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整髪料の時間がたつと崩れてくる問題や、つけすぎてベタっとなってしまう問題。そんなどうにかしたい悩みを一気に解決してくれる画期的な製品が出ました!
ワックスやジェル、スプレーは、髪の外側に成分を付けて髪同士をくっつけることでヘアスタイルをつくっているので、どうしてもベタついたり、髪に何かついている感じがでてしまうのですが、今回新しく発売されたマンダム「インサイドロック」は、髪の内側でヘアスタイルを固定するため手触りも見た目も自然。さらに外側からの湿気の影響を受けにくく、キープ力もこれまでにないレベルを実現してます。
どのようにしてこんな画期的な製品が出来上がったのか・・・。
開発に携わった研究員の方にじっくり聞いてきました!
化粧品会社での就職を目指す方へのアドバイスも必見です!
☆
定番商品から画期的な新製品まで──実際に開発に携わった方に、製品の特性や開発時のエピソード、研究開発職を目指す方へのアドバイスを伺う本企画。
今回は、株式会社マンダムにお邪魔し、整髪剤「ギャツビー インサイドロックシリーズ」開発担当者の占部駿さん(院卒・入社14年目)にお話を伺いました。(※所属などはすべて掲載当時の情報です。)
ギャツビー インサイドロック シリーズ
男性向け化粧品でおなじみの「ギャツビー」から、2019年8月に新発売された整髪剤。新たに開発された独自の「インサイドロック技術」によって、スタイリング成分が毛髪内部に浸透・作用し、髪の動きをロックする。湿気に強く高いキープ力を実現しながら、ベタつかず洗い落ちも良い。ナチュラルに、だけどしっかりとキープしたい人にぴったりの製品。「ワックス」「セラム」「ストレートウォーター」タイプが展開されている。
https://www.gatsby.jp/product/hairstyling/inside-lock/
髪の内側に作用するα-ケトグルタル酸
まずは、「インサイドロック」誕生の経緯を教えてください。
従来のワックスやジェル、スプレーなどの整髪剤には、どうしても「固めてキープする」ものが多く、ベタつきやゴワつきが出てしまったり、自然な質感を出すのが難しいという課題がありました。この、「キープ力」と「手触りの良さや自然さ」の両立は、当社の中で永遠のテーマとなっていて、この課題に正面から挑戦してみようと思ったのが開発開始のきっかけです。
「インサイドロック」は、その名のとおり髪の内側から作用してヘアスタイルをキープするとのことですが、髪の内側に着目したのはどうしてだったのですか?
これまでベタつきが出てしまっていたのは、従来の整髪剤の整髪機構が、毛髪の外側にオイルや樹脂、シリコンやパウダーなどの整髪成分を塗布して、髪同士をくっつけたりひっかけたりして固定するためでした。それであれば、整髪剤を髪の中に入れてしまえば、外側は自然な状態で、髪型をキープできるようになるのでは、と考えたのが、“内側”に着目した経緯です。
内側からの整髪とは、どんな仕組みによって実現されているのでしょうか?
髪の毛の内側はタンパク質の束でできています。この束同士が繋がることによって、髪が形作られているのです。ちなみに、雨が降っていたり、ジメジメと湿度の高い日にヘアスタイルが崩れてしまいやすいのは、この束の結合が湿気によって切れやすい性質を持っているため。そこで私たちは、毛髪内部の束の繋がりを強くすることによって、髪を内側からスタイリングする方法を探しました。
カギになったのは、「α-ケトグルタル酸」という成分です。α-ケトグルタル酸は毛髪内の束の橋渡し役としてしっかりと繋いでくれて、湿気が入ってきても髪型を維持できるようになります。このα-ケトグルタル酸にたどり着くまでに100種類以上の候補成分や、数えきれないほどの組み合わせを試し、かなり時間がかかりました。
数えきれない組み合わせを試したなかで、どうやってα-ケトグルタル酸にたどり着いたのでしょうか?
候補成分は、ある共通の特徴(タンパク質をつなげる作用)を持ったもので、毛髪内部からのスタイリング効果に期待ができるものだったのですが、じつは、α-ケトグルタル酸は理屈的にはほとんど効果が期待されていなかった成分だったんです。それでも、とりあえずやってみようと、試してみたら、実際はベストな成分だということがわかりました。先入観にとらわれずに実験することは本当に大切ですし、これが開発の面白さでもあります。
研究中、ほかにも大変だったことはありますか?
今回は毛髪の内部に着目したので、これまで以上に毛髪の構造に関する知識が必要だったことです。整髪成分が、毛髪内でどのように作用し、タンパク質の構造がどのように変化したのか、分析機器でデータを取るのですが、つまり成分の効果の検証のために分析会社に依頼してデータを出してもらうのですが、その結果を見るのにも非常に専門的な知見が必要で。そこで、タンパク質に関する研究を専門にしている大学の研究機関にも協力してもらいました。
10年間かけて開発されたとのことですが、最後まで続けられた秘訣を教えてください。
長年の課題を解決したい、そしてそれが解決できればすごくびっくりするようなものができるのでは、という想いがモチベーションでした。
当社では、年に2回マーケティング部門から生活者の意識や市場のトレンドに沿った新製品のコンセプトが出されて、新製品を開発していますが、それとは別に、技術開発部門のアイディアを活かした製品開発もしています。自由な発想で新製品の開発をできるのは、当社の良い社風であると感じています。
今回の「インサイドロック」もそんな活動から生まれた製品です。2008年頃、整髪剤を作るチームで私を含めて3人のメンバーが「何か面白いことをやろうよ」と集まりました。そのときは、ちょうど女性を中心にナチュラルなヘアスタイルが流行り始めたころでした。
年に2回のレギュラーの開発と並行して自主テーマを進めるのはなかなか大変ですが、タイムスケジュールをきちんと立て、何ヶ月かごとに「この期間で、ここまで結果を出そう」と目標を定めながら、コツコツと実験を続け、ようやく製品化につなげることができました。
新しいものを生み出すためには、ゴールを決めてから手段を考えよう!
占部さんはどうしてマンダムに入社されたのですか?
私は高校生ごろから化粧品会社の研究員になりたいとずっと思っていました。化粧品には、メイクアップやスキンケア、ヘアケア製品など、いろいろな種類のものがあることにワクワク感を抱いたのが、興味を持ったきっかけです。大学では化粧品業界に近い研究がしたいと思い、化学を専攻して、「粉体工学」の研究室で粉にいろいろな機能を持たせる研究をしていました。そのため、当初は女性のメイクアップ品の開発職を目指していたのですが、企業研究を進めるうちに「粉にこだわらなくても、ワクワクする面白い研究開発ができるかもしれない」と思うようになっていきました。そしてマンダムがワクワクを感じられそうな社風だったことや、男性商品に強いという特色も個性的で魅力を感じ、入社しました。
占部さんが、日頃お仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?
新製品を作るときは、まずはゴールをイメージして、そこから逆算で思考していくことを心掛けています。何か新しいものを生み出すとき、従来の発想の延長線でしかモノゴトを考えていないと、どうしても発想が凝り固まってしまい、新しいものが生まれづらくなってしまうんですよね。なので、手段ありきではなく、まずはどんなものがあったら生活者が喜ぶのか?と、作りたいものを先にイメージしてから実現するための手段を探すようにしています。
新しい手段を見つけるコツはありますか?
私の場合は、普段自分が所属する会社やコミュニティ以外の人と積極的に関わるようにしています。たとえば、社外の交流会でいろいろな方とお話をさせてもらったり。学会でも意識して化粧品業界以外の方と交流しているようにします。そうすると、「今自分が探していることと、あの人がやっていることは近いだろうな、また話を聞いてみよう」など、たまに発想が繋がることがあります。
具体的なエピソードがあれば教えてください。
最近では、繊維業界の方と話していた中で、「セーターなどの繊維による肌への刺激」がヒントになりました。結果、ボディクリームを研究している仲間と、その繊維業界の方とで、肌への刺激に関する評価に活用させてもらうことができました。異業種交流としてすごく良い形になったと思うので、今後も積極的に他分野の方との関わりは続けていきたいと思います。
社外の方と交流する際のコツなどはあるのでしょうか?
社外の方とお話しするときは、なるべく専門用語を使わずに、できるだけシンプルなワードを使うよう心がけています。異業種交流だけでなく、例えばお客様に自社の製品の良さを知っていただくためにも、専門的なことを分かりやすく伝えるスキルは磨いておいた方が良いと実感しています。
化粧品会社の研究開発職を目指す人へのメッセージ
化粧品の開発職に就くにあたって、実は、学生時代の専攻や地頭の良さは、あまり重要ではないのかなと個人的には思っています。入社説明会でも学生さんから「今は化粧品とあまり関係のない研究をしているのですが、大丈夫ですか?」という質問がよく出ますが、僕は、それでもまったく問題ないと答えています。化粧品開発に必要な知識はあるに越したことはないけど、入社後でも習得できます。一番は、前向きに素直に、楽しく仕事に取り組めるかどうかという姿勢です。前向さと素直さがあれば、入社してからいくらでも勉強して成長できると思っています。
化粧品は、化学というアカデミックな要素がベースの製品なので、有機化学や無機化学など、化学としての面白さももちろんあります。ですが、最終的には使う人の感覚によって製品の良し悪しが決まるもの。肌や髪にもいろいろな特徴があるなかで、自分たちがどんな人のどんな悩みを解決したいのかを考えたり、まずはターゲットとなる人の特徴を知るところから始まるのも、化粧品開発ではとても重要です。サイエンスをベースに使い手の心地よさ、感性に訴える製品をつくるには、柔軟に沢山の仮説を立ることがカギ。これが、驚きやワクワクを与える新しい製品を生み出す力に繋がると思います。
まとめ
整髪剤は髪の表面に成分を付けるもの、その常識を覆し、髪の内側で作用させたらどうか、と発想したこと自体がまずスゴイと思いました。候補成分の中で一番期待していなかったものが本丸だったというエピソードも、理論と実験の両方の大切さを表していて、深く頷けました。
サイエンスが製品のベースとはいえ、その良し悪しの評価は感覚や感性など右脳的な評価の部分が大きい、ということも化粧品開発の難しい点でもあり、面白さとして印象に残りました。
化粧品の開発職を目指している方は本当に多いので、高校生の頃からの夢をかなえた占部さんのお話は、考え方や取り組む姿勢など学ぶべきことがたくさんあったのではないでしょうか。
この記事が、研究開発者を目指す皆さんのヒントになりましたら嬉しいです。
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