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大学・研究所にある論文を検索できる 「薬学部4年生を対象としたEBMの実践を学ぶためのTBL&PBLハイブリッド学習プログラムの試行と評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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薬学部4年生を対象としたEBMの実践を学ぶためのTBL&PBLハイブリッド学習プログラムの試行と評価

倉田 香織 山田 寛尚 上田 昌宏 清水 忠 土橋 朗 東京薬科大学

2022.03.31

概要

1.目的
 近年、Evidence-based Medicine(EBM)の実践が医療現場だけでなく医療教育においても取り入れられるようになっている。本研究の目的は、EBMの実践に必要な知識と技能をチーム基盤型学習(TBL)で学習した後に、患者の臨床的問題の発見・解決を問題解決型学習(PBL)で解決する、ハイブリッド型学習方略の大人数教育における教育効果を明らかにすることである。

2.大学教育としてのEBM学習における問題点
 EBM学習は、D. L. Sackettが表現したように「入手可能で最良の科学的根拠を把握したうえで、個々の患者に特有の臨床状況と価値観に配慮した医療を行うための一連の行動指針」を学び、身につける一連の学習を指す。2015年度より実施されている改訂薬学教育モデル・コアカリキュラムでは、「E3薬物治療に役立つ情報」にて取り扱われている[1]。SBOsの多くが、医薬品の有効性を明らかとすることを目的とする臨床研究に関する専門用語の基本知識、つまり、概念の理解を求めるものであるため、座学として学ぶ項目が多いが、これらの知識を得るだけでは、EBMの実践にはつながらない。症例シナリオを用いたケーススタディが有効であるが、学生数が多い、あるいは、同一内容の授業を、時間差で複数回実施するケースでは、期待した成果が得られないことがある。
 PBLは、知識の習得に重点が置かれていた従来の教育を見直し、知識を整理して問題解決にあたる学習を、主にスモールグループ討論(SGD)を主体に行う学習法である。ただし、PBLを成功させるためには、人的・時間的リソースが必要であり、大人数クラスでの実施には困難が予想される。
 TBLは、PBLに比べて、大人数クラスでの一斉授業において実施できるとされ、医学教育を中心に取り入れられている。「予習(事前学習)」・「準備確認」・「学習内容の応用」の3段階を経て、知識を応用する能動的な学習へ学生たちを引き込む力を持っている[2]。薬学教育においても、実践例が多数報告されており、EBM学習における有効な教授法の一つであることが明らかにされている[3]。
 一方で、EBM学習において、英文の医学文献を題材に取り扱うことが多い。英文の医学文献を題材とした場合のEBM学習では、事前学習を発展させていくTBLだけでは、本来の目的である「問題解決能力」の養成にはつながりにくい。なぜならば、EBMの実践は、「Step1疑問の定式化」・「Step2情報収集」・「Step3情報の批判的吟味」・「Step4適用」・「Step5フィードバック」からなる5つのStepを通じて行われるものであり、そのStepごとに学習が必要とされることが大きい。
 また、複数回の授業が開講される場合、学生間で答えだけの共有が起きてしまうことがあり、そうなると、TBL本来の目的も、状況によっては、PBLの目的も達成されないことが懸念される。

3.方法
①演習の概要
 4年次必修科目「医薬情報演習」の受講生を対象とした。TBLとPBLのハイブリッド型授業を4日間の演習の最終日に実施した。その概略を図1に示す。演習は70分x3コマ(210分)で行った。
 4月に授業を行ったグループではEMPA-REG OUTCOME試験(PMID:26378978)を、5月はCANVAS Program試験(PMID:28605608)を、6月はEMPA-REGOUTCOME試験をTBLの課題論文とした。PBLについては、いずれのグループに対しても、共通の患者シナリオと、EMPA-REGOUTCOME試験、CANVAS Program試験、SGLT-2阻害薬に関するメタアナリシス(PMID:27866027)の要旨を和訳したものを共通テキストに掲載し、事前配布した。

TBL授業
 演習日の1週間前に、課題となる原著論文と、論文を吟味するポイントを解説した予習資料を配布した。演習日の当日は、iRAT(Individual Readiness Assurance Test)を30分間で実施後、5〜6名のグループに分かれて、tRAT(Team Readiness Assurance Test)を用いたチーム学習(45分)とフィードバック講義(60分)を行なった。
 iRATは課題論文から確認できる内容についての5肢択一式のテストであり、実施後すぐに回収し、これをプレテストの評価点として記録した。iRATの設問に類題を加え、国家試験と同じ形式に改変したものをtRATとし、メンバーの合議により解答を導き出すよう、学生たちに指示を出した。
 予習課題、iRATおよびtRATにおいて、設問内容は、①対象患者、②患者介入、③アウトカム、④無作為化、⑤盲検化、⑥サンプルサイズ、⑦解析方法、⑧最重要評価項目、⑨効果推定値、⑩サブグループについての10項目とした。

PBL授業
 糖尿病治療を行なっている仮想患者シナリオを用いて、EBMの実践に関するシナリオワーク(30分)の後で、症例に対するSGD(45分)を、グループ討論、全体討論およびフィードバックを織り交ぜながら実施した。

学習評価
 演習終了後、復習用のビデオをオンラインで開示し、グループ討論の内容をレポートにして提出するように指示した。演習日の約1週間後に、ポストテストを単位認定試験に組み込んで実施した。
 ポストテストの設問は、プレテストで用いた選択肢を一部改変したものとした。6月に授業を行ったグループのみ、4月と同じ題材であり、試験内容の共有を避けるため、回答の根拠となる論文中の記述を回答し、その正誤についても評価を行った。

アンケート
 レポート提出時に、匿名アンケートをオンラインで実施した。設問数は、自由記述3問と、5肢択一式が21問とした。

②解析の概要
 プレテストとポストテストの平均得点率を比較し、Wilcoxon順位和検定を用いて、有意差検定を行った。項目ごとの正解率の比較は、Fisherの正確検定を行った。有意水準は0.05とした。検定はEZR on Commander ver 1.54を用いた。アンケートの回答を集計し、「今回のEBM学習は総合的に満足のいくものであったか?」に対して「とてもそう思う」と「そう思う」を選択した解答者群を「満足群」、それ以外を「非満足群」として、KHCorder3. Beta. 03を用いて、自由記述内容の特徴語の抽出と、階層的クラスター分析を行なった。

③実施体制
 実施にあたり、東京薬科大学ヒト組織等を研究活用するための倫理委員会(承認番号:18-04)にて倫理審査を受けた。研究目的および研究方法等を記載した説明書を受講生に提示し、アンケートへの回答の有無や内容は成績評価には影響がないことについて事前説明を行い、同意を得た。

4.結果
 受講生395名の研究同意を得た。そのうち2名は欠席のため、プレテスト/ポストテストの解析から除外した。解析対象者の内訳は、4月に授業を行ったグループが143名、5月は135名、6月は115名の総計393名であった。アンケートを提出した学生のうち、記入不備があったものを除き、総計335名からアンケートの回答を得た。アンケートの有効回答率は85.2%であった。

①プレテスト/ポストテストの変化
 プレテストとポストテストの平均得点率は、全体では53%から93%に有意に向上した(p<0.001, Wilcoxon signed-rank test)。いずれの設問の正解率もポストテストにおいて有意に向上した(p<0.001, Fisher’s exact test)。プレテストにおいて低正解率となった設問はカプランマイヤー曲線からの結果の判断に関する設問( 最重要評価項目)が29%と最も低く、続いて、ITTやFASといった手法に関する設問(⑦解析方法)が33%、サブグループ解析の結果を判断する設問(⑩サブグループ)が39%であった。ポストテストにおいて低正解率となった設問はなかったが、前述の設問⑦、 、⑩は、他の設問と比較すると、正解率が低かった。
 各設問の正解率にはグループ間の差が若干あったが、平均得点率は4月に授業を行ったグループでは52%から89%、5月に実習を行ったグループでは50%から96%、6月に実習を行ったグループでは47%から94%であり、グループ間の差は見られなかった。
 6月に授業を行ったグループでは、ポストテストの形式を変更した。その結果、平均得点率は47%から55%に有意に向上した(p=0.002, Wilcoxon signed-rank test)。また、②患者介入、④無作為化、⑤盲検化の3分野で、設問別正解率が有意に低下し、③アウトカムおよび⑥サンプルサイズでは変化がみられなかった。一方、⑦解析方法、⑧最重要評価項目、⑨効果推定値、⑩サブグループ解析といった、結果の解釈に関する項目では、正解率が有意に増加した。

②アンケートによる評価
 5肢択一式の21問の質問内容と、回答の内訳を図3(最終ページ)に示す。受講態度に関する設問では「予習は積極的に取り組んだか?」に対して、81%の学生が「予習をした」と回答し、「グループ討論は積極的に参加したか?」に対して89%の学生が「グループ討論に参加した」と回答した。
 授業形式に関する設問では、「フィードバック講義は臨床論文の解釈に役に立つものだったか?」に対して、87%の学生が「役に立った」と回答し、「今回の授業方式(TBL)によって、EBMの実践ができるようになると思うか?」に対して71%の学生が「TBLはEBMの実践を学ぶのに役立つ」と回答した。学習成果に関する設問では、77%の学生が、「実臨床において、臨床論文から得られた情報を患者へ適用することが可能か?」に対して「可能である」と回答した。また、84%の学生が「満足のいくものであった」と回答した。
 すべての設問の中で肯定的な回答の割合が最も低い設問が、「英語の論文に対する抵抗が減ったか?」であり、52%の学生のみが「抵抗が減った」と回答した。
 予習を積極的に行ったと回答した「予習群」とそれ以外の回答者「非予習群」にわけて、「グループ討論を積極的に行ったか?」と、「フィードバック講義が臨床論文を解釈するのに役に立ったか」「英語の論文に対する抵抗が減ったか?」についての回答について、クロス集計を行った(図4)。
 予習群では94%の学生が「グループ討論に積極的に参加した」と回答しているのに対し、非予習群では66%に低下した。また、予習群では91%が「フィードバック講義は役立った」と回答しているのに対し、非予習群では72%に低下した。「英語の論文に対する抵抗が減った」と回答した学生は、非予習群では28%であったが、予習群では58%に増加した。

③アンケートの自由記述内容の解析
 満足群においてJaccard係数の高い語は「論文(0.405)、読む(0.255)、授業(0.217)、考える(0.208)、情報(0.200)、グループ(0.194)」であり、「情報」と「患者」が同一クラスターを形成するとともに、「論文」は別クラスターを形成した(図5)。一方、非満足群では「説明(0.111)、時間(0.099)、スライド、内容」のJaccard係数が高く、「論文」を含むクラスターは「課題」を含むクラスターに近く、「患者」と同一のクラスターを形成したのは「スライド」や「解説」などの授業用語であった。
 自由記述では「SGDにより他の人の意見を聞くことができ、新しい考え方を学ぶことができた」に代表されるように、患者への適用に関して、様々な考えがあることを学んだことを述べた学生が多かった。また、「何が問題となっているのかを考える時間があったので、積極的に講義に参加することができた」というように、自身が理解している内容を、チームメンバーと共有して、知識を整理した後で、講師の講義を行うTBL形式の利点について述べているものも見られた。また、「座学では理解不足のまま試験に向けて暗記しただけで終わってしまったが、今回の演習でしっかりと理解できた」という意見も見られた。さらに、EBMの実践に関して、「シナリオに合わせて論文を読むことで、薬剤師として使う知識に直結する学習ができた」、「患者に適切な医療を提供するためにEBMの全過程が非常に重要であるということを学ぶことができた」などの意見が述べられた。

5.考察
 初めて、医学論文を読み、EBMを学習する大人数の学生に対して、210分のTBL&PBLのハイブリッド型学習方略を適用した演習を実施した。
 医薬情報演習では、薬物治療に必要な医薬品情報を収集し、基本情報をもとに、医薬品を評価・比較して、患者に適した医薬品の選択に関する演習を4日間で行っている。全体の流れとしては、3日目に添付文書やインタビューフォームに記載されている臨床試験の情報をもとに、臨床研究デザインと、算出される効果推定値の意味を学習する。4日目は、これらの集大成として、添付文書といった基本情報ではなく、原典となる医学文献から再度、効果推定値を読み取り、その批判的吟味を行った上で、患者シナリオに応じた医薬品の選択を試みる。EBM学習は、こうした一貫した流れの中にあるのだが、医学文献が教材として登場した途端に、言語の問題といった異なる文脈として捉えられがちで、EBM学習を困難なものとしている。今回の取り組みにおいても、随所に垣間見えるものではあったが、改善することができた部分もあると考えている。
 まず、演習の前半に実施したTBL授業では、71%の学生がTBLはEBM学習に有効であると回答した。プレテストおよびポストテストの平均得点率は53%から93%に有意に向上した。図表により医薬品の効果の有無を判断する設問⑦以降は、プレテストにおいて正解率が40%未満と低かったが、ポストテストでは、80%を超える正解率となった。6月のグループは、4月のグループと同一の課題論文であったにもかかわらず、プレテストの正解率が30%未満となり低かった。回答の根拠を示すことを求めた改訂ポストテストにおいて、有意に正解率が増加した。プレテストの正解率が低かったのは、積極的に予習に取り組んだ学生の割合が、4月の実習グループで約50%に達していたのに対し、6月のグループでは約20%に落ち込んだことが影響していると考えられる。一方で、設問⑦以降は、3日目の演習内容と重複していることもあり、本演習を通じて、論文の図表に示された効果推定値に関する知識を整理し、応用できるようになってきたと考えられる。
 通常、TBLでは、十分な予習をしてこなかった学生も、チーム学習やフィードバックの中で学びを得ることができる。しかし、EBM学習においては、明暗が大きく別れることが示された。予習群ではほぼすべての学生が積極的にチーム学習を行ったと感じているのに対し、非予習群では30ポイントも下がってしまう。英語で記載された医学文献は数10ページに及んでおり、初見では議論についていくことが難しいことが大きな要因となっていることが自由記述からも見て取れた。チーム学習後のフィードバックでは、予習内容についても触れるため、非予習群でも満足度は72%あるが、予習群の91%には届いておらず、予習の必要性が改めて示唆される結果となっていた。
 さらに、特筆すべきことは、英語に対する抵抗感である。予習の段階で、翻訳ツールの使用は禁止していない。むしろ、奨励している。それでもなお、学生たちは強い抵抗感を有している。それは、全文を翻訳しようとするからである。今回の解析で、予習群は非予習群に対して、英語に対する抵抗感が減ったと回答している割合が2倍に増加した。予習をすることで、「医薬品の評価に関する情報を収集することが目的であること」、「キーワードを検索し、その周辺を確認する手順で効率よく情報が集まること」を学習済みであることが影響していると考えられる。
 TBLでは、EBMのStep3「批判的吟味」における知識の応用を強化するものであるが、演習の後半のPBLではStep4「患者への適用」への理解を進められていることを明らかにした。PBLを通して、77%の学生が「実臨床において、臨床論文から得られた情報を患者へ適用することが可能か?」に対して「可能である」と回答した。前述の、TBLはEBM学習に有効か?に対して6ポイント上昇した。また、今回のハイブリッド授業について、84%の学生が今回のハイブリッド授業に対して「満足のいくものであった」と回答した。言語解析の結果から、不満足群は、EBMをStep3のみで捉えているのに対し、満足群では、EBMが患者へ最適な医療を提供するツールであること、そのために、論文の記載内容の十分な理解が必要であることを理解していることが示唆された。
 研究論文や医薬品の基本情報では、プライマリーアウトカムに対する有意差についてのみが報告されており、患者への適用は個々に検討する必要がある。使用するシナリオを共通とし、吟味をしていない文献についても、効果推定値が得られるように、教材を作成した。仮想患者シナリオによる症例検討を初めて行う学生が多く、議論が進まないグループも見受けられたが、全体討論をしながら、意見を聞き出していくことで、多くの意見について検討することができた。

6.結論
 従来の講義演習形式では、原著論文の吟味するポイントの知識を身につけることはできるものの、EBMの本来の目的である「患者の臨床的問題の解決のためにEBMを実践し、患者へと提案するまで」の問題解決能力の養成には課題があった。210分の連続した、TBL&PBLのハイブリッド型演習とすることで、初めて医学論文を読みEBMについて学習する大人数の学生に対して、学習効果が得られることを明らかとした。

参考文献

[1] 文部科学省高等局医学教育課薬学教育係. https://www.mext.go.jp/a_menu/01_d/08091815.htm

[2] 尾原喜美子. 医学界新聞. https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2013/PA03020_03

[3] 清水忠、上田昌宏、大森志保. 薬学教育 Vol. 2, pp.207-214 (2018).

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