海洋マクロリド天然物の全合成研究:ネオペルトリドとイリオモテオリド-1a
概要
1.緒言
Neopeltolide (1)はジャマイカの北海岸沖の深海で採取された Neopeltidae 科の海綿から Wright らにより単離された 1。Wright らは詳細な二次元 NMR 解析から本天然物の平面構造と相対配置を帰属し、テトラヒドロピラン環を含む 14 員環マクロリドであることを提唱した。しかし、後に Panek ら 2、Scheidt ら 3 の全合成によって相対配置が訂正され、同時に絶対配置が決定された(Figure 1)。本天然物は複数のヒト癌細胞株に対して非常に強力な増殖阻害活性を示し、ミトコンドリア電子伝達系の複合体 III を特異的に阻害することが報告されている 4 ほか、小胞体に集積し特異な形態変化を誘導することが蛍光標識プローブを用いた研究で明らかにされている 5。
本天然物は全合成のターゲットとして多くのグループから興味を集め、すでに 20 以上の全合成が報告されている。本研究では、当研究室が独自に開発した触媒的タンデム反応を用いて、マクロ環とテトラヒドロピラン環を一挙に構築する新合成戦略により、neopeltolide (1)の全合成を最短工程で達成することを目指した。
2.結果及び考察
市販原料の(R)-エピクロロヒドリン(3)から既知の一工程 6 で得られるアルコール 4 に対し、ベンジル保護とジチアンの除去を行うことでアルデヒド 5 へと誘導した(Scheme 1)。化合物 5 とエノールシリルエーテル 6 との清岡アルドール反応 7 によりアルコール 7 をジアステレオ選択性に得た後、ヒドロキシ基の保護と加水分解によりカルボン酸 8 へと変換した。その後、化合物 8 と別途 6 工程で調製したアルコール 9 との山口法によるエステル化と THP 基の除去によりタンデム反応前駆体となるプロパルギルアルコール 10 を得た。
次にタンデム反応を行った(Scheme 2)。触媒の種類や当量関係など種々の検討を行ったところ、 IPrAuCl (10 mol %), AgOTf (9 mol %) および MoO2(acac)2 (9 mol %)を用いて Meyer–Schuster 転位を行い、反応が完結したことを確認した後、反応溶液を基質濃度 20 mM になるよう希釈しZhan- 1B 錯体を 15 mol %加えて 40 °C に昇温する条件に付すことで、目的の 2,6-cis-置換テトラヒドロピラン 13 を単離収率 69%、cis/trans 選択性 10:1 で得た。主生成物の立体配置は NOESY 実験にて決定した。化合物 13 を高井法によりエキソオレフィン 14 へと変換した後、接触水素化による還元とベンジル基の除去によりマクロラクトン 15 へと収率 93%, ジアステレオ選択性 4:1 で誘導した。一方、化合物 14 に対して Shenvi らの水素原子移動を用いた水素化反応 8 を行うと、9 位の立体配置が逆転した 9-epi 体 16 が選択的に得られることを見出した。その後 Bn 基を除去することで、マクロラクトン 17 を得た。
続いてオキサゾール側鎖 23 の合成を行った(Scheme 3)。市販原料のアルキン 18 と市販原料から 1 段階の変換を経て誘導したヨードオキサゾール 19 に対し、大嶌/依光らの Z-オレフィン合成法 9 を応用した。種々の検討を行ったところ、パラジウム触媒として Pd(PPh3)4 を用いる条件にて収率 80%、Z/E >20:1 と最良の結果で目的の Z-オレフィン 20 を得た。DIBALH 還元と高井反応で一置換オレフィン 21 へと変換した後、ヨードアクリレート 22 との鈴木−宮浦反応と続く加水分解により 23 の合成を完了した。
最後に 15 と 23 との光延反応により、 neopeltolide (1)を収率 94%で得た。9 位エピマーは分取HPLC で分離できた。これにより 1 の全合成を最長直線工程数(LLS)11、総収率 10%で達成した。一方、17 に対しても同様に光延反応を行うことで、9-epi-neopeltolide (2)の全合成を LLS 12、総収率 7%で達成した。
3.結論
当研究室が開発した触媒的タンデム反応とパラジウム触媒を用いるクロスカップリングを基盤としたオキサゾール側鎖の迅速合成によりLLS 11、総工程数 23 と最短工程での neopeltolide (1)の全合成を達成した。さらに、合成終盤で水素化反応を使い分けることで、9-epi 体を立体選択的に得られることも見出し、9-epi-neopeltolide (2)の全合成をLLS 12、総工程数 24 で完了した。