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大学・研究所にある論文を検索できる 「アトピー性皮膚炎の好塩基球における定常状態での活性化とFcεRIを介した特徴的な反応性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

アトピー性皮膚炎の好塩基球における定常状態での活性化とFcεRIを介した特徴的な反応性

Imamura, Shinya 神戸大学

2021.03.25

概要

背景
アトピー性皮膚炎(以下 AD)は、瘙痒を伴う湿疹病変を特徴とする疾患であり、悪化および改善を繰り返すことが知られる。免疫学的に AD はIL-4 およびIL-13 を含む Th2 サイトカインが過剰発現していることが特徴づけられる。中でも好塩基球は活性化による Th2サイトカインの分泌やヒスタミン放出など、アレルギー反応における慢性炎症を維持するために重要な細胞である。しかしながら好塩基球は人体で最も少ない顆粒球であるため、現在に至るまで、AD 炎症における好塩基球の働きは完全には理解されていない。

対象集団
本研究には 38 人の AD 患者と、21 人の健常対照者(以下 HC)が登録され、血液サンプ ルを解析に使用した。AD 患者で免疫抑制剤や生物学的製剤を使用している患者は除外した。またAD の重症度の評価指数としてeczema area and severity index (EASI)スコアを用いた。 AD 患者の EASI スコアの中央値は 18.5 であり、中等症から重症の AD 患者が多くを占め た。HC では AD 及び他のアレルギー疾患の既往がないことを確認した(Table 1)。

方法
AD 患者における末梢血好塩基球の特徴を調べるために、フローサイトメトリーを用いて細胞表面マーカーの発現を評価し、刺激に対する好塩基球の反応性を AD 患者と HC で比較した。細胞表面マーカーとして表面結合IgE、FcεRI の発現を解析し、活性化マーカーとして CD203c および CD63 発現を解析した。この際、無刺激状態での CD203c または CD63の値を「ベース CD203c/CD63」と定めた。また抗 IgE 抗体、抗 FcεRI 抗体およびダニ抽出抗原による刺激を加え、活性化状態での CD203c および CD63 発現を解析した。刺激時の CD203c または CD63 の値をベース値で割ったものを、「反応率」と定めた。

更にそれらフローサイトメトリーのデータと、AD の湿疹重症度(EASI スコア)や臨床的な病勢マーカーとの相関関係を調べた。臨床的な病勢マーカーとして総血清 IgE、LDH、 TARC(Th2 ケモカイン)を測定した。

好塩基球活性化試験
Allergenicity Kit(Beckman Coulter)を基に、独自の抗体試薬を追加して実験を行った。 EDTA を含む 50µL の全血、10 µL の Allergenicity Kit の混合染色試薬および 50 µL の活性化試薬を FACS tube 内で混合した。混合染色試薬には、FITC 標識抗ヒト CRTH2 抗体 (clone:BM16) 、PE 標識抗ヒト CD203c 抗体 (clone:97A6) 、および PC7 標識抗ヒト CD3 抗体 (clone:UCHT1) が含まれている。これらの試薬は全ての tube に共通して加えた。次に、各 tube に以下の試薬をそれぞれ追加した。陽性コントロールに対する反応性を測定する tube には 10 µL の Allergenicity Kit 由来の抗 IgE 抗体を加えた。CD63 発現を測定する tube には 0.5 µL の PacificBlue 標識抗ヒト CD63 抗体(clone:H5C6)を加え、表面結合 IgE を測定する tube には 0.6 µL の VioBlue 標識抗ヒト IgE 抗体 (clone:MB10- 5C4) を加えた。FcεRI 発現を測定する tube には 1.25 µL の Biotin 化抗ヒト FcεRI 抗体 (clone:CRA1) を加えた。ダニ抗原に対する反応性を測定する tube にはダニ抽出物 (鳥居薬品供与) を 0.5 ng/mL、5 ng/mL、および 50 ng/mL になるようにそれぞれ加えた。

全ての tube を 37℃で 15 分間培養した。その後、ビオチン化抗 FcεRI 抗体を含むtube には、1 µL の APC 標識 streptavidin を加え、4℃で 30 分間カップリングした。全ての tubeに 50 µL の固定液および 1000 µL の溶解緩衝液添加し 10 分間静置し、続いて 200×g で 5分間遠心分離し赤血球を除去した。上澄みを除去した後、細胞を 1500µL の PBS で洗浄し、 200×g で 5 分間遠心分離し、300µL の 0.1%ホルムアルデヒドで固定した。作成されたサンプルはフローサイトメーター (FACS Verse, BD Biosciences)を使用して測定した。

結果
病勢マーカーと AD の重症度
AD 患者では、EASI スコアと TARC(rs = 0.50)、および EASI スコアと LDH(rs = 0.67)に中程度の正の相関が観察された(Fig. 1A, B)。統計的に有意ではないが、EASI スコアと総血清 IgE に軽度の正の相関傾向があった(rs = 0.31, Fig. 1C)。

好塩基球活性化マーカー
AD 患者は無刺激状態でのベース CD203c 値が HC よりも高く(P < 0.001)、抗 IgE 刺激による CD203c 反応率が低かった(P < 0.001, Fig. 2A, B)。この傾向はベース CD63 値(P< 0.001, Fig. 2C)、CD63 反応率でも同様であった(P < 0.001, Fig. 2D)。つまり AD 好塩基球が刺激なしで自発的に活性化され、抗IgE 刺激に対して低い反応性を示唆していた。

CD203c / CD63 反応率と病勢マーカー
CD63 反応率は、EASI スコア(rs = -0.38)および TARC(rs = -0.38)と中程度の負の相関があった(Fig. 3A, B)。統計的に有意ではないが、CD63 反応率と LDH に軽度の負の相関傾向があった(rs = -0.28, Fig. 3C)。 CD63 反応率は、総血清IgE と中程度の負の相関があった(rs = -0.37, Fig. 3D)。

好塩基球上の FcεRI および表面結合IgE 発現
AD 患者の好塩基球は、HC よりも高い FcεRI 発現を示した(P < 0.001, Fig. 4A)。しかし、FcεRI 発現は、EASI スコア、TARC、血清 IgE および LDH とは相関関係が認められなかった(Sup Fig. S5)。AD 患者は総血清IgE が高値で、かつ FcεRI 発現は HC よりも高いにも関わらず(Table 1, Fig. 4A)、AD 患者と HC の間で表面結合 IgE に有意差はなかった(P = 0.52, Fig. 4B)。更に表面結合 IgE は、EASI スコア(rs = - 0.35)および TARC(rs = -0.35)と負の相関があった(Fig. 5A, B)。有意ではないが、表面結合 IgE と LDH には軽度の負の相関傾向があった(rs = -0.24, Fig. 5C)。

また表面結合IgE は、総血清IgE と強い負の相関があった(rs = -0.70, Fig. 5D)。まとめると AD 患者で、特に重症 AD 患者は血液中に高い総血清 IgE を持ち、且つその好塩基球は高い FcεRI を発現するが、実際には表面結合 IgE が低く保たれるという逆説的な状態を示した(Fig. 5A, 4A, 1C)。

抗 FcεRI 刺激と抗IgE 刺激
FcεRI シグナルを刺激する抗 FcεRI 抗体と抗 IgE 抗体の2種類の抗体で好塩基球を刺激した際に、ベースCD203c とベースCD63 はそれぞれどのような変化を示すか比較をした。 HC では抗 FcεRI に対する CD203c 反応率は、抗IgE に対する反応率よりも低かった(P < 0.001, Fig. 6B)。

対照的に AD 患者では抗IgE に対するCD203c 反応率の方が、抗 FcεRI に対するCD203c反応率よりも高かった(P = 0.02, Fig. 6A)。したがって、抗 FcεRI 刺激および抗 IgE 刺激に対する好塩基球の反応性は、AD 患者と HC との間では反対であった。別の視点で観ると、AD 患者の好塩基球の反応性は抗 FcεRI 刺激では維持されていたが、抗 IgE 刺激では低下をしたと考えられた。

ダニ抗原での刺激
最後に AD 好塩基球における代表的アレルゲンであるダニ抗原で刺激した際の CD203cと CD63 の反応性を比較した。ダニ抗原刺激を加えた際の AD 好塩基球における CD203cと CD63 の反応性は保たれており、どちらもダニ抗原に対して濃度依存的な反応性の上昇を示した(Fig. 7A, B)。

考察
HC と比較して、AD 患者は高い総血清 IgE 値と高い FcεRI 発現を有していたが(Table 1, Fig. 4A)、AD 患者と HC で表面結合IgE に差は認められなかった(Fig. 4B)。また総血清 IgE と表面結合IgE は負の相関をしていた(Fig. 5D)。中でも重症 AD では、より高値の総血清IgE を持ち(Fig. 1C)、より表面結合 IgE が低下する傾向を示した(Fig. 5A)。まとめると、重症の AD では血液中に含まれる総血清 IgE が高く、好塩基球上の FcεRI 発現が高いにも関わらず、実際には好塩基球にIgE が結合していないという事になる。

これらの結果は、Th2 型炎症反応の活性化が、AD 患者の総血清IgE 産生および好塩基球上での FcεRI 発現につながることを示唆した。ただし、抗体または受容体のどちらかが機能的に不完全であるため効果的な結合が妨げられている可能性がある。又は何らかの受容体アンタゴニストが結合をブロックしている可能性も考えられた。

対照的に過去の報告では、実際の IgE の結合は調べられていないものの、高濃度の総血清 IgE 存在下では好塩基球が修飾され活性化すると結論付けている。本研究でも総血清 IgE が好塩基球上の FcεRI に結合しなかった可能性はあるが、総血清 IgE の増加により、間接的に好塩基球は活性化され、総血清 IgE と好塩基球の悪循環、更には好塩基球からのヒスタミン遊離により AD における Th2 型炎症反応の悪循環が形成された可能性がある。

我々はまた、AD 患者が HC よりも高いベース CD203c 値およびベース CD63 値を示すことを発見した(Fig. 2A, C)。過去の報告で CD63 の増加はヒスタミン放出を反映することが知られており、我々の発見は AD 患者の好塩基球が自発的に活性化され、FcεRI 刺激なしでヒスタミンおよび炎症性メディエーターを放出している可能性を示している。また、それにより AD 患者の好塩基球は無刺激の定常状態で既に軽度の消耗をしている可能性が考えられた。これらから、AD 患者の好塩基球はすでに消耗しているため、HC と比較して抗 IgE 刺激によって活性化が起こりにくいのではないかと推測をした。加えて、EASI スコアと CD63 反応率(Fig. 3A)、および EASI スコアと表面結合IgE(Fig. 5A)には負の相関があった。これは、重度の AD 患者では抗 IgE 抗体の結合部位となる表面結合 IgE が減っているため抗 IgE 抗体による刺激が入りづらく、好塩基球の消耗と合わせて、最終的な抗 IgE刺激に対する反応性の低下を引き起こした可能性を考察した。

また抗 FcεRI 抗体とダニ抗原も刺激物質として使用した。以前の我々の報告では HC において抗 FcεRI 刺激は抗IgE 刺激よりも誘導する好塩基球の反応性は低かったが、今回 AD患者においては逆であり、抗 FcεRI 刺激は抗 IgE 刺激よりも高い反応性を誘導した(Fig. 6A)。一方でダニ抗原刺激は抗原濃度依存性の好塩基球の反応性を誘導した。これは抗FcεRI抗体と抗IgE 抗体はそれぞれ結合部位が異なっており、またダニ刺激は特異的 IgE-FcεRI の経路を介さずに MRGPRX2 などを介して好塩基球の活性化を誘導できることが報告されているため、以上のような結果が観察されたと考えた。

今回の全ての結果を考慮すると、定常状態での好塩基球の活性化と消耗、各種抗体や抗原による刺激の結合部位の違い、各刺激の活性化の誘導性機序の違いなど、さまざまな要因が関わり、最終的に AD 患者の好塩基球の特徴的な反応性を規定していると考察した。

結論
結論として以下の仮説を考えた。AD における Th2 型炎症は、B 細胞を刺激し高濃度の IgE 分泌を誘導する。しかし産生された高濃度の総血清 IgE は、循環する好塩基球には何らかの理由で結合をしなかった。好塩基球は自発的に軽度活性化し、消耗した好塩基球は抗 IgE 刺激に対して低い反応性を示した。しかしながら、抗 FcεRI 刺激、ダニ抗原刺激に対して反応性は低下していなかった。AD における好塩基球の機能の生理学的な意味を真に理解するには、さらなる研究が必要であると考える。

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