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大学・研究所にある論文を検索できる 「イプラグリフロジン開始後の赤血球に関連するパラメーターの時間依存性変化の分析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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イプラグリフロジン開始後の赤血球に関連するパラメーターの時間依存性変化の分析

Yamada, Tomoko 神戸大学

2021.09.25

概要

【背景】
SGLT (Sodium glucose cotransporter) 2 阻害薬を投与すると、Hematocrit (Ht) が上昇することが知られている。SGLT2 阻害薬の大規模臨床試験 (EMPA-REG Outcome) の事後解析では、SGLT2 阻害薬投与後の Ht 上昇は心血管死の発症率を低下させる効果があると結論付けられている。

SGLT2 阻害薬投与後の Ht 上昇機序に関する研究については、複数の報告が存在する。すなわち、SGLT2 阻害薬投与により、赤血球生成の重要な刺激因子であるエリスロポエチンと未成熟赤血球である網状赤血球が上昇するという報告がいくつか存在する。しかし、SGLT2阻害薬によるエリスロポエチンと網状赤血球の両者の経時的変化は、1 つの小規模研究で示されているのみである。さらに別の研究では、SGLT2 阻害薬を投与しても、エリスロポエチンが上昇しなかったと報告されている。

本研究の目的は、赤血球生成に関連する様々なパラメーターの経時的変化を検討し、SGLT2阻害薬による治療中に Ht 上昇をきたした患者の特性を明らかにすることである。

【方法】
本試験は神戸大学医学部附属病院を含む計 8 施設での多施設共同非盲検前向き介入試験(SOAR KOBE study) (UMIN000015478)の二次解析である。

対象者は、20 歳以上 75 歳未満で、BMI が 22kg/m2以上、HbA1c が 6.5%以上 9.5%未満にコントロールされている 2 型糖尿病患者であった。除外基準については、1) 1 型糖尿病患者、2) 同意取得日から過去 6 か月以内に重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡の患者、3) 重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者、4) 重度の肝機能障害のある患者、5) 重度の腎機能障害を有する患者、6) ステロイド治療中の患者、7) 胃切除術を実施した患者、8) 同意取得日から過去 6 ヶ月以内に脳卒中、心筋梗塞およびその他入院を必要とする重篤な血管系合併症を発症した患者、9) 過去に SGLT2 阻害薬の投与を受けた患者、10) 妊娠、授乳婦、妊娠している可能性又は予定のある患者、11) 使用薬剤の成分に対し過敏症の既往を有する患者とした。

対象者は、イプラグリフロジン 50mg を 1 日 1 回朝食後に 16 週間内服した。評価項目は、赤血球数、ヘモグロビン値、Ht、MCV、MCH、MCHC、網状赤血球、エリスロポエチン、eGFR、NT-pro BNP、HbA1c、体重であった。

0 週から 16 週の Ht 上昇の有無で 2 群に分類した。まず、ベースラインの特徴が異なるかを解析した。次に、Ht 上昇の要因を評価するため、Ht 上昇の有無を従属変数とし、ベースラインの Ht、性別、最大血清エリスロポエチン濃度、eGFR、および体重の 16 週間の変化量の5 つを説明変数として、二項ロジスティック回帰分析を行った。さらに Ht が上昇するか否かを予測するための、ベースラインの Ht の最適なカットオフレベルを決定するため、ROC 解析を行った。最後に、Ht 上昇群と非上昇群の 2 群において、各パラメーターの経時的変化が異なるかを検討するため、0~16 週における HbA1c、eGFR 、体重の変化と、0~2 週、もしくは 4 週における、エリスロポエチン、網状赤血球比率、網状赤血球数、MCV、MCH、および MCHC の変化をランダムインターセプトモデルで分析した。

【結果】
Ht 上昇群は非上昇群に比べ、ベースラインの赤血球数と Ht が有意に低かった (Ht 上昇群 vs Ht 非上昇群:RBC; 468±47 vs 497±50 (×104/μL), p = 0.024, Ht; 42.2±4.2 vs 45.1±3.4 (%), p = 0.009) が、それ以外のパラメーターは 2 群間で異ならなかった。Ht 上昇を予
測するための二項ロジスティック回帰分析では、性別、および最大血清エリスロポエチン濃度、eGFR と体重の変化量で調整してもベースラインの Ht が有意に関連した(オッズ比 0.716(95%CI 0.581〜0.882)、p = 0.002)。

イプラグリフロジンで 16 週間治療した後に Ht が上昇するか否かを予測するための、ベースラインの Ht のカットオフ値は、男性の場合、Ht を 46.9%に設定すると、感度 73.5%、特異度 75.0%となり、女性の場合、Ht を 41.7%に設定すると、感度 75.7%、特異度 60.0%であった。

最後に、ランダムインターセプトモデルでは、Ht 上昇群では Ht 非上昇群に比べて、Ht 、RBC、Hb が有意に増加した(p <0.001)。血清エリスロポエチン濃度は、Ht 上昇群、非上昇群とも 2 週、もしくは 4 週で上昇し、両群間に差を認めなかった(p = 0.837)。網状赤血球比率は、4 週で、Ht 上昇群では Ht 非上昇群に比べて有意に増加した(p = 0.043)。MCH は両群とも変化を認めなかったが(p = 0.995)、MCV および MCHC は、Ht 非上昇群と比較してHt 上昇群でそれぞれ増加および減少した(MCV; p = 0.009、MCHC; p = 0.034)。

【考察】
本研究における新たな発見は、イプラグリフロジンの投与後に Ht が上昇しない症例が20.0%存在したということである。さらに、血清エリスロポエチン濃度が Ht 上昇群と非上昇群の両方で増加したのに対し、赤血球生成は前者でのみ刺激された。これらの発見は、2 群間の赤血球生成の違いは、エリスロポエチンの産生ではなく、エリスロポエチンの応答性に起因することを示唆している。

本研究では、MCH と MCHC がイプラグリフロジン治療後に減少したことを示した。これら2つの指標の変化は、同じSGLT2阻害薬である、エンパグリフロジン投与6か月後にMCH、MCHC が減少したことを示した過去の研究と合致した所見である。その研究では、体内の鉄貯蔵を反映するフェリチンも減少し、赤血球生成の増加によって誘発された相対的な鉄欠乏の結果として MCH と MCHC が減少したことを示唆している。我々は、さらに、MCV がSGLT2 阻害薬による治療中に一時的に増加したことも示した。網状赤血球の量が赤血球の量よりも多いことを考えると、MCV の一時的な増加は網状赤血球の生成に起因する可能性がある。これらの結果はすべて、SGLT2 阻害薬の投与後の赤血球生成の増強を示唆しているといえる。

SGLT2 阻害薬によって誘発される Ht の増加が、水分貯留によって引き起こされるのか、赤血球生成によって引き起こされるのかについては議論の余地があった。既報では、SGLT2阻害薬による治療の初期段階での体重減少が、主に体内の水分減少に起因することが示唆されている。しかし、我々は、Ht 上昇群と非上昇群で、eGFR や体重の変化は異ならないことを示した。一方、網状赤血球比率、MCV、MCHC は 2 群で変化が異なることを示した。この2 群における差異が、Ht 上昇の有無が水分の変化ではなく、赤血球生成に起因すると考えられる理由のひとつである。

我々はさらに Ht が上昇するか否かは、ベースラインの Ht レベルで決まることを明らかにした。さらに、ROC 解析により、イプラグリフロジン治療後の Ht の上昇を予測するベースライン Ht の最適なカットオフレベルを導き出した。Ht の上昇が心血管死亡率の低下に対する薬剤の好ましい効果に最も顕著に寄与する要因であったことを考えると、我々の結果はSGLT2阻害薬の投与に好ましい対象者を決定する有用なマーカーを提示しているかもしれない。

本研究の限界は、ワンアームデザインであったことである。さらに、この結果が他のクラスの SGLT2 阻害薬でも同様の結果をもたらすか否かは、さらなる研究が必要である。

【結論】
本研究は、イプラグリフロジン投与開始直後に起こる血清エリスロポエチン濃度の増加が、少なくとも部分的に、ヘマトクリットの上昇に寄与する可能性があった。さらに、ヘマトクリットの増加は、エリスロポエチンの産生に起因するが、エリスロポエチンに対する赤血球応答は投与前の Ht 値により差があることが示唆された。

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