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倦怠感を訴える外来受診者における睡眠時無呼吸症候群の有病率およびその関連要因

石丸, 直人 筑波大学 DOI:10.15068/00160360

2020.07.21

概要

1. 睡眠時無呼吸症候群スクリーニングの必要性
（１）睡眠時無呼吸症候群の有病率
睡眠時無呼吸症候群（以下SAS）は、睡眠中、1時間あたりに少なくとも5回、無呼吸/低呼吸が認められ、日中の眠気を伴うものと定義される。SASの有病率は、米国では2-4%(1)、英国では、男性では3.5%、女性では1.5%と報告されている(2)。アジアの国では、Sharmaらがインドの30-60歳の住民を対象に行った研究で、3.6%と報告されている(3)。韓国では、Kimらが40-69歳の住民を対象に行った研究で、男性では4.5%、女性では3.2%と報告されている(4)。香港では、Ipらが30-60歳の住民を対象に行った研究で、4.1%と報告されている(5)。また、これらの住民ベースの研究と比べて、有症状者を対象とするプライマリケア現場においては、SASは更に高い頻度であることが予想される(6)。

（２）SASと関連する疾患
SASは様々な病態や疾患と関連することが指摘されている。SASはハザード比2.0と糖尿病を超える死亡リスクを有し、脳血管障害や冠動脈疾患の合併リスクも高く(7)、社会的損失も大きい。
心血管疾患に関しては、偶発的一過性脳虚血発作あるいは虚血性脳卒中を合併するリスクが2.52倍と報告されている(8)。脳卒中に限った報告では、脳卒中リスクが2.89倍になると報告されている(9)。冠動脈疾患の合併率は2.3倍になると報告されている(10)。Marinらによる健康な住民とAHI（ApneaHypopneaIndex;1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数）30以上のSAS患者を12年間追跡した研究では、心血管イベントによる死亡率は、健康成人では3.0%であったのに対し、AHI30以上のSAS患者では10.6%と報告された(11)。Shaharらは、AHI11以上になるとAHI1.3以下の群と比べて心不全のリスクが2.38倍になると報告している(12)。
精神疾患との関連も報告されており、SASにうつ病が合併しやすいとの報告がある(13)。
SASにCPAP治療を行うことで、うつ病の症状が改善すると報告されている(14)。
このようにSASは様々な疾患と関連していることより、早期発見により生存予後を改善し(15)、社会的損失を軽減できるが(16)、忙しいプライマリケア現場で、同疾患の精査がなされることは少なく、見落とされていることが多いのが現状である(17)。睡眠障害の患者のうち大部分が、プライマリケア現場で診療されている。プライマリケアにおいて、SASの有病率の高い群を同定し、忙しい外来で働く医療従事者にも早期発見のための手立てを提供することが急務である。

2. SASスクリーニングについて
SASスクリーニングツールとしては、以下のものが用いられている（図１）。
（１）タイプ1標準的モニター
終夜睡眠ポリグラフ検査（PSG：ポリソムノグラフィー）
気流、呼吸運動、酸素飽和度、心電図、心拍数、脳波、眼電図、顎筋電図、体位、前脛骨筋筋電図を記録する。
SAS診断のゴールドスタンダードである。PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数（AHI）が15以上あるいは5以上でかつ睡眠関連症状を伴う際に、SASと診断する。
診断は最も正確であるが、大がかりな装置と熟練した技師、1泊入院および解析の時間を含む長時間を必要とするのが難点である。
（２）タイプ2簡易モニター
脳波や眼電図、筋電図、心電図といった覚醒を検出できる信号を記録できる簡易化PSGである。呼吸運動および呼吸気流を測定できないため、SASの確定診断には適さない。
（３）タイプ3簡易モニター
呼吸運動あるいは呼吸気流を含む4チャンネル以上のモニターである。
覚醒状態を把握できないため、監視下で使用する限りSASの診断に有用とされる。
感度・特異度は、カットオフAHI5以上とした場合は各々96.1%、64.9%、15以上とした場合は各々81.3%、82.6%である(18)。
（４）タイプ4簡易モニター
酸素飽和度・呼吸気流を中心にした1-2チャンネルのモニターで、携帯型酸素飽和度モニターが該当する。
簡便で費用負担及び侵襲性が少なく、自宅でも測定可能であり、血中酸素飽和度がベースラインの3%以上低下する回数が15回/時間以上（3%ODI:oxygendesaturationindex≧15）をカットオフとした場合、特異度は90％と高い。一方、感度は51％と低く、軽症SASは見逃される可能性がある。カットオフ値によるSAS診断に対する携帯型酸素飽和度モニターの陽性尤度比、陰性尤度比、感度、特異度を表1に示す(19)。
タイプ4モニターの注意点として、末梢循環不全、局所の血行障害、不整脈がある場合や、痩せている患者ではパルス信号を検出できずに、偽陽性となってしまう可能性がある。
終夜睡眠ポリグラフ検査はSASの標準的診断法であるが、高価かつ複雑で、その施行には入院が必要である。標準的診断法である終夜睡眠ポリグラフ検査が必要なSASの検査前確率の高い患者を選別する症状に基づいた予測法を開発することが必要である。実際に、スペインで行われた研究では、SASの検査前確率の高い群において、自動スコアリング、半自動治療決定支援機能付きの簡易モニターを用いた場合に、終夜睡眠ポリグラフ検査を用いた場合と比べて、診断性能を損なわずに費用対効果が優れていたということが明らかになっている(20)。

3. SASのリスク要因
（１）患者属性
　SASは、男性、高齢、閉経後女性、アジア人、米国先住民、ヒスパニック、喫煙者、業務上トラックを運転しているドライバーのような高リスクドライバーのリスクが高い(21-23)。男性は、女性と比べて、SASリスクが2－3倍と高く、その原因としては、性ホルモンや上気道サイズ、呼吸調節の違いが影響しているものと考えられている(24,25)。Edwardsらは、高齢者では、肺弾性収縮力低下による肺気量低下に伴い上気道の連結が障害され、上気道拡張筋筋力が低下すると報告した(26)。肺気量低下、上気道解剖異常あるいは筋機能の障害、体液貯留もリスク因子として知られている(22,23)。
　肥満は、蓄積した脂肪が直接上気道を狭小化させる以外に、肺気量に影響することで睡眠時無呼吸リスクとなるものと考えられている(23,27)。YoungらはBMIが１SD上がる毎に、SASリスクが4倍になると報告している(1)。Pepperdらは、10%の体重変化が30%のAHIに相関するということを明らかにしている(28)。頸部周囲長が長い場合にも、SASのリスクが上昇するということがわかっている(29)。
（２）合併疾患
　心不全、心房細動、夜間不整脈といった心疾患、治療抵抗性高血圧、脳卒中、肺高血圧といった血管疾患もSASのリスクとなる(30-34)。2型糖尿病患者においては、SASの有病率が高いことが明らかとなっている(35)。また、薬剤抵抗性高血圧の患者においてはSASの頻度が高いことが知られている(36)。Borgelらは高血圧緊急症で救急受診した患者の70%にSASを認めたと報告している(37)。
　更に、身体疾患のみならず、うつ病の患者でもSASの頻度が高いことが報告されている(38)。

4. SASの身体症状
SASを疑わせる身体症状として睡眠中の無呼吸、いびき、睡眠中の窒息感、過度の眠気、熟眠感欠如、不眠、夜間頻回覚醒、夜尿、起床時頭痛、集中力低下、倦怠感、記憶喪失、性欲の減退、易怒性があり(21)、このような症状がある場合には、SASのスクリーニングを行うべきである。上記の症状のうち、我々は倦怠感に着目した(39)。SASと関連する身体症状の多くが睡眠や気分障害に関係するのに対して、倦怠感は非特異的で、かつ、プライマリケア現場で遭遇することが多いからである。
実際、成人の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関する睡眠障害国際分類改訂版第3版（ICSD-3）診断基準では、睡眠1時間当たり5回以上の呼吸イベント（無呼吸または低呼吸、呼吸努力関連覚醒respiratoryeffortrelatedarousal：RERA）に加えて、以下のうち少なくとも1つ以上が該当する場合に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断されると定義されており(40)、その一項目の中でも倦怠感が取り上げられている。
● 日中の眠気または爽快感のない睡眠、倦怠感、不眠症状
● 呼吸停止または喘ぎ、窒息感で覚醒する
● ベッドパートナーが、患者の睡眠中の大きないびきまたは呼吸中断、その両方を報告する
● 高血圧や気分障害、認知機能障害、冠動脈疾患、脳卒中、心不全、心房細動2型糖尿病

5. SASと倦怠感
SASと倦怠感については、先行研究において、SASにおける疾患の重症度と倦怠感の重症度が相関するということが明らかになっている(41)。また、SAS高リスク群の63%に倦怠感を認めると報告されている(18)。しかし、倦怠感を呈する患者群を同定することが、SASの早期発見につながるかどうかについては調べられていない。もし倦怠感を訴える外来受診者におけるSASの有病率が判明すれば、プライマリケア現場に関わる医療従事者に同疾患の存在がより広く認知され、早期発見につながるものと考えられる。

6. 研究目的
本研究はSASの症状である倦怠感に焦点を当て、プライマリケア現場において、倦怠感を訴える患者におけるSASの有病率を明らかにすることおよび同疾患に関連する要因を明らかにすることを目的とした。

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