Groundmass pyroxene analyses based on growth anisotropy for estimating magma ascent history in volcanic conduit
概要
火道上昇履歴の推定に向けた結晶成長の異方性に基づく石基輝石分析法
鉱物学講座 奥村 翔太
マグマの上昇履歴は、噴火様式が火道内でどのように変化するのかを理解する
上で重要であり、それらは減圧脱水により晶出する石基結晶に記録されている。噴火時
の火道上昇中に物理化学的パラメータが急速に変化するため、石基結晶の晶出は様々な
大きさの実効過冷却度(Teff)のもとで進行する。先行研究により、造岩鉱物の形状は
Teff の増大に伴って伸長することが明らかにされており、さらに単斜輝石結晶の各結晶
面の前進速度の相対関係はTeff によって変化することが知られている。そのため、輝石
の成長異方性およびそのTeff 依存性は、噴火時のマグマ上昇環境を解明する手掛かりに
なると期待される。そこで本研究では、幅 1 µm 以下のサイズを含む石基輝石結晶につ
いて、その成長異方性に着目し、噴火噴出物の石基組織に対する分析手法を結晶学の観
点から発展させた。
本論文の第一章では、結晶サイズ分布(crystal size distribution, CSD)の表現手
法の改良に取り組んだ。CSD とは結晶数密度の対数を結晶サイズ(通常、長軸長 L)に
対してプロットしたグラフであり、その傾きから結晶化カイネティクスやマグマ上昇履
歴を推定できる。一方で、結晶サイズの定義が CSD に及ぼす影響については議論が不
十分だった。そこで、異なる噴火様式で生じた軽石中の石基輝石結晶について、放射光
X 線 CT と電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた観察を行った。噴火様式で
比較すると、短軸長 S に対する CSD(S-plot CSD)の傾きは、L-plot CSD の傾きよりも
顕著に異なり、火道浅部におけるマグマ上昇履歴の違いを反映した。これらの結果から、
従来の表現手法(L-plot CSD)ではマグマ上昇ダイナミクスの誤った解釈につながる危
険性があること、そして短軸長(S)が石基結晶の CSD に最適なサイズ定義であること
が実証された。
一方で、CSD など結晶数密度に基づく解析手法は、結晶の核形成速度がTeff と
ともに増加することを前提としているため、石基結晶に乏しい軽石を生じる爆発的噴火
には適用できない。そこで数密度ではない、マグマ上昇環境の新たな指標として、石基
輝石結晶の晶相に着目した。第二章では、含水条件で桜島デイサイトマグマの減圧結晶
化実験を行い、石基輝石の晶相と減圧条件の関連性を検討した。その結果、Teff が高く
なるにつれて、輝石晶相は{100}面、{010}面を順に失うことで八角柱から六角柱、四角
柱へと変化した。この傾向は、結晶構造に起因した、各結晶面の相対成長速度によって
説明される。
第三、四章では、以上の結果をもとに新燃岳 2011 年噴火と桜島大正噴火のマ
グマ上昇履歴を検討した。軽石中の石基輝石結晶を FE-SEM と透過電子顕微鏡 (TEM)
で分析した。晶相ごとに測定した CSD は、噴火時の火道上昇中の結晶化カイネティク
スを包括的に描写し、さらに結晶内部の成長縞は個々の結晶が経験した上昇履歴を記録
していた。新燃岳のケースでは、マグマがサブプリニー式噴火では加速的上昇を、ブル
カノ式噴火では浅部停滞を経験しており、火道浅部で噴火様式が分岐したことが示唆さ
れた。また、桜島のケースでは、軽石組織の多様性は火道壁からの距離に応じたマグマ
上昇履歴の違いに起因しているという説を裏付ける結果が得られた。すなわち、結晶に
乏しい白色軽石は火道中央を急速に上昇したマグマであり、気泡の断熱膨張による冷却
も寄与して高いTeff を経験した。一方、結晶に富む暗色軽石は恐らく火道壁付近を上昇
したマグマであり、結晶化の開始時は高いTeff が生じていたものの、結晶化の潜熱放出
や剪断加熱によりTeff が低下した。
これらの応用例から、晶相分析が、著しく速いマグマ上昇によって生じたガラ
ス質な噴出物にも適用可能であり、噴火時の火道上昇履歴をより詳細に明らかにできる
アプローチであることを示した。 ...