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大学・研究所にある論文を検索できる 「<論説>債権質規定の存在意義」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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<論説>債権質規定の存在意義

直井, 義典 筑波大学

2022.09.12

概要

(1) 伝統的な不動産担保に代わり、実務上、動産担保・債権担保の重要性が高まって久しい。特に債権は生産に必須の手段ではないために生産設備を維持しながら資金調達ができること、債権者からしても換価手続が不要であるだけ債権は執行が容易であることから、債権担保の重要性はますます高まっている1)。
 債権担保の手段としては、債権質・債権譲渡担保・代理受領などが考えられる。このように債権の担保化手段としては種々のものがある中で、民法典が明文をもって定める債権の担保化手段は債権質のみである2)。ところが債権質と債権譲渡担保との差異は明確ではない。質権が目的物の引渡しを成立要件としている(344条)のに対して譲渡担保では所有権3)の移転がなされるわけであるから、区別は明確であるようにも思える。しかし、無体物である債権について占有移転を観念することができるのかがそもそも問題であることから両者の区別は明確なものではなくなるのである。
 債権の占有移転とは何かが問題となることは、民法典の起草過程でも意識されていた。起草者によれば、動産を有体物に限定した(85条・86条2項)ことから権利質の規定を独立して定めざるを得なくなり、準占有の規定にならって質権の章の末節に権利質の節を置いたとされる4)。そして、譲渡に証書の交付を要する債権を質権の目的とする場合には証書の交付が質権の効力要件であるとしていた(旧363条)反面、こうした証書がない場合には合意が成立要件であるとされているから、債権質では占有移転は問題とならない、と解していたのである5)。このように質権の最大の特徴とも言うべき占有移転が観念されない以上、債権質を債権譲渡担保と別途観念する必要性はない、債権質の独自の存在意義はない、とも考えられる。むしろ占有移転が考えられないのであれば債権質という表現は理論上は不適切であり、立法論上は、債権担保の規定としては債権質ではなくむしろ債権譲渡担保の規定を置くべきであるとさえ考えられる。
 もっとも、債権譲渡担保は明文で認められた制度ではなく、担保目的でなされる債権譲渡をこのように呼びならわしているにすぎない。他方、債権質は債権担保手段としては唯一明文規定のある制度である。そのため、立法のドラスティックな変動を避けるという消極的な理由から債権質規定の存置に意義を見出すことができなくはない。また、民法典は権利質一般について定めを置いているのであり(362条)債権質はその一種として位置付けられているに過ぎないのであるから、地上権などの債権以外の権利について質権が設定できる旨の規定を置く意味はあるとして権利質規定を擁護することは考えられる。特別法によって質権の設定が認められていることもある(例えば特許法95条)が、これらの権利質の根拠として民法典に権利質の規定を置くことに意義があるとも言える。しかしここでも、そもそも権利の占有移転は考えられるのかという、債権質におけると同じ問題に立ち返ってしまう。362条を除けば民法典の権利質の節に残されているのは364条と366条の2か条のみであり6)、いずれも債権質に関する規定であるから、権利質の中核をなすのは債権質だと言わざるを得ない。そうだとすれば、債権の占有を観念し得るのかという問題を解決しないことには、債権質規定を擁護することはできず、ひいては権利質規定の正当性にも疑問が生じることとなる。担保法制の改正に向けて議論が進められている現在、立法論としても、債権の担保手段として競合する複数の制度間で債権質を選択して民法典に規定を存置することにどれだけの意義があるのかは検討しておく必要があるだろう。
 また、債権質規定を存置するにしても、その内容は実務上の要請に応えるための基盤を提供するものでなければならない。とりわけ、小口・多数の債権による資金調達を可能とするための複数債権の担保化手段の確立、集合債権の金融技術の進化に伴う電子化への対応などが求められる7)。それと同時に、不動産・動産と債権を同時に担保化するケースや、動産が売掛金債権に転化するケースも想定すると、債権担保は不動産担保・動産担保と整合的なものであることも求められる8)。また、ある特定の場面のみならず一般的に用い得る制度であることが求められる9)。こうした課題に応え得るのでなければ、債権担保のモデルとして債権質を選択することには正当性がないということになりかねない。
 そこで本稿では、債権担保の方法として民法典に権利質の規定を存置することの正当性の有無を検討するために、フランス法を参照する。

(2) フランス法を参照するのは、以下の理由による。
 フランスにおいて、2006年担保法改正以前には債権質に関する規定は動産質に関する規定の中にわずか2か条が含まれているのみであり、債権質というカテゴリー自体が独立性を有していなかった。ここにはわが国とは異なり債権は動産に含まれる(無体動産)10)との前提が反映されているわけであるが、質権に引き付けて考えると、債権について占有移転を観念できるかは、動産質の一種としての債権質においてはわが国における以上に重大な問題であった。その後の2006年担保法改正によって質権についてもその目的が有体動産であるか無体動産であるかによって規定が分けられることとなったために、民法典上、債権質が独立のカテゴリーとして成立することとなった。この点のみに着目すると、動産質から切り離されることによって債権の占有移転を有体動産の占有移転とは別個に考える基盤が出来上がったと同時に、債権担保における債権質という制度の重要性が増したように見える。
 他方で、1981年のダイイ法によって、特別な領域に限ってではあるが、明細書交付による債権の質入が債権譲渡と同じ条文で認められた11)。さらに2009年の民法改正によって、やはり限られた要件の下においてではあるが、担保のためのフィデュシー譲渡の規定が導入された(2372‒1条以下)12)。こうして債権質と担保目的での債権譲渡とが競合する局面が明文上も見られるようになり、債権質の存在意義が改めて問われることとなったのである。
 このように、フランスでは、民法典の構成においては債権質の有体動産質からの独立性が強まり規定が整備されたことにより、従前と異なり、債権質が債権担保の中心に位置づけられることとなったと考えられる。その反面で、債権担保手段として債権質が他の手段と競合している13)点はわが国と共通している。

(3) 以下、第1章では2006年担保法改正以前の債権質規定の有していた問題点を明らかにすることを中心課題としつつ、他の債権担保手段も債権質の代用物としては不十分であったことを示す。次いで第2章では、債権質の抱える理論上の問題点である債権の占有の内実を明らかにすることで、理論上も債権質が成立しうることを示す14)。第3章では、第2章で明らかにした債権の占有理解を受けて制定された現行法の下での債権質規定の内容を債権譲渡規定と比較するとともに、第1章で指摘した問題点への対応が条文上いかなる形でなされたのかを明らかにする。最後に第4章では、以上のフランス法の議論に示唆を得て、わが国で債権質規定を存置することの意義を検討する。

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