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「古びた未来」から飛びだそう!研究者でありSF思考コンサルタントでもある宮本道人先生に聞く、不確実な未来を生き抜くオンリーワンキャリア創出術

「古びた未来」から飛びだそう!研究者でありSF思考コンサルタントでもある宮本道人先生に聞く、不確実な未来を生き抜くオンリーワンキャリア創出術

虚構学者、応用小説家、SF思考コンサルタント 宮本道人先生

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先が見通しにくいと言われる現代において、どのような仕事に就けば安泰な人生が送れるのでしょうか。「今の時点から予測する未来は既に古びています」と、北海道大学 CoSTEP 特任助教の宮本道人先生は言います。宮本先生は、SFと科学技術を組み合わせてイノベーションを生む手法を研究し、虚構学者・SF思考コンサルタントとしても異彩を放っておられます。

フィクションと科学を融合した独自の方法論は、ある時は企業へコンサルティング、ある時は大学教員、ある時は作家・・・と多彩に応用可能。その活躍は多岐にわたります。先生は、どのようにSFに親しみ、活用されて今のキャリアを築かれたのでしょうか。そこには確固たる軸を持ちつつ、虚構と現実を自由に行き来する姿がありました。後半には新しい未来をつくりだす「SFプロトタイピング」を活用したワークで、職業消滅時代のサバイバル術も伝授します、ぜひご覧ください!

オリジナリティを表現する肩書きでオンリーワン人材になろう

── 先生の肩書きには虚構学者、応用小説家、SF思考コンサルタント、とあります。なぜ、一般的な「作家」や「物理学者」ではないのでしょうか。(編集部注:宮本先生は東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学))

宮本:肩書きでオリジナリティを表現する、というとわかりやすいでしょうか。この肩書きを名乗っている人は日本ではおそらく僕しかおらず、第一人者として紹介されるので、競合がいなくてオンリーワンになれる、という利点があります。だからといって肩書きを偽っているわけではありません。ちゃんとそれに対応する仕事を丁寧に行なったうえで、肩書きをデザインすることで、新しい分野を立ち上げるぞと宣言している、という側面があります。

── オンリーワンの人材であることは、これからの時代に大切なことになりそうですね。

宮本:AIに代表される技術革新により、これからは色々な職業が消滅していくと言われていますね。そんな職業消滅時代のサバイバル術のひとつが、オンリーワンであることです。そのほかにも、変化の時代に対応する力として、「周囲の人と組んで新しい仕事を創り出していく力」の育て方も教えたりしています。オンリーワンならぬオンリーツーみたいになれるコラボ力もこれからは大事になってくるのではないかなと。

社会人や学生向けに、SFプロトタイピングを活用したワークショップを行う宮本先生。
画像提供:宮本道人先生

── お笑い芸人さんとコラボして開発したプログラムもその一環ですか?

宮本:VR漫才で「掛け合いプレゼン力」を向上させるトレーニングのことですね。これは東京大学のバーチャルリアリティー教育研究センター(VRセンター)に所属していたポスドク時代に作ったものです。現実社会は和やかな雰囲気の会話ばかりではありません。大人数の会議で厳しい質問を投げかけられ、緊張して上手くコメントを返せなかった……という経験をされた方もいるでしょう。漫才って、人前でボケてツッコんで、という構造があり、ある意味こういったつらい場面、スベりそうな状況にも近いわけです。だから、漫才を漫才師目線でVR体験できるようにすれば、人前で会話する「掛け合いプレゼン力」を向上できるシステムになるのではないかと考えました。

── 面白そうですね!

宮本:お笑いコンビのNON STYLEさんに協力を依頼して、モーションキャプチャーで漫才中の身体の動きを収録しました。ユーザーはVRゴーグルを装着することで、井上さん(ツッコミ)のアバターを装着して、相方の石田さん(ボケ)と数分間の漫才を繰り広げるプログラムを体験できます。開発に際しては様々な方にお世話になりましたが、特に石田さんから詳しく漫才のコツをお聞きして、掛け合いプレゼン力が高まるであろう工夫を詰め込みました。現在は効果検証の段階で、どのような種類の能力が高まったかをデータから分析しています。

── VUCAの時代と言われ、漠然とした不安を抱えて生きている人が多い世の中に先生のような存在は、とても心強いですね!今日は先生の提唱するSFプロトタイピングや、不確実な未来を生き抜くサバイバル術について、いろいろと教えてください!

全く新しいアイデアからイノベーションを生みだすSF思考

── まずSFを使って未来をつくりだす「SF思考」について教えてください。

宮本:これまでの未来に対する姿勢は、あくまでも高い確率で起こりそうな将来を想定したものが多かったと思います。たとえば個人の話でいうと、この方法(フォアキャスティング)で想定するのは「この職業はずっと安泰だったからこれからもそうだろう。この大学のこの学部はその職業につく卒業生が多いから自分もそこを受験しよう」といった、過去から地続きで考える、言わば「古びた未来」。でも、多彩なスキルやキャリアが求められるようになってきているいま、長い目で見て本当にこれが通用するかは怪しくなっているわけです。不確実な時代をサバイブするためには、全く新しい発想が必要なんですね。

そこで役立つのが「SF思考」ですSF思考ではまず「全く新しい未来像」をふくらませてから、その未来から現在までの道のりを逆向きに考えていきます。フィクションと現実の壁をなくして未来像をふくらませるプロセスをSFプロトタイピング」、つくった未来像から現在までの道のりを考え、アイデアを収束させるプロセスをSFバックキャスティング」、その二つを合わせたものを「SF思考」と、僕は整理しています。

SF思考とは

SFプロトタイピング*1

SFバックキャスティング*2

*1:フィクションと現実の壁をなくして未来像をふくらませるプロセス 
*2:つくった未来像から現在までの道のりを考え、アイデアを収束させるプロセス

── なぜ不確実な未来の予測にSF思考が有用なのでしょうか?

宮本:未来について、現実にはあり得ないフィクションとして気軽に考えてみると、今まで思いもしなかった全く新しい可能性が生まれ、イノベーションを起こすアイデアも思いつきやすくなります。しかも、そのアイデアを実現するための道のりも議論しやすくなる。これが、SF思考が多くの企業で活用されている理由だと思います。

また、人生はいろいろですから、進路や就職、突然の倒産や災害などで行き詰まることもあるでしょう。そのような場合も普段から別の可能性(プラン)について考えていたら、考えていない人と比べて気軽にプランB・プランCへ切り替えられますよね。

現実と虚構が入り交じる世界に生きた子供時代

── 未来について考える楽しさや活用方法が伝わってきました。先生はいつ頃からSFに慣れ親しんで発想力を身につけられたのでしょうか。

宮本:小さい頃、よく家に泊まりに来てくれた祖母がすばらしいストーリーテラーで、夜寝る前に即興でオーダーメイドの話を聞かせてくれました。これがSFに親しんだ最も古い記憶です。

次にはっきりと覚えているのは小学校低学年でのビー玉遊びです。障子の敷居(レール)にビー玉をいくつかならべて、片方から1つビー玉をぶつけると、反対側の端のビー玉1つだけが動きます。いわゆる運動量保存の法則ですが、当時は「全体が動くはずなのに、なんで端っこだけが動くのだろう」とすごく不思議で、許せなくて。「この世界は何かおかしい!」と、自然現象を偶然発見した驚きと、その物理法則に納得できないモヤモヤとの間で激しく心が揺れ動いたんですね。

テレビゲームを通して自分の脳や意識に興味を持ったのもこの頃です。「自分はゲームの世界に生きているキャラクターで、今見ている景色もゲームの世界かもしれない」などと、現実と虚構のどちらに生きているのか明確に判別できる方法がなくてモヤモヤしていました。

── 納得のいかないモヤモヤを、どのように解消したのでしょうか。

宮本:成長するにつれ、現実と虚構という二つの世界に対して明確に線を引かなくなりました。むしろ現実と虚構が混ざり合った方が面白そう、フィクションと考えた方が楽しくなることもいっぱいある、と気づいたのです。もし仮に自分の人生が全部フィクションだったとしても、それはそれで面白い、と世界を見るようになりました。

苦手だからこそ選んだ理系の道

── 高校生の頃にはすでに作家を目指していたそうですが、理系に進学された理由は?

宮本:海城高校っていうところに在学していたんですが、高校一年の社会の授業で、自ら対面取材をゼロから設計してレポートを書け的な課題が出て、ずっと気になっていたサイエンス作家の竹内薫先生にメールを出してみたのが、自身の進路をバックキャストでデザインするようになった第一歩目でした。憧れの職業で活躍されていた竹内先生との対話で自分の課題や身を置くべき環境がクリアになり、今就いている職業への道のりを具体的に設計できるようになりました。

インタビュー後に撮影した竹内薫先生との記念の1枚。今でもイベント等で交流がある。
画像提供:宮本道人先生

ちなみに、作家になるなら文系選択と考える人は多いかもしれませんが、僕はむしろ文系科目が得意だったし、本を大量に読むタイプだったので、そっちは独学でも何とかなるかな、と。一方で理系、特に物理は非常に苦手で、高価な実験設備も必要です。そうした経緯で、学部では素粒子理論や原子核理論を、修士・博士ではショウジョウバエ幼虫をモデルとした神経科学を学びました。

── 苦手だからあえて理系を選択したのですね。

宮本:博士号まで取得しましたが、だからといってその分野について人より「得意」になったとはいまだに全然思っていません。むしろ、どこまでどうわからないかを把握できるようになったぶん、「知らないことやできないことが山ほどあるなぁ」と痛感するようになりました。自分がわかったのはごく一部。とはいえあらゆる分野に対し、自分の見えている知識の周りに分かっていない部分がどう広がっているのか、という構造を誠実に認識しようとするスキルは多少なりとも身についたように思います。

誰も手をつけていない空白を見つけて発信する

── ショウジョウバエの研究以外で得た貴重な経験はありましたか?

宮本:学部のときにはSF研究会に入り、自主制作映画の制作や、小説や評論の同人誌の執筆・編集をしていました。そこからイベント登壇して発信したり、書籍への寄稿の機会をいただいたりして、博士課程のときにはいつの間にかプロの物書きになっていた、という感じです。JST*から予算をとって、SFAIの発展にもたらした影響について調査する研究を始めたのも博士課程のときですね。

*国立研究開発法人科学技術振興機構 ここでの研究費は「想像力のアップデート:人工知能のデザインフィクション」(代表:大澤博隆)。宮本先生は実施者として参加。

── 夢だった文筆家デビューを在学中に果たされたのですね。

宮本:商業出版物への小さな寄稿は学部生のときにも少しだけあったのですが、博士課程1年のときに出版した共著『ビジュアル・コミュニケーション』で、映像と科学文化の掛け合わせで社会システムの未来について論じたのが、いちおうデビューといえる原稿というか、業界内でそれなりに認知されるようになったターニングポイントだったかなと思います。出版後すぐに新たな原稿執筆依頼が来たり、東京藝術大学でのゲスト講師の依頼も舞い込みました。

初の著書『ビジュアル・コミュニケーション』出版を記念して
画像提供:宮本道人先生

── ショウジョウバエの研究と並行して、SF研究、文筆業、講師と多岐にわたる活躍ですね。研究以外の活動について、教授からは何も言われなかったのでしょうか。

宮本:本当に素晴らしい先生で、研究についてはしっかり指導してくださり、やることさえやっていれば個人の活動のほうは自由にさせてくださいました。だいたい事後報告だったので呆れられていた気もしますが……(笑)。

ポスドク以降も毎回同じで、面白いと思うことを自然体でやっていたら、それを面白いと感じてくれた人がプロジェクトに誘ってくれる、みたいなことが続いています。やりたいことをやるために、一緒に研究や仕事をする人との相性はとても大切にしています

── 相性の良い人を見つけるコツは?

宮本:相性の良い人に見つけてもらえるように目立つ、ということにつきますね。特に、あまり詳しくない分野にも顔を出して、しばらく観察して全体像を把握することで、「この分野ではこんなことはやられていないのでは?」みたいな穴を見つけて発信するようにしています。部外者だからこそ発想できるトリッキーな組み合わせってあると思うんですよ。で、そこに興味を持ってくれる人って、わりと新しいもの好きだったりして、既存の業界に横槍をブチ込むタイプの僕と相性が良いことが多いです。

あと、自己PRをするときは、万人受けを狙うのではなく、紋切り型や流行りの言葉を避けて、オリジナルな自分のキャラクターをしっかり確立したほうが、それに興味を持ってくれる相性の良い人と出会える可能性が上がると思います。

ぶれない軸を持ってオリジナルのキャリアを築く

画像提供:宮本道人先生

── 素粒子、神経科学、VRSFとさまざまな領域を自由に横断してこられたのですね。

宮本:「現実と虚構のつながり」という軸を持って、その研究や実践ができる環境を追い求めた結果です。日本では一つの専門性の階段を昇っていく人が評価されがちです。専攻や仕事を変えると「キャリアをあきらめたんだね」みたいに失敗のレッテルを貼られることが多々ありましたが、そんな声はテキトーに聞き流して、自分なりのキャリアを歩みました。

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自分の中にしっかりと軸をもって、学ぶ分野と環境を選んできた
資料提供:宮本道人先生

── やりたい研究ができる環境を追い求めるために、心がけたことはありますか。

宮本:やりたいことをなるべく人に伝えるようにしつつ、マイナスのこだわりをなるべく持たないようにしています。「これには興味がない」「この分野は自分と関係ない」みたいな思考は、自分の未来の可能性を狭めてしまうと思うので。全く理解できそうもない学会へ気軽に参加して視野と人脈を広げたり、知らない人に突然コラボの打診をしてみたりと、テキトーにフットワーク軽く生きることが重要です。

とはいえイベントや共同研究を打診する際は、「お互いの知見を組み合わせて、これまでにない分野をつくりたい」的な本気の姿勢で臨み、共同プロジェクトへ参画していただくメリットを最大化することを心がけています。

大公開!オンリーワン人材になるためのワーク

── 最後に、先生のようにオリジナルの肩書きをもって、自分のやりたいことをやれるようになるワークを教えていただきました!

宮本:ワークのタイトルは「職業消滅時代のサバイバル術」。かつて存在していた職業が次々と消えていく時代に、今はまだ存在しない未来の職業を生みだすヒントになるワークです。2人以上で取り組むとさらに広がりますが、1人でも大丈夫。楽しみながら進めてください!

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資料提供:宮本道人先生

── 考えたこともなかったキャリアプランができあがりました。こんな人生もアリかも、と思えるから不思議です。妄想のプロフィールづくり、面白いですね!

宮本:関わるプロジェクトややりたいことが変わったタイミングなどで、何度も作ってみてください。僕自身も妄想プロフィールをしょっちゅう作っていて、最近は「誤解作家、意味不明学者、デマカセコンサルタント」って肩書きを名乗ろうと本気で考えていたのですが、さすがに怪しすぎるのでやめました(笑)。

マジメな話に戻すと、自分とこれまで縁がなかった様々な分野の人たちが興味を持ってくれるように、いつもプロフィールを面白く作り直すことは重要だと思います。プロフィールは一つの作品のようなものです。それに、自分が作った肩書きで人から呼ばれたり、それで取材されたりしたときの快感はなかなかのものですよ。ぜひ皆さま、妄想を実現してみてください。

画像提供:宮本道人先生

宮本道人(みやもとどうじん)

虚構学者、応用小説家、SF思考コンサルタント。北海道大学CoSTEP特任助教、慶應義塾大学SFセンター訪問助教。フィクションと科学技術を組み合わせてイノベーションを生む手法を研究。三菱総合研究所、NEC、日産自動車など、企業の未来共創企画に協力。NON STYLE石田明氏らと共同研究し、VR漫才システムを開発。著書に『古びた未来をどう壊す?』、編著に『SF思考』『SFプロトタイピング』など。原作担当漫画『Her Tastes』でマンガミライハッカソン大賞および太田垣康男賞受賞。『SF思考』は中国で翻訳出版、『Her Tastes』は国立台湾美術館で招待展示された。1989年生まれ。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。
個人ホームページ:https://dohjin.tumblr.com/
(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)


リケラボ編集部

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