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大学・研究所にある論文を検索できる 「マルチハロ-4,7'-ビベンゾ[b]チオフェン分子足場の合成と分子建築への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マルチハロ-4,7'-ビベンゾ[b]チオフェン分子足場の合成と分子建築への応用

三上 進一 東北大学

2022.03.25

概要

1.緒言
ヘテロ芳香族化合物のうちの1つであるベンゾ[b]チオフェンは、材料科学や医薬化学など様々な分野で用いられる重要なフレームワークである。インドールやベンゾ[b]フランといった他のベンゾ[b]ヘテロールと比較してより大きな芳香族安定化を受けている他、炭素原子と硫黄原子との電気陰性度の差が小さいことに起因して分子全体の極性が最も小さいという特徴を持つ。さらに、2,4,7-位置換型のベンゾ[b]チオフェンは、2-位結合と4-位および7-位結合とがそれぞれほぼ直交するという位置関係にあり、擬T字型の分子構造を有している(Figure1-A)。直交関係は我々が住むマクロな人工物では頻出するものの、ミクロな分子を取り扱う有機化学において金属イオンを用いずに、即ち共有結合のみでこの位置関係を作り出すには工夫を要する。以上のことから、2,4,7-位置換ベンゾ[b]チオフェンは電気的にほぼ中性で且つ安定なT字型分子骨格であり、いわゆる分子建築における重要な分子建築材であると言える。また、このようなベンゾ[b]チオフェン誘導体に関連して、Figure1-Bのような4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体は、4’-位および7-位結合を含むR1…R2軸と2-位および2’-位結合(C-R3,C-R4)とがそれぞれほぼ直交関係にある。また、2つのベンゾ[b]チオフェン環の間には立体障害があるため、少なくとも安定な立体配座付近でこれらは同一平面上には存在しない。以上のことから、このような4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体も同様に重要な分子建築材になり得る。筆者は、以上のような利用が期待される置換ベンゾ[b]チオフェン誘導体および4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体のうち、種々の金属試薬・触媒による合成的展開が可能な、複数のハロゲン置換基を有するマルチハロ誘導体の簡便な合成法を探索した。また、実際にこのようなマルチハロ誘導体が分子建築における建築材として効率的に利用可能かどうかを、その反応性を調査することによって評価した。

2.マルチハロベンゾ[b]チオフェンの簡便な合成法の開発
大平-Bestmann試薬を用いたアルデヒド基から末端エチニル基への1段階での変換反応は、温和な反応条件で進行する有用性の高い手法であるものの、ジアゾ化合物である大平-Bestmann試薬は高価で且つ潜在的な爆発の危険性がある。また、アルデヒド基から末端エチニル基への2段階での変換反応であるCorey-Fuchs反応は、2段階目の変換反応において通常n-BuLi等の試薬を用いるために、複数のハロゲン置換基を有する基質では望まない副生物を生じることが予想される。そこで、温和な条件で進行する形式的Corey-Fuchs反応条件を探索したところ、DMSO溶媒中室温下で水酸化カリウム水溶液を塩基として用いる条件で、ジブロモアルケン類1から対応する末端アルキン類2が良好な収率で得られることを見出した(Scheme1-A)。本反応条件でのアルキン化がブロモアルキン類を経由していることから、Csp—Br結合選択的なハロゲン-メタル交換反応が起きていると考えられ、芳香環上に存在するヨード基を含めたハロゲン置換基と官能基共存性がある点で興味深い。更に、このようにして合成したo-位に1-アダマンチルスルファニル基を持つ末端アルキン類2が非極性溶媒中シリカゲル存在下で加熱攪拌を行うことによって容易に環化反応を起こし、対応する4,7-ジハロベンゾ[b]チオフェン3が良好な収率で得られることを見出した(Scheme1-B)。

以上のように開発した2つの反応を鍵反応として、ブロモ基およびヨード基を有するジハロフルオロベンゼンを基質とした5段階でのマルチハロベンゾ[b]チオフェン誘導体の合成を検討し、良好な5段階収率で対応する4,7-ジハロベンゾ[b]チオフェン3および2,4,7-トリハロベンゾ[b]チオフェン4を得た(Scheme2)。以上の結果の応用として、異なる複数のハロゲン置換基(I,Br,Cl)を有する4,7-ジハロベンゾ[b]チオフェン3および2,4,7-トリハロベンゾ[b]チオフェン4のうち可能な全通りの構造異性体を合成することが可能になった。また、o-(アルキルスルファニル)ベンズアルデヒドに対して大平-Bestmann試薬を用いると、通常の末端アルキン生成物と共に環化体であるベンゾ[b]チオフェン誘導体が副生する。著者は種々のo-(アルキルスルファニル)ベンズアルデヒド誘導体に対して大平-Bestmann試薬を用いた検討を行い、アルデヒド基のもう一方のo-位置換基の存在が環化体の副生に重要であるという知見を得た。

3.マルチハロベンゾ[b]チオフェンの反応性に関する調査
複数の異なるハロゲン置換基を有する芳香族化合物は、クロスカップリング反応における各ハロゲン置換基の反応性の違いを考慮すると、位置あるいはハロゲン選択的な置換基導入が可能なビルディングブロックとして有用である。著者は、第2章で合成したマルチハロベンゾ[b]チオフェン3,4に対して、最も汎用性の高いクロスカップリング反応である鈴木-宮浦反応における位置およびハロゲン選択性を調査した。位置による反応性の差を利用した選択的置換基導入は難しいものの、適切な反応条件を使い分けることによって、ハロゲンの種類に応じた選択的な置換基導入が十分可能であることを見出した。更に、このような選択性を上手く使うことで、同種アリール基および異種アリール基のどちらにおいても段階的な導入が可能であり、最終的に3つのアリール基を有する2,4,7-トリアリールベンゾ[b]チオフェン5が良好な収率で得られることを確認した(Scheme3)。また、宮浦-石山ホウ素化反応においても、ヨウ素選択的なホウ素化を効率的に行うことができる適切な反応条件を見出した。

4.多置換
4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体の合成まずはヨウ素選択的宮浦-石山ホウ素化反応および鈴木-宮浦クロスカップリング反応を対応するマルチハロベンゾ[b]チオフェン誘導体の組に対して用いることで、最大で3種類の異なる置換基を有する多置換4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体や対称構造を有した4,4’-および7,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体(Figure2)を合成した。

続いて、4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体に対するLDAを用いたリチオ化と続く求電子試薬との反応により、2-位および2’-位での更なる官能基化が可能であることを示した。更に、複数のハロゲン置換基を有する4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体に対して段階的な鈴木-宮浦クロスカップリング反応と2-位C-H直接アリール化反応を組み合わせて用いることによって、逐次での置換基導入を効率良く行うことができ、4つの異なる置換基を有する4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体の合成が可能であることを確認した(Scheme4)。以上の結果から、異なる置換基を有する多置換4,7’-ビベンゾ[b]チオフェン誘導体は分子建築における特異な立体構造を有した建築材として十分に有用であると考えられる。

本研究をまとめると、大平-Bestmann試薬を用いたアルキン合成法やn-BuLi等を用いる一般的な反応条件のCorey-Fuchs反応に代えて利用が可能な、穏やかでハロゲン置換基に官能基共存性がある形式的Corey-Fuchs反応条件を見出した。また、o-(1-アダマンチルスルファニル)エチニルベンゼン類を非極性溶媒中シリカゲルと共に加熱攪拌することで対応するベンゾ[b]チオフェン誘導体が良好な収率で得られることを見出した。これらの安価で簡便な反応条件を用いることによって、2つの異なるハロゲン置換基を有するフルオロベンゼン誘導体から5段階での種々の4,7-ジハロベンゾ[b]チオフェンおよび2,4,7-トリハロベンゾ[b]チオフェン合成法を開発した。更に、これらマルチハロベンゾ[b]チオフェンを用いたクロスカップリング反応における選択性を調査し、得られた適切な反応条件を利用することで、様々な置換基を有するビベンゾ[b]チオフェン誘導体を合成した。次いでビベンゾ[b]チオフェン誘導体の反応性についても検討し、分子建築への利用に向けた逐次置換基導入に関する興味深い知見を得た。

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