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書き出し

教育数学と高大接続改革 : まとめにかえて (教育数学の一側面 : 高等教育における数学の多様性と普遍性)

岡本, 和夫 京都大学

2023.04

概要

1
教育数学と高大接続改革
ーまとめにかえて―
(KazuoOK
心V
IOTO)
P
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fTokyo

東京大学名誉教授

岡本和夫

0. 討論について
研究集会「教育数学の一側面

一高等教育における数学の多様性と普遍性ー」


, 2018年 2月 1
3日から 1
6日まで開催された。 3乃至 4の発表に加えて,討
論の時間をとり各テーマについて議論したことが今回の 研究集会の特徴である。
研究代表者である筆者は特別の発表はせず,討論のモデ レータを務めた。全体
としての結論を一言で述べることはできないが,議論の 方向を示すために,講
演の題目と討論のテーマを下に記す。
2018年 2月 1
3日
蟹江幸博(三重大学)

研究集会の開催にあたって
(プラットフォームとしての教育数学)

徳山豪(東北大学)

「数学をどう使うか」をど う教えるべきか.教
えない方が良いか:
ー 情 報 科 学 と データ科学の視点から

阿部圭一(静岡大学)
討論:

日本人に対する日本語教育を考える
公教育における数学を教育する意味を巡って

2018年 2月 1
4日
亀井哲治郎(亀書房)

万人のこととしての
一編集者も数学教育を考える

大島利雄(城西大学)

大学における数学教育の問題点と工夫

谷克彦(数学月間世話人)

数学月間から見た数学教育

梶原健司(九州大学)

マス・フォア・インダストリの理念と現状

討論:

大学教育に於ける数学教育の在り方

2018年 2月 1
5日
小山透(近代科学社)

数学と日本語

2
砂田利一(明治大学)

求められる統計教育

北川源四郎(東京大学)

データサイエンスのための人材育成

樋口知之(統計数理研究所)

I 時代に必要とされる統計的推
ビッグデータ、 A
論法の習得に必要な数学教育

討論:

「統計・データサイエンス」を見越した基礎か
らの教育の在り方

6日
2018年 2月 1
前田吉昭(東北大学)

数学を活用した異分野融合研究のための人材育


河村央也(青空学園)

高等数学の教育において何を伝えるのか

清水勇二 (
I
C
U
)

数学での教育と学修
ー一般教育科目の実例を通じて一

藤原毅夫(東京大学)

非専門家に対する数学基礎教育と数理計算ソフ
トの導入の可能性

討論:

理科系の大学教育に於ける数学教育の在り方
(数学ヘヴィーユーザー分野からの視点で)

実 質 1週間にわたる研究集会であり,参加者の都合も勘案したプログラムを
組んだことから討論のテーマと当日の発表の主題は必ずしも一致してはいない
が,全体として次につながるような議論はできたと思っている。議論を内容に
即した視点から整理すると,教育数学について,以下のことが論じられ,討論
されたことになる。各講演の内容がこのように分類できるはずもなく,具体的
な内容を繰り返す必要もないだろうが,討論のモデレータとしては,このよう
に議論を整理したつもり,である。
理念に関すること。
コンテンツに関すること。
人材育成の取組に関すること。
現実に大学を含む教育現場で起きていること。
方向性と課題に関すること。
いずれにせよ,研究代表者としては本講究録に掲載されている論考を一読され
るよう切に希望する。
いつものこと,

と言えばそれまでだが,研究集会の時期に数学を取巻く状況

は動いていた。標語的にまとめれば,その変化の代表は「指導要領の改訂」と
「高大接続改革」である。筆者は研究集会のまとめにかえてこの 2点に関する
私見を述べることとした。

3

. 数学の形について
1
教育数学のコンテンツを考えるときに,微分積分とか統 計とか等の具体的な
教材以前に,数学とは何か,数学とはどんな形をした学 問であるか,をどのよ
うに伝えるか,ということが前提となる 。 それについて筆者の考えを簡単に紹
介することから始める 。 これから述べる内容は初出ではない。以前,啓林館版
中学校数学教科書を編集した際に,教科書の指導書にこの内容の文章を書いた。
これは限られた中学校の数学の先生方に向けたものであ ったので,放送大学で
の授業「自然と社会を貫く数学」を担当したときにも同 じテーマに触れた。 印
刷教材のバージョンア ップである「数学 理性の音楽」(薩摩順吉,桂利行氏と
共著, 2015年,東京大学出版会)でもこの話題を論じている 。数学の形を筆者
なりにどのように伝えるかについてはそれなりに進歩し ているので,数学の形
2号,微分方程式を解
については折に触れて書いている 。最近では「数学文化 3
く」にも書いた。 これらの文章の対象は数学界の外に想定しているので,数学
界内部に向けて披露するのは少し緊張する,

と言ってもそれほど特別な考え,

とは思っていない。数学とは何かという大問題の議論を 忌避するつもりはない
が,ここはその場ではない。 あくまでも教育数学を論ずるときの前提である 。
数学とは何か,を伝えようとするとき,まず数学の働き は何か,と考える 。
大雑把にいえば,数学には,言葉としての数学,道具と しての数学,対象とし
ての数学,の 3 つの様相があるだろう 。 これらの働きの綜合体が数学の形であ
る。 まず対象としての何ものかがある 。 自然現象であったり社会現象であった
り,数学であったりする 。筆者にとっては可積分系の微分方程式を想定する。
次に課題に即してモデル,数理モデル,を作る 。 このモデルを,道具としての
数学で解析する 。考える,調べる,

と言っても良い。そして得られた結果を数

学という言語で表現する 。 この結果は当然道具としての数学の働きを持ってい
る。 モデルを作り,結果を数学で述べる,これまでが数学の形である 。得られ
た結果をもとの現象にフィードバックすることはとても 大切であるが,この部
分は必ずしも数学の形には含まれるとは限らない。 自然現象を物理学的に考察
する時には,精緻な数学的解析を必要とし,新しい概念 を含む数学言語を生み
出すこともあったしこれからもあるだろうけれど,この 結果が自然現象と整合
するかどうか,実験結果を上手く説明することができる かどうか,は物理学の
意義に関わることである 。 もとの対象が数学であれば,意味のあるフィードバ
ックが求められるであろうが,良い結果が新しい理論で あるときには,強力な
道具として働くことはもちろん,対象そのものをより明確にすることもある 。

4
ここで述べたことをポンチ絵で表せば次のようになるだろう 。

対象から数理モデル
を作る

三〗



:`

モデル

モデルを数学
」で解析する





、 、
@

解ったことを
数学で表す

l

右側の網がかかった部分が数学 の働きであり,全体が数学 の形である 。 この話
を大阪大学理学部の学生にしたときに強調したのは次の 3点であった。
(
1
) 対象が数学であってもモデル化は大切な要因であること 。
(
2
) 対象が数学であれば,この屈は純粋数学の働きを表し,対象が自然や社

会の現象であれば,こ の図は応用数学 と呼ばれる 。すなわち,この見方
では,純粋数学 と応用数学に 差 はないこと 。
(
3
) 経済の数理モデルの場合から想像できるように,フィードバックは難し

い。モデルの妥当性も問われること 。
以上の話題を学生,ある場合には高校生,や社会人相手に話すときにはニュ
ートンの仕事を例に 挙 げる 。 すなわち,ニュートンは天体の運動を考察する時
にケ プ ラーの法則をモデルとし,逆 二乗法則を導く 。 これをフィードバ ックす
るときに,対象を天体だけでなく力学一般に広げる 。 これが万有引力法則であ
り,ニュートンが偉いことの第一 である 。 また ,彼 はニュー トンの第 二法則す
なわち運動の法則と万有引力の法則からケプラーの法則を導く 。 実際にその計
算を実行したかどうかは知らないが,ともかくそのときに得られた最上の結果
は微分積分学の誕生である 。 これだけの説明で数学の形について当方が 言いた
いことに理解が得られたかどうかは不明ではあるが ,ある程度納得しても らえ
れば, と思っている 。
このような話は,教育数学のプラットフォームから見ると駅の案内板だ,と
いう批判は廿んじて受けることとし,本稿の 主題に進む。今度は列車の運行状
況の案内のようなもの ,である 。比喩はと もかくとして,以下の論考は 2019年

5
3月 20 日,東京工業大学での日本数学会年会の折に開催された教育委員会主催

教育シンポジウム『 2020年度からの大学入試改革と数学教育』において筆者が
述べた内容を基に再構成したものである。

2

新指導要領について

本研究集会が行われている頃, 2022 年度実施の高等学校指導要領が告示され
た。筆者は数学の指導要領の改訂に直接関与していないから,どのような議論
がなされたかは知らない。新指導要領については必要ならば文部科学省ホーム
ページを直接参照していただきたい。新指導要領の解説書も公表されている。
指導要領は行政文書であり無味乾燥と言ってしまえばその通りで,内容を実
り豊かなものとするのは教科書であり,現場である。筆者は平成一杯教科書編
集に携わってきたが,名前を貸してきたわけではなく実際の執筆にも加わって
きた。でも,あるいは,だから教科書が売れない。余談だが昨年来話題になっ
ている元文部事務次官の人が,ある意味で社会から取り残された人が数学で「落
ちこぼれた」ので,高等学校では数学は必履修でなくても良い,と発言してい
る。他方文系理系関係なく A
I人材を育成するために数学では,統計や線型代数
が不可欠だ,という政府機関からの提言もある。その数学界に身を置くものに
とっては両極端の意見の間で揉まれて出来上がったのが今次の指導要領ではあ
る。「数学必修いらない派」は固定勢力であるが,「数学を重視する派」は政策
に依存しているので,いつ何時「数学必修いらない派」と合流するかもしれな
い,実はこの前までは一緒であった不安定勢力である。
指導要領に基いて高等学校での数学の内容が変わり,大学入学試験の範囲が
変わり,大学初年次の数学が変わるのであるから,議論のプラットフォームと
しての教育数学の観点からも整理しておくことが必要である。大きな論点は以
下の二つであろう。


数学 1
I
1が数学 1
I
1と数学 Cに見かけ上分離したこと。



学力の三要素が強調されたこと。
まず①について一時期問題になったのは,ベクトルが数学 C に移されたこと

で,「文系はベクトルを学ばなくてもいいのか」ということである。これは以前
の数学 Cが,数学 I
I
I
.数学 C と組になっていた時の記憶から来ることで,今回
の指導要領では,数学 B と数学 Cは数学 Iを履修した後に履修させることを原
則とする,となっている。少し長くなるが指導要領第 3款『各教科にわたる指
導計画の作成と内容の取扱い』を引用する。今次の指導要領改訂が目指すもの

6
が書かれていると思われるからである。

平成 30年 度 告 示 数 学 指 導 要 領
第 3款

各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い

1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(
1
) 単元など内容や時間のまとまりを見通して,その中で育む資質・能力の育成

に向けて,数学的活動を通して,生徒の主体的・対話的で深い学びの実現を図る
ようにすること。その際,数学的な見方・考え方を働かせながら, 日常の事象や
社会の事象を数理的に捉え,数学の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解
決し,学習の過程を振り返り,概念を形成するなどの学習の充実を図ること。

(
2
) 「数学 1
1」, 「数学 I
I
I」を履修させる場合は,

「数学 I」, 「数学 1
1」, 「


学I
I
1」の順に履修させることを原則とすること。
(
3
) 「数学 A 」については,

た後に履修させ,

「数学 I」と並行してあるいは「数学 I」を履修し

「数学 B」及び「数学 C」については,

「数学 I」を履修した

後に履修させることを原則とすること。
(
4
) 各科目を履修させるに当たっては,当該科目や数学科に属する他の科目の内

容及び理科,家庭科,情報科,この章に示す理数科等の内容を踏まえ,相互の関
連を図るとともに,学習内容の系統性に留意すること。
(
5
) 障害のある生徒などについては,学習活動を行う場合に生じる困難さに

応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的,組織的に行うこと。
2 内容の取扱いに当たっては,次の事項に配慮するものとする。
(
1
) 各科目の指導に当たっては,思考力,判断力,表現力等を育成するため,数

学的な表現を用いて簡潔・明瞭・的確に表現したり,数学的な表現を解釈したり,
互いに自分の考えを表現し伝え合ったりするなどの機会を設けること。
(
2
) 各科目の指導に当たっては,必要に応じて,コンピュータや情報通信ネット

ワークなどを適切に活用し,学習の効果を高めるようにすること。
(
3
) 各科目の内容の[用語・記号]は,当該科目で扱う内容の程度や範囲を明確

にするために示したものであり,内容と密接に関連させて扱うこと。
3 各科目の指導に当たっては,数学を学習する意義などを実感できるよう工夫す

るとともに,次のような数学的活動に取り組むものとする。
(
1
) 日常の事象や社会の事象などを数理的に捉え,数学的に表現・処理して問題

を解決し,解決の過程や結果を振り返って考察する活動。
(
2
) 数学の事象から自ら問題を見いだし解決して,解決の過程や結果を振り返っ
て統合的•発展的に考察する活動。

(
3
) 自らの考えを数学的に表現して説明したり,議論したりする活動。

7
教科の内容も 含めて 指導要領を整理して 表すと ,全体の構造は次ページの図
のようになって い る。 したがって,たとえば大学入試センターが大学と共同 し
て実施する大学入学共通テス ト,す なわちセンター試験の後継となるもの ,で
は現行の数学 1
I ・数学 Bは,数学 I
l
.数学 B・数学 Cとなるべきものである 。

数学 I

数 学A

(
1
) 数と式

(
1
) 図形の性質

(
2) 図形と計量

(
2) 場合の数と確率

(
3
) 二次関数

(
3
) 数学と人間の活動

(
4
) データの分析

数学 I
(
1
) いろいろな式
(
2
) 図形と方程式
(
3
) 指数関数・対数関数
(
4
) 三角関数
(
5
) 微分 ・
積分の考え

数 学B

数 学C

(
1
) 数列

(
1
) ペクトル

(
2
) 統計的な推測

(
2
)

(
3
) 数学と社会生活

(
3
) 数 学的な表現の工夫

平面上の曲線と複素数平面

数学 m
(
1
) 極限
(
2
) 微分 法
(
3
) 積分法

入学試験 との関係は, 具体的には 5教科 7科目を原則課している大学では ,
いわゆる文系と理系の 差が数学につ いては少なくなる 。 筆者はあえて「文系 と
理系を数学で分ける時代の終わり」が始まった,と発言して い るが,別に上述
の極端な意見の 一方の提灯持ちをしているわけでは決してない。

肇かな争ヵ


8
次 に ② に 言 う学力の 三要素とは ,「知識 ・技能」,「思考カ ・判断カ ・表現力」,「 主
体 性 ・多 様 性 ・協調性」を指す。 こ れ は 平 成 1
9年 度 の学校 教 育 法 改 正 に 基 く も
の で , そ れ ら の 関 係 は 上 の よ う に 図 示 されている 。 ただし,「 主体 性 ・多 様 性 ・
協 調 性 」 は 「 学 習 意 欲」と 一言 で ま と め て あ る 。
数学では概念が明確に意識されたらそれを的確に表現する苦労を経て 言葉が現
れる 。 これに対して教育 学界 で は , ま ず言 菓 が あ っ て そ れ に 対 応 す る 概 念 を 後
か ら 議 論 す る こ と が 多 い。 こ れ は 経 験 か ら 得 た 筆者の偏見であろう,

と妥協 し

て お い て , それはともかく ,一 部 教 育 産 業 で 下 図 が 使 わ れ て い るのを見たこと
が あ っ た 。これは数学的にも, 実践 的 に も ,公的にも 誤り である 。 「知識 ・技能」,
「思考カ ・判 断カ ・表現力」,「 主 体 性 ・多 様 性 ・協 調 性 」 は 階 層 に 並 ん で い る
も の で は な い。 下 の 図 は 今 で も と こ ろ ど こ ろ で 見 か け る 。誤 解 を 生 じ る 危 険 性
は あ る け れ ど誤 り の 図 としてあえて載せ た。

カの 3



攣彎カ ・ "•,, . .鴫”

つ い で に 数学 指導要領の目標を引用しておく 。
平成 3
0年 度 告 示 数 学 指 導 要 領
第 1款 目 標

数学的な見方・考え方を働かせ .数学的活動を通して数学的に考える資質・能力を次
のとおり育成することを目指す 。
(
1
) 数学における基本的な概念や原理・法則を体系的に理解するとともに事象を数学

化したり,数学的に解釈したり ,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるように
する 。
(
2)数学を活用して事象を論理的に考察する力 '
事象の本質や他の事象との関係を認

識し統合的・発展的に考察する力 ,数学的な表現を用いて事象を簡潔・明瞭・的確に表
現する力を養う 。
(
3)数学のよさを認識し積極的に数学を活用しようとする態度 .
粘り強く考え数学的論拠

に基づいて判断しようとする態度 ,問題解決の過程を振り返って考察を深めたり ,評価・
改善したりしようとする態度や創造性の基礎を養う 。

9
学力の 三要素の図を載せたついでに,算数・数学の学習過程の イメージと題
する公的な図を引用しておく 。 この図は指導要領第 1款『目標』に対応するも
のであろう 。
口数・数学の学習過程のイメージ

1

│ 算数・数学の問題発見・解決の過程
【現実の世界】

I.
. し幽 坐 的 1
ー 事 祖 1_
+

I

l

l
.
. 【数学の世界】


”‘


数学の事象

麟言• .

.

/鼻'佑

1

事象を数理的に捉え、数学の問題を見いだし、問題を自立的、協働的に解決することができる。

本稿のはじめに描いた数学の形の図と似ていなくもない が,筆者の考える数学
の形は数学の働きを表したものであり,これを初等中等にそのまま適用できる
かどうか,適用したらこの図のように表されるか,その 観点では深く考えてい
ないので批判は保留する 。
上に引用した学指導要領の目標やその第 3款に盛られている内容と関連して,
「統計重視の指導要領は応用重視であり基礎の軽視に繋がる,したがって『ゆ
とり教育』の二の舞である」,という意見もある。この種の危惧については今
に始まったことではなく,ずっと注意していくべきことであり,教科書を書く,
授業を展開する,数学を使うことの大切さを伝える,数 学のコンテンツを再構
築する等教育数学のプラットフォームにおける実践的 な課題であろうと考え
る。
統計重視についてもカリキュラムの構造上の重視であり ,教科内容に関して
は何かが大幅に増えたということではない。むしろ算数 ・数学では「ゆとり教
育」時代に軽視されたものが元に戻ったともいえる 。細かいことを言えば,




10
ひげ図」が中学校に降りたが,高等学校では外れ値が入 ったので,箱ひげ図の
ひげの部分の定義が中学校と高等学校で同じではなくな ったこと,外れ値と特
異値をどう扱うか等,教科書を書くものとしての苦労は あるけれども。細かい
ことのついでに 一言加えれば,なぜ和の記号 2 を数学 Iの「データの分析」の
ところで導入しないのだろうか。諸先生に伺うと「難し い」と言うけれど,数
列で使う和の記号は

i 炉= ¼n(n +1)(2n+1)
k=1

等のように閉じた式を表すから難しい, という面もあるのではないか。定積分
が区分求積ではなく原始関数の値の差で定義するので, 実際に積分の計算には
原始関数を 一つ求めることが必要で,その計算が簡単ではない,の と同様の難
しさではないだろうか。
今回の改定では, 「
ベ クトル」 とか 「
統計的推測 」 という具体的な数学の内容
のほかに,数学 A 「数学と人間の活動」,数学 B 「数学と社会生活」,数学 C 「

学的な表現の工夫」などの単元が加えられている 。 これは現行指導要領の「数
学活用」が独立した科目としては削られ,分割して各科目に復活した形だが,
同時に上掲の学習過程のイメージ図を強く意識したものともいえるだろう 。実
際の授業で活用することも考えられようが,入試と関係 ない,と全く無視され
てしまうと指導要領の軸が飛ばされることになる 。それでは益々数学の授業が
退屈なものになって 「
数学嫌い」が増えるばかり,と筆者は思う 。大学が入学
試験の数学の範囲を決めるとき,たとえば数学 Aを指定する場合には, 「
図形の
性質」と 「
場合の数と確率」の単元を指定するのではなく,数学 A を全体とし
て出題範囲として指定することが適当であろう 。その点では現行の範囲と変わ
らない。
復活した各教科のこれらの単元には新しい数学の内容が 含まれている 。 大雑
把に拾うと,数学 A 「整数の約数や倍数,ュークリッドの互除法や二進法,平面
や空間において点の位置を表す座標の考え方」,数学 B 「
散布図に表したデータ
を関数とみなして処理すること」,数学 C 「日常の事象や社会の事象などを,離
散グラフや行列を用いて工夫して表現することの意義を 理解すること」となっ
ている 。 これらの内容がどのように教科書 に書かれるかは現在末確定であるが,
そんなに多くの内容を期待することは難しい。 「数学を重視する派」からは,行
列だけではなくて線型代数にまで踏み込め,頻度論的統 計学ではなくベイズ統
計を中心に, と政治的な圧力があるだろうが,必ずしもプラスに作用するとば
かりは考えられない。

11
全体として見れば,数学の教科内容はそんなに変わっていない。もちろん個々
の内容について,行列の扱いが数学 C に触れられているとはいえ形式だけで数
学内容に乏しく不十分,

とか意見はいろいろある 。筆者としては,微分方程式

が相変わらず高等学校数学から追放されているのは不満 である 。微分方程式は
微積分のもとであり,それに触れずに微分積分を学んで もその意味は解らない
だろう 。 と言っても以前の教科書に載っていた微分方程式の話は 面白くない。
変数分離形の微分方程式が解けた
dy

f

= ff(x)dx



云= f
(
x
)
9
(
y
)

と言われても感動しない。具体的に
dy

y

x=dx
l+y



=yeY

Cx

という形に解を求めたとして,左辺以上の数学的内容が得られた,
い。 ...

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