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大学・研究所にある論文を検索できる 「乳臼歯修復のためのCAD/CAMコンポジットレジンブロックの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

乳臼歯修復のためのCAD/CAMコンポジットレジンブロックの開発

中瀬, 悠太朗 大阪大学

2021.03.24

概要

【研究目的】
近年,小児用の既製ジルコニアクラウンが臨床に導入されたが,ジルコニアは,対合歯を摩耗させやすいため,乳臼歯の審美性修復用材料として理想的とは言い難い.したがって,対合健全歯をあまり摩耗させない,乳臼歯の歯冠修復に適した特性を有する材料の開発が望まれている.

わが国では,とくに2014年からCAD/CAMコンポジットレジン冠が金属代替材料として注目され,その物性の改善に伴って,永久歯の修復に対する保険適用の範囲が徐々に拡大している.CAD/CAM コンポジットレジン冠は加熱重合等の製造条件の下で作製されるため,充填用コンポジットレジンと比べて物性や耐摩耗性が向上しており,また, CAD/CAMセラミック冠と比べて対合エナメル質が摩耗しにくいことが報告されている.これらのことから,CAD/CAM コンポジットレジン冠は,乳臼歯の修復に適した審美性材料となり得るのではないかと期待できる.

そこで本研究では,永久歯用の市販のCAD/CAMコンポジットレジンブロックをベースに新規の乳臼歯用ブロックを試作し,各種物性試験,摩耗特性および破壊抵抗性の検討,ならびに象牙質接着試験を行って,乳臼歯の歯冠修復用材料としての有用性を評価した.

【材料および方法】
被験材料
Bis-GMA,Bis-MPEPPおよびTEGDMAをモノマー組成とし,シリカ系ガラスフィラーとSurface Pre-Reacted Glassionomer(S-PRG)フィラーを配合したCAD/CAMコンポジットレジンブロックを試作した(EB).比較対照として,市販の小臼歯用CAD/CAMコンポジットレジンブロック(松風ブロックHC, 松風; HC),2種の乳歯用の充填用コンポジットレジン(ビューティフィルキッズゼロフロー, 松風; BKZおよびビューティフィルキッズペースト, 松風; BKP),ならびに小児あるいは成人に用いる充填用コンポジットレジン(ビューティフィルⅡ, 松風; BⅡ)を使用した.

実験Ⅰ.物性評価
1. 吸水試験:日本歯科材料工業協同組合規格「CAD/CAM冠用歯科切削加工用レジン材料」(JDMAS 245:2017)に従い,ϕ14×1 mmの試験片を37℃の蒸留水に7日間浸漬後,吸水量を測定した(n=10).

2. 3点曲げ試験:JDMAS 245:2017に従い,4×14 mm,厚さ1.2 mmの試験片を37℃の蒸留水に24時間または7日間浸漬後,3点曲げ試験を行い, 曲げ強さを求めた(n=10×2).

3. ビッカース硬さ試験:JDMAS 245:2017に従い,EBとHCについては14×12×1 mm,BKZ,BKPとBⅡについてはϕ14mm,厚さ1 mmの試験片を 作製し,各試料を37℃の蒸留水に7日間浸漬後,ビッカース硬さを測定した(n=10).

4. 破壊靭性試験:1辺6 mmの正三角形を底面に持ち,高さ12 mmの三角柱状試験片を37℃の蒸留水に7日間浸漬後,Ruseらによって考案されたNotchless Triangular Prism試験に従い破壊靭性を求めた(n=10).

実験Ⅱ.摩耗特性の評価
EB,HC,BKZ,BKPならびにBⅡを用いて摩耗試験を行った.比較対照として乳臼歯用既製金属冠に用いられるステンレススチール(SS)を使用した.対合歯には,上下左右側の第一または第二乳臼歯を使用した.内径12 mm のPVCチューブに乳臼歯エナメル質を包埋した後,表面を#2000まで研磨して平坦面を露出させた.スタイラス(ϕ3×6.2mm)を摩耗試験機に装着し,37℃の水中に浸漬した対合試料に接触させた.75Nの荷重で,垂直方向にスタイラスを降下後,時計回りに30°,さらに半時計周りに30°の回転を加える動きを20,000回に達するまで繰り返した.試験後,対合エナメル質の表面に形成された圧痕の深さを測定するとともにスタイラスの摩耗量を測定した(n=8).また,走査型電子顕微鏡と3Dマイクロスコープを用いて,対合試料の表面を観察した.

実験Ⅲ.乳臼歯修復用材料としての有用性の評価
コンポジットレジン冠用の材料として,実験ⅠおよびⅡで用いたEBおよびHCを使用した.接着性レジンセメントにはブロックHCセム(松風;Cem)を,従来型グラスアイオノマーセメント(GIC)にはハイボンドグラスアイオノマーセメントCX(松風;CX)を用いた.

1. In vitro圧縮試験:コンポジットレジン冠を,支台築造用コンポジットレジンで作製した支台歯にCemまたはCXで装着し,内径25 mmのPVCチューブ内に冠の頬側辺縁下2 mmまで包埋し,37℃の蒸留水に24時間浸漬後,万能材料試験機を用いて圧縮試験を行い,破断荷重を算出した(n=5).

2. In silico圧縮解析:EBおよびHCについては,4×1.2×14 mmの試験片を,Cem,CXならびに支台歯作製に使用した支台築造用コンポジットレジンについては,25×2×2 mmの試験片を作製し,in vitro/in silicoの3点曲げ試験により各試料の弾性率と破壊ひずみを決定した.各試料の重量を測定した後,マイクロCTで測定した体積を重量で除算することで密度を求めた.圧縮試験の試料を作製するために使用したSTLファイルをもとにコンポジットレジン冠のCADモデルを作製し,各材料の弾性率,破壊ひずみと密度を用いて非線形動的有限要素解析ソフトウェアを用いてin silico圧縮解析を行った.

3. 微小引張接着試験:EBおよびHCから4×4 mm,長さ14 mmの直方体試料を切り出し,被着面(4×4 mm)を#2000のSiCで研磨した後,CemまたはCXでヒト乳臼歯の象牙質面に接着した.各試料を24時間,37℃水中保管後,接着面積約1×1 mmの棒状試験片を作製し,小型卓上試験機を用いてクロスヘッドスピード1mm/minで微小引張接着試験を行った.

【結果および考察】
I. EBの吸水量は,HC、BKZおよびBKPに比べて有意に小さく,BⅡに比べて有意に大きかった.BⅡを除く全ての材料は7日間浸漬後に24時間浸漬後と比べて有意に曲げ強さが低下したが,7日間浸漬後のEBとHC間には有意差は認められず,両者はBKZ,BKPならびにBⅡよりも有意に大きい値を示した.EBは,HCに比べて有意に小さく,BKZおよびBⅡよりも有意に大きいビッカース硬さを示した.EBは,他のすべての材料に比べて有意に大きい破壊靭性を示した.

II. EBでは,HCおよびBⅡと比べて圧痕の深さが有意に小さかった.EBとBKPとの間に有意差は認められなかった.また,SSについては,表面粗さ測定機の測定範囲(800μm)を超える程摩耗深さが大きくなったため,正確な値は測定不可能であった.摩耗試験後の対合エナメル質は,EBでは滑らかな表面を呈していたが,HCでは粗造な表面を呈しており,圧痕の両端に大きな亀裂が認められた.また,SSでは,圧痕の中央部に無数の亀裂と象牙細管が認められた.3Dマイクロスコープによる観察でも,SSでは対合エナメル質に明らかに深く大きな圧痕が観察された.

EBのスタイラスの摩耗量は,BⅡに比べて有意に低い値を示したが,その他の材料との間では有意差が認められなかった.これらの結果から,試作したCAD/CAMコンポジットレジンは永久歯と比べて柔らかい対合乳臼歯を摩耗させない特性を有することが示唆された.

III. Cem,CXのどちらを用いて装着した場合でも EBとHCの破断荷重に有意差は認められなかった.また,EBとHCのいずれにおいても,CXで装着した群はCemで装着した群と比べて有意に低い破断荷重を示した.EB,HCともに冠の遠心舌側咬頭が破壊の起点になっているのに対し,CXで装着した試験体では,EB,HCともに冠が破壊する前にセメントが破壊の起点となっていることが確認された.また,EBでは,HCに比べてセメントに分布する最大主応力が小さいことが確認された.EBでは,CXを用いた場合とCemを用いた場合との間で接着強さに有意差は認められず,また,Cemを用いてHCを接着した場合との間にも有意差が認められなかった.

【結論】
本研究で新規に試作したCAD/CAMコンポジットレジンブロックは,小臼歯の修復用として市販されているコンポジットレジンブロックと同等の曲げ強さを備え,吸水量やビッカース硬さについても臨床応用のための基準を満たすうえ,市販ブロックよりも高い破壊靭性値を示すことが明らかとなった.また,市販CAD/CAMコンポジットレジンブロックや乳歯冠用のステンレススチールと比較して対合エナメル質の摩耗が少なく,ブロック自体も十分な耐摩耗性を有していることが確認された.さらに,試作ブロックで作製した冠は,GICによる装着が可能であり,乳臼歯の修復用材料として適していることが示唆された.

以上のことから,試作CAD/CAMコンポジットレジンブロックは,乳臼歯の歯冠修復に有用な審美性材料であることが示された.

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