多孔性填料を製造できることが示された。
6.高品質多孔性填料のスケールアップ
耐アルカリ性微小粒子あるいは酸性金属塩を用いず珪酸ナトリウムと鉱酸を直接反応させるシンプルな直接分解法(式1)で得た多孔性填料について,実験室スケール(反応槽:2L)からパイロットスケール(200L),工場スケール(28m3)とスケールアップを試み,工場スケールにおいても,実験室スケールで製造した多孔性填料と同様の粒子物性を得ることができ,紙に含有した際の嵩高性,不透明性および紙力に優れた多孔性填料を製造できることが示された。
6.多孔性填料の紙中含有率が紙質に与える影響および歩留り率向上の検討
多孔性填料は繊維間のスペーサーとして嵩高効果を発現することから二次凝集粒子径の異なる多孔性填料を紙中含有率を変更して,紙質への影響および紙中への歩留り率を検討した。
二次凝集粒子径が大きくなるに従い,また紙中含有率が多くなるに従い密度が低く嵩高性が高くなった(Fig6)。紙力は,二次凝集粒子径に関わらず紙中含有率が増えるに従い低下した。不透明度は,紙中内添率が5%を超えると二次凝集粒子径が小さくなるに従い高くなった。
紙中歩留り率は,粒子径が大きくなるに従い高くなった(Fig7)。次に紙中への多孔性填料の歩留り率向上を検討した。多孔性填料合成時に硫酸アルミニウムを用いる方法(式3)にて硫酸アルミニウムでの中和比率を増加させて表面電荷を変更した多孔性填料を用いた。硫酸アルミニウムの中和比率が高くなるに従い多孔性填料の表面電荷は高くなり歩留り率は向上した。しかし,中和比率20%を超えると低下し最適な硫酸アルミニウムでの中和比率が存在することが示された(Fig8)。
7.総括
珪酸ナトリウムと鉱酸を直接反応させる直接酸分解法を基本原理とした多孔性填料(沈降性シリカ)の高品質化について研究を進めた結果,粒子物性が紙質に与えるメカニズムに関する重要な知見が得られた。またその粒子物性の制御方法を見出し,その制御方法によって特徴ある高品質な多孔性填料を工場スケールで製造しその有用性を確認した。さらに多孔性填料の表面電荷が紙中への歩留まり,紙質に与える重要な知見が得られた。