様々な研究(研究室)の紹介や就職・進学のヒントなど、理系大学生に役立つ情報をお届け。
リケラボ編集部は、2019年3月に開催された「第8回 サイエンス・インカレ」の最終日にお邪魔してきました。今回は、大会当日の模様をお伝えします。
サイエンス・インカレとは、自然科学を学ぶ全国の大学生、高専生が自主研究の成果を発表し競い合う、文部科学省主催の研究発表会です。課題設定・探求能力、プレゼンテーション能力などを備えた次世代の科学技術人材の育成を目的として、2012年から毎年開催されています。
今年は、全部で224組(口頭発表93組、ポスター発表131組)からのエントリーがあり、その中で書類審査を通過した100組(口頭発表52組、ポスター発表48組)が、立教大学にて開催された発表会にて研究成果を披露。さらになかでも優秀だった発表者は、最終日に二度目の口頭発表を行いました。
密度の濃い講演に学生さんも興味津々
最終日には、株式会社オリィ研究所代表取締役所長の吉藤健太朗さんによる特別講演も開催されました。「分身ロボット」を用いたコミュニケーションによる“孤独の解消”について、テンポよくときにはユーモアも交えながらの講演。
お話のなかには「常識にとらわれず、自分がやりたいことを実現するには」「どこでやるかよりも、だれとやるか、が重要」「積極的に専門外とコラボする柔軟性」などさまざまなヒントが散りばめられていて、参加者の学生さんたちも真剣に耳を傾けていました。
ハイレベルな研究発表の連続!
そして、優秀者による口頭発表がスタート。
この日登壇したのは5組。立教大学の大きなホールで堂々と研究成果を披露します。
それぞれ研究テーマの目の付け所がユニークで、身近にある道具を実験に活用するなど自主研究ならではの創意工夫も詰まっていました。発表後には審査員からの鋭い質問も飛びますが、臆することなく説得力のある回答をする姿もさすがです。
さらに、今年からは新プログラムとして高校生による研究発表も行われました。内容もとてもクオリティが高く、発表姿も皆さん堂々としていました。これからの活躍にも期待です!
トップに輝いたのは…?
審査員の大学教授の先生方や協賛企業のみなさんによる厳正なる審査が行われ、受賞者が決定! いよいよ表彰式の開始です。受賞者のみなさん、おめでとうございます!
栄えある最優秀賞「文部科学大臣表彰」を受けたのは…
〈口頭発表部門〉
大阪大学 理学部 生物科学科生命理学コース 3年 福山 紘基さん
※以降すべて、学年は受賞時(2019年3月時点)の学年を記載しています。
研究テーマ『磁場勾配による有機物の分別』(数物・化学系)
〈ポスター発表部門〉
京都大学 理学部 理学科 2年 中田 裕貴さん
研究テーマ『体の乗法群』(数物・化学系)
でした!!
口頭発表部門で文部科学大臣表彰に輝いた福山さんにインタビュー!
そして今回リケラボでは、口頭発表部門で文部科学大臣表彰に輝いた福山さんに、表彰式後突撃インタビューを実施!
福山さんは以前から天文学、特に宇宙や太陽系の生命の起源に興味があり、大学の同じ学部の研究室が太陽系の物質分布の起源に磁場が寄与する可能性、そして現在の太陽系内探査において磁場を用いて物質のダストの組成を非破壊分析できる可能性を研究していると知り、研究を始めたそうです。
先行研究ではかんらん石や氷などの無機物質が扱われていましたが、福山さんは生命により関わりの深い「有機物質」に着目し、宇宙空間のような微小重力中で磁場勾配を用いて、未知の有機物試料の識別・同定や混合物の分離を、非破壊分析する手法について研究しました。
研究には高画質・高速度なカメラが必要だったため、趣味で使っている天体観測向けカメラを活用するなどの工夫も。
短い持ち時間のなか、はきはきとわかりやすく情報を伝える発表姿が印象的でした!
それではここからは、福山さんのインタビューをお届けします。
天文学に興味を持ったきっかけを教えてください。
もともと親がロケット好きで、僕は幼いころから絵本代わりに宇宙の写真つきの本などに囲まれて育ちました。それで中学生のころにおもちゃの天体望遠鏡を持つ機会があり、星を観てみたらとてもきれいで「楽しい!」と、そのままのめりこんでいきました。春からは天文学の研究室に入ることが決まったのですが、それとは別に、今後も趣味として天体観測を楽しんでいきたいなと思っています。
天文学が好き、という気持ちが今回の研究に活きたポイントはありますか?
趣味として天文の撮影に使っているカメラの機能に注目して今回の研究に使ってみたらぴったりで、活用することができました。マニアックな天文の世界で出会ったものを、ほかの世界でも活用できて良かったと思います。
今回の受賞の決め手は何だと思いますか?
「実験」と「数値計算によるシミュレーション」の、2つの面からアプローチして発表したことは、評価をいただけたひとつの理由になっているのではと考えています。そのぶん、発表の内容も増えるので、短い12分という持ち時間のなかで伝えたいことをきちんと伝えるのは難しく、工夫を重ねました。
伝え方で心がけたのはどんなことですか?
言葉の選び方を意識することと、スピードのメリハリです。たとえば、一番聞いてほしいところはゆっくりと、それ以外の情報はある程度スピーディーに話すようにしました。それと、1人の相手に話すときのように、できるだけ原稿を読んでいる感じにならないよう、自然な言葉で話しかけるようなイメージを意識しました。
これからの目標を教えてください。
春から天文観測の研究室に入るので、今後も天文学の分野で生きていくのが目標です。今回の自主研究は別の分野にはなりますが、考え方や手法、そしてサイエンス・インカレをきっかけに生まれたいろいろな出会いも活かしながら頑張りたいと思います。それと、自由に、楽しく研究を続けていきたいです。
福山さん、改めて今回はおめでとうございます!これからも天文学の研究も、趣味の天体観測もぜひ楽しんで続けていってください!今後の活躍も楽しみにしています。
その他の受賞者一覧を以下にお伝えします。おめでとうございます!
今回の賞の一覧はこちら。
画像出典:研究発表会 開催レポート – 第8回サイエンス・インカレ – 文部科学省
■国立研究開発法人 科学技術振興機構理事長賞
『未知のチャネル、clic2ががん転移に及ぼす影響の探求』
愛媛大学 医学部 医学科 4年 住田 悠太郎さん(口頭発表部門/生物系)
『免疫系がメダカの脳内で縄張り様個体出現を制御する?』
岡山大学 理学部 生物学科 4年 渡部 遼馬さん(ポスター発表部門/生物系)
■サイエンス・インカレ奨励表彰
『謎多き表面テクスチャを利用した新型フォイル軸受の開発』
東海大学 工学部 機械工学科 4年 菊池 日向さん(口頭発表部門/工学系)
『頭皮脳波による手指運動タイプのデコーディング』
慶應義塾大学 理工学部 生命情報学科 4年 岩間 清太朗さん(口頭発表部門/情報系)
『モテの生理学 ~どうしてあの子はモテるのか?~』
愛媛大学 医学部 医学科 2年 渡辺 みのりさん ・ 1年 内田 莉菜さん(口頭発表部門/文理融合系)
『奥州街道沿いの町屋の構成とその変遷過程に関する研究』
東北工業大学 工学部 建築学科 4年 吉田 鷹介さん(ポスター発表部門/工学系)
『羽形成の新モデル~遅羽性遺伝子の作用機序の解明~』
岡山大学 理学部 生物学科 4年 岡村 彩子さん(ポスター発表部門/生物系)
『なぜヒトはハンドスピナーにはまるのか?』
同志社大学 生命医科学部 医情報学科 1年 大野 維吹さん ・ 鳴川 紗さん ・ 久世 伊純さん(ポスター発表部門/情報系)
■サイエンス・インカレ審査員特別賞
『ねじり折りを数学で読み解く』
奈良女子大学 理学部 数物科学科 2年 柴田 実桜さん(口頭発表部門/数物・化学系)
『光渦を用いたフォトンと音響フォノンとの軌道角運動量保存に関する研究』
千葉大学 工学部 ナノサイエンス学科 3年 白石 朋さん(口頭発表部門/工学系)
『もっとミツバを食べたい!~新しい細胞培養法と人工種子技術の開発~』
横浜市立大学 国際総合科学部 国際総合科学科 4年 加藤 麦都さん(口頭発表部門/生物系)
『アクションゲームの裏技を発見する自己学習手法~スーパーマリオブラザーズを題材として~』
静岡大学 情報学部 情報科学科 3年 高田 亮介さん(口頭発表部門/情報系)
『Sense of Science 理学の書棚』
大阪大学 理学部 物理学科 2年 金子 悠仁さん ・ 3年 川上 結生さん/化学科 3年 藤井 匠平さん(口頭発表部門/文理融合系)
■東京エレクトロン賞
『見えないガスを撮影!~紫外吸光イメージングによる半導体製造装置内ガス濃度分布計測~』
東北大学 工学部 電気情報物理工学科 3年 沼尾 直毅さん(口頭発表部門/工学系)
■荏原 畠山記念文化財団賞
『MATCHAの世界 ~抹茶の定量的分析による味覚の視覚化から茶道文化の普及へ~』
東北大学 工学部 電気情報物理工学科 2年 中屋 悠資さん/農学部 応用生物化学科 2年 小笠原 千夏さん ・ 工学部 化学・バイオ工学科 2年 大沼 遼香さん(口頭発表部門/文理融合系)
■ファーウェイ賞
『バーチャルハンドのPseudo-Haptic Feedbackによる材質感呈示手法』
大阪大学 基礎工学部 システム科学科 4年 佐藤 優志さん(口頭発表部門/情報系)
■エア・リキード賞
『小さな工夫が大きな一歩!-ドライガスシールにおける内周リング溝の気体漏れ抑制効果-』
東海大学 工学部 機械工学科 4年 大家 雄太さん(口頭発表部門/工学系)
■CKD賞
『ダイカストにおけるX線CTを用いた内部欠陥評価および可視化実験』
東海大学 工学部 機械工学科 4年 若木 祐太さん(ポスター発表部門/工学系)
■TASLY生命科学賞
『継時的形状変化を用いた4次元組織構築法の確立 ~自由自在に形を操る~』
横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科 4年 小澤 聖奈さん(口頭発表部門/生物系)
■公益社団法人日本技術士会会長賞
『新たな白髪治療法の開発~いつまでも黒い髪と共に~』
横浜国立大学 理工学部 化学・生命系学科 4年 中嶋 陸満さん(口頭発表部門/生物系)
■関電工賞
『VRで幽体離脱? ~非整合な視覚情報が運動感覚に与える影響~』
横浜国立大学 理工学部 数物・電子情報系学科 4年 中野 彬徳さん ・ 山口 遼さん(口頭発表部門/情報系)
■SCREEN賞
『レーザーで表面張力が分かる!?~太鼓と水面の共通点~』
大阪大学 理学部 化学科 3年 守友 暁寛さん(口頭発表部門/数物・化学系)
■NJS賞
『透湿防水シートを用いた人工湿地の硝化促進─微生物も適材適所─』
新潟大学 工学部 工学科 材料科学プログラム 2年 芦原 紗喜さん / 化学システム工学科 3年 松川 和海さん ・ 工学科 化学材料分野 1年 島村 遼史さん(ポスター発表部門/工学系)
■日本曹達賞
『廃棄牛乳からの育苗用ポットの開発』
鹿児島大学 教育学部 学校教育教員養成課程 技術専修 4年 柴田 瞭さん ・ 山下 裕太朗さん(ポスター発表部門/文理融合系)
■日本ヒューム賞
『高分子水溶液の自然対流冷却において生じる局所的温度振動の発生機構』
大阪大学 工学部 応用理工学科 1年 山下 龍之介さん(口頭発表部門/数物・化学系)
■サイエンス・インカレ・コンソーシアム奨励賞
『造影剤とガン治療の二刀流?!~体内環境で変化する鎖をまとった酸化鉄~』
兵庫県立大学 工学部 応用化学工学科 4年 加納 慎一朗さん(口頭発表部門/数物・化学系)
『複数のガス源から生じる3次元メタンガス分布の可視化 -廃棄物埋立地における温室効果ガスの抑制を目指して-』
大阪大学 基礎工学部 システム科学科 4年 稲垣 理也さん(口頭発表部門/工学系)
『ショウジョウバエモデルとLEDデバイスを用いた自閉症スペクトラム症候群の光治療を目指して』
京都工芸繊維大学 工芸科学部 応用生物学域応用生物学課程 3年 出口 佳一さん ・ 2年 山下 裕生さん/設計工学域電子システム工学課程 3年 長谷川 優さん(口頭発表部門/生物系)
『多量スペクトル? ASがあるでしょ! ~AI技術を用いた動的Shirley法の改良~』
米子工業高等専門学校 電気情報工学科 5年 陰山 弘典さん/生産システム工学専攻 1年 村上 諒さん ・ 2年 山本 紗矢香さん(口頭発表部門/情報系)
『TensorFlowを用いた写真タイトル自動生成手法~AIとの合作を目指して~』
慶應義塾大学 環境情報学部 4年 大和 奈央さん(ポスター発表部門/文理融合系)
■サイエンス・インカレ・アンバサダー賞
サイエンス・インカレ・アンバサダーとは、過去のサイエンス・インカレ出場者のOBOGによって構成された組織で。大会運営にも協力しています。
『水生昆虫のタガメに見られる光拘束現象~人工光と生物の今後の付き合い方について考える~』
石川県立大学 生物資源環境学部 環境科学科 2年 島田 真彦さん ・ 1年 藤原 昌敬さん / 生産科学科 2年 笠井 柾希さん(ポスター発表部門/生物系)
ハイレベルで多彩な研究発表が繰り広げられるサイエンス・インカレ。参加者のみなさんおつかれさまでした!
来年の開催も楽しみにしています。
▼バックナンバー:サイエンス・インカレ(2018)の受賞者インタビュー記事
・「ノイズは邪魔だが役に立つ?」 確率共鳴で新発見。(東京理科大学・堀眞弘さん)
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