高校・大学受験や理系の仕事解説など、中学生・高校生の進路選びに役立つ情報をお届け。
大学で研究している先生や、企業で技術職や研究職として働く人たちは、理系の専門知識を生かして第一線で活躍しています。しかし、そうした方たちは理系科目のすべてが得意だったのでしょうか?実はそうでもありません。「理科は好きだけど数学が苦手」、「物理のテストの点数はいいけど特別好きではない」など、高校時代には皆さんと同じ悩みをもっていたようです。理系分野の第一線で活躍する人たちは、苦手科目をどう克服して、得意科目をどう伸ばしていったのでしょうか。また、今勉強していることが将来やりたいこととどうつながっているのかがわかれば、勉強するモチベーションも上がるはず!研究や仕事の内容も教えてもらいながら、得意科目の伸ばし方、苦手科目の克服法などを伺いました。ぜひ、参考にしてみてくださいね!
(お話を聞いた方) 南宮湖(なむぐんほう)先生 |
社会と密接につながる感染症を研究
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まずは先生の研究を教えてください!
——今日はよろしくお願いします。先生のご専門を教えてください。
感染症と呼吸器内科が専門です。呼吸器内科では肺に関わる病気に対して薬を使った治療(内科的診療)を行っています。たとえば、肺がんや肺炎などさまざまな病気を診てきました。また、感染症の専門医でもあるので、結核やインフルエンザ、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)なども担当しています。
——お医者さんと聞くと、病院で診察する先生を想像しますが、先生は研究もされているのですか?
はい、そうなんです。病院で患者さんを診察(臨床)しながら、そこで得たデータを使った研究を行っています。一般的にはほとんどのお医者さんが臨床をしながら、研究も行っているのですが、臨床の割合が多い方がほとんどです。私は、臨床と研究を半々くらいの割合で行っています。
研究をして分かったことを臨床に活かしたり、臨床で得たデータで研究を進めたりするという役割を担う医師のことを「フィジシャン・サイエンティスト(physician(医師)-scientist(研究者)」と言います。私の目指している医師は、そういったフィジシャン・サイエンティストなんです。
——具体的にどのような研究をされているのですか?
なかなか治りにくい呼吸器の病気を専門にしていて、肺非結核性抗酸性菌(NTM)症という少々聞きなれない病気の研究をしています。加えて、新型コロナウイルスの出現以降はCOVID-19に関する研究もしています。最初に取り組んだのは、NTM症でした。この病気は初期症状がほとんど無いのですが、進行すると血痰(けったん)や体重減少など肺結核に似た症状が起こり、重篤な場合は心不全に至ることもあります。環境中に存在する弱毒性の抗酸菌を原因とする病気で人から人へ移るものではありません。それでも近年では、世界的に感染者数が増加している問題があります。
——どのように病気の研究をされているんですか?
オミックス解析という手法を使って研究を進めています。オミックス解析とは最先端の研究手法の1つで、ゲノム情報など生体を構成しているさまざまな分子を網羅的に解析する方法です。解析に使う患者さんの血液検体やDNAを地道に収集して解析を行っています。
病気にはCOVID-19のように感染力が強いものもあれば、NTM症のように感染力が弱いものもあります。一方で、人にも、ある病気に対してかかりやすい人とかかりにくい人がいます。オミックス解析を通して、病気にかかりやすい人がかかりやすくなっている要因を見つけ出すことに取り組んでいます。
この手法を使って、日本でも感染が広がったCOVID-19についての研究も行いました。多くの病院、医師、研究者と連携し、COVID-19の重症化の度合いに関わる、アジア人特有の遺伝子変異の1つを明らかにすることができました。
——どんなときにやりがいや楽しさを感じますか?
COVID-19のパンデミックも記憶に新しいですが、感染症というのは社会に大きな影響を与える病気です。医学研究を通して世界に貢献できることにとてもやりがいを感じています。
南宮先生の研究をもっと知りたい方は「次のパンデミックに備え、社会により貢献できる研究を目指して」の記事をご覧ください!
身の回りとつながっている化学が好きに
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高校生のときに得意だった科目が知りたいです!
——先生が理系を目指したきっかけは何ですか?
社会で活躍できる医師になるために理系を選択しました。小さいころから医師は、人の役に立てるとてもかっこいい仕事だと感じていました。
——得意だった科目は何ですか?
化学です。有機化学も、無機化学も勉強していて楽しかった記憶があります。化学は、身の回りのものとつながりが、とてもイメージしやすかったんですよね。例えば「ああ、こうやって鉄はできているのかぁ」と興味を持って楽しく学んでいたことを覚えています。それと、未知の化合物をさまざまな化学反応を駆使して分析するようなことも好きでした。ものごとを攻略していくことに面白みを感じていたんだと思います。
高校のときは興味が湧かなかった地学、見方が変わったきっかけは旅行
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苦手科目をどうやって克服したのか知りたいです!
——先生が高校生のとき苦手だった科目は何ですか?
地学ですね。入試で使う予定がなく、それほど興味も湧かなかったためあまり勉強していませんでした。
でも、今は地学がとても面白い分野だと感じています。
——なぜ関心がなかった科目に興味を持つようになったのでしょうか?
大学を出てからアメリカへ3年間留学する機会に恵まれました。家族と一緒にアメリカで暮らしたのですが、そのときにいろいろな場所に旅行に行ったんです。グランドキャニオンやデビルスタワーといった壮大な地形の風景に感動したことを覚えています。サウスダコタ州もとても印象的でした。
そういった風景を見ると、地球の変動や成り立ちなどに、自然と興味が湧いてきますよね。これこそ、まさに地学だと感じます。
高校のときに、こういう経験が出来ていたら、地学を学ぶ姿勢が少し変わっていたかもしれません。
英語は理系研究者にとってなくてはならないツール
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研究に役立っている高校の科目はありますか?
——先生が高校生のときに頑張っておいてよかったと思う科目は何ですか?
英語ですね。理系の研究に進むのであれば、英語は本当になくてはならないツールです。日常的に英語で論文を読み書きしたり、国際学会などでは英語でプレゼンテーションをする必要があります。
とはいえ、高校のときから英語が喋れるようになっていたわけではなく、大学でも引き続き勉強していました。高校の時は、英単語を繰り返し覚えるだけでなく、AFNラジオを使用してリスニングを強化したり、英字新聞を普段から読むなどしていました。大学に入ってからは、ネイティブスピーカーの方にスピーキングの練習相手になってもらったり、短期の海外の語学研修などにも行かせてもらいました。今では仕事で英語を使う機会も多いですが、勉強してきたおかげで、なんとか頑張れています。
今を大事に、さまざまなものを吸収する
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おすすめの勉強法はありますか?
——おすすめの勉強法があれば教えてください。
私は日々コツコツ勉強しているタイプでした。ですので、当たり前の答えになってしまうのですが、自分が間違えた箇所をひたすら反復学習することがおすすめです。
ただ、勉強だけでなくスポーツや校内イベントにも積極的に関わっていました。ちなみに、小、中、高と部活では卓球に打ち込んでいました。卓球は小学校から市で優勝するくらい頑張っていたんですよ。
それと、文化祭実行委員なども行っていました。そういったイベントを取りまとめるのは結構得意でしたね。文化祭で人をまとめた経験は、実は今の研究プロジェクトの運営に役に立っています。文化祭も研究プロジェクトも多くの人と協力しながら進めるという基本のところは一緒なんですよね。是非皆さんも、積極的にトライしていただければと思います。
それに今思うと、こうした勉強以外の活動が気分転換になっていたので、コツコツ勉強に取り組めていたのかもしれません。
——最後に理系進学を目指す高校生への応援メッセージをお願いします。
「今」という時を大事にしながら、勉強も、それ以外の活動もさまざまなものを吸収して、広い視野を持つ大人になってください。