高校・大学受験や理系の仕事解説など、中学生・高校生の進路選びに役立つ情報をお届け。
大学で研究している先生や、企業で技術職や研究職として働く人たちは、理系の専門知識を生かして第一線で活躍しています。しかし、そうした方たちは理系科目のすべてが得意だったのでしょうか?実はそうでもありません。「理科は好きだけど数学が苦手」、「物理のテストの点数はいいけど特別好きではない」など、高校時代には皆さんと同じ悩みをもっていたようです。理系分野の第一線で活躍する人たちは、苦手科目をどう克服して、得意科目をどう伸ばしていったのでしょうか。また、今勉強していることが将来やりたいこととどうつながっているのかがわかれば、勉強するモチベーションも上がるはず!研究や仕事の内容も教えてもらいながら、得意科目の伸ばし方、苦手科目の克服法などを伺いました。ぜひ、参考にしてみてくださいね!
(お話を聞いた方) 秋津貴城(あきつたかしろ)先生 東京理科大学・教授。1995年に大阪大学理学部化学科卒業、2000年に同大大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。2016年より現職。専門は無機化学 (錯体化学、物理無機化学)。 |
コスメや抗がん剤にも使われる無機錯体を研究
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まずは先生の研究について教えてください!
——今日はよろしくお願いします。先生は何の研究をしているのですか?
無機錯体化学の研究をしています。高校の化学の授業の中で、金属が中心にあるイオン「錯イオン」を習います。錯イオンのように、金属と非金属の原子が結合した化合物を無機錯体といいます。私たちの研究室では、いろいろな無機錯体を合成し、その性質を調べています。
——無機錯体って何でしょうか?身の回りにもありますか?
たとえば、水や油に溶けない着色成分である顔料のうち、無機顔料と呼ばれるものには無機錯体が含まれています。絵の具やプラスチックの着色、アイシャドウなどのコスメにも使われています。「プラチナ製剤」という抗がん剤は、プラチナ(白金)が含まれている錯体が使われていて、医学や薬学にも関係していますよ。
——あちこちに無機錯体があるのですね。今、先生は具体的にどんな無機錯体を研究しているのですか?
光を当てると構造と性質が変わるような無機錯体の合成や解析をしています。タンパク質と組み合わせて触媒反応がより効率よく起きるようにして、たとえばバイオ燃料電池の性能向上に貢献できればいいなと考えています。
——どんなときにやりがいや楽しさを感じますか?
「わからないことが、わかること」がやりがいですね。研究というのは、些細な科学的事実の発見の積み上げです。コツコツと実験をして、その結果から何が言えるのか、その可能性をさらに検証するために次はどんな実験をすればいいのか。その繰り返しです。
——卒業するとどこに就職するのですか?化学メーカーとかでしょうか?
もちろん化学メーカーの技術職や研究職に就職する人もいます。他にも、理系の素質を生かしてIT関係に就職する人もいれば、中学校や高校の理科の教員になったり、財務省や防衛省などの公務員になったりと、就職先はさまざまです。
研究室では、他の人とのコミュニケーションをスムーズにとりながら仕事を段取りよく進めるという、人間としての総合的な力を養ってもらうことにも意識しています。そうした力を身につけることができれば、就職先は化学メーカーに限らず広がると思います。
化学で生物を知りたかった高校時代
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高校生のときに得意だった科目が知りたいです!
——先生が理系を目指したきっかけは何ですか?
父が理系(工業)科目の高校の先生だったので、高校は自然と理数科に進学しました。理数科なので、普通科よりも数学や理科の授業時間が多くありました。
——得意だった科目は何ですか?
化学でしたね。もともと実験的な自然科学に興味があって、部活動も化学部に入っていました。なぜか2年間も部長をやっていましたが(笑)。化学部では自主的に実験もやっていて、楽しく過ごしていました。化学は好きで得意でしたね。
当時は、生物化学的な対象を理論的に解明して、世の中に役立てたいという夢をもっていました。そのため、化学の中でも、生化学(生体内で起きる化学反応や生命活動に関わる化学現象に関する分野)や有機化学(生物由来の物質など、炭素が含まれている化合物を研究する分野)に興味がありました。
もう一つ、高校生ながらに、ものを作り続ける工業生産よりも、根本的な現象を追求する理工系分野に力を入れないといけないと考えていました。そうしないと工学や薬学の分野でも発展せず、いずれ産業が立ち行かなくなるだろうと想像していました。そのため、大学進学のときには、根本的な現象を研究できる理学部を志望しました。
——あれ、今の研究テーマは無機化学ですよね?途中から考えが変わったのですか?
そうです、そうです。大学に入学してから講義を受けているうちに、合成・理論・生化学のすべてが関連する無機錯体化学に関心を持つようになって、今の専門分野になったという経緯があります。
——ちなみに、高校で無機化学を勉強するとき、元素記号を全部覚えないといけませんか?
いえいえ、そんなことはありませんよ。私も元素記号を暗記するようなことはしていません。
——よかったです(笑)。
研究で使う元素は自然に覚えるようになります。それが本来あるべき学習方法だと思います。
数学は教科書の例題を全部解く、物理は自分で公式を出せるようにする
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苦手科目をどうやって克服したのか知りたいです!
——先生が高校生のとき苦手だった科目は何ですか?
数学と物理です。理系なのに、と思われるかもしれませんが。数学は、そもそも計算が苦手で、数式をどう展開すればいいのかというところで苦戦していました。物理も、数式が多く出てきて計算力が必要だと思うのですが、数学が苦手ということもあって物理にも苦手意識があったんです。
——数学はどうやって勉強したのですか?
数学は、教科書に書いてある定義、定理、例題からやり直しました。学校で使っている教科書も合わせて5冊、全部の例題を解きました。そうすると、自分がわかっていない定義や定理がどれか見つかるようになって、そこを重点的に復習するというやり方をしました。勉強する中でわからないところは、参考書を見て解き方を学びました。この方法で、代数・幾何(二次曲線やベクトルなど)と確率統計はなんとか克服できたので、今の高校生のみなさんにもおすすめできます。
——数学の中でもどれが苦手か、と絞り込むのですね!
そうです。あとは、苦手だけれども嫌いにならないように、『月刊 大学への数学』(東京出版)を毎月購読していました。毎月、特定の分野の問題を重点的に学ぶことができて、勉強とは直接関係ない興味を引く記事もあって、面白く読んでいました。それと、模試やテストなどで、できなかった問題はしっかり見直しをしてやり直すことは大切だと思います。
——物理の勉強はどうやっていましたか?
公式を自分で導けるようにして、暗記ではなく理解に努めるようにしました。これを最初にやったのが熱分野で、公式を覚えるのではなく、できるだけ自分で導き出すということをやりました。『体系物理』(教学社)という問題集は、物理法則を自分で導いて応用力を身に付けようというもので、勉強法としていいものだと思います。大学で化学熱力学を学ぶときにも役立ったので、高校で勉強したことがちゃんと大学の勉強にもつながっているんだと実感しました。
——その方法で、物理のテストで点数を取れるようになったのですか?
センター試験(現:大学入学共通テスト)で満点を取れましたね。きっと、まぐれです。
——ええ!それはすごいですね!
ところが、二次試験レベルになると、とてもではないけど太刀打ちできず、絶望的な気分でした。結局、途中から生物を選択することにして、友達のノートをコピーして教科書や参考書といっしょに勉強しました。物理の完璧な克服法があればご紹介したいのですが、こういう結果になったのが現実ですね。理想を言えば、いろんな科目をまんべんなく勉強して、「苦手科目はなくて何かが得意」という状況を作るのがよいと思います。
——勉強する気が出ないときもあるのですが、モチベーションを上げるためにどんな工夫をしていましたか?
数学では森毅さんの『数学受験術指南』(中公文庫)という本を愛読していました。受験数学だけではない勉強法が書いてあります。黒田俊郎さんの『微分のひ・み・つ(新版数学バイパス1)』(三省堂)や『積分のい・ず・み(数学バイパス3)』(三省堂)、少しやさしめの大学数学の教科書も見ていました。あとは、数学のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞した広中平祐さんの『生きること学ぶこと』(集英社文庫)も読みました。学校の勉強や受験とは直接関係ない本を読むのもいいかもしれませんね。
高校生のときにがんばればよかったのは英語と現代文
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高校生のときにもっと勉強すればよかった科目は何ですか?
——高校を卒業して研究をするときで、高校で頑張っておけばよかったという科目はありますか?
まずは英語ですね。研究の世界では英語が標準言語で、研究成果をまとめた学術論文は基本的に英語で書かれています。論文を英語で読むのはもちろんのこと、自分の研究成果を論文として発表するときには英語で書きます。英作文をもっと勉強すればよかったとつくづく思います。また、海外の学会で発表したり、海外の研究者と共同研究をしたりするときには当然英語で話します。英会話も、高校生のときに頑張っておけばよかったと思います。
もう一つは国語、特に現代文です。文章の読み書きは、研究に限らずあらゆる仕事で必要になります。読解力がないと、書いてあることを知識として正しく身につけることができません。相手に自分の考えていることを文章として伝えるためには、書くスキルが求められます。高校生のうちにしっかり力をつけておくのがよいと思います。
進路に迷ったら、自分のやりたいことが一番
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おすすめの本があれば教えてください!
——授業で習っている化学にもっと興味がもてるように、おすすめの本はありますか?
大学生向けの化学の教科書がおすすめです。高校の化学で習うことがどうつながっているのか、勉強する理由がわかるようになります。ただ、内容は少し難しいかもしれませんね。
もう一冊は、『ロウソクの科学』(角川書店など)です。イギリスの化学者・物理学者であるマイケル・ファラデーが子ども向けに行った講演をまとめたもので、ロウソクの実験を通じてさまざまな化学の側面を紹介しています。日本でも、この本を子どもの頃に読んで科学に興味を持ったという研究者が多くいます。
——最後に、理系進学を目指す高校生に応援メッセージをお願いします。
自分がやりたい分野を選ぶのが一番いいと思います。世の中の花形や流行は変わります。自分のやりたいことを突き詰めてください。
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