A Novel Approach to Subcutaneous Collecting Lymph Ducts Using a Small Diameter Wire in Animal Experiments and Clinical Trials
概要
[はじめに]
リンパ浮腫に対する治療は,用手的なマッサージや圧迫を中心とした保存療法が長らく主体だった.近年,医療機器と手術手技の進歩に伴い,マイクロサージャリーを中心とした外科療法が広まった.具体的にはリンパ管静脈吻合術(LVA)(O’Brien et al., 1977)や血管柄付きリンパ節移植,リンパ管移植などである.その中でも侵襲の低さからLVAが世界で広く行われ,その有用性は文献的にも数多く報告されている.しかし,吻合部が経時的に閉塞することや標準的な方法ではLVA単独の浮腫減少効果は限定的であることも報告されている.そのため,ドレナージ効果が高く長期的に開存する「質の高い吻合」をどのように行うか,ということが臨床的に解決すべき課題となっている.
そこで我々は,皮下集合リンパ管の同定方法に着目した.LVAなど手術を行う際,近赤外線蛍光リンパ管造影(NIR)(Unno N et al., 2007)(Yamamoto T et al., 2011)(Burnier P et al., 2017)を用いて皮下集合リンパ管を同定することが一般的である.これは,患肢に蛍光色素を注射しリンパ流をリアルタイムにかつダイナミックに観察するものである.非常に有用性が高い検査法sであるが,近赤外線波長の蛍光をカメラで観察するため,観察可能深度は約2cm程度と言われている.しかも,リンパ浮腫の患肢では一旦集合リンパ管へ取り込まれたリンパ液がリンパ管から皮下や真皮内に逆流するように漏出するDermal Back Flow(DBF)という現象が生じる.NIRにおいてDBFを認める部位は真皮層で蛍光を発してしまうため,それより深部は観察できない.つまり,NIR単独で同定できる皮下集合リンパ管は限定的で,多くの症例で同定できず吻合できない機能的リンパ管が潜在していると考えた.そこでわれわれは末梢動脈性疾患に対して使用するガイドワイヤーを改良し,適度な柔軟性を持ちリンパ管へ挿入可能な細径ワイヤー(LW)を開発した.本稿ではLWの動物実験における前臨床評価と,ヒトにおける臨床使用経験を報告する.
[対象と方法]
前臨床評価とし,ブタ6頭を対象としてLWの評価を行った.ブタ後肢下腿において皮下集合リンパ管を同定し,その外径を計測した.顕微鏡下に同定したリンパ管において側孔を形成し,LWを挿入した.LWを鼠径リンパ節まで進入させ,複数回往復させた.LWが往復したリンパ管を逆行性に造影し弁機能障害の有無を評価した.また,そのリンパ管とリンパ節を採取し内膜損傷などを組織学的に解析した.ヒトに対する臨床使用は下肢リンパ浮腫患者2例を対象とした.NIRを用いて膝関節周囲の皮下集合リンパ管同定し,顕微鏡下にLWを挿入した.X線透視装置で確認しながらLWを進入させ,それらをもとに大腿部において皮下集合リンパ管の同定を試みた.
[結果]
ブタ後肢下腿において36本の皮下集合リンパ管を同定した.外径は0.3~0.7mm(0.41±0.11mm)であった.そのうち30本においてリンパ管ワイヤーを挿入した.ヒトと異なり皮下集合リンパ管の分枝や合流が多かったが,いずれも抵抗なく挿入・進入可能であった.LWの挿入を反復した部位へシースを逆行性に留置し造影を試みたところ,抵抗が強くわずかばかりも造影剤を注入することはできなかった.組織学的解析においては,採取したリンパ管の一部に内皮損傷と炎症細胞の集積をわずかに認めた.採取したリンパ節においては出血を疑う所見を認めた.好酸球を中心とした炎症細胞の集積を認めたが,正常なリンパ節でも同様の所見を認めた.
下肢リンパ浮腫患者2例においては,いずれも膝関節近傍内側で皮下集合リンパ管を同定し,顕微鏡下にLWを挿入した.LWの挙動をX線透視装置で確認しながら大腿部近位まで進入させた.透視所見をもとに大腿部において皮下集合リンパ管を同定し,リンパ管静脈吻合術を施行した.
[考察]
動物実験と臨床使用において,開発したLWが皮下集合リンパ管を同定する方法として有用であることを確認した.臨床的には,大腿部など近位かつ深部の皮下集合リンパ管を同定することが可能となるため,そういった部位における術中のリンパ管同定法として有用であることが示唆された.
ブタ後肢の皮下集合リンパ管径は約0.4mm程度で,ヒトと同等であった.ヒトと異なり分枝や合流が散見されたが,手技的には問題なくLWの挙動を確認するのに十分であった.組織学的には内膜損傷をごく一部に認めたが,過度な操作を行ったリンパ管の評価であることと,弁機能障害は来していないことなどから,臨床上の問題は生じえないものと思われた.冠動脈におけるワイヤーやカテーテル,その他のデバイスによる穿孔のリスクは報告により異なるが,約0.1%~0.58%とされている(Fasseas P et al., 2004).リンパ管は穿孔しても致死的な合併症とはなりえないが,X線透視装置など補助デバイスを使用し,穿孔を疑う場合には適宜造影し,確認することが重要と考える.
また本検証で使用したブタは疾患モデル動物ではなく,正常なリンパ管において評価している.そのため,内膜損傷やリンパ管穿孔のリスクは実臨床におけるデータと異なる可能性がある.ヒトにおける臨床使用も例数が少ないため,今後さらなる検証が必要である