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第9回「有機合成実験テクニック」実験を加速する最新機器たち Chem-Stationコラボレーションシリーズ | リケラボ

実験を加速する最新機器たち|第9回「有機合成実験テクニック」

Chem-Stationコラボレーションシリーズ

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日本最大の化学ポータルサイト「Chem-Station」さんとのコラボレーション記事。第9回目の今回は「実験を加速する最新機器たち」について。著者はChem-Station代表のwebmasterさんです。


第一回目の連載から1年近く経ち、残りはあと2回となりました。

コロナ禍で大変な時期ですが、研究活動についてはなんとかフルスイングすることができるようになってきました。気温も湿度も落ち着き、研究が加速する季節ですので、このまま問題が起こらず継続できるとうれしいです。

さて、研究活動の中でも有機合成化学は比較的小規模な設備から開始することができます。

極端な話、基本となる有機化合物と溶媒やフラスコなどのガラス器具と反応を確認できる分析機器さえあればなんとか継続可能です(それらだけでも莫大な研究費が湯水のように使われ消えていきますが)。

しかし、合成化学実験をサポートする最新機器(器具)は日進月歩で進化しています。有機合成化学も多様化・複雑化しているのでそういった最新機器を余すことなく活用して時間を節約したいですよね。

そういうわけで、今回は有機合成で活躍する、実験を加速する最新機器たちを紹介したいと思います。これまでケムステで取り上げてきた機器・器具たちも含みます、既出である内容もありますが、ご了承いただければと思います。また、個別のメーカーを紹介しますが類似製品もあるかもしれませんし、よりよいものが見つかるかもしれないのでご自身で判断ください。

有機合成実験の流れ

ひとまず、合成化学実験の流れを簡単に書きますと

1.反応を仕込む
2.反応をチェックする
3.反応を停止して、後処理をする
4.単離・構造解析

となります。各々の過程において、活躍する最新機器(器具)を紹介したいと思います。

1.反応を仕込む

フラスコに溶媒と試薬を投入し、反応溶液を撹拌する。簡単にいえばこれだけですが、自分の妄想が現実になるかもしれない瞬間なので、みためも格好いいものを使い、気合をいれて仕込みたいですよね。

見た目の問題なので主観的な話ですが、試薬を量り取るときは、島津製作所の分析天びんAPシリーズ。天びんは白!というイメージを払拭した様相で、シックな黒色がベースとなっています。

反応を撹拌するスターラーはIKA Plate。すべてデジタルで黒基調。これも見た目重視です。もちろん両者とも見た目のみならず性能も高いですよ。

一方、普通のフラスコに反応を仕込むだけでなく、最近はフローリアクターや光反応、電解反応など多様な反応場や反応形式があります。カッコよさと機能性/簡便性を備えた反応装置がIKAから発売されているElectroSynPhil Baran監修のこの電解合成装置は、誰でも簡単に有機電解反応を行うための反応装置です。デメリットは単一容器、そして小スケールしか反応をかけれないので、なかなか反応条件のスクリーニングには時間がかかります。

低温で反応を掛けたいのならば、低温をキープすることができる低温恒温槽が便利ですが、機器のサイズが大きくスペースをとります。さらに、極低温(-78oC以下)の場合、立ち上げてからその温度で使うまでに時間がかかるんですね。そんなとき、有用なのがテクノシグマのUCリアクター。かなり前から発売されているロングセラーです。省スペースで、温度が下がるのが早いため、重宝している研究室が多いようです。かくいう我々の研究室でも、低温反応はあまり行わないのですが、1台フル活動しています。

2. 反応をチェックする

さあ反応をかけたら、反応の進行をチェックしたいところですね。反応チェックは古くから使われている薄層クロマトグラフィー(TLC)で良いと思います。どんな化合物ができているか分子量で反応を追跡したいのならば、LC-MASSやGC-MASSでしょうか。TLCベースの反応追跡で分子量を簡単にチェックしたいのならば、expressionR CMSがおすすめです。TLCをセットして、見たい分子量のスポットを指示するだけで自動でかきとって分子量を確認できます。これを使ったときは少し未来を感じました。未来を実現するには少し装置が高価過ぎて断念しましたが苦笑。

反応を追跡するだけでなく、反応を速度論的に解析したいという場合は、カロリーメーターやReact IRなどがあれば完璧です。前者は反応熱で、後者は化合物のIR変化で反応を詳細に追跡、解析することが可能です。いずれも、単一の用途を考えると大変高価な機器ですが、一度反応条件を設定してしまえば、かなり詳細な反応追跡ができることは間違いなしです。

3.反応を停止して、後処理をする

さあ反応が終わりました。反応を停止させて、後処理をしましょう。

この部分って実はほとんどはるか昔から変わっていないところなんですよね。第一回目で紹介した、フェーズセパレーターや、三角トラップなどの実験器具が活躍することでしょう。

後処理後は、構造決定のためのNMR測定などに向けて溶媒を留去します。その際は有機合成化学研究に欠かせないエバポレーターを使いますね。溶媒を飛ばすという至って単純な作業ですが、それに使われるエバポレーターも年々進化しています。例えばビュッヒのロータリーエバポレーター R-300ですが、スマホでの遠隔操作ができたり、突沸防止機能がついたり。通常は1人1台エバポレーターがあるわけではなく、溶媒留去が律速になることが多いです。そのため個人的には溶媒が飛びきった後にアラーム(音or光)で知らせてくれる機能がほしいんですが。残念ながらそれはまだ無いようです。

4. 単離・構造解析

さて、ここで粗生成物を分析することもありますが、その後は目的化合物の単離ですね。

大学の研究室ではシリカゲルカラムクロマトグラフィーが主流ですが、最近はカラム管を使ったカラムをしない傾向にあります(研究室によります)。我々の研究室では、完全にフラッシュ自動精製装置に依存しており、時間の節約を行っています。それらも毎年進化しており、GUIが整っています。例えば、Biotage SelektやビュッヒのPureシリーズなどです。一昔前では考えられないぐらいのスタイリッシュさですね。個人的には、ここまで見た目がよいものは必要なく、機能がほぼ同じisoleraで充分です。

みたときにナンダコレハ!と思ったのは、日本分析工業のリサイクルHPLC LaboACE。大きさも含めて、完全にコーヒーサーバーです。GPCカラムをつけて、分子のサイズによって化合物を分離します。

化合物を分離したら構造決定のためNMRを測定するわけですが、NMRもどんどん進化しています。一世代、その前、もっと前のNMR分光計を知っている人は、その大きさから進化を確認できると思います。結晶が取れた場合はX線結晶構造解析ですが、これもびっくりするぐらい小さな結晶でも問題なく測定できるようになりました。

有機合成実験も進化しています

博士とフラスコのイメージがある有機合成実験環境も、近年急速に進化しています。ポストコロナとして、ウェットの環境を極力減らしていくことが求められていくと思います。今後10年で、実験を加速する最新機器たちも様変わりしていくかもしれません。

各装置の宣伝になってしまうので、ケムステ内関連記事がない場合はあえて各機器のリンクは設定しておりません。もしご興味がある場合は検索していただければ幸いです。

Chem-Station

Chem-Station

Chem-Station(略称:ケムステ)はウェブに混在する化学情報を集約し、それを整理、提供する、国内最大の化学ポータルサイトです。現在活動18年目を迎え、幅広い化学の専門知識を有する100名超の有志スタッフを擁する体制で運営しています。

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