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理系出身キャリアコンサルタントKOTORAです。生物学で大学院を出て(理学博士)、10年以上教育・研究に携わってから人材業界に入り、人材会社2社で合計10年以上働いてきました。今現在はとあるメーカーの人事部門に勤務していますが、人材業界退職時に、私自身サービスを利用する立場になってみて、人材会社を上手に活用するには人材会社の仕組みやサービスについて知っていた方が圧倒的に有利だと痛感し、この記事を書くことにしました。
人材会社を使わずに転職活動をすることもできますが、人材会社をうまく活用できると、応募できる求人の数が増えたり幅が広がったりして、求職者にはたくさんのメリットがあります。人材会社には日々たくさんの求人を見て、採用の現場を経験している社員がいます。不安を感じることも多い転職活動において、情報量や経験が豊富な人材会社の中の人を味方につけられると心強いものです。今回は人材会社の仕組みを踏まえて、その上手な活用法について考えていきましょう。
人材会社の仕組み
人材会社は求職者に仕事を紹介し、就業が決まると紹介先企業から手数料をもらうことで成り立っています。営業担当者は企業へ電話したり訪問したりして求人をもらいます。求人の詳細を聞くために企業へ訪問することが多く、その際には実際に働く現場を見せてもらったり、採用部署の人と会ったりして職場環境や働いている人の雰囲気を確認しています。
多くの人材会社では営業のほかに、求職者の窓口となる専任職種を置いています。会社によってキャリアコーディネーター、コーディネーター、キャリアアドバイザーなど様々な呼び方をしていますが、ここでは求職者側の立場からアドバイザーと呼ぶことにします。アドバイザーは電話や面談で求職者の相談を受け、スキル・経歴・希望などの求職者情報をデータベースに登録したり、合う求人を探して求職者に提案します。営業が新たに求人をもらってきたら内容を確認し、多数の登録者の中からスキル・経歴・希望が合う人を探して電話・メールで連絡を取り、求人を提案します。こうして営業とアドバイザーが協力して求職者の希望と求人企業の要望をすり合わせ、就業につなげることで手数料収入を得ます。求職者が無料で求人の紹介やキャリアカウンセリングといったサービスを受けられるのは、採用する企業が人材会社にお金を払っているからです。
企業が人材会社を利用する理由
企業が人材会社を利用するメリットは一般的に大手企業と中小企業で事情が異なります。
まず大手企業の場合。特に知名度の高い企業では、中途採用を考えて自社募集すると数百~数千通の応募が殺到することがあります。それを自社内で処理するには大変なコストがかかります。書類に目を通して選考、複数回の面接のスケジュール調整、面接対応、不採用通知の発信・・・応募が多ければ多いほどコストは増大します。そのため人材会社に紹介を依頼して一次選考の役割を担ってもらい、人材会社から紹介してもらった比較的少数の候補者の中から採用できたら手数料を払う。その方が自社で採用するよりもずっとコストをかけずに良い人を採用できる可能性が高いのです。
一方で中小企業の場合には事情が異なります。大手企業に比べるとどうしても知名度は劣るため、自社募集をかけてもハローワークへ求人情報を出しても、まったく応募がない、ごく少数応募があっても採用したい人はいないということが少なくありません。そういう状況で人材会社を利用する企業が増えています。人材会社は登録している多数の求職者の中から探してくれるので、受け身で応募を待つよりも適任者が見つかる可能性が高いのです。求職者サイドとしても、精査していくと、それぞれの希望に合いそうな案件が結構あります。例えば、家族の事情で将来にわたって転勤を希望しない方にとっては、事業所がひとつしかない会社は魅力的です。理系出身で現場での研究開発やものづくりに興味のある求職者の方は、小さくても高い技術力を持つ会社、特定の工業製品でトップシェアを持つような会社の求人に魅力を感じる方も多く、自力では知りえなかった会社の案件に出会うことができます。
人材会社活用のメリット:1.多くの求人情報を得られる
それでは、いよいよ私たち求職者側からみた人材会社を活用するメリットを見てみましょう。
人材会社や転職サイトに登録すると、登録者の元には毎日多数の求人情報が届くようになります。人材会社は1件でも多く成約すればそれだけ売り上げが上がるため、営業はできるだけ多くの求人情報を集めてきます。つまり、自力で探すよりも多くの情報を人材会社はストックしています。これが人材会社を利用する最大のメリットです。特に働きながら転職を考えている求職者にとって、転職活動に割ける時間は限られています。自分に合いそうな求人を探してきて情報を送ってくれる、しかも登録は無料なのですから利用しない手はありません。転職を考え始めた情報収集の段階では、送られてくる多数の求人を見ることが転職活動の方向性を決めるための大事な材料になります。
以前は人材会社を訪問して面談しないと登録が完了しない会社が多かったように思いますが、最近はネットや電話の対応のみで登録できる会社も増えてきました。土曜日に登録対応している会社も多いです。登録された経歴・経験から拾い出したキーワードに自動マッチングで求人情報を送ってくる人材会社が多いので、将来業務でかかわりたい経験はすべて登録した方が関連の求人情報を得やすくなります。一方で、自動マッチングではスキルレベルの合わない求人も送られてきます。例えば、研修で1週間習っただけのHPLC使用経験を登録したら、医薬品のHPLC分析スペシャリスト募集、という求人が手元に届くこともあります。キーワードでマッチングしているためにこのようなことが起こりますが、HPLC分析のスペシャリストを目指している人なら、そうなったときにどんな求人に応募できるのかあらかじめ情報を得られる、と考えることもできます。送られてくるたくさんの求人が自身の経験のどことマッチングされたのかを見ることで、求人市場で高い付加価値を持つ経験・スキルが何かを知るヒントにもなります。
機械的な自動マッチングと並行してアドバイザーがピックアップした求人を個別に提案してくる会社(スカウトメールなどと呼ばれるもの)もあります。そういう求人は自動マッチングで送られてくる求人に比べて、自身の希望や経験に合致している可能性が高いので丁寧に内容を見て検討した方が良いでしょう。そして応募しない場合にも、その理由をアドバイザーに伝えておくと、次の提案の際にその理由を汲んでより良い提案をしてくれるはずです。
人材会社活用のメリット:2.採用動向に詳しく付き合い方次第で強い味方に
人材会社の社員は毎日多くの求人情報に触れ、多くの取引先の採用を担っています。応募できる求人が増えるスキル・待遇の良い求人に応募できるスキルはなにか、どういう求人がいつごろ出てきそうか、性格や得意不得意が成果につながる業務はなにか。人と求人のマッチングを日々考えているので、求人情報についても多様な人それぞれに合うお仕事についても情報を豊富に持っています。
同じ企業・同じ部署から求人をもらうことも多く、求人企業側の要望について本音ベースでコミュニケーションしているため、求人票には記載されていない情報も多く持っています。そういった要素も加味して、求職者と求人のマッチングを行うため、アドバイザーが提案してきた求人は自分で探す求人よりも希望する働き方や就業環境に近いことが多いのです。また、退職者が続いているような職場環境であれば、問題を特定し、クライアント企業へ改善の提案を行ったり、問題が改善されるまでは紹介を控えるなど、求職者に不利益とならないような努力もしています。
求職者に合う求人が見当たらない場合、アドバイザーは「この求職者の希望に合う仕事がありそうな企業に非公開求人がないか確認してほしい」と営業に依頼することがよくあります。アドバイザーが「合う就業先を見つけられれば必ず成果を出せる人だ」と思えば、その求職者のために営業と一緒に動いてくれます。求職者の希望があれば、同意を得たうえで企業へ売り込みを行うこともあります。
そうやってアドバイザーに味方になってもらうためには、求職者の希望に合う仕事、力を発揮できる仕事についてアドバイザーが具体的にイメージできることが必要です。具体的じゃないと探せないからです。人材会社を効果的に利用するためには、人材会社の担当者に自分の味方になってもらうことがとても大事です。本音を隠したり、経歴を過大申告することは得策ではありません。正直に自分を伝えて、自分がどういう人なのか、どんな仕事で成果を出せるのか、どんな環境は苦手なのか、理解してもらうことで初めて効果的なサポートを得られます。
まだ転職するかどうか迷っている、転職はすぐには考えていないけど将来のキャリアプランについて相談したいという場合にも人材会社へ登録・相談に行ってみると良いと思います。多数の求人を毎日見ているアドバイザーなら、あなたのスキル・経歴・希望に見合う求人が実際にあるのか教えてくれるでしょう。登録して求人情報に触れることで、自分が応募できる求人があるのか、応募したい求人があるのかという情報を得ることができます。これは転職をするかどうかとは関係なく持っていた方が良い情報だと思います。転職しようと思わなくても止むを得ない事情、例えば家庭の事情や会社の経営状態などの理由で退職や転職を余儀なくされる可能性は誰にでもあるからです。どんな状況に置かれても、求められる人材であり続けることこそが安定につながります。応募できる求人がない場合には現職で働きながらスキルアップする道を模索した方が良いでしょう。求められる人材であるために現職で身につけられること、仕事以外の時間にスキルアップできることを考えていきましょう。また、多数の求人を見ても応募したい求人がない場合には、現職は自身が思うより良い職場かもしれません。求人を見て待遇や業務内容などを現職と比較することで現職を客観的に見ることができれば、転職を考える原因になっていた出来事についても見方が変わる可能性があるでしょう。
良い転職アドバイザーの見つけ方・見分け方
私は人材業界と教員の両方を経験した結果、ふたつはとても似ていると思っています。どちらも人を見る仕事。教育は人を見て良いところを伸ばす。人材ビジネスは適性を見て合う職場を探す。求職者に対して研修で教えることもある。求職者から教えられること・学ぶこともある。そして紹介した新たな仕事での成長を共に喜ぶ。人材会社の中の人としての仕事はそういう仕事でした。大きなキャリアチェンジを成功させた人、派遣で少しずつスキルアップしながら5年ほどかけて希望の仕事に就いた人、仕事を失って苦しい状況の中でも前向きに転職活動する人、家族の事情で希望する働き方ができない人・・・それぞれの事情に寄り添って、ベストな選択はなんだろうと考え続ける日々でした。一方で、少子高齢化社会で人手不足が慢性化している今、転職で「動く人」の絶対数が減り、求人があふれる中、沢山の求人の提案はあるが、相談者のキャリアを第一にじっくりと相談に乗ってくれるアドバイザーばかりではないとも聞きます。だから相談者は人材会社・アドバイザーをしっかり見極めることが大事です。学校や担任は簡単には変えられませんが、相談する人材会社を変えるのは比較的容易です。
良いアドバイザーを見つけるためには複数の人材会社・アドバイザーと話してみるしかないと思います。もし、信頼できる友人や知人から評判の良いアドバイザーを紹介してもらえれば、自分にとっての「良い」アドバイザーに出会うまでに少し近道ができるかもしれません。紹介してもらうときに、その人材会社のサービスの様子も聞いて自分が登録している人材会社と比べてみましょう。登録者の紹介で登録に行くとお礼を出している人材会社もあるので、そういったサービスもチェックしてから行くと良いと思います。そして、登録・相談時にすぐに転職を勧められて求人を提案されても、その場では即決せずに持ち帰って冷静に考えましょう。転職は人生に大きな影響のある出来事ですから慎重に検討して当然です。もし、持ち帰って考えることを理由もなく渋るようなアドバイザーなら、その人にはもう相談しない方が良いでしょう。一方で、転職のリスクを丁寧に説明してくれたり、転職した場合、しなかった場合それぞれの将来の可能性についてメリットデメリット両面から考えてくれたり、まだ転職しない方が良いとアドバイスされた場合には、そのアドバイザーは信頼できる可能性が高いので、よく話を聞いてみると良いと思います。将来的に希望を叶えるためにどういう経験を積んでいけば良いのか、キャリアプランを提案してくれるかもしれません。
自分のキャリアは自分で作る
キャリアには正解がありません。迷ったときや悩んだときはプロに相談した方が良いと思います。複数の人材会社・アドバイザーの話を聞いて、自分で納得のいく選択を考えてください。人材会社で良いアドバイザーに巡り合えなければ、お金を払ってフリーのキャリアコンサルタントに相談しても良いと思います。お金を払ったから必ず良いアドバイザーに巡り会えるわけではありませんが、たくさんの人の話を聞いて模索する中で、共に歩めるアドバイザーが見つかったらそれはとてもラッキーなことです。その後の人生の節目節目に訪れるキャリアの選択のたびに、アドバイザーに相談できるからです。
医療では命にかかわる治療でセカンドオピニオンをもらうのは当たり前のことになりました。キャリアは人生そのものと言っても過言ではありません。「どのようなキャリアを選ぶか」は将来の生き方や選択肢の広がりに大きな影響を及ぼします。そんな大事なことを決めるにあたって複数の意見をもらい、アドバイザーを探すための時間を惜しんでいては、もったいない!自分のキャリアは自分で決めるという気持ちを忘れずに、正解のない道を共に歩んでいける良いアドバイザーを見つけましょう。