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毎年3月に開催される「サイエンス・インカレ」は、自然科学分野を学ぶ全国の学部生が、自由なテーマで自主研究を発表し競い合う大会です(文部科学省主催)。リケラボでは、2019年に開催された「第8回サイエンス・インカレ」でみごと表彰された研究テーマについてご紹介。今回は、「磁場勾配による有機物の分別」という研究で、トップの文部科学大臣表彰(口頭発表部門)に輝いた、大阪大学 理学部 生物科学科生命理学コース 4年(受賞時は3年)の福山紘基さんに研究内容や発表の心がけについて聞きました!
■福山さんの受賞当日インタビューも掲載されている「第8回サイエンスインカレレポート」はこちら
■福山さんの発表要旨はこちら
天文学と生物学の融合。生命の起源のヒントを探る
「磁場勾配による有機物の分別」をテーマにした経緯を教えてください!
もともと私は天文学の分野に興味があり、大阪大学理学部の自主研究制度で学生を受け入れている研究室の中で、唯一の宇宙・地球科学を扱う研究室グループ研究室の扉を叩きました。先生から詳しい研究内容を伺うと、主な研究内容の1つが、微小重力環境下で磁場から物質が受ける力やそれによる運動、さらにそこから示唆される太陽系形成時の物質分布について実験からアプローチするというものでした。つまり、「磁場勾配による無機物の分別」です。
生物科学科にいながら天文学を目指していた身としては、「有機物でやってみたらどうなるのか」「有機物といえば生物のもと」「太陽系形成時の生物のもとの分布は、太陽系の生命の起源とつながってくるのでは?」と連想されていき、今回のテーマを思いつきました。
研究の結果、どんなことがわかりましたか?
装置を改良することで、微小重力環境下で磁場勾配を用いる手法を適用し、有機物でも物質を大まかに識別できる精度で磁化率を読み取ることができることがわかりました。
また、有機物だからといって、無機物の実験より身構える必要もないと実感できました。
趣味の天文写真が実験に活きた
研究を重ねる中で、大変だったのはどんなところでしたか?
実は、これまで有機物の分別についての研究があまり行われてこなかった理由を、「有機物が太陽系の主要な物質ではないから手を付けていないのだろう」と思っていました。しかしそうではなく、無機物の反磁性磁化率の範囲は1桁強に渡って広がっているのに対し、有機物の反磁性磁化率はもっと狭い値の範囲に多くの物質が広がっているため、難しいのです。また、有機物特有の湿気によるべたつきなどが実験を困難にしており、多くの改良が必要でした。
以前、同じ研究室で無機物の混合物粒子について磁場勾配下での解析の研究をしていた先輩に、自分のテーマについて話したところ、「とうとう有機物に手を出しちゃったか……」と苦笑されたのがとても印象に残っています。
それと、僕は趣味で天体写真をやっています。そのおかげで、天体写真に使うカメラは一般的な撮影機材にはないような高画質で高速撮影できるものが、およそ5万円以内と非常に安価に手に入ることを知っており、ある程度選択肢を絞った状態で装置選定をできました。当初は天体写真用カメラではなく、同様のスペックを持った製品を産業用・特殊用途のカメラメーカーから探していましたが、自動ピント調節機能など、実験には必要ない機能も搭載されていて、10万円を超えるなどどうしても高価になってしまいます。もし天体写真用カメラの存在を知らなかったら、これが相場だと諦めて必死に予算調達をしなければならなかったかもしれません。実験に使えるようにカメラをカスタマイズするのには、やや手間がかかりましたが、予算を大きく抑えることができました。もともと、今回使用したカメラとほぼ同じモデルのものを持っていて、そのカメラで撮った写真で天体写真のフォトコンに入選したこともあり、使い方には不自由しなかったことも、天体写真をやっていてよかったと感じたポイントです。
研究を通して見つかった新たな課題や、想定している次のステップがあれば教えてください。
原理実証としてはこの研究はある程度完成していると思っていますが、次のステップとしては、実用化に直結するような形態での応用手段を生み出すことです。
今の装置では、あくまでも「撮影した映像上」で有機物を分離しているだけなので、これからは実際に物質が分離された状態でどう取り出すかを考える必要があります。ただ、これは研究室全体が行っている無機物の分離にも共通して言えることなので、いくつか方法が確立しているものもあります。有機物が無機物と同じステージに立てた以上、ここからともに進歩していけるようになったといえるのではないでしょうか。
自分が予想しなかったような驚きの広がりを見せてほしい
研究の成果が、今後どんなことに活かされていけばうれしいですか?
産業面や、分析科学、宇宙空間での応用を想定しています。破砕プラスチックの分別などが産業面、「固体版クロマトグラフィー」としての固体試料の分離同定が分析科学など……ただ、天文学を志す者としては、やっぱり探査機にこの原理を生かした装置が搭載されて、小惑星や彗星表面で物質をその場で分離同定されてくれればうれしいです。
さらに、さきほど挙げた3つはあくまで私が想定している使い方ですが、私ですら「まさかこんな使い方が!」と驚くような想定外の応用がされていくことが、一番うれしいと思います。この研究で使った天体写真用のカメラも、まさかこのようなことに使われるとはおそらくメーカーも想像していなかったと思います。それと同じように、思いもよらない方向へ広がり、活用されていけばうれしいです。
福山さんの今後の目標を教えてください!
宇宙や宇宙工学・天文学のどれかに関わるようなことを仕事にしたいです。一番の理想は天文学方面での研究者ですが、そこから外れたとしても今回の研究のように、自分の置かれた環境・条件を問わず柔軟な考え方で、様々な物事を外から引っ張りながら、自分のやりたいことをしたいと思っています。「住めば都」という言葉がありますが、自分をだましながら、済んだ場所を都だと思いこむのではなく、どんな手を使ってでも住んだ場所に自分で都を建ててしまえば勝ちだと思います。
福山さん、ありがとうございました! 今後も柔軟な発想で、夢に向かう福山さんを応援しています!
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