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大学・研究所にある論文を検索できる 「測定型量子計算における有限温度及び磁場効果」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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測定型量子計算における有限温度及び磁場効果

秋本 一輝 中央大学

2022.09.22

概要

1 研究背景
量子コンピュータのアイディア自体は古く, リチャード・ファインマンが, 1982 年に「自然をシミュレーションしたければ, 量子力学の原理でコンピュータを作らなくてはならない」と述べたことに端を発する. そして, 1985 年にオックスフォード大学の物理学者デイビット・ドイチュによって量子コンピュータが理論的に定式化された.

量子コンピュータと従来の古典コンピュータの最も異なる点は, その情報の表し方である. 古典コンピュータの内部では, 情報は 0 か 1, どちらか 1 つの状態を取ることのできる「古典ビット」で表現される. これに対し, 量子コンピュータの内部では, 情報は 0 と 1 の重ね合わせの状態を取ることのできる「量子ビット」で表現される. 量子コンピュータは, 量子ビットを用いて多数の計算を同時に行い, その結果をうまく処理することで, 素因数分解やデータベース探索, 特定のサンプリング問題において古典コンピュータと比べて効率よく解けることが知られている. 現在, IBM では 127 量子ビットの量子コンピュータが実現されている. 量子コンピュータのスタンダードなモデルは回路型と呼ばれ, 最初に用意したエンタングルしていない状態にゲートと呼ばれる操作を次々と施すことにより計算を行う.

最近の研究では, 測定型量子計算と呼ばれるモデルが注目を集めている. 測定型量子計算は, 2001年に R. Raussendorf と H.J. Briegal により提案された回路型とは異なる量子計算モデルである [1]. クラスター状態 (グラフ状態) と呼ばれる特殊なエンタングルした量子状態を用意し, その状態に適応的に 1 キュービット測定を繰り返すことで任意の計算を行うことができる. 一方向性量子計算とも呼ばれる. また, 測定型量子計算は, 実験で量子計算機をつくる上でも有望なモデルである.いったん最初のリソース状態さえ用意できれば, 後は 1 キュービット測定だけで量子計算が実現できるので, 2 キュービットゲートを作ることが難しい実験系 (例えば量子光学系) の場合, 測定型量子計算の方が都合が良いと考えられる. 例えば, 量子光学系だと 2 キュービットの間にエンタングルをつくるのは難しく, 確率的にしか成功しない. また, 回路モデルで量子計算を行なった場合, 計算の途中で, 2 キュービットの間にエンタングルをつくる操作が失敗すると, 量子計算全体が失敗してしまい, 再び最初からとなってしまう. しかし, 測定型量子計算だと, リソース状態を作る段階では計算が始まっていないので, たとえ 2 キュービットゲートを作用させるのが失敗しても, その箇所だけもう一度やり直せばよく, 何度も繰返すことができる. そして, 望みの大きさのリソース状態ができたら, あとは測定するだけで量子計算を実行できる.

測定型量子計算は, 測定により状態を量子テレポーテーションさせていくことでゲート操作を行う [1]. 量子テレポーテーションを行うためにはエンタングルメントした状態が必要不可欠である.そのため, 測定型量子計算に利用されるリソース状態はエンタングルメントしている必要がある.量子テレポーテーションに利用される最も有名な状態としてベル状態がある. この状態は量子情報でよく知られているベル不等式を破る. ベル不等式は, 古典論の様な局所実在論が満たすべき不等式である. 局所実在論とは, 以下の局所性と実在性の両方を兼ね備えた理論の総称である.

1. 局所性とは, 遠く離れた (例:月と地球) 地点での観測は相互に影響し合わず, 一方の観測によって, もう一方の観測結果が変化しないことである.

2. 実在性とは, 客観的実在が観測とは関係なく存在することである. (例:月は観測せずとも位置と運動量が時事刻々と決まっていて, 常に存在している.)

一般に古典論は局所実在論である. しかし, ミクロな系を記述する量子論はベルの不等式を破ることから局所実在論ではない. このように, ベル状態に限らず, 測定型量子量子計算のリソース状態として用いられるクラスター状態, ハイパーグラフ状態もまたベル不等式の破る. また, これらの状態において, 特定のベル不等式の破れがキュービット数に応じて指数的に大きくなることが報告されている [2, 3, 4].

2 研究目的
研究背景で述べたように, 測定型量子計算を実行するためには, エンタングルしたリソース状態を用意する必要がある. 純粋状態としてのリソース状態を用意することが理想だが, 実際の実験では, 温度や外的な環境の影響を無視することはできない. 特に, 現在実験では量子誤り訂正ができるほどのキュービット数を用意することができない [5]. そのため, 温度や外的な環境の影響を評価しておくことは, 実験にとって非常に重要である. そこで, 本研究では, 測定型量子計算のリソース状態であるグラフ状態, 及びハイパーグラフ状態に対する有限温度, 及び磁場の影響について調べる.研究背景で述べたように, ベル不等式はエンタングルメントの度合いを測る有力な指標である. そこで本研究では, 有限温度, 磁場の影響の下で, グラフ状態, ハイパーグラフ状態によりベル不等式を評価し, ベル不等式の破れに対する温度, 磁場の影響やキュービット数の依存性を調べる.

3 ハイパーグラフ状態
ハイパーグラフ状態はグラフ状態を拡張した状態である [6]. ハイパーグラフ状態をリソース状態とするユニバーサルな量子計算が提案されている [7, 8] ハイパーグラフ状態は以下のように定義される.
あるハイパーグラフ G = (V, E) を考える. V は頂点の集合, E はハイパー辺の集合を表す. 各頂点にキュービットを配置する. n キュービットある時, n = |V | である. 最初に, 各キュービットを|+⟩ の状態に用意する. ここで, グラフ状態と同様に, CCZ 同士は互いに交換するため, 作用させる順序は任意でよい. このようにして作られる状態 |HG⟩ と書ける. CCZe は e で結ばれている 3 つの頂点に作用する CCZ である. 上の定義では, CCZのみで作られるハイパーグラフ状態を考えているが, 一般には, 4 キュービットに CCCZ が作用する状態, 2 キュービットに CZ が作用する状態もハイパーグラフ状態に含まれる.

4 ベル不等式
測定型量子量子計算のリソース状態であるクラスター状態, ハイパーグラフ状態に対するベル不等式の破れについて議論する. これらの状態に対するベル不等式についてはいくつか先行研究がある. GHZ 状態, クラスター状態, ハイパーグラフ状態においてはキュービット数が増えるにつれて指数的にベル不等式が破れることが知られている [2, 3, 4]. また, クラスター状態においては実験的にも破れが確認されている [9]. MBQC では量子テレポーテーションを利用して演算を行うのでエンタングルメントが非常に重要である. 量子状態のエンタングルメントはベル不等式の破れにより評価できる. そのため, リソース状態がどれくらいエンタングルメントを持っているかベル不等式を用いて調べる. 特に, 本研究では, 温度や磁場の影響によりベル不等式の指数的な破れがどのように変化するかについて調べる.

5 結果
本研究では, ハイパーグラフ状態におけるベル不等式の破れに対する温度, 磁場の影響を調べた.その結果, ある温度以上で, 多体の非局所相関が抑制されるため, ベル不等式は破れなくなることがわかった. また, ある特定の温度以下の温度ではベル不等式の破れはロバストで, 温度の影響を大きく受けない. また, 有限温度の影響によりある温度以上では, ベル不等式の破れの増大は抑制され,量子ビットの数に対する依存性が指数的から冪的に変化する振る舞いが見られた.
さらに, キュービット数が増加するにつれてより高温まで, 非局所相関を保持できることがわかった. グラフ状態と比較し, ハイパーグラフ状態の方がキュービットの増加に対し, LHV モデルにおける期待値の上限と一致する温度 Tc の増加する割合が大きいことが確認できた. このことから,キュービット数を増やすと, グラフ状態よりもハイパーグラフ状態の方が非局所相関を保持できそうだと期待できる. およそ 18 キュービットを超えたあたりでグラフ状態よりもハイパーグラフ状態の方が非局所相関を保持できると予想される.

一方, 磁場についても有限温度と同様で, 磁場がないときでは ⟨B(1)⟩, ⟨B(2)⟩ に対する不等式(3),(4) はどちらも破れているが, 高磁場なるにつれて, まず最初に不等式 (4) が破れなくなり, その後, 不等式 (4) も破れなくなることが確認できた. これは, 2 体の非局所相関よりも 3 体の非局所相関の方が磁場に対して弱く, 先に消えることを意味する. また, z 磁場と比較し, x 磁場に対しての方がより高磁場まで非局所相関を保持できることが確認できた. 磁場がないときであれば, 量子の期待値と古典の期待値の上限の比 R が指数的に増加するのに対し, 磁場があるときでは, 磁場の影響により指数的な破れが抑制されることが確認できた. また, z 磁場と比較し, x 磁場の方がキュービット数が増えるについてより高磁場まで非局所相関を保持できることがわかった.

参考文献

[1] R. Raussendorf, D. E. Browne, and H. J. Briegel. Measurement-based quantum computation on cluster states. Phys. Rev. A, 68(2), Aug 2003.

[2] N. D. Mermin. Extreme quantum entanglement in a superposition of macroscopically distinct states. Phys. Rev. Lett., 65:1838–1840, Oct 1990.

[3] G. T´oth, O. G¨ uhne, and H. J. Briegel. Two-setting bell inequalities for graph states. Phys. Rev. A, 73(2), Feb 2006.

[4] M. Gachechiladze, C. Budroni, and O. G¨ uhne. Extreme violation of local realism in quantum hypergraph states. Phys. Rev. Lett., 116:070401, Feb 2016.

[5] J. Preskill. Quantum computing in the nisq era and beyond. Quantum, 2:79, Aug 2018.

[6] M. Rossi, M. Huber, D. Bruß, and C. Macchiavello. Quantum hypergraph states. New Journal of Phys., 15(11):113022, Nov 2013.

[7] J Miller and A Miyake. Hierarchy of universal entanglement in 2d measurement-based quantum computation. npj Quantum Information, 2(1), Nov 2016.

[8] Y. Takeuchi, T. Morimae, and M. Hayashi. Quantum computational universality of hypergraph states with pauli-x and z basis measurements, 2019.

[9] B. P. Lanyon, M. Zwerger, P. Jurcevic, C. Hempel, W. D¨ ur, H. J. Briegel, R. Blatt, and C. F. Roos. Experimental violation of multipartite bell inequalities with trapped ions. Phys. Rev. Lett., 112:100403, Mar 2014.

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