Vitamin B6 efficacy in the treatment of nonalcoholic fatty liver disease: an open-label, single-arm, single-center trial
概要
1. 序論
本研究の目的はビタミン B6 経口投与による非アルコール性脂肪性肝疾患(Non- alcoholic fatty liver disease: NAFLD)の治療効果を明らかにすることである.
NAFLD は非飲酒者で脂肪肝を認め,ウイルス性肝疾患など他の肝疾患が除外された際に診断される.一般的に予後良好とされる非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver : NAFL),肝の炎症や線維化などを伴い進行性の病態とされる(nonalcoholic steatohepatitis : NASH),さらにこれらから進展した肝硬変,肝細胞癌までを包括する広範な疾患概念である.NAFLD は肥満,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病を高率に合併し,メタボリックシンドロームの肝臓における表現型と考えられている.
NAFLD は世界的に最も有病率の高い慢性肝疾患であり,日本での有病率は 20-30%程度とされる(Li J et al., 2019).さらに,肥満人口の増加に伴い現在も患者数が増加している.NAFLD は進行すると肝硬変や肝細胞癌の原因となり,さらに心血管疾患,糖尿 病,慢性腎臓病や,大腸癌,乳癌などさまざまな疾患のリスク因子となることが知られている.このように大きな問題をはらんだ疾患であるにも関わらず,保険適用の治療薬が存在せず,治療薬の開発が急務である.
ビタミンB6 は,アミノ酸,グルコース,脂肪代謝など,生体において様々な酵素反応の補酵素として機能している.NAFLD 患者では健康人に比べて食事でのビタミンB6 の摂取量が少ないことが報告されている(Federico A et al., 2017).また,マウスを用いた非臨床試験でビタミン B6 の投与が肝脂肪を減少させたと報告されている(Liu Z et al., 2016).これらの先行研究から,ビタミン B6 欠乏がNAFLD 病態進展の一因となっている可能性を考え,その補充がNAFLD を改善させると仮説を立て本研究を行うこととし た.本研究は,非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者におけるビタミンB6 投与の治療効果を検討した初めての介入試験である.
2. 実験材料と方法
本試験は,非盲検,単群,単施設前向き介入試験とした.NAFLD 患者にビタミン B6(ピリドキシン塩酸塩 90 mg/日)を 12 週間経口投与し,ビタミン B6 投与前後の臨床パラメーターを評価した.また,Magnetic resonance imaging (MRI)-based proton density fat fraction (PDFF)とMagnetic resonance elastography (MRE)を用いて肝臓の脂肪と線維化を定量化した.主要評価項目はアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値の変化とした.副次的評価項目は,MRI-PDFF,MRE,血清ビタミンB6,代謝関連パラメーター,肝機能関連パラメーターの変化とした.
3. 結果
23 例にビタミンB6 を投与し,22 例がプロトコルを完遂した.主要評価項目である血清 ALT 値は,ビタミン B6 投与前後で有意な変化は認められなかった(投与前:93.6±46.9,投与後 93.9±46.6,p=0.976).一方,肝脂肪量のパラメーターである MRI-PDFF はビタ ミンB6 投与後に有意に低下した(投与前:18.7±6.1%,投与後 16.4±6.4%,p<0.001).さらに,ビタミンE 内服患者を除外した 17 例でも,MRI-PDFF は有意に低下していた(n=17,投与前:18.8±6.9,投与後:16.7±7.3,p=0.0012).なお,ビタミン B6 投与前後で体重(投与前:79.4±15.8,投与後:79.3±15.5,p=0.978)や BMI(投与前: 28.6±4.1,投与後:28.4±4.0,p=0.922)に有意な変化を認めなかった.さらに,MRI- PDFF レスポンダー群(MRI-PDFF 減少>8%,n=13)と MRI-PDFF 非レスポンダー群
(MRI-PDFF 減少<8%,n=9)に分けると,レスポンダー群で有意にビタミンE 内服し患者が多かった[n=5(38.5%)対 n=0(0%),p=0.004].23 例のうち 1 例で有害事象として皮疹を認めた.
4. 考察
本研究では,ビタミンB6 がNAFLD 患者において肝脂肪を減少させる可能性が示された.食事運動療法による体重減少が肝脂肪を減少させることが知られているが,試験前後で体重やBMI に有意な変化はなく,本試験で体重減少が肝脂肪を減少させた可能性は低いと思われた.また,ビタミン B6 単独でも肝脂肪を減少させると思われるが,ビタミン E と併用するとより強い肝脂肪減少効果を発揮する可能性が示唆された.ビタミンB6 は安価で副作用の少ない薬剤である.治療薬がないNAFLD において,ビタミンB6 が画期的な治療薬となる可能性がある.今後,NAFLD 患者におけるビタミン B6 の治療効果を確認するため,長期的かつ大規模な無作為化比較試験が望まれる.