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大学・研究所にある論文を検索できる 「小児慢性腎炎患者における糖鎖異常IgA1免疫染色の有用性の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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小児慢性腎炎患者における糖鎖異常IgA1免疫染色の有用性の検討

Ishiko, Shinya 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
IgA 腎症は免疫グロブリン IgA が腎糸球体メサンギウム領域に沈着し、メサンギウム細胞の増殖とメサンギウム基質の増加を生じる糸球体腎炎である。IgA 腎症患者血清では、IgA ヒンジ部 O 型糖鎖にガラクトースが欠損している IgA1(糖鎖異常 IgA1, Galactose-deficient IgA1; Gd-IgA1)が増加していることが、質量分析や異常糖鎖特異的レクチン(Helix aspersa agglutinin; HAA)を用いた研究により明らかとなっており、病態への関与が示唆されている。そして、(1) Gd-IgA1 の産生、(2) Gd-IgA1 に対する内因性 IgG/IgA 抗体の産生、(3) 1, 2 による免疫複合体の形成、(4) 免疫複合体の糸球体沈着とその後のメサンギウム増殖を主体とする糸球体障害、という multi-hit 仮説が提唱されているが、その詳細な病態については未だ不明である。これまで広く用いられてきた HAA レクチンを用いた Gd-IgA1 の測定系は、その糖鎖認識活性の不安定性が問題とされてきたが、近年レクチン非依存的にヒト Gd-IgA1 のガラクトース欠損ヒンジ部配列を特異的に認識するモノクローナル抗体(KM55)が開発された。 KM55 は血清中の IgA1 を認識するだけでなく、腎糸球体の Gd-IgA1 も検出することが可能であると報告された。そして、KM55 による免疫組織化学染色を行った Suzuki らの検討では、KM55 はIgA 腎症と紫斑病性腎炎患者の腎糸球体に特異的に沈着することが報告された。しかし、その疾患特異性について否定的な文献もあり、また小児例に対する検討はこれまでなされていない。そこで、我々は小児慢性腎炎患者に対して KM55 を用いた Gd-IgA1 免疫染色を行い、その疾患特異性および有用性について検討を行った。

【方法】
対象は 2007 年 7 月から 2020 年 1 月までに腎生検を施行した 60 例で、その実施施設の内訳は神戸大学病院 44 例、大阪市立総合医療センター7 例、和歌山県立医科大学 4 例、愛仁会高槻病院 3 例、兵庫県立こども病院 2 例であった。男児 28 例、女児 32 例であり、腎生検時年齢中央値は 10.5 歳であった。患者の臨床的特徴を Table 2 および Supplementary Table 1 に示した。

患者から得られた腎生検凍結保存検体を用いて、IgA と Gd-IgA1 の免疫二重組織染色を行った。その手順は以下の通りである。3μm の凍結切片を作成し、アセトンを用いて 10 分間固定し、10% Phosphate-buffered saline(PBS)で洗浄した。10% goat serum を用いて 60 分間室温でブロッキングを行い、PBS で洗浄した。Polyclonal rabbit anti-human Gd-IgA antibody (KM55; 100μg/mL, Immuno-Biological Laboratories)を 37℃で 60 分間 incubateし、PBS で洗浄した。その後、polyclonal rat anti-human IgA antibody(100μg/mL, Dako Janapn)を 37℃で 60 分間incubate し、PBS で洗浄した。Alexa Flour 488-conjugated goat anti-rat IgA antibody(1:100; Life Technologies)、Alexa Flour 546-conjugated goat anti- rabbit IgA antibody(1:100; Life Technologies)を 37℃で 30 分間 incubate し、PBS で洗浄した。その後、蛍光顕微鏡を用いて観察した。

【結果】
IgA および Gd-IgA1 陽性であった患者数を Table 1、免疫組織染色結果を Fig.1、すべての患者の染色結果を Supplementary Fig.1 に示した。IgA 腎症(17 例)と紫斑病性腎炎(6 例)全例で、IgA と Gd-IgA1 のメサンギウム領域への共沈着を認めた。ループス腎炎において、 ISN/RPS 分類 class I-IV(7 例)ではメサンギウム領域に、class V(2 例)では係蹄壁に IgAと Gd-IgA1 の共沈着を認めた。IgA 陽性の膜性増殖性糸球体腎炎では 4 例中 3 例で係蹄壁に Gd-IgA1 沈着を認め、IgA 陽性の膜性腎症 1 例中 1 例において係蹄壁に Gd-IgA1 沈着を認めた。一方、IgA 陽性の特発性ネフローゼ症候群(6 例)、オリゴメガネフロニア(2 例)、アルポート症候群、Dense deposit disease、半月体形成性腎炎(各 1 例)では、Gd-IgA1 は陰性であった。また、特発性ネフローゼ症候群(5 例)、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、オリゴメガネフロニア、アルポート症候群、C3 腎症、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、溶血性尿毒症症候群(各 1 例)では、IgA および Gd-IgA1 ともに陰性であった。

【考察】
本研究において、我々は腎生検凍結残切片を用いて小児における Gd-IgA1 特異的免疫染色の検討を行った。今回の研究は、過去に報告がない小児例に対する検討という点で優れていると考える。

本検討では、Gd-IgA1 は IgA 腎症と紫斑病性腎炎のみならず、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症においても陽性であるという結果が得られた。一方で、IgA 陽性であり免疫複合体が関与しない疾患では、Gd-IgA1 は完全に陰性であった。

過去の報告と同様に、IgA 腎症と紫斑病性腎炎全例で IgA と Gd-IgA1 は陽性であった。紫斑病性腎炎は IgA 腎症と同様の腎病理所見を呈し、患者血清において Gd-IgA1 が有意に高値を示すことが報告されており、IgA 腎症と共通の病態に起因すると考えられている。今回の結果は、この仮説を支持していると考えられた。一方、本検討では、IgA 陽性の特発性ネフローゼ症候群、オリゴメガネフロニア、アルポート症候群、Dense deposit disease、半月体形成性腎炎で Gd-IgA1 は陰性であった。これらの疾患では免疫複合体が病態に関与していないことから、IgA 沈着は非特異的に生じたと考えられた。Case 45(Fig.1)は頻回再発型ネフローゼ症候群に対してシクロスポリンで治療され、その腎毒性評価目的に腎生検を行った症例である。腎病理所見では、メサンギウム増殖に加えて IgA 陽性所見を認めたため、IgA 腎症疑いであった。しかし、腎生検時には血尿および蛋白尿を認めておらず、IgA 腎症の可能性は極めて低く、IgA 沈着は非特異的に生じた可能性が示唆された。つまり、Gd-IgA1 染色は非特異的 IgA 沈着を鑑別できる可能性が考えられた。このように、一般的な病理所見だけでは診断が困難な症例に対して、Gd-IgA1 染色の有用性が示唆された。

今回の検討では、IgA 腎症と紫斑病性腎炎に加えて、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症の腎糸球体においても Gd-IgA1 が陽性であり、KM55 の IgA 腎症と紫斑病性腎炎に対する疾患特異性を示した Suzuki らの報告と異なる結果が得られた。また、Cassol らの報告では、ループス腎炎 8 例中 5 例で Gd-IgA1 は陰性であった。過去の報告との相違について、次のことが考えられた。一つは成人と小児において、ループス腎炎の病態が異なっている可能性である。つまり、小児ループス腎炎において Gd-IgA1 が病態に関与しているという新たな知見が得られた可能性がある。近年のゲノムワイド関連解析ではループス腎炎と IgA腎症に共通する疾患感受性遺伝子が報告されており、共通する病態がある可能性を示唆している。一方、PLA2R1 の遺伝子多型と膜性腎症との関連、HLA-DQA1 の遺伝子多型と自己免疫性疾患の関連について報告されているが、これら遺伝子多型と IgA 腎症の関連はない。また、腎生検凍結組織を用いて、免疫沈着物内の IgG の抗原特異性を検討した Rizk らの報告では、ループス腎炎および膜性腎症患者の免疫沈着物は Gd-IgA1 に反応しなかったが、IgA 腎症患者の IgG は Gd-IgA1 に対する反応性を示した。以上より、ループス腎炎と膜性腎症において Gd-IgA1 は関与していないことが示唆されており、今後もこれらの疾患の病態解明が必要である。

また、IgA 腎症、紫斑病性腎炎、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症のすべての疾患において、免疫複合体が腎糸球体に沈着し、腎炎の発症および進行に関与している。そのため、KM55 が IgA 関連免疫複合体を非特異的に認識している可能性も考えられた。KM55の疾患特異性について、さらに症例数を増やした検討が必要である。加えて、過去の報告との相違の理由として、免疫染色方法の相違も原因として考えられた。Gd-IgA1 免疫染色を行った過去の検討ではパラフィン組織切片を用いていたが、本検討では凍結組織切片を用いた。凍結組織切片はパラフィン組織切片と比較して、強い抗原性が保たれていることがあり、そのために異なった結果が生じた可能性がある。この点は limitation である一方、凍結組織切片は作成が容易であり、抗原賦活化が不要であるという利点があり、有用であるとも考えた。

本研究にはいくつかの limitation が存在する。一つ目は検討症例数が比較的少なく、少数例しか検討されていない症例がある点である。二点目として、血清 IgA1 と腎糸球体 Gd-IgA1染色性の比較検討が出来ていないことが挙げられる。また、先に述べた通り、染色方法の違いも limitation として挙がる。

以上より、IgA 腎症と紫斑病性腎炎に加えて、ループス腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症においても Gd-IgA1 が病態に関与しているという新たな知見が得られた可能性がある。しかし、KM55 の疾患特異性は過去の報告と異なり、IgA 腎症と紫斑病性腎炎に特異的ではなく、KM55 は IgA 関連免疫複合体を非特異的に認識している可能性も考えられた。一方、 Gd-IgA1 免疫染色は非特異的 IgA 陽性症例を鑑別出来る可能性が示唆され、一般的な病理所見だけでは診断が困難な症例に対して、Gd-IgA1 染色は有用であると考えた。

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