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大学・研究所にある論文を検索できる 「裂孔原性網膜剥離に対する27ゲージ硝子体手術後の歪視量に対する術前の中心窩への網膜剥離の干渉度の寄与度の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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裂孔原性網膜剥離に対する27ゲージ硝子体手術後の歪視量に対する術前の中心窩への網膜剥離の干渉度の寄与度の検討

山田, 裕子 神戸大学

2022.03.25

概要

近年、硝子体手術は飛躍的に発展し、低侵襲化している。硝子体手術による初発裂孔原性網膜剥離の網膜復位率は、過去 3 年間においては 93%から 97.1%と報告されている。しかし、裂孔原性網膜剥離の網膜復位に成功し、術後の最高矯正視力が良好であるにも関わらず、満足する視機能の回復を得られない場合がある。この原因としては、術後に起こる歪視、不等像視、立体視の障害などが挙げられる。歪視は、裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後の 20%から 49%の症例に起こり、術前の網膜剥離の状態や術後の網膜外層構造の健常性に相関があると報告されている。詳しく述べると、網膜剥離が、術前に中心窩剥離を伴っていれば、術後の歪視は高頻度で認められ、術後の網膜外層構造の異常の程度が強いほど、術後の歪視は大きいことが報告されている。一方で、術前に中心窩剥離を伴わず、術後の網膜外層構造の異常が無いにも関わらず、術後に歪視を認める場合があることも報告されているが、これらの機序については未だ解明されていない。そこで、我々は術前の中心窩剥離や術後の網膜外層構造の異常の存在に関係なく、術前の網膜剥離の中心窩への干渉度が術後の歪視に寄与する可能性があるのではないかと考え、詳細な調査を行った。

本研究では、初発裂孔原性網膜剥離に対する 27 ゲージ硝子体手術後の歪視量に寄与する周術期因子を検討した。2016 年から 2019 年の間に神戸大学医学部附属病院で初発裂孔原性網膜剥離に対し 27 ゲージ硝子体手術を施行し、術後 12 ヶ月間経過観察し得た症例を対象として 77 例 77 眼を後ろ向きに検討した。巨大網膜裂孔や増殖硝子体網膜症に伴う裂孔原性網膜剥離、アトピー性皮膚炎の既往のある症例、そして裂孔原性網膜剥離に対して硝子体手術の既往のある症例は除外した。

検討項目は年齢、性別、白内障の程度、眼軸長、自覚症状から手術までの期間、裂孔の位置、網膜剥離範囲、中心窩剥離の高さ、中心窩剥離の有無、網膜剥離の中心窩への干渉度、術後 12ヶ月での Ellipsoid Zone の途絶の有無、術後 12 ヶ月での中心窩網膜厚、術後 3 ヶ月、12 ヶ月での網膜前膜の有無、術前最高矯正視力、術後 12 ヶ月での最高矯正視力、術後 12 ヶ月で
の歪視量、術後 12 ヶ月での歪視の有無、眼内タンポナーデ物質、手術時間、初回網膜復位率、最終網膜復位率とした。歪視量は M-CHARTS®を用いてM-score で表され、縦と横の M-scoreの平均値とした。縦の M-score もしくは 横の M-score が 0.2 以上のものを歪視ありと定義した。中心窩への干渉度は、中心窩剥離を伴わず、網膜血管アーケード内に裂孔原性網膜剥離が進展していない群(A 群)、中心窩剥離を伴わないが網膜血管アーケード内に裂孔原性網膜剥離が進展している群(B 群)、中心窩剥離を伴った群(C 群)の 3 群に分けて評価した。中心窩剥離の高さ、中心窩への干渉度、網膜前膜の有無、Ellipsoid Zone の途絶の有無は光干渉断層計を用いて評価した。歪視の有無を目的変数、他の項目を説明変数として多変量解析を行った。

平均歪視量(°)は A 群(24 眼):0.01±0.04、B 群(20 眼):0.08±0.18、C 群(33 眼):0.49±0.48 であった(p<0.001)であった。多変量解析の結果、術後 12 ヶ月での歪視の有無は中心窩への干渉度(p=0.007)と術後 12 ヶ月での Ellipsoid Zone の途絶の有無(p=0.027)に有意な相関を認めた。

裂孔原性網膜剥離に対する硝子体手術後の視力の変化に関して言及した報告は多数あるが、術後の歪視の経時的な変化に関して言及した報告は少ない。村上らは、23 ゲージまたは 25 ゲージ硝子体手術、または強膜バックリング術を施行した症例の術後 12 ヶ月経過観察を行い、術後の歪視は経過中に改善するが残存し、特に、術前に中心窩剥離を伴った患者において有意に術後の歪視が残存することを報告した。我々の研究においても同様に、27 ゲージ硝子体手術を施行した症例の 12 ヶ月の経過観察において、歪視は経過中に改善するが残存し、術前に中心窩剥離を伴った患者では有意に術後の歪視が残存する結果を得た。既報では、術前の中心窩剥離と術後の歪視との間に強い相関が報告されている。強膜バックリング術または硝子体手術を施行した症例のうち、術前に中心窩剥離を伴った裂孔原性網膜剥離では、術後の歪視が 66.7%から 88.6%の症例で残存することが報告されている。我々の研究においても同様の結果が示され、術前に中心窩剥離を伴った裂孔原性網膜剥離では、33 眼中 23 眼(69.7%)で術後の歪視を認めた。既報において、術前に中心窩剥離を伴った裂孔原性網膜剥離の硝子体手術後は、網膜が下方に偏位した状態で復位する頻度が高く、この網膜偏位と術後の歪視との間に強い相関がある事が報告されている。これらの結果は、裂孔原性網膜剥離が中心窩剥離に至った場合、その後に施行される手術手技に関係なく、術後に発生する歪視は不可避であることを示唆している可能性がある。

一方で、23 ゲージまたは 25 ゲージ硝子体手術、または強膜バックリング術を施行され、術前の中心窩剥離を伴わない裂孔原性網膜剥離の症例においても、術後の歪視が発生する場合があることが報告されているが、これらの機序については未だ解明されていない。我々は、術前の中心窩への裂孔原性網膜剥離の干渉度の術後の歪視への寄与度を検討した。その結果、多変量解析において、中心窩への裂孔原性網膜剝離の干渉度と術後の歪視の有無との間に有意な相関を認めた。Zhou らは、硝子体手術または強膜バックリング術を施行した 380 眼の解析を行い、術前に中心窩剥離を伴わない 126 眼のうち、33 眼で術後の歪視を認め、そのうち術後の光干渉断層計所見において、網膜前膜 3 眼、黄斑円孔 2 眼、網膜下液 1 眼を認めたが、27 眼では正常であったと報告している。岡本らの報告では、23 ゲージまたは 25 ゲージ硝子体手術、または強膜バックリング術を施行した 129 眼の解析を行い、術前に中心窩剥離を伴わない 69 眼のうち、9 眼で術後の歪視を認め、そのうち術後の光干渉断層計所見において、網膜前膜 4 眼、黄斑円孔 1 眼、網膜下液 1 眼を認めたが、3 眼では正常であったと報告している。これらの報告では、進展する裂孔原性網膜剥離の先端部が中心窩に近い場合、網膜下液が手術中に一時的に中心窩に到達する可能性があり、それゆえに術前に中心窩剥離を伴わない場合でも、術後の歪視を引き起こす可能性があると考察されている。我々の研究では、中心窩への裂孔原性網膜剝離の干渉度と術後の歪視に相関が示されており、これらの既報の仮説を支持する結果となった。これらの結果からは、2 つの可能性が示唆される。まず、手術手技に関係なく、術前の中心窩剥離を伴わない裂孔原性網膜剝離においても、網膜剥離が網膜血管アーケード内に進展した場合は、予測のできない術後の歪視のリスクがある可能性である。そして、術前に中心窩剥離を伴わない裂孔原性網膜剝離の場合は、中心窩剥離を伴った症例とは異なって、手術中の中心窩への術中網膜下液の流入を回避するために、注意深く手術手技を行うことで術後の歪視を予防できる可能性である。例えば、パーフルオロカーボンによる補助療法または、網膜下液排出のための意図的な網膜裂孔作成により、中心窩への術中網膜下液流入を防ぎ、術後の歪視の発生を予防出来る可能性がある。これらについては、今後さらなる検討が必要であると考える。

中心窩剥離の有無といった術前因子に加えて、網膜下液の存在や網膜外層構造の異常などの多くの術後因子、または黄斑浮腫、黄斑円孔、網膜前膜などの術後の網膜形態の異常が術後の歪視の発生に寄与する可能性がある。我々の研究では、多変量解析において、術後の歪視と術前の中心窩剥離の有無および術後因子である Ellipsoid Zone の途絶との間に相関関係を認めた。既報においては、多変量解析において、術前の中心窩剥離の有無、術後の外境界膜の途絶の有無、および術後の網膜下液の有無が、術後の歪視と有意な相関を示すことが報告されている。村上らは、術後の歪視は、術前の中心窩剥離の有無および術後の Interidigitation Zoneの途絶の有無との間に有意な相関を示すことを報告した。これらの結果は、術後の中心窩の網膜外層構造の異常の有無が、術前の中心窩剥離の有無とともに、術後の歪視の強力な予測因子であることを示唆している。加えて、我々の研究では、術後の網膜外層構造の異常は、術前に中心窩剥離を伴った裂孔原性網膜剝離で有意に多く認められた。この結果は、裂孔原性網膜剝離が中心窩に進展する過程で、網膜外層構造の異常と機能障害が引き起こされる可能性を示唆している。そのため、術前に中心窩剥離を伴わない裂孔原性網膜剝離の中で、すでに網膜血管アーケードに進展している場合は、術中の一過性の中心窩剥離を避けるべく、従来とは異なる治療戦略を検討することが重要かもしれない。この点についても、今後さらなる検討が必要であると考える。

初発裂孔原性網膜剝離に対する 27G ゲージ硝子体手術後の歪視は、網膜剥離の中心窩への干渉度および術後の網膜外層構造の異常の有無と相関を認めた。手術中に中心窩への網膜下液の流入を回避するために、術前に中心窩剥離を伴わなくとも網膜血管アーケード内に裂孔原性網膜剥離が進展している場合は、細心の注意を払った手術手技が必要である。

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