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こんにちは。理学博士でキャリアコンサルタントのKOTORAです。
これまで、アカデミアから企業へ転職する際の心構えや職種の例をご紹介してきましたが、今回は、博士・ポスドク経験者が企業へ転職しようとする際に、よくいただいた典型的な質問と回答をまとめてみました。
ポスドクと同じ程度の給与で雇ってくれる会社ってありますか?
ポスドクとひとことで言っても給与は年収ベースで150〜800万くらいの開きがあるので、一概には答えられないのですが、「専門の研究をやる仕事」でない限りは未経験からの挑戦に近くなるのが博士・ポスドクの難しいところです。でも、仕事を覚えて、成果の出し方がわかると抜群に伸びるのも博士・ポスドクのいいところ。それを知っている外資は技術営業職に博士・ポスドクをたくさん採用しています。私が転職を支援した博士・ポスドクの場合、年収500万前後での採用が比較的多かったのですが、年収600万を超える待遇はとても少なかったです。年収の幅としては300万〜700万の範囲でした。総じて外資系企業の方が提示される年収は高い傾向がありました。また、ベンチャー企業での博士・ポスドク採用は責任者候補や将来の幹部候補としての採用が多く魅力的でした。会社が小さければ小さいほど担う責任が重く、幅広い業務を経験でき、会社の経営も見える距離で仕事をできるので、事務から経理、営業、電話対応、研究開発まで雑多な業務が苦にならない人にはとてもやりがいがあると思います。ベンチャー企業では博士・ポスドクを1名採用してみてその優秀さを実感すると、小さな会社なのに2人目3人目と博士・ポスドクを採用する会社もありました。
やっぱり35歳までじゃないと企業への転職はできなくなりますか?
年齢のご質問は非常に難しいところです。転職は35歳限界説が根強いですが、キャリア支援の専門家としては、こればかりは一概に言えないし言いたくありません。一般的には、確かに若い方が企業側がキャリアチェンジを受け入れやすいです。それはそうですよね。未経験のこと(初めて企業で働く、とか)にチャレンジしようとする40歳と25歳がいたら、一般的な価値観で、25歳の方が柔軟に対応して成長するんじゃないか、と思うわけです。ただ、こういう一般常識については、それを破る人が必ずいるわけで、人材業界で採用の現場にいると、いくらでも例外に出会うので、あまり年齢のことを限定的にお伝えしたくない、というのが正直なところです。私が主に支援したポスドクは30代がメイン、40代が少し。関連分野の企業・業務に就いた人の方が少なく、専門とは違う分野へ挑戦した人が多いです。
では、どういう人が年齢の壁?を破って35歳以上でも40歳以上でも大きなキャリアチェンジを成功させているのか。私が支援した人たちに共通しているのは2点。ひとつめは、与えられた機会にベストを尽くしていること。企業への最初の転職では給与や雇用形態等の待遇が希望通りでなかったり、業務内容が思っていたのと違ったりする場合があります。それでも、その与えられた機会にできるだけのことをして成果を出す。そうすることで次に繋がるチャンスを得た人が多いです。
そして、もうひとつは人柄。謙虚な姿勢、誠実な対応、新たなことに前向きに取り組む意欲がとても大事です。企業で働くのが初めてならば、最初は自分よりずっと年下の社員が当たり前にできることも教えてもらわなければできません。そのことを受け入れて、まずは企業の一員としてとして当たり前のことを当たり前にできる人を目指してがんばる必要があります。残念ながら世間には博士・ポスドクに対して「研究しかしたくない人たち」「プライドが高そう」「難しいことばかり言いそう」などという偏見を持っている人がいます。そういう人たちに「やっぱり・・・」なんて思われたくないじゃないですか。私が転職を支援した博士・ポスドクの人に伝えていたのは、プライドは不要、意地は必要、ということ。人に見せるような変なプライドはいらないですが、意地でも感じよく謙虚に仕事に取り組んで成果を出してください、と伝えていました。
面接で「本当は研究したいんでしょう?なんで企業で働きたいんですか?」と聞かれて答えられませんでした。
面接でのこの質問、以前からよく相談で聞いていたのですが、私も転職活動をしていたときに言われました。正確には「うちなんかで働かずに研究したらいいじゃない」という感じでしたが・・・。研究職を離れて直近は人材業界で10年以上勤めてから人事職の求人に応募した際の面接です。会社での業務経験が10年あっても言われるのか・・・と衝撃的でしたが、人の思い込みや偏見というのはそういうものだと思います。ただ、言われて答えられないのはいけません。「いえ、御社で働きたいんです。なぜなら・・・」と、どうしてその企業を受けたのか、どんな仕事をしたいのか、どうやって成果を出して貢献したいと考えているのか、冷静に丁寧に答えましょう。そして、こういった博士・ポスドクに対する思い込みや偏見には企業で働き始めてからもたびたび出会います。そんなとき、イライラしたり腹を立てたり悲しくなったりするのではなく、そういうものだと思ってどう対応するか考えておく方が良いでしょう。私の経験では、業務上の出来事をなんでも楽しんで、一生懸命仕事をして、成果を出していると、そういうことを言う人はいつの間にかいなくなります。
せっかく博士課程に行ったのに、長く研究してきたのにもったいないという気持ちがあり、周囲からもそう言われて、どうしても前向きになれません。
研究にかける思いが大きい人ほど、研究したい、研究を続けたいという気持ちを断ち切るのは難しいのかもしれません。長い時間、それこそ人生をかけて取り組んできたのだから、当たり前の気持ちだと思います。それでも、研究で思うような成果が出せない、自分より若い研究者に論文数で勝てない、研究職のポストを得るのが難しい・・・など厳しい現実にぶつかって、このまま研究を続けるのは難しいと悩み、立ち止まってしまっているのであれば、まずは外に情報を求めてみましょう。いろんな人に話を聞きましょう。研究室の先輩や学会で知り合ったアカデミアでの知人をたどれば、アカデミア以外のキャリアを模索して、研究を離れて企業で働くことを選択している人はたくさん見つかるはずです。博士・ポスドクを経験してから企業で普通に働いている人に出会うことは、研究職を目指しているときには見えなかった世界を知るきっかけになります。思いの外、みんな普通に働いていて、中には研究への未練を抱えている人もいますが、それでも新たな世界で自分なりの幸せを見つけてがんばっています。
そういう先輩を自分で見つけられなければ、大学のキャリアセンターや理系・専門職を扱う人材会社へ相談に行ったり、私にDMをいただいても大丈夫です。話を聞いて明るい気持ちになる人、元気をもらえる人に会いにいきましょう。リケラボでも、企業で活躍している方を取り上げた記事があるので、よかったら読んでみてください。例えばこちらの記事。
理系のキャリア図鑑vol.4 株式会社サンギ 兼子謙一さん(製剤開発)「基礎研究への“こだわり”を一旦しまうことで見えてきた、自分が本当にやりたい仕事」
ポスドク待遇での基礎研究から企業へ出て、研究開発職、メディカルコピーライティングと経験し、「ものづくりをしたい」という自分なりのキャリアの答えを見つけて、今は製剤開発に携わっている方の仕事とキャリアのお話です。転職のきっかけがご家族の事情など、ご自身ではコントロールできない出来事だったのも印象的です。それでも、見つけた道で前を向いて歩みを進めるうちに答えを見つけて、今は幸せに働いている。キャリアを考えるヒントが詰まった記事です。
決断できれば未練があってもいい
気持ちの整理をつけるには時間がかかるかもしれません。でも、研究を続けていくのは難しいから企業で働こう、という決意を固めることができれば、あとはとにかく動くこと。研究に向き合うのと同じエネルギーで企業で働くことに向き合いましょう。仕事を探す方法を調べ、世の中にどんな仕事があるのか調べ、自分がやりがいを感じられる仕事・成果を出せる仕事についてしっかり考えて、そういう仕事を探してみましょう。仕事が見つかればとにかく一生懸命取り組んで成果を出す。成果が出てくれば、企業で働くことのおもしろさややりがいも見つけられるかもしれません。仕事が楽しくなってくると、周囲からネガティブなことを言われなくなります。研究をやめても、自信を持って楽しげに仕事に取り組む人には、誰も文句を言いません。
人生良いときも悪いときもありますが、キャリアは自分のもの。自分で作っていくしかありません。私は研究を失ったという挫折に比べれば、もう人生怖いものはないな、と思っています。研究をやめることは人生の大きな決断だからつらくて当たり前。でも、今よりつらいことはきっともうないはず、と思って暗いトンネルの出口を探してみてください。トンネルを抜けると、そこには新しい世界が広がっていて、新しい仲間がたくさんいて、新しい自分を見つけられるはず。博士・ポスドクを経験して普通に働いている人はたくさんいます!だから今はつらいかもしれないけれど、少しずつ歩みを進めていきましょう。
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