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大学・研究所にある論文を検索できる 「害虫防除への応用を目指した昆虫胚発生における幼若ホルモンの機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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害虫防除への応用を目指した昆虫胚発生における幼若ホルモンの機能解析

成瀬, 祥矢 名古屋大学

2020.04.02

概要

幼若ホルモン (juvenile hormone, JH) は、昆虫の後胚発生において様々な生理的機能を有するホルモンである。昆虫の発育において重要なイベントである脱皮や変態は JH と脱皮ホルモンによって制御されている。脱皮ホルモンが脱皮を誘導する作用を有するのに対し、JH はその脱皮の性質を決める役割を担っている。JH は基本的に現状維持作用をもたらすため、血中 JH 濃度が高い若齢幼虫期では脱皮ホルモンにより現状維持( 幼虫→ 幼虫) の脱皮が引き起こされる。一方で血中 JH 濃度が低い終齢幼虫期では脱皮ホルモンにより変態脱皮( 幼虫→ 蛹→ 成虫) が誘導される。また JHが休眠や雌成虫の卵巣発育および卵形成にも関与しているとの報告も存在する。

このように多様な生理機能を有する JH の正体は、脳の周辺部に位置するアラタ体と呼ばれる内分泌腺で合成および分泌されるセスキテルペノイドである。JH はメバロン酸経路を経て生合成されたファルネセン酸が、JH 生合成酵素である CYP15 と JHAMT によりエポキシ化およびメチルエステル化されることで生合成される。

最近では JH シグナリングの分子機構に関しても多くのことが明らかになってきた。Methoprene-tolerant (Met) は bHLH-PAS ファミリーに属する転写因子でそのコア ク テ ィ ベ ー タ ー で あ る Taiman (Tai) と 共 に JH 受 容 体 を 形 成 す る 。 こ の JH-Met-Tai 複合体は JH の初期応答遺伝子である Krüppel homolog 1 (Kr-h1) の転写を誘導する。続いてこの Kr-h1 がその下流の遺伝子群の Kr-h1 binding site (KBS)へと結合することで、それらの遺伝子の発現を制御する。

このように後胚発生における JH の役割およびシグナル伝達に関しては多くの知見が得られてきた一方で、胚発生期における JH の役割に関しては多くのことは謎に包まれたままであった。しかし近年の遺伝学的研究により、完全変態昆虫のキイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster やカイコ Bombyx mori の胚発生において JHは必須ではないが、不完全変態昆虫のチャバネゴキブリ Blattella germanica においては JH が胚発生に不可欠であることが明らかになってきた。このように JH の胚発生における機能は昆虫種間で異なる可能性が高いと予想される。したがって、様々な昆虫種を用いた研究を行うことが、胚発生における JH 作用の多様性の解明に繋がると考えた。 そこで本研究では完全変態昆虫であるコウチュウ目コクヌストモドキ Tribolium castaneum と 不 完 全 変 態 昆 虫 で あ る カ メ ム シ 目 ホ ソ ヘ リ カ メ ム シ Riptortus pedestris を用いて、胚発生における JH の役割に関して検討を行った。これらの昆虫種では dsRNA を昆虫体内に微量注入することで全身性の RNA 干渉 (RNAi) を誘導できる。本研究では先ず、雌成虫に dsRNA を微量注入し、卵にその影響を引き継がせる parental RNAi を利用して、JH の生合成やシグナリングに関与する遺伝子をノックダウンし、孵化率や形態を調査することでそれらの因子の胚発生における機能を解析した。次いで、卵の大きいホソヘリカメムシにおいては、卵に直接 dsRNA を微量注入する embryonic RNAi による機能解析も試みた。

また、これとは異なるアプローチでも胚発生における JH の役割の解明に迫った。 JH 様活性物質 (JH mimic, JHM) は昆虫成長制御剤に分類される殺虫剤で、昆虫体内の JH 濃度変動を撹乱することにより、蛹や成虫への変態阻害や不妊化、および殺卵効果を示すという報告がある。本研究ではホソヘリカメムシ卵に対する JH 関連化合物の投与を行い、人為的に JH 濃度を高めた場合の胚発生への影響を評価すると共に、殺卵効果発現の分子メカニズムに関する知見を得た。

1. 完全変態昆虫コクヌストモドキの胚発生における JH 関連遺伝子の機能解析
まずコクヌストモドキを用いて、JH 受容体遺伝子 Met および JH 初期応答遺伝子 Kr-h1 の parental RNAi によるノックダウンを実施し、JH シグナリングの阻害を試みた。その結果、1) Met がコクヌストモドキの胚発生に必須であること、2) Met がコクヌストモドキ胚発生中期の形態形成に関与すること、が示された。また JH 生合成酵素遺伝子である JHAMT および CYP15A1 をノックダウンすることで、JH 生合成を抑制することも試みたが、高効率での遺伝子ノックダウンを実施できず、JH 生合成の抑制は叶わなかった。

2. 不完全変態昆虫ホソヘリカメムシの胚発生における Met の機能解析
次に、コクヌストモドキで認められた Met の機能が他の昆虫においても共通しているか検討するため、コクヌストモドキとは分類上大きく異なるホソヘリカメムシを用いて同様の解析を行った。その結果、ホソヘリカメムシにおいても Met は胚発生に必須である可能性が示されたものの、Met ノックダウンにより卵黄タンパク質生合成や卵殻形成に異常が生じたことが原因で孵化率が低下したという可能性も考えられた。

そこで、その可能性を排除するために、ホソヘリカメムシの卵を用いて Met の embryonic RNAi を実施した。その結果、やはり Met ノックダウンにより孵化率の低下が見られたことから、ホソヘリカメムシにおいても Met が胚発生に必須であることが確かめられた。

3. 不完全変態昆虫ホソヘリカメムシにおける幼若ホルモン様活性物質の投与による殺卵効果発現機構の解明
ホソヘリカメムシ胚発生期 (Day 0–7) における JH 関連遺伝子 (JHAMT, Met, および Kr-h1) の発現プロファイルを qRT-PCR により調査し、通常の胚発育に伴う JH濃度変動の推定を行った。その結果、Day 0–3 は体内 JH 濃度が低く、Day 4–7 は体内 JH 濃度が高いことが推定された。そこで低 JH 量期の Day 0 卵に対し、2 種の天然型 JH 類および 4 種の JHM の希釈系列を滴下投与することで、JH 濃度変動の撹乱を試みた。その結果、1) JH 類および JHM の投与によって胚発生中期~ 後期で発育が停止して殺卵効果が現れること、2) JHM の殺卵活性は天然型 JH 類と比べて著しく低いこと、が示された。

本研究では、コクヌストモドキとホソヘリカメムシの両昆虫種において、JH 受容体遺伝子 Met が胚発生に必須であることを示した。これは前述のチャバネゴキブリでの知見に近く、キイロショウジョウバエやカイコの例とは異なる。したがって胚発生期における Met の重要性には昆虫種間で差があることが示唆された。この結果は、昆虫種間で胚発生における JH の重要性に大きな差があることを示唆する。殺虫剤の開発においては、標的とする害虫のみに殺虫効果を示す「選択毒性」が重要とされている。したがって本研究の成果は、高い選択毒性を有する優れた新規殺虫剤の開発に繋がる可能性がある。

また本研究では、JH 類および JHM をホソヘリカメムシ胚に投与する実験から、本来体内 JH 濃度が低い時期にこれらの化合物を投与すると正常な胚発生が妨げられることが明らかになった。これは JHM の殺卵効果発現機構解明のための糸口となる重要な知見である。近年、これまで主流とされてきた神経系に作用する殺虫剤の使用が制限されてきていること、卵に効果的な殺虫剤はあまり開発されていないこと、など多くの観点から、本研究の成果は害虫防除へ応用できることが期待される。

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