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大学・研究所にある論文を検索できる 「老化ヒト歯根膜細胞のコラーゲン代謝におけるHeat-Shock Proteinsの機能解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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老化ヒト歯根膜細胞のコラーゲン代謝におけるHeat-Shock Proteinsの機能解析

西川, 有彩 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
熱誘導性タンパク質Heat-Shock Proteins(HSPs)は、ストレス環境下のタンパク質をフォールディングし、タンパク複合体の形成や安定化に寄与することで、その高次構造の維持に機能するシャペロン分子である。歯根膜は、歯槽骨とセメント質の間に介在する結合組織として豊富な細胞外マトリックス(ECM)を特徴とするが、老化に伴って歯根膜は狭小化し、その物理的な弾性が低下する。歯根膜に発現する代表的なECMタンパクは、type I collagenである。2本のa1鎖と1本のa2鎖からなる3本鎖コラーゲン高分子の形成においては、タンパクの生合成が精緻に調節・制御される必要があることから、HSPsは、コラーゲンタンパクの恒常性維持に極めて重要であるものと考えられる。これまでに、HSPsは、老化や様々な生体ストレスによりその発現量が大きく変動すること、そして骨格などの硬組織形成に重要であることが明らかとされている。近年、小胞体ストレスセンサータンパクの調節因子として同定されたHSP47は、コラーゲンに特異なシャペロン分子であり、その遺伝変異の線維症への関与が注目されている。また、小胞体における変性タンパク質の品質と量の管理は、小胞体ストレス応答により制御されるが、その異常が骨や軟骨などの硬組織の形成に影響を及ぼすことが小胞体ストレス関連遺伝子の変異マウスにより明らかとされている。しかしながら、HSPsが高齢者の歯周病病態や歯周組織の恒常性に果たす役割については、未だ十分には明らかとなっていない。そこで本研究では、老化歯根膜細胞を用いて、老化がHSPsのコラーゲン代謝・調節並びに小胞体ストレス応答に及ぼす影響について解析、検討した。

【材料および方法】
初代培養ヒト歯根膜細胞(以下HPDL)に、invitroで3T3細胞の継代培養の変法により複製老化を誘導し、細胞分裂が停止した老化HPDLを樹立した。継代数P13以下のHPDLを正常HPDLとし、ほぼ細胞分裂を停止した継代数P26以上のHPDLを老化HPDLとして実験に供した。HSPs誘導薬としてGeranylgeranyl acetone(GGA)、HSPsの阻害薬としてVER-155008、HSP47の特異的阻害薬としてCol003を用いた。また、siHSP47oligosをHPDLに導入し、HSP47をノックダウンした。小胞体ストレス誘導薬として、糖鎖修飾阻害薬であるツニカマイシン、小胞体のカルシウムポンプ阻害薬であるタプシガルギンを用いた。

正常HPDL、老化HPDLにおいて、細胞外へ分泌された成熟type Ⅰ collagenをELISA変法により定量解析した。小胞体、ゴルジ体をER-Tracker TM、BODIPY®にてそれぞれ標識し、type Ⅰ collagenに対する特異抗体を用いた細胞免疫染色により、細胞内の局在を共焦点顕微鏡にて観察、評価した。

次に、HSPsがHPDLのtype Ⅰ collagen代謝に及ぼす影響を、HSPs誘導薬あるいは阻害薬により処理し、遺伝子転写、細胞内輸送、成熟type Ⅰ collagenの分泌について、q-RTPCR法、ELISA変法、細胞免疫染色法により検討した。また、同様の実験を、Col003処理あるいは、siHSP47を導入したHPDLで行い、HSP47の機能について検討した。高週齢マウス歯根膜の変性コラーゲンの発現については、マウス上顎骨の組織切片を変性コラーゲンに特異的に結合する蛍光プローブcollagen hybridizing peptide(CHP)を用いて染色し、その蓄積について評価した。

小胞体ストレスに及ぼすHSPsの機能を解析するために、ツニカマイシン、タプシガルギン処理がHPDLのtype Ⅰ collagen生合成に及ぼす影響をELISA変法、細胞免疫染色法により検討し、HSPs誘導薬もしくは阻害薬処理下における小胞体ストレスセンサータンパク分子であるInositol-requiring enzyme1(IRE1)、Activating transcription factor6(ATF6)、PKR-like endoplasmic reticulum kinase(PERK)の発現量をウェスタンブロッティング法にて検討した。

【結果および考察】
高週齢マウスの歯根膜において、3本鎖コラーゲンの高次構造が異常な変性コラーゲンが蓄積していた。老化HPDLにおいて細胞内に変性コラーゲンが蓄積し、成熟typeⅠcollagenの細胞外への分泌が有意に低下していた。この結果より、老化により歯根膜には変性コラーゲンが蓄積し、成熟typeⅠcollagenの産生が低下することが示唆された。共焦点顕微鏡の観察により、小胞体においてコラーゲン特異的なシャペロンHSP47とtypeⅠcollagenの共局在が観察された。そして、老化HPDLにおいては、HSP47の減少とtypeⅠcollagenの細胞内の凝集が認められた。これは、老化によるHSP47の減少が、細胞内における変性コラーゲンを増加し、成熟コラーゲンの細胞外への分泌に影響を及ぼすことを示唆するものである。

VER-155008を用いたHSPsの機能阻害により、HPDLのtypeⅠcollagenの発現量ならびに成熟typeⅠcollagenの産生が低下した。この際に、typeⅠcollagenのmRNAの発現が抑制されなかったことより、HSPsはコラーゲンの代謝を転写ではなくタンパク翻訳後に調節制御していることが示唆された。そして、GGAを用いたHSPsの誘導により、老化HPDLのHSP70、HSP90、HSP47のタンパク発現が増強し、成熟typeⅠcollagenの産生量が部分的に回復した。これより、HSPsのシャペロン活性によるタンパクのフォールディングがHPDLのコラーゲンの代謝に関係することが強く示唆された。

HSP47特異的阻害薬であるCol003は、低濃度で成熟typeⅠcollagenの産生を抑制し、細胞内のtypeⅠcollagenの凝集を誘導した。siHSP47を用いてHSP47をノックダウンしたHPDLにおいても、成熟typeⅠcollagenの有意な産生量の低下と変性コラーゲンの小胞体での凝集が観察された。また、VER-155008を用いたHSPs阻害薬処理により、HPDLのtypeⅠcollagen並びに変性コラーゲンの小胞体での蓄積とゴルジ体近傍での凝集が観察された。これらの実験結果より、HSPsによるタンパクのフォールディングが小胞体から他のオルガネラへの細胞内輸送に重要であること、特にHSP47が小胞体においてtypeⅠcollagenの三重らせんを安定化することは、機能的なtypeⅠcollagenタンパクの合成にとり重要であることが示唆された。HSP47の阻害効果が他のHSPs阻害より影響が大きいことから、シャペロン分子HSP47のコラーゲンへの特異性は高く、小胞体におけるtypeⅠcollagenの高次構造の安定化は、コラーゲンを含んだ輸送小胞の小胞体膜からの出芽を促進し、ゴルジ体への小胞体輸送を制御している可能性が考えられる。

老化HPDLにおいて、HSP47の減少による変性コラーゲンの小胞体内での蓄積が小胞体ストレス応答に関係する可能性が考えられた。そこで、小胞体ストレス誘導薬としてタプシガルギン、ツニカマイシンを用いてHPDLに小胞体ストレスを誘導し、コラーゲン代謝との関連を検討した。Col003処理やsiHSP47導入HPDLを用いた実験結果と同様に、ツニカマイシン、タプシガルギン処理したHPDLにおいて、細胞外へ分泌された成熟typeⅠcollagen量が濃度依存的に減少し、typeⅠcollagenの細胞内輸送の障害が観察された。実際に、HSPs阻害薬により小胞体ストレスセンサータンパクであるIRE1、ATF6、PERKの発現量が濃度依存的に増加し、HSPs誘導薬により、その減少が観察された。Col003処理によるHSP47の機能阻害が、IRE1、PERKの発現を強く増強したことから、HSP47の機能低下が小胞体ストレスにも関わる可能性が示唆された。これらの結果より、HPDLの小胞体ストレス応答にとり、HSPs、とりわけHSP47による変性コラーゲンの小胞体内での凝集・蓄積の回避が重要であることが示唆される。

【結論】
本研究では、老化歯根膜細胞のコラーゲン代謝に焦点を当て研究を行った。その結果、HSPsによるタンパクのフォールディングやHSP47による小胞体でのコラーゲンタンパクの三重らせん構造の安定化が、小胞体からゴルジ体への細胞内輸送並びに成熟typeⅠcollagenの分泌に必要であることが示唆された。そして、老化や環境ストレスにより、変性したtypeⅠcollagenが小胞体内や細胞内に凝集・蓄積することで成熟typeⅠcollagenの産生低下や小胞体ストレスが惹起されるものと推察される。

よって、高齢者の歯根膜においては、HSPsの発現や機能低下により、タンパク高次構造が異常なECMタンパクが増大し、組織を脆弱化することで歯周病の病態進行に関与することが考えられる。

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