ICU患者における体液バランス過多と急性脳機能障害に関する研究
概要
目的
ICU重症患者において退室後の後遺症を見据えた管理は重要である。中でも、急性脳機能障害はICU重症患者に高率で発症し、予後不良との関連が指摘されている。しかし、確立された治療法、予防法がなく、一つでも多くのリスク因子を抽出することは重要である。我々は、ICU重症患者の体液バランス過負荷に着目し、体液バランスと急性脳機能障害(せん妄/昏睡)の関連を示したので報告する。
対象と方法
後方視的観察研究を実施した。ICUにおいて48時間以上の人工呼吸管理を有し、かつ7日間以上滞在した患者を対象に、体液バランス過負荷と急性脳機能障害の関連を検討した。背景データ、重症度、鎮静剤の使用、体液バランス関連データ、せん妄・昏睡に関するデータを収集。入室初日の体重増加が基準体重の10%以上増加した状態を体液バランス過負荷と定義した。せん妄・昏睡を急性の脳機能障害と定義し、関連性を検討した。順序ロジスティック回帰分析を用いて、急性脳機能障害(せん妄/昏睡)との関連性を示す指標としてオッズ比を求めた。
結果
適格基準を満たした118名を解析対象とした。47名40%に体液バランス過負荷が生じていた。体液バランス過負荷群では、重症度が有意に高く(19[16-26]vs23[20-29],p=0.017)、3日目までの累積水分バランスが有意に多かった3238[281-6530]vs7886[4106-10631],P<0.001)。せん妄発症率に有意差は認められないものの、せん妄昏睡日数は有意に長かった(4[1-5]vs6[3-7],P=0.002)。
先行研究より関連すると考えられる交絡因子を共変量として多変量解析モデルを作成し、体液バランス過負荷の有無(調整オッズ⽐2.33,95%信頼区間1.15-4.71,P=0.019)、生理学的重症度(調整オッズ⽐1.08,95%信頼区間1.03-1.14,P=0.001)、ミダゾラムの使用(調整オッズ⽐3.98,95%信頼区間1.75-9.04,P=0.001)、プロポフォール投与量(調整オッズ⽐1.06,95%信頼区間1.02-1.09,P=0.001)、フェンタニル使用量(調整オッズ⽐0.96,95%信頼区間0.93-0.99,P=0.021)は有意にせん妄昏睡日数と関連していた。
考察
体液バランス過負荷と急性脳機能障害(せん妄/昏睡)の関連を示した。重症度や鎮静剤の使用と急性脳機能障害との関連はすでに指摘されているが、それらの既知の交絡因子で補正してもなお、体液バランス過負荷は急性脳機能障害の独立した危険因子として抽出された。体液バランスが過剰の状態では、組織の浮腫を引き起こし、臓器障害へと発展することが示されている。そのため、体液バランス過負荷において、急性脳機能障害を惹起しうると考えられる。
結論
我々はICU重症患者における体液バランス過負荷と急性の脳機能障害の遷延との関連性を⽰した。重症度や鎮静剤の使⽤だけでなく、体液バランス状態を認識し、重症患者のせん妄/昏睡管理を⾏う必要がある。