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大学・研究所にある論文を検索できる 「胃腺腫と早期胃癌の鑑別における内視鏡診断及び網羅的遺伝⼦発現解析の有⽤性に関する検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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胃腺腫と早期胃癌の鑑別における内視鏡診断及び網羅的遺伝⼦発現解析の有⽤性に関する検討

田村, 直樹 東京大学 DOI:10.15083/0002005030

2022.06.22

概要

胃腺腫は胃癌取扱規約で良性上⽪性腫瘍に分類されるが、内視鏡での早期胃癌との鑑別が難しく、⽣検も切除後病理診断と異なることがあるため、両者の鑑別は臨床上の課題となっている。このため、今回の研究では内視鏡通常光観察で鑑別の難しい胃腺腫と早期胃癌に対する狭帯域光拡⼤観察の有⽤性と、網羅的遺伝⼦発現解析による両者の遺伝⼦発現の違いと免疫染⾊での鑑別について検討を⾏った。

胃腺腫と早期胃癌の通常光観察における内視鏡的鑑別は、癌を疑う所⾒として病変の⼤き さ、陥凹、発⾚、結節、潰瘍などが報告されているものの、診断⽅法には改善の余地がある。近年拡⼤観察が可能な内視鏡が登場し、微⼩⾎管構造と表⾯微細構造の視認性を向上させる狭帯域光を⽤いて拡⼤観察を⾏うことが胃癌の診断に有⽤なことが報告され、Vessel plus Surface Classification System として体系化された。これは狭帯域光拡⼤観察において病変境界が同定でき、不規則な微⼩⾎管構築像 (IMVP) もしくは不規則な表⾯微細構造 (IMSP) が確認できた場合、癌と診断する⽅法である。狭帯域光拡⼤観察を⽤いた胃腺腫と胃癌の鑑別診断の報告は少なく、通常光で癌を疑う発⾚調の病変を半数程度含んだ研究であり、臨床上問題となる通常光観察での鑑別が困難な病変に対する狭帯域光拡⼤観察の有⽤性を正確に反映できていない可能性がある。

そこで今回の研究では当院で内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を⾏った胃腫瘍のうち、胃腺腫 50 例と病変の⼤きさ、⾁眼型、⾊調でマッチングした早期胃癌(⾼分化管状腺癌、粘膜内癌)50 例を対象とし、通常光観察での静⽌画像と通常光に加え狭帯域光拡⼤観察を⾏った静⽌画像を、当院で拡⼤観察と内視鏡治療に従事している内視鏡医 14 名で読影し、狭帯域光拡⼤観察の有⽤性と、正診率に関連する因⼦について検討を⾏った。また、胃腺腫と胃癌の病理診断において細胞異型と構造異型の程度は重要な判断基準であり、癌の中でも⾼異型度の癌は低異型度の癌に⽐べ発育速度が速く、p53 の発現が多いなどの報告がある。これまで狭帯域光拡⼤観察での内視鏡所⾒と病理の細胞・構造異型を直接定量的に対⽐した既報はないため、細胞異型、構造異型の程度と IMVP、IMSP の所⾒それぞれについて相関があるかを検討した。

2011 年 4 ⽉〜2018 年 7 ⽉の当院胃 ESD 症例から、オリンパスの拡⼤内視鏡で観察を⾏っていないもの、病変の拡⼤観察された写真がないもの、家族性腺腫性ポリポーシス症例は除き、条件を満たす連続した胃腺腫 50 例と、胃腺腫治療後から最も近い時期に治療したマッチング条件を満たす⾼分化管状腺癌(粘膜内癌)を 50 例選定した。マッチング条件は病変のサイズ(20 mm 未満、20 mm 以上)、⾁眼型(陥凹有無)、通常光での⾊調(発⾚調、⾮発⾚調)とした。

マッチング後の読影症例における患者・病変背景は、平均年齢が胃癌群で⾼い傾向(胃腺腫群 68.1±8.6 歳、胃癌群 73.0±7.3 歳)があったが、病変部位や H. pylori 感染状況、粘膜萎縮程度など他の背景に差は認めなかった。読影医 14 名による胃腺腫・早期胃癌 100 例に対する通常光観察と通常光+狭帯域光拡⼤観察の診断成績はそれぞれ感度 72% vs 80% (p<0.001)、特異度 40% vs 36% (p=0.161)、正診率 56% vs 58% (p=0.168)、陽性的中率 55% vs 56% (p=0.244)、陰性的中率 60% vs 65% (p=0.037)であった。

正診率と関連する患者・病変因⼦については年齢、性別、胃粘膜萎縮程度、H. pylori 感染状況、病変部位、病変サイズ、形態、⾊調について関連を調べたが、単変量解析では通常光、通常光+狭帯域光拡⼤観察のいずれとも関連する因⼦はみられなかった。

病理診断における細胞異型、構造異型と狭帯域光拡⼤観察における IMVP、IMSP の関連については、細胞異型⾼異型度と低異型度で IMVP ありとした読影医の平均は 9.3 ⼈ vs 6.4 ⼈ (p=0.024)、IMSP ありとした読影医の平均は 9.3 ⼈ vs 7.5 ⼈(p=0.044)、構造異型⾼異型度と低異型度で IMVP ありとした読影医の平均は 8.3 ⼈ vs 5.6 ⼈(p=0.004)、IMSP ありとした読影医の平均は 9.2 ⼈ vs 6.6 ⼈(p<0.001)であった。

通常光観察と通常光+狭帯域光拡⼤観察の診断成績においては感度と陰性的中率が統計的に有意な差を認め、通常光観察で鑑別に苦慮する胃腺腫と早期胃癌においても狭帯域光拡⼤観察により癌の感度と陰性的中率が増加することが確認できた。狭帯域光拡⼤観察は患者への侵襲もなく、通常光診断における癌の過⼩診断を減らす意味で臨床的に重要な結果と考えられた。また、狭帯域光拡⼤観察所⾒の IMVP、IMSP がそれぞれ細胞異型・構造異型のいずれとも相関しており、内視鏡診断と病理組織像の間に強い相関があることを改めて⽰すことができた。

胃腺腫と早期胃癌の分⼦⽣物学的検討では、切除前の検体を⽤いた胃腺腫と早期胃癌の遺伝⼦発現解析の報告はこれまでないことから、治療前の内視鏡⽣検検体を⽤いて胃腺腫と早期胃癌(⾼分化管状腺癌、粘膜内癌)の網羅的遺伝⼦発現解析を⾏い、クラスター解析、パスウェイ解析、Gene Set Enrichment Analysis (GSEA)など Bioinformatic な⼿法で、両者の遺伝⼦発現の違いと免疫染⾊での鑑別について検討した。2017 年 4 ⽉から 2019 年 6 ⽉に症例を集積した検体の中から胃腺腫 4 例、早期胃癌は深達度が粘膜内までの⾼分化管状腺癌 5 例に対しマイクロアレイによる網羅的遺伝⼦発現解析を⾏った。

全胃腫瘍(胃腺腫と胃癌)組織で⾮腫瘍組織より共通して 2 倍以上発現が上昇もしくは 1/2に発現が低下している probe を抽出し、全胃腺腫で発現上昇している 142 probe と、全胃癌で発現上昇している 388 probe を⽐較すると、35 probe(胃腺腫の 25%、胃癌の 9%)の重複が認められた。同様に全胃腺腫で発現低下している 210 probe と胃癌群で発現低下している 223 probe を⽐較すると、12 probe (胃腺腫の 5%、胃癌の 5%)の重複が認められた。⼀⽅で、重複していない probe は、全胃腺腫で上昇している 107 probe (75%)、全胃癌で上昇している 353 probe (81%)、全胃腺腫で発現低下している 198 probe (94%)、全胃癌で発現低下している 211 probe (95%)と多数認められた。また、Unsupervised analysis では胃腺腫に⽐べ、早期胃癌では腫瘍と⾮腫瘍で明確な発現傾向の差がみられた。

DAVID による解析では、胃腺腫で 2 倍以上発現上昇している probe に対するパスウェイ解析を施⾏した結果、Hippo signaling pathway、Endometrial cancer、Wnt signaling pathwayのセットが検出された。胃癌で 2 倍以上発現上昇している probe に対するパスウェイ解析では cell cycle、cell division などのセットが検出された。既知の胃癌関連のパスウェイとしては胃腺腫で Wnt signaling pathway (Enrichment score (ES): 1.63、p=0.027)、胃癌で p53 signali ng pathway (ES: 3.65、p<0.001)が検出された。

GSEA による C2 curated gene sets を⽤いた解析では胃腺腫と胃癌とも VECCHI_GASTRIC_CANCER_EARLY という既に確⽴された早期胃癌発現プロファイルセットと⼀定の相関が認められた。胃腺腫ではこのセットとの相関が ES 0.53、p=0.093 と弱い相関であるのに対し、胃癌では ES 0.77、p<0.001 と強い相関が⽰された。また、同じ C2 解析で Wnt/βcatenin pathway に関しては WILLERT_WNT_SIGNALING と ES 0.48、p<0.001 と相関を認めた⼀⽅、胃癌では有意相関を認めなかった。p53 pathway に関しては KEGG_P53_SIGNALING_PATHWAY と ES 0.52、p<0.001、BIOCARTA_P53_PATHWAY と ES 0.60、p=0.027 とそれぞれ相関を認めた⼀⽅、胃腺腫では相関がみられず DAVID と同様の傾向がみられた。

また、胃腺腫と胃癌の遺伝⼦発現差を検証するため、今回の解析データから遺伝⼦セットを次の条件で作成した。胃腺腫と胃癌の平均遺伝⼦発現量に 2 倍以上の差があり、95%CI で有意差を満たすものから胃腺腫群で発現が 2 倍以上⾼い遺伝⼦群を TAMURA ADENOMA UP CARCINOMA DN、胃癌群で 2 倍以上⾼い遺伝⼦群を TAMURA ADENOMA DN CARCINOMA UP とした。GSEA を⽤いて既に公開されている胃術後検体の胃腺腫・胃癌の遺伝⼦発現データ(Kim ら、2011)を⽤いてこの遺伝⼦セットの有⽤性を確認した。その結果、既報における胃癌では TAMURA ADENOMA UP CARCINOMA DN と ES 0.40、p=0.029 と有意に相関し、TAMURA ADENOMA DN CARCINOMA UP と ES 0.38、p=0.033 と有意に相関した。作成した遺伝⼦セットのうち、胃腺腫より胃癌で発現が⼤きい遺伝⼦の中から LEFTY1、IL13RA2、MMP10、⾮腫瘍部に⽐べ胃癌で最も発現差の⼤きい KLK6 を選択し、 これらの抗体で免疫染⾊を⾏うことで胃腺腫と早期胃癌の鑑別が可能か検討したが、いずれの抗体でも胃腺腫と胃癌で染⾊差を⾒出すことが困難であった。

本検討では、類似する内視鏡所⾒を持つ胃腺腫と早期胃癌に対しても狭帯域光拡⼤観察が感度を上昇させ、鑑別に有⽤であることを確認した。また、狭帯域光拡⼤観察における IMVP と IMSP の所⾒が細胞異型、構造異型それぞれと相関することを初めて報告した。網羅的遺伝⼦発現解析においては、これまで報告のない、切除前の検体を⽤いた胃腺腫と胃粘膜内癌の網羅的発現解析を⾏い、胃腺腫と胃癌は共通する遺伝⼦が多い⼀⽅で、明らかに異なる遺伝⼦発現パターンを呈することを確認した。DAVID やGSEA での解析からは胃腺腫と胃癌の違いとしてWnt/β-catenin pathway、p53 pathway が関わっている可能性も⽰唆されたが、これらの pathway は関連する GSEA set の中では上位に位置しておらず、他にも多くの経路が関連している可能性が考えられた。今回の遺伝⼦発現データから作成した TAMURA 遺伝⼦セットの有⽤性が確認されたことから、遺伝⼦発現パターン解析は胃腺腫と胃癌の鑑別に有⽤であると考えられた。本研究で検討した抗体では胃癌と胃腺腫の免疫染⾊による鑑別はできなかったが、免疫染⾊で両者の鑑別が可能であれば、内視鏡的に鑑別の難しい病変に対する診断の⼀助になると考えられ、RT-PCR での単⼀の遺伝⼦発現マーカーを確⽴できるかも検討課題である。今後さらに症例を集積し、遺伝⼦発現の違いをもたらす原因を解析することで、両者の違いを明らかにし、胃癌発⽣のメカニズムを解明したい。

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